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2009.11/24 [Tue]
スケカナ総括
高橋、鈴木がファイナル進出をかけて出場
フィギュアスケート、スケートカナダ見どころ
ついにグランプリシリーズ第6戦。ファイナル進出者がすべて決まる最後の一戦に、日本からは高橋大輔(関大大学院)、鈴木明子(邦和スポーツランド)のふたりが参戦する。
ふたりともがこの一戦次第で、十分ファイナル行きの切符に手が届く大一番。そしてそれぞれ優勝も狙えそうな、楽しみな一戦だ。ただし、ふたりを迎え撃つのは男子のパトリック・チャン、女子のジョアニー・ロシェット(ともにカナダ)。ふたりとも現世界選手権メダリストであり、五輪シーズンに地元カナダの期待を背負って立つ男女のエースだ。日本VS.カナダ、などとついあおりたくなってしまう、わくわくするような最終戦になりそうだ。
■鈴木とロシェットが再戦
女子優勝候補筆頭のロシェットと鈴木は、中国杯に続いて2度目の顔合わせ。一戦目では有力視されつつジャンプの不調で3位に沈んだロシェット、初の海外グランプリシリーズ参戦ということで、ほぼノーマークのまま優勝してしまった鈴木。明暗を分けた二人の再戦となる。
しかしロシェットは、現在のトップスケーターの地位を確立する以前から、安定感にかけては定評のあった選手。五輪シーズンに2戦続けての乱調は見せないだろうし、4年連続で表彰台に上がっているスケートカナダの金メダルを、ここで得ておきたいところだ。開催都市のキッチナーは、ロシェットが振付けなどでよく訪れるトロント近郊。バンクーバー以上にホームの声援は大きいだろうし、時差調整などの点でも優位に立っている。
鈴木は中国杯での印象があまりに鮮烈だったため、ひょっとしたらこのままグランプリ連勝もあるのでは、という期待の声も大きい。シニアのグランプリ参加2シーズン目の選手が2連勝となれば素晴らしい成績だが、その期待への重圧も今はひしひしと感じているだろう。初のファイナル進出も、大きく意識してしまうかもしれない。
しかしスケートカナダは彼女にとって「五輪に行きたい気持ちが固まった四大陸選手権のあった国。シェイ・リーン(・ボーン)に振付けをしてもらった国」での開催。この場所で戦えることを、シーズン前から楽しみにしていたという。ファイナルに関しても、幸い中国杯で優勝し15ポイントを取得しているため、表彰台に乗りさえすればOKという好位置に付けている。ここはリラックスして、勝ち負けよりもあの『ウエスト・サイド・ストーリー』を存分に演じることだけを意識して――そんな気持ちで臨めば、結果は付いてきそうだ。
ちなみに筆者はトロント行きの機内でこの原稿を書いているが、たまたま同じ飛行機に乗り合わせていた鈴木の表情はいつもと変わらず明るく、おどけて執筆中の原稿をのぞきこんでくる余裕も見せてくれた。
■レピスト、長洲らにも注目
2選手に対抗してくるのは、現ヨーロッパチャンピオンのラウラ・レピスト(フィンランド)。NHK杯では得意の3回転トゥ−3回転トゥが入らず5位、ジャンプもまだ本調子ではなかったが、フリーの『アディオス・ノニーノ』は、タンゴで彼女の新しいイメージを作り上げようとする意欲的なプロフラムだ。北米とアジア勢が優位に立っている今シーズン、ヨーロッパのエースとして、2戦目は意地を見せてくれるか。
また米国からは五輪代表を狙う3選手、アリッサ・シズニー、長洲未来、キャロライン・ザンがそろって登場。国内のライバルであるアシュリー・ワグナーがロシア杯とNHK杯で、レイチェル・フラットがスケートアメリカで表彰台に上り、演技内容も充実したものであったため、このまま2選手がアメリカ代表か、という雰囲気もできつつある。そんな声に待ったをかけるため、3選手ともひとつでも上の順位を目指したいところだ。
■日本、カナダの両エースが登場
男子はグランプリ復帰戦のNHK杯を表彰台で飾れなかった高橋の2戦目はどうか。そして一戦目のロシア杯をケガのため欠場したチャンがやっと登場し、どこまで調整できているか。バンクーバー五輪でメダルを狙う日・加両エースの状態が何よりも気になる。
ロシア杯でのエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)や、ネーベルホルン杯でのステファン・ランビエール(スイス)も含め、五輪有力選手の動向はほぼつかめてきた現在。男子では唯一、チャンの今シーズンの様子だけが明らかにされておらず、気になっている人は多いだろう。昨シーズンは4回転ジャンプを完成させないまま世界選手権の銀メダルを獲得したが、今シーズンも4回転を武器にした戦い方は恐らくまだしてこないはず。五輪メダリスト候補のなかで、ひとりまったく4回転を入れずに戦うことになるかもしれない。その状況下で、彼の持ち前のスケーティングの美しさ、プログラムの完成度の高さがどれだけの評価を得られるか、今大会でのひとつの注目ポイントとなる。
一方で高橋は、ケガから復帰後、フィンランディア杯、NHK杯と存在感を見せつつも、課題の多い2戦を経ての3戦目。短い期間で4回転の復調やプログラムの十分な滑り込みまでは到達していないかもしれないが、序盤2戦からどれだけ前進しているかをじっくりと見てみたい。
■コンテスティ、アボットが2戦目
しかし男子シングルはチャンと高橋二人の戦い……とは言い切れないほど、楽しみなメンバーがそろった。
ベテラン勢では昨シーズン躍進したふたり、ヨーロッパ選手権2位のサミュエル・コンテスティ(イタリア)と、グランプリファイナルチャンピオンのジェレミー・アボット(米国)が2戦目を迎える。アボットはNHK杯で結果こそ5位ではあったが、フリーのカミーユ・サン=サーンスの『交響曲第3番』では音楽をとことん体で表現するスケートを見せてくれた。振付けは、高橋のフリー『道』と同じ、パスカーレ・カメレンゴ。五輪シーズン、ビビッドなキャラクターを演じる選手が男女ともに多い中で、クラシックの、しかも表現しにくい交響曲を、ここまで曲想に寄り添い滑りこなそうとする挑戦。ジャンプがソリッドに決まれば、アボットも高い評価を得られそうだ。
また若手でも注目したい選手がふたり。NHK杯3位で高橋やアボットの上をゆき、シニアデビューシーズンにしてファイナル進出の可能性も大きいミハエル・ブジェジナ(チェコ)。また1戦目の中国杯こそ10位だったが、やはりあのふてぶてしいまでにエンターテイニングなパフォーマンスはぜひ見ておきたいデニス・テン(カザフスタン)。
シーズン前、期待の10代として名前を挙げた何人かの選手がいたが、フランスのフロレント・アモディオ、アメリカのブランドン・ムロズ、スペインのハビエル・フェルナンデスなど、シニアの厚い壁に苦戦したスケーターは多かった。その中でアダム・リッポン(米国)とともに初のメダルを獲得しているブジェジナ、大きな注目のなかで想像以上に苦戦したテン。おそらく2012年ソチ冬季五輪までの男子シングルの中心人物になるだろうふたりの2戦目、見逃したくない。
鈴木はファイナル進出も…低空飛行続く女子
スケートカナダ・女子シングル総括
ファイナル進出者がすべて決まるグランプリ(GP)シリーズ第6戦、スケートカナダ。それにもかかわらず、女子シングルはミスを連発する選手が多く、勝負としては少し面白みの欠ける試合となってしまった。表彰台に乗ったジョアニー・ロシェット(カナダ)、アリッサ・シズニー(米国)、ローラ・レピスト(フィンランド)とも、フリーではそれぞれふたつ以上の小さくないジャンプミスがあり、納得する演技で滑り終える選手がいなかったのは残念。多くの選手が不調をきたした原因のひとつは、この試合の成績次第でファイナルに進める選手が多く、そのプレッシャーがかかっていたこと。またリンクのサイズが60メートル×30メートルの国際規格より小さなNHL(アイスホッケー)サイズで、ジャンプのタイミングやスケーティングのコントロールが難しかったかったことも挙げられる。
■ジャンプに恐怖感を抱く女子スケーターたち
しかし今シーズン、スケートカナダに限らず、GPシリーズを通してパーフェクトの演技をみせられた女子選手はほとんどいない。エキサイティングな試合が続いた男子に比べると、五輪シーズンにしては少し、女子シングルという種目そのものが低調であることが気にかかる。
これはやはり、数年前から厳しくなったジャンプのロングエッジ判定、さらには近年さらに厳しくなったジャンプの回転不足判定が特に女子選手には影響が大きく、試合結果を左右するようなことが多いためだろうか。時には選手本人が「成功した」と思ったジャンプでもダウングレードを取られるケースもあり、試合後のコメントでもしきりに判定を気にする選手が多く見られた。より正確な美しいジャンプを高く評価する、そのためのシステムではある。しかしエッジの踏み切りや回転不足に対し、それほど厳格な指導を受けてこなかった世代の選手にとっては、怖い。マイナス評価を恐れて、ジャンプそのものに対して恐怖感を持ち、萎縮してしまう……そんな傾向があるのかもしれない。
スケートカナダでは9位に入ったサラ・ヘッケン(ドイツ)が、トゥループ−トゥループながら胸のすくように気持ちのよい3回転−3回転を見せ、女子のジャンプの美しさを思い出させてくれた。しかし3回転−3回転に関しても、“跳べるはず”の多くの選手がダウングレードを恐れてなかなかトライできない状態になっている。フィギュアスケートの魅力のうち大きな比重を占めるジャンプ。選手たちがより高いモチベーションで挑戦できるようになることを願ってやまない。
■重圧で5位に終わるも、ファイナル進出決めた鈴木
そうした試合のなかで、やはりジャンプが大きく乱れ、5位に終わった日本の鈴木明子(邦和スポーツランド)。中国杯でのGP初優勝はさすがに大きな負担だったらしく、フリー終了後には「自分が感じないところでプレッシャーを感じていたかもしれない」と話した。一番そばにいた長久保裕コーチでさえ、「僕にはリラックスしているように見えた」と語るほど、公式練習から自然体を貫いてきた今回。しかしやはりファイナル進出、その先にある五輪代表という大きな目標が近づいてきたこと、それは、GPシリーズ参加3戦目の選手には、重すぎるプレッシャーだったようだ。
しかし5位ながら2戦での合計ポイント22を獲得し、ファイナル進出が決定。バックステージでは大泣きし、取材陣の前でも複雑な表情を見せる彼女に、記者の方から拍手と「おめでとう」の言葉がかけられる珍しいシーンもあった。すっきりした結果ではなかったが、鈴木の表現する世界は確実に多くの観客に「新しく出てきたすてきなスケーター」として認知されているし、しっかりした言葉で素直に心境を語る姿勢は、試合を重ねるごとに多くの関係者の心をひきつけてもいる。
「何も考えずに滑るって、どんな大変なことかわかりました。トップの選手たちはみんなすごいなあ!」と、まるでジュニアからシニアにデビューしたての選手のようなコメントを残した鈴木。ベテランながら氷の上でも外でも次々に新しい経験をし、日増しに成長する彼女の姿を見るのは楽しい。これからファイナル、全日本と経て、さらにステップアップしていく遅咲きのヒロインに注目してみたい。
“まだまだ”の高橋、五輪で勝つために必要なもの
スケートカナダ・男子シングル総括
■佐藤コーチとの新コンビで優勝したアボット、高橋は2位
男子シングルは優勝のジェレミー・アボット(米国)と2位の高橋大輔(関西大学大学院)がそれぞれ現在発揮できる力で、ショートとフリーを滑りきり、二人ともにファイナル進出を決めた。特にアボットは昨シーズン一度も成功をみなかった4回転トゥループを完ぺきに決め、NHK杯では見せられなかった「交響曲第3番(サン=サーンス)」の真骨頂を披露する素晴らしい優勝だった。日本のファンが特に注目しているのは、元世界女王でもある新コーチ佐藤有香とのコンビネーションだろうか。これまでショースケーターとして名声を得つつも、トップ選手を正式に指導したことがなかった佐藤コーチをアボットが選んだのは、同じショーに参加した時に聞いた彼女のスケート哲学に共感したからという。氷上練習だけでなく陸上トレーニングなどにも常に彼女の同行を求めるほど信頼を寄せており、今大会も6分練習前のリンクサイド、各選手が緊張した面持ちでいるなか、アボット一人が佐藤コーチと談笑してリラックスしている姿が印象的だった。
一方、フリー1位の高橋は「フリーでアボットに勝てたと思わなかった」と本人も認めるように、冒頭の4回転がパンクして3回転に、後半は3回転ループでぐらつき、サルコウで軽くステップアウトと、少しミスが目立つ内容。道化師になりきる演技部分では観客ばかりでなくジャッジまで笑顔にしてしまうチャーミングさがあり、後半のステップで魅了した後は、スタンディングオベーションも得た。五輪プログラム「道」は、この段階でも十分評価された形だ。しかし私たちが「もっとすごい高橋」を知っているからだろうか。この結果にも、まだまだ、もうちょっと見せてほしいと思ってしまう。
■「勝たせたい男」を印象付けたライバルたち
五輪シーズン前半のグランプリ(GP)シリーズ。勝負はあくまで五輪なのだから、無理に勝つ必要はない。しかし、少しでも前シーズンから進歩したところ、今季は素晴らしい気合いが入っているところ、ミスはしても完成形が楽しみになるプログラムを持っているところ……そんなものをジャッジや関係者、ファンに見せておく必要はある。ロシア杯で鮮やかな復活を遂げたエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)、エリック・ボンパール杯で散々だったがNHK杯で彼らしい強さを見せたブライアン・ジュベール(フランス)、また自らの道を突き進む覚悟と気合いのほどを感じさせたジョニー・ウィアー(米国)、そして2季ぶりの4回転をこの時点で跳んだアボット。彼らは五輪で勝てる男、「勝たせたい男」として、審判に強く印象付けることができた。
またスケートカナダではメダルに及ばなかったが、公式練習で凄まじいまでの「オペラ座の怪人」をお披露目したパトリック・チャン(カナダ)。フリーでは撃沈してしまったが、良く動く身体でショートプログラムはパーフェクトの演技をし、大器の片りんを見せたデニス・テン(カザフスタン)などにも、審判は昨シーズン以上の成長を見ている。
特にパトリック・チャンの滑りの技術のさらなる進歩、公式練習で流しながら滑ったはずのフリープログラムの華麗さは誰もが目を見張るもので、練習段階では彼かアボットが優勝か、と思われた。ホームリンクでの練習では高確率で4回転も成功しているというが、今年の彼ならばトリプルアクセルまでの構成でかなりのポイントを得ることができるだろう。五輪本番、もしクワドジャンパーたちが次々に失敗するとしたら、チャンは4回転なしでメダルに届くのではないか。そんな声も聞かれた。
そうしたGPでの活躍で目をひいた選手、GPではいまいちだったが、今年の成長に期待できる選手。その中に残念ながら、高橋はまだ入っていない。「前はもっといいものを見せてくれたよね」「ケガのブランクは、やはり大きかったな」――そんな印象を、多くの審判は現在の高橋に抱いているはずだ。
一歩一歩階段を上っている状態の彼には酷だが、ここはもうひとつ与えられたチャンス、GPファイナルで「高橋大輔、健在!」の演技を期待したい。それはパーフェクトの演技では必ずしもなく、どんな形であれ「五輪での高橋が楽しみになる演技」だ。
*** 以上、記事より ***
色々言われていますが、よく頑張ったと思いますよー皆。
五輪シーズンってこんなだったかしら? と4年前を思い起こしつつ、そういや真央デビューで大騒ぎだったなぁ、五輪云々そっちのけだったなぁ、スポンサー疑惑とかも色々あったなぁ、なんて思い出しました。
ともあれ、日本選手は男女共に2人ずつファイナル@東京出場が決まりました。楽しみです。
フィギュアスケート、スケートカナダ見どころ
ついにグランプリシリーズ第6戦。ファイナル進出者がすべて決まる最後の一戦に、日本からは高橋大輔(関大大学院)、鈴木明子(邦和スポーツランド)のふたりが参戦する。
ふたりともがこの一戦次第で、十分ファイナル行きの切符に手が届く大一番。そしてそれぞれ優勝も狙えそうな、楽しみな一戦だ。ただし、ふたりを迎え撃つのは男子のパトリック・チャン、女子のジョアニー・ロシェット(ともにカナダ)。ふたりとも現世界選手権メダリストであり、五輪シーズンに地元カナダの期待を背負って立つ男女のエースだ。日本VS.カナダ、などとついあおりたくなってしまう、わくわくするような最終戦になりそうだ。
■鈴木とロシェットが再戦
女子優勝候補筆頭のロシェットと鈴木は、中国杯に続いて2度目の顔合わせ。一戦目では有力視されつつジャンプの不調で3位に沈んだロシェット、初の海外グランプリシリーズ参戦ということで、ほぼノーマークのまま優勝してしまった鈴木。明暗を分けた二人の再戦となる。
しかしロシェットは、現在のトップスケーターの地位を確立する以前から、安定感にかけては定評のあった選手。五輪シーズンに2戦続けての乱調は見せないだろうし、4年連続で表彰台に上がっているスケートカナダの金メダルを、ここで得ておきたいところだ。開催都市のキッチナーは、ロシェットが振付けなどでよく訪れるトロント近郊。バンクーバー以上にホームの声援は大きいだろうし、時差調整などの点でも優位に立っている。
鈴木は中国杯での印象があまりに鮮烈だったため、ひょっとしたらこのままグランプリ連勝もあるのでは、という期待の声も大きい。シニアのグランプリ参加2シーズン目の選手が2連勝となれば素晴らしい成績だが、その期待への重圧も今はひしひしと感じているだろう。初のファイナル進出も、大きく意識してしまうかもしれない。
しかしスケートカナダは彼女にとって「五輪に行きたい気持ちが固まった四大陸選手権のあった国。シェイ・リーン(・ボーン)に振付けをしてもらった国」での開催。この場所で戦えることを、シーズン前から楽しみにしていたという。ファイナルに関しても、幸い中国杯で優勝し15ポイントを取得しているため、表彰台に乗りさえすればOKという好位置に付けている。ここはリラックスして、勝ち負けよりもあの『ウエスト・サイド・ストーリー』を存分に演じることだけを意識して――そんな気持ちで臨めば、結果は付いてきそうだ。
ちなみに筆者はトロント行きの機内でこの原稿を書いているが、たまたま同じ飛行機に乗り合わせていた鈴木の表情はいつもと変わらず明るく、おどけて執筆中の原稿をのぞきこんでくる余裕も見せてくれた。
■レピスト、長洲らにも注目
2選手に対抗してくるのは、現ヨーロッパチャンピオンのラウラ・レピスト(フィンランド)。NHK杯では得意の3回転トゥ−3回転トゥが入らず5位、ジャンプもまだ本調子ではなかったが、フリーの『アディオス・ノニーノ』は、タンゴで彼女の新しいイメージを作り上げようとする意欲的なプロフラムだ。北米とアジア勢が優位に立っている今シーズン、ヨーロッパのエースとして、2戦目は意地を見せてくれるか。
また米国からは五輪代表を狙う3選手、アリッサ・シズニー、長洲未来、キャロライン・ザンがそろって登場。国内のライバルであるアシュリー・ワグナーがロシア杯とNHK杯で、レイチェル・フラットがスケートアメリカで表彰台に上り、演技内容も充実したものであったため、このまま2選手がアメリカ代表か、という雰囲気もできつつある。そんな声に待ったをかけるため、3選手ともひとつでも上の順位を目指したいところだ。
■日本、カナダの両エースが登場
男子はグランプリ復帰戦のNHK杯を表彰台で飾れなかった高橋の2戦目はどうか。そして一戦目のロシア杯をケガのため欠場したチャンがやっと登場し、どこまで調整できているか。バンクーバー五輪でメダルを狙う日・加両エースの状態が何よりも気になる。
ロシア杯でのエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)や、ネーベルホルン杯でのステファン・ランビエール(スイス)も含め、五輪有力選手の動向はほぼつかめてきた現在。男子では唯一、チャンの今シーズンの様子だけが明らかにされておらず、気になっている人は多いだろう。昨シーズンは4回転ジャンプを完成させないまま世界選手権の銀メダルを獲得したが、今シーズンも4回転を武器にした戦い方は恐らくまだしてこないはず。五輪メダリスト候補のなかで、ひとりまったく4回転を入れずに戦うことになるかもしれない。その状況下で、彼の持ち前のスケーティングの美しさ、プログラムの完成度の高さがどれだけの評価を得られるか、今大会でのひとつの注目ポイントとなる。
一方で高橋は、ケガから復帰後、フィンランディア杯、NHK杯と存在感を見せつつも、課題の多い2戦を経ての3戦目。短い期間で4回転の復調やプログラムの十分な滑り込みまでは到達していないかもしれないが、序盤2戦からどれだけ前進しているかをじっくりと見てみたい。
■コンテスティ、アボットが2戦目
しかし男子シングルはチャンと高橋二人の戦い……とは言い切れないほど、楽しみなメンバーがそろった。
ベテラン勢では昨シーズン躍進したふたり、ヨーロッパ選手権2位のサミュエル・コンテスティ(イタリア)と、グランプリファイナルチャンピオンのジェレミー・アボット(米国)が2戦目を迎える。アボットはNHK杯で結果こそ5位ではあったが、フリーのカミーユ・サン=サーンスの『交響曲第3番』では音楽をとことん体で表現するスケートを見せてくれた。振付けは、高橋のフリー『道』と同じ、パスカーレ・カメレンゴ。五輪シーズン、ビビッドなキャラクターを演じる選手が男女ともに多い中で、クラシックの、しかも表現しにくい交響曲を、ここまで曲想に寄り添い滑りこなそうとする挑戦。ジャンプがソリッドに決まれば、アボットも高い評価を得られそうだ。
また若手でも注目したい選手がふたり。NHK杯3位で高橋やアボットの上をゆき、シニアデビューシーズンにしてファイナル進出の可能性も大きいミハエル・ブジェジナ(チェコ)。また1戦目の中国杯こそ10位だったが、やはりあのふてぶてしいまでにエンターテイニングなパフォーマンスはぜひ見ておきたいデニス・テン(カザフスタン)。
シーズン前、期待の10代として名前を挙げた何人かの選手がいたが、フランスのフロレント・アモディオ、アメリカのブランドン・ムロズ、スペインのハビエル・フェルナンデスなど、シニアの厚い壁に苦戦したスケーターは多かった。その中でアダム・リッポン(米国)とともに初のメダルを獲得しているブジェジナ、大きな注目のなかで想像以上に苦戦したテン。おそらく2012年ソチ冬季五輪までの男子シングルの中心人物になるだろうふたりの2戦目、見逃したくない。
鈴木はファイナル進出も…低空飛行続く女子
スケートカナダ・女子シングル総括
ファイナル進出者がすべて決まるグランプリ(GP)シリーズ第6戦、スケートカナダ。それにもかかわらず、女子シングルはミスを連発する選手が多く、勝負としては少し面白みの欠ける試合となってしまった。表彰台に乗ったジョアニー・ロシェット(カナダ)、アリッサ・シズニー(米国)、ローラ・レピスト(フィンランド)とも、フリーではそれぞれふたつ以上の小さくないジャンプミスがあり、納得する演技で滑り終える選手がいなかったのは残念。多くの選手が不調をきたした原因のひとつは、この試合の成績次第でファイナルに進める選手が多く、そのプレッシャーがかかっていたこと。またリンクのサイズが60メートル×30メートルの国際規格より小さなNHL(アイスホッケー)サイズで、ジャンプのタイミングやスケーティングのコントロールが難しかったかったことも挙げられる。
■ジャンプに恐怖感を抱く女子スケーターたち
しかし今シーズン、スケートカナダに限らず、GPシリーズを通してパーフェクトの演技をみせられた女子選手はほとんどいない。エキサイティングな試合が続いた男子に比べると、五輪シーズンにしては少し、女子シングルという種目そのものが低調であることが気にかかる。
これはやはり、数年前から厳しくなったジャンプのロングエッジ判定、さらには近年さらに厳しくなったジャンプの回転不足判定が特に女子選手には影響が大きく、試合結果を左右するようなことが多いためだろうか。時には選手本人が「成功した」と思ったジャンプでもダウングレードを取られるケースもあり、試合後のコメントでもしきりに判定を気にする選手が多く見られた。より正確な美しいジャンプを高く評価する、そのためのシステムではある。しかしエッジの踏み切りや回転不足に対し、それほど厳格な指導を受けてこなかった世代の選手にとっては、怖い。マイナス評価を恐れて、ジャンプそのものに対して恐怖感を持ち、萎縮してしまう……そんな傾向があるのかもしれない。
スケートカナダでは9位に入ったサラ・ヘッケン(ドイツ)が、トゥループ−トゥループながら胸のすくように気持ちのよい3回転−3回転を見せ、女子のジャンプの美しさを思い出させてくれた。しかし3回転−3回転に関しても、“跳べるはず”の多くの選手がダウングレードを恐れてなかなかトライできない状態になっている。フィギュアスケートの魅力のうち大きな比重を占めるジャンプ。選手たちがより高いモチベーションで挑戦できるようになることを願ってやまない。
■重圧で5位に終わるも、ファイナル進出決めた鈴木
そうした試合のなかで、やはりジャンプが大きく乱れ、5位に終わった日本の鈴木明子(邦和スポーツランド)。中国杯でのGP初優勝はさすがに大きな負担だったらしく、フリー終了後には「自分が感じないところでプレッシャーを感じていたかもしれない」と話した。一番そばにいた長久保裕コーチでさえ、「僕にはリラックスしているように見えた」と語るほど、公式練習から自然体を貫いてきた今回。しかしやはりファイナル進出、その先にある五輪代表という大きな目標が近づいてきたこと、それは、GPシリーズ参加3戦目の選手には、重すぎるプレッシャーだったようだ。
しかし5位ながら2戦での合計ポイント22を獲得し、ファイナル進出が決定。バックステージでは大泣きし、取材陣の前でも複雑な表情を見せる彼女に、記者の方から拍手と「おめでとう」の言葉がかけられる珍しいシーンもあった。すっきりした結果ではなかったが、鈴木の表現する世界は確実に多くの観客に「新しく出てきたすてきなスケーター」として認知されているし、しっかりした言葉で素直に心境を語る姿勢は、試合を重ねるごとに多くの関係者の心をひきつけてもいる。
「何も考えずに滑るって、どんな大変なことかわかりました。トップの選手たちはみんなすごいなあ!」と、まるでジュニアからシニアにデビューしたての選手のようなコメントを残した鈴木。ベテランながら氷の上でも外でも次々に新しい経験をし、日増しに成長する彼女の姿を見るのは楽しい。これからファイナル、全日本と経て、さらにステップアップしていく遅咲きのヒロインに注目してみたい。
“まだまだ”の高橋、五輪で勝つために必要なもの
スケートカナダ・男子シングル総括
■佐藤コーチとの新コンビで優勝したアボット、高橋は2位
男子シングルは優勝のジェレミー・アボット(米国)と2位の高橋大輔(関西大学大学院)がそれぞれ現在発揮できる力で、ショートとフリーを滑りきり、二人ともにファイナル進出を決めた。特にアボットは昨シーズン一度も成功をみなかった4回転トゥループを完ぺきに決め、NHK杯では見せられなかった「交響曲第3番(サン=サーンス)」の真骨頂を披露する素晴らしい優勝だった。日本のファンが特に注目しているのは、元世界女王でもある新コーチ佐藤有香とのコンビネーションだろうか。これまでショースケーターとして名声を得つつも、トップ選手を正式に指導したことがなかった佐藤コーチをアボットが選んだのは、同じショーに参加した時に聞いた彼女のスケート哲学に共感したからという。氷上練習だけでなく陸上トレーニングなどにも常に彼女の同行を求めるほど信頼を寄せており、今大会も6分練習前のリンクサイド、各選手が緊張した面持ちでいるなか、アボット一人が佐藤コーチと談笑してリラックスしている姿が印象的だった。
一方、フリー1位の高橋は「フリーでアボットに勝てたと思わなかった」と本人も認めるように、冒頭の4回転がパンクして3回転に、後半は3回転ループでぐらつき、サルコウで軽くステップアウトと、少しミスが目立つ内容。道化師になりきる演技部分では観客ばかりでなくジャッジまで笑顔にしてしまうチャーミングさがあり、後半のステップで魅了した後は、スタンディングオベーションも得た。五輪プログラム「道」は、この段階でも十分評価された形だ。しかし私たちが「もっとすごい高橋」を知っているからだろうか。この結果にも、まだまだ、もうちょっと見せてほしいと思ってしまう。
■「勝たせたい男」を印象付けたライバルたち
五輪シーズン前半のグランプリ(GP)シリーズ。勝負はあくまで五輪なのだから、無理に勝つ必要はない。しかし、少しでも前シーズンから進歩したところ、今季は素晴らしい気合いが入っているところ、ミスはしても完成形が楽しみになるプログラムを持っているところ……そんなものをジャッジや関係者、ファンに見せておく必要はある。ロシア杯で鮮やかな復活を遂げたエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)、エリック・ボンパール杯で散々だったがNHK杯で彼らしい強さを見せたブライアン・ジュベール(フランス)、また自らの道を突き進む覚悟と気合いのほどを感じさせたジョニー・ウィアー(米国)、そして2季ぶりの4回転をこの時点で跳んだアボット。彼らは五輪で勝てる男、「勝たせたい男」として、審判に強く印象付けることができた。
またスケートカナダではメダルに及ばなかったが、公式練習で凄まじいまでの「オペラ座の怪人」をお披露目したパトリック・チャン(カナダ)。フリーでは撃沈してしまったが、良く動く身体でショートプログラムはパーフェクトの演技をし、大器の片りんを見せたデニス・テン(カザフスタン)などにも、審判は昨シーズン以上の成長を見ている。
特にパトリック・チャンの滑りの技術のさらなる進歩、公式練習で流しながら滑ったはずのフリープログラムの華麗さは誰もが目を見張るもので、練習段階では彼かアボットが優勝か、と思われた。ホームリンクでの練習では高確率で4回転も成功しているというが、今年の彼ならばトリプルアクセルまでの構成でかなりのポイントを得ることができるだろう。五輪本番、もしクワドジャンパーたちが次々に失敗するとしたら、チャンは4回転なしでメダルに届くのではないか。そんな声も聞かれた。
そうしたGPでの活躍で目をひいた選手、GPではいまいちだったが、今年の成長に期待できる選手。その中に残念ながら、高橋はまだ入っていない。「前はもっといいものを見せてくれたよね」「ケガのブランクは、やはり大きかったな」――そんな印象を、多くの審判は現在の高橋に抱いているはずだ。
一歩一歩階段を上っている状態の彼には酷だが、ここはもうひとつ与えられたチャンス、GPファイナルで「高橋大輔、健在!」の演技を期待したい。それはパーフェクトの演技では必ずしもなく、どんな形であれ「五輪での高橋が楽しみになる演技」だ。
*** 以上、記事より ***
色々言われていますが、よく頑張ったと思いますよー皆。
五輪シーズンってこんなだったかしら? と4年前を思い起こしつつ、そういや真央デビューで大騒ぎだったなぁ、五輪云々そっちのけだったなぁ、スポンサー疑惑とかも色々あったなぁ、なんて思い出しました。
ともあれ、日本選手は男女共に2人ずつファイナル@東京出場が決まりました。楽しみです。
2009.11/17 [Tue]
スケアメ総括
2戦目を迎えるキム・ヨナに注目 ライザチェクは優勝なるか
フィギュアスケート、スケートアメリカ見どころ
五輪シーズンのグランプリシリーズも、あっという間に第5戦。そろそろグランプリファイナル進出者が誰になるのか、これまでの大会の順位や、すでに2試合が終わった選手のポイントも気にしながらの観戦となりそうだ。
■好調キム・ヨナが2戦目
女子シングルの注目は、やはり韓国のキム・ヨナ。2戦目を迎える世界女王が、今回はどんな演技を見せるかに尽きるだろう。エリック・ポンパール杯(フランス杯)でたたき出した自己最高にして世界歴代最高得点の210.03点。4戦終わった時点で誰にも破られていないどころか、今季総合得点2位の鈴木明子(中国杯176.66点)の得点さえ30点以上も引き離している。
しかしこの高得点が、多少なりともキム・ヨナにとってプレッシャーになるのではないか、とも思う。彼女は今、試合に勝つこと、自身の満足のいく演技をすること、それに加えて、「あのとんでもない点数にふさわしい演技を見せてくれるだろうか」――そんな期待に応えるというまったく別次元の緊張感を抱えているかもしれない。
そんなプレッシャーをものともしないくらいに素晴らしい演技をスケートアメリカでも見せてくれたら……今年のキム・ヨナは本物だろう。ひょっとしたら五輪までこのまま突っ走ってしまうかもしれない。「五輪優勝候補ナンバーワン」、「金メダル大本命」のキャッチフレーズを第1戦で得て4週間。彼女がどんな風に過ごしてきたのか、スケートアメリカではキム・ヨナの演技とともに、彼女のメンタルの強靭(きょうじん)さにも注目してみよう。
■フラット、村主の仕上がりは?
女子の出場メンバーを見ると、キム・ヨナを今すぐにおびやかしそうな選手は見当たらないのが残念。その中で見ておきたいのは、昨年の世界選手権5位で、実質アメリカ1番手のレイチェル・フラット。中国杯では4位に終わったが、地元戦のスケートアメリカでは、昨年何度も見せた若さあふれる滑りを披露してくれることに期待したい。
また、同じく中国杯で7位と苦戦した村主章枝(Ak)も2戦目。ほかの日本選手たちがファイナル出場に向けてシーズン最初から飛ばしてきたのに対し、村主だけは全日本選手権に狙いを定め、ゆっくりと仕上げる道を選んでいる。この時点で彼女がどこまでジャンプの調子を戻しているか、モダンテイストのプログラムをどこまで滑り込めているか、じっくり見てみたい。
そのほかには実力的に飛び抜ける選手はなく、女子の表彰台争いは混とんとしそうだ。このなかで少し注意して見てみたいのはエレネ・ゲデバニシビリ(グルジア)とエミリー・ヒューズ(米国)のふたり。ともに4年前のトリノ五輪は10代で経験し、バンクーバーでのメダル争いを期待された選手たちだ。しかし女子選手にとって、10代後半は難しい時期。ヒューズは初の五輪出場(トリノ五輪7位)後、負傷の影響もあって世界選手権出場を2回逃し、ゲデバニシビリ(トリノ五輪10位)も練習環境の変化などがあり、一度は世界選手権で20位まで落ち込んだ。それでも迎えた2度目の五輪シーズン。特にヒューズは今回欠場したサーシャ・コーエンに代わっての緊急出場となる。輝けばそれぞれ魅力的な選手だけに、今季の取り組み具合に注目したい。
■世界王者ライザチェクとベルネルの戦い
男子シングルは米国の誇る世界チャンピオン、エバン・ライザチェクが登場。小手調べだった中国杯では織田信成(関西大)に敗れたが、今大会は全米選手権に向けての調整試合、2位や3位でもファイナルOK、などといわずに、是が非でも優勝を飾りたいところだ。
というのもライザチェクはスケートアメリカとどうも相性が悪く、過去4年間連続で優勝を逃している(05〜07年は2位、08年3位)。しかも味わっているのは05、07年は高橋大輔(関大大学院)、06年織田、08年小塚崇彦(トヨタ自動車)と、それぞれ違う日本男子に敗れるという屈辱。残念ながらリベンジしたい3人の日本男子の出場はないが、それでも五輪シーズン、現世界王者としてはスケートアメリカでこそぜひ雄姿を見せておきたいところだろう。
ライザチェクを脅かす存在といえば、チェコのトマシュ・ベルネル。4回転が得意で、スケーティングも美麗。その演技には野性味も色気もあり、実力の上では世界チャンピオンのライザチェクにも負けないものを持っている選手だ。初戦のエリック・ポンパール杯のフリープログラムでは織田が回避し、ブライアン・ジュベール(フランス)が失敗する中、堂々4回転ジャンプも成功。と思いきや、後半バタバタと3回転ジャンプが崩れ、総合2位に甘んじている。しかしミスさえ最小限に抑えれば、ジャンプ、スケーティング、表現技術、すべてそろった選手であることは変わらず、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が復帰して4回転が必須となった今季、かなり期待されている。4回転が完ぺきとは言えないライザチェクがジャンプ構成でベルネルにどう対抗してくるか? ベルネルは大崩れを見せず、4回転を含めて真の実力を発揮できるか? シーズン後半を占う上でも必見の対決といえるだろう。
■五輪代表へ戦いが続く選手たち
彼ら2強を追いかける選手たちを見ると、五輪代表権をかけて国内での争いがし烈な選手が多くそろったのが興味深い。
スウェーデン1枠を巡ってクリストファー・ベルントソン(NHK杯12位)と競うアドリアン・シュルタイス。ジュベール(フランス杯4位、NHK杯優勝)、ヤニック・ポンセロ(フランス杯5位、中国杯5位)、アルバン・プロベール(フランス杯7位)とともにフランス2枠を争い、ちょっと苦戦中のフロレント・アモディオ(ロシア杯9位)。プルシェンコがほぼ出場確実な中、ロシア2枠目をセルゲイ・ボロノフ(フランス杯6位、中国杯3位)、アルテム・ボロデュリン(ロシア杯3位、NHK杯8位)らと競うアンドレイ・ルータイ。パトリック・チャンともうひとり出場できるカナダ2枠目をジェレミー・テン(NHK杯10位)、ボーン・シプール(フランス杯12位、NHK杯11位)らとともに狙うケビン・レイノルズ(中国杯8位)とショーン・ソーヤー(ロシア杯8位)。ライザチェク、ジョニー・ウィアー(ロシア杯4位、NHK杯2位)が順調、ジェレミー・アボット(NHK杯5位)、アダム・リッポン(フランス杯3位、NHK杯5位)もまずますの仕上がりを見せる中、アメリカ3枠に割って入りたいブランドン・ムロズ(ロシア杯7位)とライアン・ブラッドリー(ロシア杯9位)。
そして日本からは春に左股関節を手術してから、たった半年で復帰にこぎつけた南里康晴(ふくや)も出場する。五輪シーズン目前の大ケガということで心配されたが、さすがの身体能力の高さで夏には3回転ジャンプを取り戻し、新しいプログラムを作る余裕さえあったという。日本男子は高橋、織田、小塚の3強だけではないところ、ぜひ見せてほしい。
「キム・ヨナがフリーで2位」の衝撃
フィギュアスケート・スケートアメリカ総括
■スケートアメリカのフラットのような演技
女子シングルは、キム・ヨナ(韓国)優勝。というよりも、<キム・ヨナがフリーで2位>、その衝撃の方が大きなスケートアメリカだった。
フリーでは絶対有力視されていた優勝候補のキム・ヨナが崩れ、若くて勢いのあるレイチェル・フラット(米国)が、波に乗って会心の演技。まるで、はやくも五輪を見ているような展開だ。
際立った個性を持つわけではないフラットだが、オーソドックスで洗練された女子シングルのスタイルを気持ちよく体現できる選手。この日は地元の大歓声をうまく味方につけ、3回転−3回転も成功。スピードもたっぷりに、身体の細部まで神経の行き届いた動きを見せてくれた。個性の華は、きっとこれから咲くのだろう。しかしまるでタラ・リピンスキーやサラ・ヒューズのように、10代で五輪を制した選手たちに似た上昇気流に乗ったスケートは、ある意味無敵だ。
五輪本番では、ベテランの実力者、中堅の優勝候補、若手のダークホースと並び、さまざまな展開が予想されるだろう。しか最後には、どの年代であろうと、どのポジションにいようと、スケートアメリカのフラットのような演技ができた選手こそが、勝つのかもしれない。その場所にいることを一番楽しみ、滑りの喜びを一番ストレートに表した選手には、審判だって否応なく点数を出したくなってしまう。
■得点に左右されない楽しみ
フリーではフリップの転倒を含め、3つもの大きなミスをしてしまったキム・ヨナ。現行採点システムの出す得点は、ときどき人々の目をくらませるところがある。ほかの選手に総合得点で30点以上も差をつけてしまったキム・ヨナがこんなミスをするなんて、ちょっと信じられないような気持ちにならなかっただろうか。
もともとキム・ヨナはパーフェクトが多い選手ではないし、ミスを重ねればフリー2位に沈む。よく考えれば十分あり得たはずの、でも今季の得点を見ると想像できなかったこの結果に、女子シングルの今後も少し面白みが出てきた、と思う人も多いだろう。そして誰よりもキム・ヨナ自身が「絶対に安定感のある女王」のレッテルを早々にはがすことができて、少しほっとしたのではないかと思う。
しかしキム・ヨナ、強いことに変わりはない。特にボンドガールに扮するショートプログラム(SP)は、イメージが強烈なため好き嫌いは分かれるだろうが、間違いなく名プログラム。スケートファンとして、フィギュアスケートの作品にこうしたプログラムがひとつ生まれたことは、大いに喜びたいと思う。
そして得点の高さにばかり注目し、このプログラムの素晴らしさを語ることを忘れたくはない、とも思う。フィギュアスケートの現ジャッジシステムは、ジャンプ、スピン、ステップといったエレメンツの評価に対しては厳格かつスポーツフルな基準を持つ。しかし「演技力」や「音楽との調和」を得点化するプログラム構成点においては、ジャッジ自身が「いい演技を見た!」と思えば、自然に高い点数は出てくるものだ。スパイラルを何秒キープ、ジャンプの回転は何度足りているか、等々では測れない部分がフィギュアスケートにはある。それがかつての芸術点であり、現在のプログラムコンポーネントスコアに当たる。
キム・ヨナのプログラム、特にSPは、間違いなくそうした部分を揺さぶりえる作品だ。得点があまりに高いことで、売れすぎたベストセラー小説をけなすような傾向が、少しあるかもしれない。しかしすてきだ、と思う作品はすてきだと大声で言いたいし、得点などに左右されずに選手たちの演技そのものに何かを感じられるところに、フィギュアスケートを見る楽しみはある。
願うのはキム・ヨナが、この記念すべきプログラムを大舞台で、最高のパフォーマンスで見せ切ってくれることだ。
■ベテラン選手の味
3位は長野五輪から出場し、4回目の五輪となるバンクーバーの出場枠も、自ら予選会でもぎとってきたユリア・シュベスチェン(ハンガリー)。4位は同じく大ベテランの村主章枝(AK)。10代選手が席巻するシーズン、20代後半の彼女たちの活躍は、長く見てきたファンにはとてもうれしいニュースだ。
特に村主章枝が本来のジャンプを戻しつつあることが、見ていてこんなにうれしいものなのか、とわれながら驚いてしまった。エッジエラーやダウングレード判定はあったものの、得意のルッツもフリップも跳んできた。SPは気持ちも入り、いい表情も出ていたが、フリーはまだ滑りこんでいる過程という様子で、少し動きのたどたどしさを見せる。しかしグランプリシリーズをきちんと調整のために使える、いかにもベテランらしい戦い方。フィンランディア、中国杯、スケートアメリカと彼女を追っていくと、これがピーキングというものなのか、と感心するくらい少しずつ、自分のペースで本気モードに入ってきているようだ。これは全日本選手権、村主章枝ならばしっかり合わせて来るかもしれない。
■絵に描いたようなチャンピオンプログラム
男子ではエヴァン・ライザチェク(米国)が、ショート・フリーをそろえた見事な優勝。さすが世界チャンピオン、中国杯とは全く違うプログラムを見せての堂々の勝利だった。
短期間で気合いを入れて滑りこみをしてきたのだろう。音楽に乗ってよく動き、ラストのステップはしっかり身体にしみこませるところまで、すでに出来上がっている。いつもはちょっともてあまし気味に見える長い手足も、「火の鳥」に乗って気持ちよさそうに動くと、こんなにも美しいものはない、と思えてしまうほど。たたみかけるようなフィニッシュのムーブメントまで絵に描いたようなチャンピオンプログラムで、シーズン前半、スケートアメリカの時点で見せられるだけものはすべて見せての初優勝だ。
もちろんこの先、世界チャンピオンから五輪チャンピオンになるためには、4回転をはじめ様々な課題がライザチェクにはある。復活した好敵手たちのことを考えると、彼ほど過酷な立場にある「五輪シーズンの世界チャンピオン」はいない。それでもこの人の、五輪へのチャレンジを見届けたい、そう思わせてくれる「火の鳥」だった。
■プログラムの本質の見せ方
2位にはカナダのショーン・ソーヤー。3位にはライアン・ブラッドレイ(米国)。ともにベテラン、ともに個性派。そしてともに国内の代表争いが厳しく、ひょっとしたら五輪では見られないかもしれない選手がメダルを手にすることができた。そしてふたりともがフリーは「アマデウス」。モーツァルトのメドレーをそれぞれが味わい深く表現してくれた。
ソーヤーの「アマデウス」は、流れのある滑りに乗り、失敗をしても笑みを絶やさず、自分の個性に自信を持って表現しきるプログラム。さすがベテランらしく、手の位置のひとつひとつ、ここで見せるべき表情の一つ一つをよく心得ている。小さいが柔らかい身体と、屈託のない笑顔を持った現代の青年が、彼の持ち味をたっぷり出しながら表現する「アマデウス」。細かなミスは少なくなかったが、それでも最後まで目を離せない演技で、最後の3回転−2回転−2回転が決まった瞬間には素晴らしい笑顔! この人は本当にこのプログラムを滑ることが楽しいんだろうな……と、こちらまで笑顔になってしまうようなフリーだった。
一方のブラッドレイも、冒頭に4回転を2度成功! その勢いに乗って見せたのは、大人の男のかわいらしさ、背の高い彼のひょうひょうとした雰囲気を、これまたたっぷり生かした「アマデウス」だ。ソーヤーが現代の青年の生きる喜びを表していたのに対し、演技派のブラッドレイは「確かにこんなにかわいらしい紳士が、モーツァルトの時代にはいただろうな」と、古き良き時代に思いをはせたくなるプログラム。彼もまた後半、ジャンプのミスが少し続いたが、やはり笑顔を絶やさず、最後まで自身の世界を見せ切ることに成功した。
やはり「ジャンプを跳べてうれしい!」は、フィギュアスケートの本当の表現ではないのだな、と彼らを見ていると思う。パフォーマンスである限りは、ジャンプの出来で左右されてしまう、ジャンプの失敗でプログラムすべてが崩れてしまうようでは、いけない。ミスが続いたときにこそ、プログラムの本質を見せ続けられるかどうか、そのスケーターの底力は見えてくるのだろう。
ソーヤーやブラッドレイのような個性派の、練り上げてきた素晴らしいプログラム。ミスがあっても楽しめるこんなプログラムなら、何度でも見てみたい。もちろんバンクーバー五輪にもぜひ参戦してほしいが、彼ら以外にも五輪での雄姿を見たい男子選手がアメリカ、カナダにはたくさんいるから困りものだ。
しかしこのポジションの選手にも、こんなに素晴らしいパフォーマーがたくさんいる――改めて現在の男子シングルの豊穣さを思うスケートアメリカだった。
■チャンピオンスケーターらしい貫録
一方で優勝候補のひとりだったトマシュ・ベルネル(チェコ)は総合5位。4回転をはじめとした得意のジャンプがSPでもフリーでも乱調だった、そのこと以上に、ジャンプミスの後の彼の演技がまったく精彩を欠いていたことがショックだった。
エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)の復活で、五輪メダリストは4回転ジャンパーであることが必須条件か、と思われる中、4回転を含めてすべての素質を持つこの選手に期待した人は多いだろう。世界選手権やファイナルではまだ無冠だが、すべてを見せればきっとプルシェンコやステファン・ランビール(スイス)、高橋大輔(関西大学)をもしのげるはず……そんな選手がスケートアメリカで見せた無気力な演技には、少々がっかりしてしまった。
エリック・ポンパール杯のジュベールも、NHK杯の高橋大輔も、ジャンプで大きく崩れはしたが、それでもチャンピオンスケーターらしい貫録を、ステップや振付けで精いっぱい見せてくれた。それが王者の格というものだろう。その点では今シーズンのベルネルは、まだまだ王者にふさわしい姿を見せてくれてはいない。
また日本から出場の南里康晴(ふくや)は、9位ながらSPでもフリーでもトリプルアクセルを成功。股関節のケガからの早い復帰を心配していたが、ケガする前と変わらない、美しい「ヤスのトリプルアクセル」を国際大会で見られたことをまずは喜びたい。村主章枝同様、次の大舞台は全日本選手権。じっくり調整してさらに磨き抜かれた「アランフェス協奏曲」を、大阪では見せてくれるだろう。
*** 以上、記事より ***
はい。びっくりの女子でした。
ひとつ、「手合い」となっていたのですが、文脈からして「手足」だろうと思って、手足にこっそり差し替えています。
フィギュアスケート、スケートアメリカ見どころ
五輪シーズンのグランプリシリーズも、あっという間に第5戦。そろそろグランプリファイナル進出者が誰になるのか、これまでの大会の順位や、すでに2試合が終わった選手のポイントも気にしながらの観戦となりそうだ。
■好調キム・ヨナが2戦目
女子シングルの注目は、やはり韓国のキム・ヨナ。2戦目を迎える世界女王が、今回はどんな演技を見せるかに尽きるだろう。エリック・ポンパール杯(フランス杯)でたたき出した自己最高にして世界歴代最高得点の210.03点。4戦終わった時点で誰にも破られていないどころか、今季総合得点2位の鈴木明子(中国杯176.66点)の得点さえ30点以上も引き離している。
しかしこの高得点が、多少なりともキム・ヨナにとってプレッシャーになるのではないか、とも思う。彼女は今、試合に勝つこと、自身の満足のいく演技をすること、それに加えて、「あのとんでもない点数にふさわしい演技を見せてくれるだろうか」――そんな期待に応えるというまったく別次元の緊張感を抱えているかもしれない。
そんなプレッシャーをものともしないくらいに素晴らしい演技をスケートアメリカでも見せてくれたら……今年のキム・ヨナは本物だろう。ひょっとしたら五輪までこのまま突っ走ってしまうかもしれない。「五輪優勝候補ナンバーワン」、「金メダル大本命」のキャッチフレーズを第1戦で得て4週間。彼女がどんな風に過ごしてきたのか、スケートアメリカではキム・ヨナの演技とともに、彼女のメンタルの強靭(きょうじん)さにも注目してみよう。
■フラット、村主の仕上がりは?
女子の出場メンバーを見ると、キム・ヨナを今すぐにおびやかしそうな選手は見当たらないのが残念。その中で見ておきたいのは、昨年の世界選手権5位で、実質アメリカ1番手のレイチェル・フラット。中国杯では4位に終わったが、地元戦のスケートアメリカでは、昨年何度も見せた若さあふれる滑りを披露してくれることに期待したい。
また、同じく中国杯で7位と苦戦した村主章枝(Ak)も2戦目。ほかの日本選手たちがファイナル出場に向けてシーズン最初から飛ばしてきたのに対し、村主だけは全日本選手権に狙いを定め、ゆっくりと仕上げる道を選んでいる。この時点で彼女がどこまでジャンプの調子を戻しているか、モダンテイストのプログラムをどこまで滑り込めているか、じっくり見てみたい。
そのほかには実力的に飛び抜ける選手はなく、女子の表彰台争いは混とんとしそうだ。このなかで少し注意して見てみたいのはエレネ・ゲデバニシビリ(グルジア)とエミリー・ヒューズ(米国)のふたり。ともに4年前のトリノ五輪は10代で経験し、バンクーバーでのメダル争いを期待された選手たちだ。しかし女子選手にとって、10代後半は難しい時期。ヒューズは初の五輪出場(トリノ五輪7位)後、負傷の影響もあって世界選手権出場を2回逃し、ゲデバニシビリ(トリノ五輪10位)も練習環境の変化などがあり、一度は世界選手権で20位まで落ち込んだ。それでも迎えた2度目の五輪シーズン。特にヒューズは今回欠場したサーシャ・コーエンに代わっての緊急出場となる。輝けばそれぞれ魅力的な選手だけに、今季の取り組み具合に注目したい。
■世界王者ライザチェクとベルネルの戦い
男子シングルは米国の誇る世界チャンピオン、エバン・ライザチェクが登場。小手調べだった中国杯では織田信成(関西大)に敗れたが、今大会は全米選手権に向けての調整試合、2位や3位でもファイナルOK、などといわずに、是が非でも優勝を飾りたいところだ。
というのもライザチェクはスケートアメリカとどうも相性が悪く、過去4年間連続で優勝を逃している(05〜07年は2位、08年3位)。しかも味わっているのは05、07年は高橋大輔(関大大学院)、06年織田、08年小塚崇彦(トヨタ自動車)と、それぞれ違う日本男子に敗れるという屈辱。残念ながらリベンジしたい3人の日本男子の出場はないが、それでも五輪シーズン、現世界王者としてはスケートアメリカでこそぜひ雄姿を見せておきたいところだろう。
ライザチェクを脅かす存在といえば、チェコのトマシュ・ベルネル。4回転が得意で、スケーティングも美麗。その演技には野性味も色気もあり、実力の上では世界チャンピオンのライザチェクにも負けないものを持っている選手だ。初戦のエリック・ポンパール杯のフリープログラムでは織田が回避し、ブライアン・ジュベール(フランス)が失敗する中、堂々4回転ジャンプも成功。と思いきや、後半バタバタと3回転ジャンプが崩れ、総合2位に甘んじている。しかしミスさえ最小限に抑えれば、ジャンプ、スケーティング、表現技術、すべてそろった選手であることは変わらず、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)が復帰して4回転が必須となった今季、かなり期待されている。4回転が完ぺきとは言えないライザチェクがジャンプ構成でベルネルにどう対抗してくるか? ベルネルは大崩れを見せず、4回転を含めて真の実力を発揮できるか? シーズン後半を占う上でも必見の対決といえるだろう。
■五輪代表へ戦いが続く選手たち
彼ら2強を追いかける選手たちを見ると、五輪代表権をかけて国内での争いがし烈な選手が多くそろったのが興味深い。
スウェーデン1枠を巡ってクリストファー・ベルントソン(NHK杯12位)と競うアドリアン・シュルタイス。ジュベール(フランス杯4位、NHK杯優勝)、ヤニック・ポンセロ(フランス杯5位、中国杯5位)、アルバン・プロベール(フランス杯7位)とともにフランス2枠を争い、ちょっと苦戦中のフロレント・アモディオ(ロシア杯9位)。プルシェンコがほぼ出場確実な中、ロシア2枠目をセルゲイ・ボロノフ(フランス杯6位、中国杯3位)、アルテム・ボロデュリン(ロシア杯3位、NHK杯8位)らと競うアンドレイ・ルータイ。パトリック・チャンともうひとり出場できるカナダ2枠目をジェレミー・テン(NHK杯10位)、ボーン・シプール(フランス杯12位、NHK杯11位)らとともに狙うケビン・レイノルズ(中国杯8位)とショーン・ソーヤー(ロシア杯8位)。ライザチェク、ジョニー・ウィアー(ロシア杯4位、NHK杯2位)が順調、ジェレミー・アボット(NHK杯5位)、アダム・リッポン(フランス杯3位、NHK杯5位)もまずますの仕上がりを見せる中、アメリカ3枠に割って入りたいブランドン・ムロズ(ロシア杯7位)とライアン・ブラッドリー(ロシア杯9位)。
そして日本からは春に左股関節を手術してから、たった半年で復帰にこぎつけた南里康晴(ふくや)も出場する。五輪シーズン目前の大ケガということで心配されたが、さすがの身体能力の高さで夏には3回転ジャンプを取り戻し、新しいプログラムを作る余裕さえあったという。日本男子は高橋、織田、小塚の3強だけではないところ、ぜひ見せてほしい。
「キム・ヨナがフリーで2位」の衝撃
フィギュアスケート・スケートアメリカ総括
■スケートアメリカのフラットのような演技
女子シングルは、キム・ヨナ(韓国)優勝。というよりも、<キム・ヨナがフリーで2位>、その衝撃の方が大きなスケートアメリカだった。
フリーでは絶対有力視されていた優勝候補のキム・ヨナが崩れ、若くて勢いのあるレイチェル・フラット(米国)が、波に乗って会心の演技。まるで、はやくも五輪を見ているような展開だ。
際立った個性を持つわけではないフラットだが、オーソドックスで洗練された女子シングルのスタイルを気持ちよく体現できる選手。この日は地元の大歓声をうまく味方につけ、3回転−3回転も成功。スピードもたっぷりに、身体の細部まで神経の行き届いた動きを見せてくれた。個性の華は、きっとこれから咲くのだろう。しかしまるでタラ・リピンスキーやサラ・ヒューズのように、10代で五輪を制した選手たちに似た上昇気流に乗ったスケートは、ある意味無敵だ。
五輪本番では、ベテランの実力者、中堅の優勝候補、若手のダークホースと並び、さまざまな展開が予想されるだろう。しか最後には、どの年代であろうと、どのポジションにいようと、スケートアメリカのフラットのような演技ができた選手こそが、勝つのかもしれない。その場所にいることを一番楽しみ、滑りの喜びを一番ストレートに表した選手には、審判だって否応なく点数を出したくなってしまう。
■得点に左右されない楽しみ
フリーではフリップの転倒を含め、3つもの大きなミスをしてしまったキム・ヨナ。現行採点システムの出す得点は、ときどき人々の目をくらませるところがある。ほかの選手に総合得点で30点以上も差をつけてしまったキム・ヨナがこんなミスをするなんて、ちょっと信じられないような気持ちにならなかっただろうか。
もともとキム・ヨナはパーフェクトが多い選手ではないし、ミスを重ねればフリー2位に沈む。よく考えれば十分あり得たはずの、でも今季の得点を見ると想像できなかったこの結果に、女子シングルの今後も少し面白みが出てきた、と思う人も多いだろう。そして誰よりもキム・ヨナ自身が「絶対に安定感のある女王」のレッテルを早々にはがすことができて、少しほっとしたのではないかと思う。
しかしキム・ヨナ、強いことに変わりはない。特にボンドガールに扮するショートプログラム(SP)は、イメージが強烈なため好き嫌いは分かれるだろうが、間違いなく名プログラム。スケートファンとして、フィギュアスケートの作品にこうしたプログラムがひとつ生まれたことは、大いに喜びたいと思う。
そして得点の高さにばかり注目し、このプログラムの素晴らしさを語ることを忘れたくはない、とも思う。フィギュアスケートの現ジャッジシステムは、ジャンプ、スピン、ステップといったエレメンツの評価に対しては厳格かつスポーツフルな基準を持つ。しかし「演技力」や「音楽との調和」を得点化するプログラム構成点においては、ジャッジ自身が「いい演技を見た!」と思えば、自然に高い点数は出てくるものだ。スパイラルを何秒キープ、ジャンプの回転は何度足りているか、等々では測れない部分がフィギュアスケートにはある。それがかつての芸術点であり、現在のプログラムコンポーネントスコアに当たる。
キム・ヨナのプログラム、特にSPは、間違いなくそうした部分を揺さぶりえる作品だ。得点があまりに高いことで、売れすぎたベストセラー小説をけなすような傾向が、少しあるかもしれない。しかしすてきだ、と思う作品はすてきだと大声で言いたいし、得点などに左右されずに選手たちの演技そのものに何かを感じられるところに、フィギュアスケートを見る楽しみはある。
願うのはキム・ヨナが、この記念すべきプログラムを大舞台で、最高のパフォーマンスで見せ切ってくれることだ。
■ベテラン選手の味
3位は長野五輪から出場し、4回目の五輪となるバンクーバーの出場枠も、自ら予選会でもぎとってきたユリア・シュベスチェン(ハンガリー)。4位は同じく大ベテランの村主章枝(AK)。10代選手が席巻するシーズン、20代後半の彼女たちの活躍は、長く見てきたファンにはとてもうれしいニュースだ。
特に村主章枝が本来のジャンプを戻しつつあることが、見ていてこんなにうれしいものなのか、とわれながら驚いてしまった。エッジエラーやダウングレード判定はあったものの、得意のルッツもフリップも跳んできた。SPは気持ちも入り、いい表情も出ていたが、フリーはまだ滑りこんでいる過程という様子で、少し動きのたどたどしさを見せる。しかしグランプリシリーズをきちんと調整のために使える、いかにもベテランらしい戦い方。フィンランディア、中国杯、スケートアメリカと彼女を追っていくと、これがピーキングというものなのか、と感心するくらい少しずつ、自分のペースで本気モードに入ってきているようだ。これは全日本選手権、村主章枝ならばしっかり合わせて来るかもしれない。
■絵に描いたようなチャンピオンプログラム
男子ではエヴァン・ライザチェク(米国)が、ショート・フリーをそろえた見事な優勝。さすが世界チャンピオン、中国杯とは全く違うプログラムを見せての堂々の勝利だった。
短期間で気合いを入れて滑りこみをしてきたのだろう。音楽に乗ってよく動き、ラストのステップはしっかり身体にしみこませるところまで、すでに出来上がっている。いつもはちょっともてあまし気味に見える長い手足も、「火の鳥」に乗って気持ちよさそうに動くと、こんなにも美しいものはない、と思えてしまうほど。たたみかけるようなフィニッシュのムーブメントまで絵に描いたようなチャンピオンプログラムで、シーズン前半、スケートアメリカの時点で見せられるだけものはすべて見せての初優勝だ。
もちろんこの先、世界チャンピオンから五輪チャンピオンになるためには、4回転をはじめ様々な課題がライザチェクにはある。復活した好敵手たちのことを考えると、彼ほど過酷な立場にある「五輪シーズンの世界チャンピオン」はいない。それでもこの人の、五輪へのチャレンジを見届けたい、そう思わせてくれる「火の鳥」だった。
■プログラムの本質の見せ方
2位にはカナダのショーン・ソーヤー。3位にはライアン・ブラッドレイ(米国)。ともにベテラン、ともに個性派。そしてともに国内の代表争いが厳しく、ひょっとしたら五輪では見られないかもしれない選手がメダルを手にすることができた。そしてふたりともがフリーは「アマデウス」。モーツァルトのメドレーをそれぞれが味わい深く表現してくれた。
ソーヤーの「アマデウス」は、流れのある滑りに乗り、失敗をしても笑みを絶やさず、自分の個性に自信を持って表現しきるプログラム。さすがベテランらしく、手の位置のひとつひとつ、ここで見せるべき表情の一つ一つをよく心得ている。小さいが柔らかい身体と、屈託のない笑顔を持った現代の青年が、彼の持ち味をたっぷり出しながら表現する「アマデウス」。細かなミスは少なくなかったが、それでも最後まで目を離せない演技で、最後の3回転−2回転−2回転が決まった瞬間には素晴らしい笑顔! この人は本当にこのプログラムを滑ることが楽しいんだろうな……と、こちらまで笑顔になってしまうようなフリーだった。
一方のブラッドレイも、冒頭に4回転を2度成功! その勢いに乗って見せたのは、大人の男のかわいらしさ、背の高い彼のひょうひょうとした雰囲気を、これまたたっぷり生かした「アマデウス」だ。ソーヤーが現代の青年の生きる喜びを表していたのに対し、演技派のブラッドレイは「確かにこんなにかわいらしい紳士が、モーツァルトの時代にはいただろうな」と、古き良き時代に思いをはせたくなるプログラム。彼もまた後半、ジャンプのミスが少し続いたが、やはり笑顔を絶やさず、最後まで自身の世界を見せ切ることに成功した。
やはり「ジャンプを跳べてうれしい!」は、フィギュアスケートの本当の表現ではないのだな、と彼らを見ていると思う。パフォーマンスである限りは、ジャンプの出来で左右されてしまう、ジャンプの失敗でプログラムすべてが崩れてしまうようでは、いけない。ミスが続いたときにこそ、プログラムの本質を見せ続けられるかどうか、そのスケーターの底力は見えてくるのだろう。
ソーヤーやブラッドレイのような個性派の、練り上げてきた素晴らしいプログラム。ミスがあっても楽しめるこんなプログラムなら、何度でも見てみたい。もちろんバンクーバー五輪にもぜひ参戦してほしいが、彼ら以外にも五輪での雄姿を見たい男子選手がアメリカ、カナダにはたくさんいるから困りものだ。
しかしこのポジションの選手にも、こんなに素晴らしいパフォーマーがたくさんいる――改めて現在の男子シングルの豊穣さを思うスケートアメリカだった。
■チャンピオンスケーターらしい貫録
一方で優勝候補のひとりだったトマシュ・ベルネル(チェコ)は総合5位。4回転をはじめとした得意のジャンプがSPでもフリーでも乱調だった、そのこと以上に、ジャンプミスの後の彼の演技がまったく精彩を欠いていたことがショックだった。
エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)の復活で、五輪メダリストは4回転ジャンパーであることが必須条件か、と思われる中、4回転を含めてすべての素質を持つこの選手に期待した人は多いだろう。世界選手権やファイナルではまだ無冠だが、すべてを見せればきっとプルシェンコやステファン・ランビール(スイス)、高橋大輔(関西大学)をもしのげるはず……そんな選手がスケートアメリカで見せた無気力な演技には、少々がっかりしてしまった。
エリック・ポンパール杯のジュベールも、NHK杯の高橋大輔も、ジャンプで大きく崩れはしたが、それでもチャンピオンスケーターらしい貫録を、ステップや振付けで精いっぱい見せてくれた。それが王者の格というものだろう。その点では今シーズンのベルネルは、まだまだ王者にふさわしい姿を見せてくれてはいない。
また日本から出場の南里康晴(ふくや)は、9位ながらSPでもフリーでもトリプルアクセルを成功。股関節のケガからの早い復帰を心配していたが、ケガする前と変わらない、美しい「ヤスのトリプルアクセル」を国際大会で見られたことをまずは喜びたい。村主章枝同様、次の大舞台は全日本選手権。じっくり調整してさらに磨き抜かれた「アランフェス協奏曲」を、大阪では見せてくれるだろう。
*** 以上、記事より ***
はい。びっくりの女子でした。
ひとつ、「手合い」となっていたのですが、文脈からして「手足」だろうと思って、手足にこっそり差し替えています。
2009.11/08 [Sun]
NHK杯総括
安藤美姫、高橋大輔ら豪華なメンバーが集結
フィギュアスケート、NHK杯見どころ
■ロシア杯優勝で波に乗る安藤美姫
今年のNHK杯はグランプリシリーズ第4戦。何かと気ぜわしい五輪シーズン、定位置の第6戦でもないNHK杯、「もう始まるの?」、そんな気持ちが例年以上に強くないだろうか。
しかし男女ともにそうそうたるメンバーが日本にそろってくれた今大会。五輪シーズン真っただ中にふさわしい、華やかなイベントとなりそうだ。
まず女子シングルは、ロシアカップ優勝で波に乗る安藤美姫(トヨタ自動車)と、激戦のフランス大会(エリックボンパール杯)できっちり表彰台(3位)に乗ってきた中野友加里(プリンスホテル)が登場。
安藤はロシアカップがまったくのシーズン初戦で、「緊張で体が思うように動かない」なかでの優勝。また中野友加里は、10月のジャパンオープンで傷めた左肩の亜脱臼が完治しない状態での3位。ともに今シーズンオフの練習成果、さらにはここ数年積み上げてきたものがトップコンディションでなくても出し切れる、そんな強い選手に成長した証を見せてくれた。精神的にもじっくり腰を据えて臨める2戦目、日本の二人の鮮やかな笑顔とワンツー・フィニッシュを大いに期待していいだろう。
■安藤を追うワグナーとレオノワ
日本勢を追いかけるのは、ロシア大会で安藤美姫とともに表彰台に立ったアシュレイ・ワグナー(アメリカ)とアリーナ・レオノワ(ロシア)。記者会見では安藤と3人で並び、「この3人は2週間後、NHK杯で再び顔を合わせます」と司会者に紹介され、はにかんでいたメンバーだ。
「一度アメリカに戻ってまた日本に行くのは大変。でも長いシーズンの中の一戦。五輪に向かう途中のいい一戦にしたい」と語っていたワグナーは、ロシアカップで勢いもスピードもある気持ちのいい滑りを見せたくれた。現在アメリカ女子チームからグランプリシリーズに参戦した7人のなかで唯一メダルを獲得している選手だけに、注目度も高い。
一方のアリーナ・レオノワは、第一戦にてロシア民謡に合わせていきいきと踊る彼女らしい弾けたプログラムを披露。しかし全体的に雑さが目立ち、少し子どもっぽい印象もあった。もう少しプログラムを滑りこんで、若さだけでなくロシア一番手としての貫録も見せたいところだ。
ワグナー、レオノワはNHK杯で上位に食い込めば初のグランプリファイナル進出も見えてくる。そうした展開を強くは意識せず、あるいは励みにし、どこまで彼女たちらしい姿を日本のファンに見せられるだろうか。
■欧州王者のレピスト、日本からは石川も
また忘れてはならないのは、NHK杯がグランプリ初戦となる二人、ローラ・レピスト(フィンランド)と、サラ・マイヤー(スイス)だ。21歳のレピストは現ヨーロッパチャンピオンで、いい波にのって成長中の選手。25歳のマイヤーはバンクーバーで3度目の五輪出場を目指すベテランで、欧州選手権2位の実績ももつおなじみのスケーターだ。
マイヤーは06年にファイナルに進出したこともあり、レピストも2年前のスケートカナダでショートプログラム1位につけたことを自信にし、その後の躍進につなげている。ともに海外勢のなかではスタートダッシュが早い、つまりグランプリシリーズでも調子を整えられる二人。しかも第4戦までじっくり時間をかけて調整してきただろう2選手、要注意の存在かもしれない。
日本からはもう一人、負傷欠場の武田奈也に代わり、今季シニアデビューの石川翔子が登場する。長身をいかしたダイナミックな演技は荒川静香を彷彿(ほうふつ)とさせるところがあり、ルッツやフリップの3回転も持つ。今シーズンは10月の東京選手権でも堂々の優勝。誰もが夢見るNHK杯出場のチャンス、存分に生かし切ってほしい。
■高橋復帰、最高メンバーの男子
男子シングルは、文句なく今季グランプリ6戦中、最高の組み合わせ。世界中のスケートファンが楽しみにしていた一戦が、誰ひとりの欠場もなく、ついに幕を開ける。
まず昨シーズンのグランプリファイナル表彰台の3人、ジェレミー・アボット(アメリカ)、小塚崇彦(トヨタ自動車)、ジョニー・ウィアー(アメリカ)の3人が勢ぞろい。さらに高橋大輔(関西大学大学院)、ブライアン・ジュベール(フランス)と世界選手権メダリストが二人、ウィアーも含めれば3人も集結。ここにシニアの世界大会のメダルこそないが、フランス大会3位に入ったアダム・リッポン(アメリカ)、ロシア大会3位のアルテム・ボロデュリン(ロシア)と、今シーズン破竹の勢いの若手が加わる。この7人のうち、誰かは最終グループに残れないという展開が、始まる前から決まっているのだから驚きだ。
見どころはと言えば全選手の一挙手一投足すべてだが、やはり期待したいのは高橋大輔のグランプリ復帰第一戦か。シーズンオフのアイスショーではすでに美しい滑りを見せてファンを安心させてくれたし、10月のフィンランディアトロフィーでは見事優勝。しかし強豪のそろうグランプリシリーズはまる2年ぶり、日本での試合は07年全日本選手権以来となる。フィンランディア優勝後、課題だった4回転ジャンプも安定し始め、うまく調整はできている様子だが、地元での復帰戦という大きな緊張感をどこまではねのけてくれるか。そしてオリンピック金メダルを狙うプログラム『道』の日本初公開で、どれだけ人々を沸かせてくれるのか。
■小塚は主役の座を奪えるか?
高橋に続き、というよりも、高橋を追い抜く勢いでバンクーバーへの道を邁進(まいしん)中の小塚崇彦にも、熱い視線は注がれている。エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)に続いてロシアカップ2位という成績も立派だが、プルシェンコの練習を目の当たりにし、あの人間離れした4回転を肉眼に収めてきたこと、これが今シーズンの小塚にどれほどの栄養になったかが楽しみだ。フリー冒頭に挑戦する4回転の成否も気になるが、今年はショート、フリーともに観衆を魅了できるプログラムを用意できている。高橋やジュベール、ウィアーから主役の座をもぎ取る勢いの大活躍を見せてくれるかもしれない。
そして気になるのは、初戦でそれぞれまさかの表彰台落ちを経験したジュベール(フランス大会4位)とウィアー(ロシア大会4位)の2戦目。もとより安定感抜群とはいえない気まぐれチャンピオンたちだが、フランスで4回転をことごとく失敗したジュベール、ロシアで氷をたたいてジャンプミスを悔しがったウィアー、ともにシーズン前半とはいえ、気にかかる不調ぶりだ。この後、国内選手権などを控えている二人、NHK杯にピークを合わせてくる必要はないが、それでも日本で人気のある彼らの元気な姿は見たい。
特に今シーズンは、ジュベールがデンコワ&スタビスキー、ウィアーがデイビット・ウィルソンと、それぞれ新しい振付師と組み、ともに個性的なプログラムを携えている。ジュベールのフリーは雄々しさと壮大さの中に迫力あるステップも入ったジュベールらしさ全開のプログラム。ウィアーに至っては、ジョニーカラーここに極まれりといった、彼にしかできないポーズやムーブメントが満載。ショート、フリーともに「自分はこれだ!」と確信をもった滑りをロシアでは見せてくれた。長くフィギュアスケートファンを楽しませてくれた個性派二人の記念碑的な作品。オリンピック前、そんなプログラムを日本で見られることを、何よりも楽しみにしよう。
■コーチの親子対決にも注目
さらにもう一人。目を離せない選手が昨年のグランプリファイナルチャンピオンにして全米チャンピオン、ジェレミー・アボット(アメリカ)。端正な滑りも4回転ジャンプも持つ選手として、昨年一気にスターダムを駆け上がってきた。しかし今シーズンは、コーチを慣れ親しんだコロラドスプリングスのトム・ザカライセックからデトロイトの佐藤有香に変更。小塚崇彦のコーチが佐藤信夫・久美子夫妻であることから、とても珍しいコーチの親子対決が実現している。10月のジャパンオープンの際には、「まだまだ対決じゃないですよ」と、ちょっと照れ笑いの有香コーチに対し、信夫・久美子コーチはこうした機会が楽しくてたまらない様子だった。小塚、アボットが同グループで滑る際には、リンクサイドのコーチ陣の表情にも、ちょっと目を向けてみたい。
以上5人の世界選手権、あるいはグランプリファイナルのメダリストを相手に一つでも順位を上げたいのがリッポン、ボロデュリン、そして日本の村上大介(青森短期大学)だ。
18歳の村上にとってはこれがシニアのグランプリシリーズデビュー戦。神奈川生まれのアメリカ育ち、16歳で2種類の4回転をマスターした強力なジャンパーは、昨年のNHK杯を「いつかこんな試合に出られたらいいな」と思いながら客席から見ていたという。それがはやくも一年後に巡ってきたチャンス。デビューの喜びたっぷりの、はつらつとした滑りを期待したい。
高橋、小塚から見えた確信と安藤に感じた不安
フィギュアスケート・NHK杯総括
オリンピックシーズンの地元開催グランプリシリーズ、NHK杯。結果は、女子で安藤美姫が優勝したものの、彼女にしてはジャンプミスも多く、少し不安の残る演技。表彰台が期待されていた中野友加里は、総合4位と振るわなかった。
さらに男子は高橋大輔、小塚崇彦と、期待の二人がともにメダルなし。
多くの人がオリンピックに向けての景気付け的に考えていた大会で、この結果。日本フィギュアスケート、大丈夫だろうか? ――そう思ってしまった人も、いるかもしれない。果たして本当にそうだろうか。
■確実に五輪へ向かう一戦をこなした高橋
まずは男子シングル。高橋は前半の4回転やトリプルアクセルでステップアウト、後半にはさらに転倒が二つ。小塚は4回転で転倒し、跳べるはずのトリプルアクセルも2度ともミス、簡単に決められるはずのジャンプもステップアウトやダウングレードの連続……。二人そろって、見たこともないほどの大崩れを見せてしまう。しかしこの結果を受けてさえ、高橋、小塚はそれほど心配ないな、と思うことができる一戦だった。
右膝靱帯(じんたい)の手術を経て復帰した高橋は、一年間のリハビリでけが以前の身体に戻すのではなく、より可動域が広く、柔軟性の高い身体へと肉体改造してきたことは、すでに報じられている通り。しかし一口に身体を変えるといっても一筋縄でいかないのが、繊細さを極める競技、フィギュアスケートだ。
「問題は彼の中にではなく、外側にあります。この一年で体つきも大きく変わったことで、スケート靴のブレードに体を乗せる位置さえも変わってしまった。悩んでいるのは、今の体ではエッジのどこに体重を乗せるのがベストか、ということ。そこでスケート靴との相性など、様々な試みをしているところです。体が変わったことで以前の経験が使えない、という難しさもあって……。でもエッジの問題だけぴたりとはまれば、様々なことががらりと変わるはずです」(長光歌子コーチ)
けがを乗り越えて、いきなりのオリンピックイヤー。高橋といえど、やすやすと本調子に戻すことは難しかったか。そう感じつつも、靴の問題の解決を待てば新生・高橋大輔は必ず現れるという確信をコーチの話などから得ることができた。
演技を見ても、それほどの心配は感じない。特にプログラム終盤、ジャッジから軒並み+2をもらえたストレートラインステップ。これだけジャンプが崩れてもなお、強く、流麗で、高橋の真骨頂と言える渾身のステップを、しっかりプログラムの最後に楽しませてくれた。きっと心はジャンプの失敗のことで頭がいっぱいだろうに、いい笑顔を見せて、観客を喜ばせる振付けも忘れない。高橋自身も、現在の自分の課題と、自分のできること、両方を分かっているのだろう。
「順位はみなさんの期待されたものではなかったかもしれません。でも、様々な問題があったなか、このすごいメンバーがそろうなかで、大きな試合を一つこなした。これは彼にとって大きな自信になります。これからさらに課題を修正して、次のカナダに向けて一からトライしなおしていきますね」(長光コーチ)
グランプリシリーズ1戦目は4位。しかし高橋はオリンピックまでの一試合にすぎない一戦を、確実にこなした。
■7位の小塚は「表現体」として成長
高橋とは違い、小塚は様々な点で万全の状態でNHK杯に入ることができたという。
ロシア杯後の練習も好調で、会場入り後は公式練習だけでなく、直前の6分練習でもきれいに4回転を成功。しかし「練習でもずっと調子よく来ていた4回転、跳びたくて仕方なかったんでしょうね」と佐藤久美子コーチ。意外なほど強敵がそろったこの一戦でこそ決めたい、そんな思いが強すぎた結果、4回転の失敗に引きずられるようにガタガタになってしまったジャンプ……。
しかし高橋が終盤のステップで大丈夫、と感じたように、小塚は序盤、最初の4回転に入る直前のムーブメントに「大丈夫!」を感じた。このパート、彼自身はきっと、冒頭の4回転のことで頭がいっぱいだったはずだ。並みの選手ならば、最初に来る大技を意識して、振付けをしっかりこなすところまでなかなか気持ちがいかない部分だが、今年の小塚は違う。たとえば彼の、手の位置の高さにぐっとくる。彼の腕がそこにあること、それだけに恍惚(こうこつ)とする。思わず「最初は4回転!」であることをこちらが忘れてしまうような序盤の動きに、今シーズンの「表現体」としての小塚の、大きな成長を見た気がした。
おそらく小塚がNHK杯で学んだことは「絶好調状態での戦い方」だろう。「これなら勝てる」、「これなら跳べる」と思った時、自分のメンタルにどんなことが起きるかを、今回はよく分かったはずだ。
小塚もまた、オリンピックで最上のパフォーマンスをするための階段を、NHK杯で一つ上った。
■なぜ力を発揮できなかったのか?
一方の女子シングル。高橋・小塚ほどの大乱調ではなかったが、安藤美姫はジャンプの助走から勢いがなく、独特の表現技術とスピード感は十分に発揮できず。中野友加里は大きなミスはサルコウの転倒くらいだったものの、ジャンプのダウングレードやエレメンツのレベル取りこぼしなどが多く、得点につながらなかったのが残念だった。
しかし、シーズン前のトレーニング状況、オリンピックシーズンに向かう気持ちの強さなどを本人や関係者に取材してきた立場から見ると、ここまで二人が力を発揮できないのはおかしい! とどうしても思ってしまう。また高橋や小塚に対してのように、「次はきっと大丈夫!」と言いきれない不安も感じた。
準備ができているはずの安藤、中野は、なぜ力を発揮できなかったのか?
一番の原因は、やはりこのグランプリシリーズにオリンピック代表選考が懸かっているためではないか、と思う。
「ファイナルに出場したい、その気持ちはどうしてもありました。だから気持ちをしっかり持てなくて、フリーが終わった今、自分が何をやったか覚えていないほどなんです」(安藤)
「自分では意識していないつもりだったけれど、やはりどうしても『ここで順位を取ってファイナルへ』という思いが頭をよぎりました。その結果、心と身体がうまくかみ合わず、気持ちばかりが先走りしてしまったかもしれない」(中野)
男子同様五輪出場枠「3」を持つ、日本の女子シングル。ここを狙ってくる実力者は男子以上に多く、代表争いは熾烈(しれつ)を極めていることは、よく知られている。今年のグランプリシリーズはファイナル進出者のうち日本人最上位者(かつ表彰台に手が届いたもの)がまず一人内定する、そんな形で代表選考に直接絡む試合となっている。これが多くの日本選手たち、特に女子選手たちを今、苦しめているのではないだろうか。
まずファイナルに進むために、グランプリ2試合から落とせない。ファイナルに出られれば、そこで日本人首位を狙わねばならず、気が抜けない。そしてもちろん全日本選手権は、全員が全力投球――日本選手、特に女子の五輪代表候補たちは、シーズン中ほとんどの試合をコンディション調整や大技の挑戦などに使うことができないのだ。これは「グランプリシリーズは課題を見つける場」、「焦点は国内選手権に定めている」と口をそろえて語る海外勢とは大きく状況が異なっている。
■シーズン序盤から張り詰めた状況が裏目に出なければ…
五輪代表選考は難しい。国内選手権の一発勝負ではどうしても本当の実力者を選べない可能性があるし、ポイント制などですべての試合を選考対象にしていたら、選手たちの負担が大きい。どんな選考方法がベストかは難しいところだが、せっかくシーズン初めに用意されている国際試合、グランプリシリーズ。ここは選手たちがリラックスして階段を上がるための試合だったらもっとよかったのに、と考えてしまう。
代表争いまでの厳しい戦いを、気を抜かずに戦い抜いた、そんな日本選手たちだけが、五輪本番にはもう疲れ切ってしまっていた……、そんなことにならなければいいのだが。
とにかく、まずはオリンピック出場権を! その気持ちが強いあまり力を発揮できていない安藤、中野。二人ともが、本当は心身ともにいいシーズンを送れるだけの準備ができているのは確かだ。
「2年続けて出場していたファイナルに出られないことが残念。ちょっと情けないですね」
フリー後にそんなことを語っていた中野だが、シーズン前の言葉は全く違っていた。
「これまでのいい成績があるから、プレッシャーが大きくなる。過去のことは忘れて、今年はスケートを楽しみたいんです」
今、中野が忘れがちなのは、「楽しみたい」この気持ちの方だろう。
シーズンに入り、気持ちが不安定になりがちな今、彼女たちには、シーズン前にこなしてきた練習、充実していた気持ちを、ぜひ今、思い出してほしい。きっとそれぞれのコーチたちも同じことを言っているだろうが、「あなたがしてきたことを信じれば、きっと大丈夫!」そんなことを、外野からも思う。
オリンピックを前にしたチームジャパン。スターも実力者も一人や二人ではない。多くの選手が世界で戦える力を持っているし、力を発揮できるだけの万全の準備を、今シーズンはしてきた。あとは彼らが五輪前、心配なく一試合一試合で成長していける、そんな状況こそが必要だ。
*** 以上、記事より ***
ひとことで言うなら「予想外の結果」。
「ファイナルで内定」が選手たちの気持ちをぶれさせてしまうことになったのは確かだと思います。そりゃとっとと内定欲しいですよね。でもその結果、余計なプレッシャーが、というのはいただけないです。
プレッシャーに負けていて五輪で勝てるのか? って話もありますが。
別に金メダルじゃなくていいから、楽しんで演技を披露して欲しいものです。
フィギュアスケート、NHK杯見どころ
■ロシア杯優勝で波に乗る安藤美姫
今年のNHK杯はグランプリシリーズ第4戦。何かと気ぜわしい五輪シーズン、定位置の第6戦でもないNHK杯、「もう始まるの?」、そんな気持ちが例年以上に強くないだろうか。
しかし男女ともにそうそうたるメンバーが日本にそろってくれた今大会。五輪シーズン真っただ中にふさわしい、華やかなイベントとなりそうだ。
まず女子シングルは、ロシアカップ優勝で波に乗る安藤美姫(トヨタ自動車)と、激戦のフランス大会(エリックボンパール杯)できっちり表彰台(3位)に乗ってきた中野友加里(プリンスホテル)が登場。
安藤はロシアカップがまったくのシーズン初戦で、「緊張で体が思うように動かない」なかでの優勝。また中野友加里は、10月のジャパンオープンで傷めた左肩の亜脱臼が完治しない状態での3位。ともに今シーズンオフの練習成果、さらにはここ数年積み上げてきたものがトップコンディションでなくても出し切れる、そんな強い選手に成長した証を見せてくれた。精神的にもじっくり腰を据えて臨める2戦目、日本の二人の鮮やかな笑顔とワンツー・フィニッシュを大いに期待していいだろう。
■安藤を追うワグナーとレオノワ
日本勢を追いかけるのは、ロシア大会で安藤美姫とともに表彰台に立ったアシュレイ・ワグナー(アメリカ)とアリーナ・レオノワ(ロシア)。記者会見では安藤と3人で並び、「この3人は2週間後、NHK杯で再び顔を合わせます」と司会者に紹介され、はにかんでいたメンバーだ。
「一度アメリカに戻ってまた日本に行くのは大変。でも長いシーズンの中の一戦。五輪に向かう途中のいい一戦にしたい」と語っていたワグナーは、ロシアカップで勢いもスピードもある気持ちのいい滑りを見せたくれた。現在アメリカ女子チームからグランプリシリーズに参戦した7人のなかで唯一メダルを獲得している選手だけに、注目度も高い。
一方のアリーナ・レオノワは、第一戦にてロシア民謡に合わせていきいきと踊る彼女らしい弾けたプログラムを披露。しかし全体的に雑さが目立ち、少し子どもっぽい印象もあった。もう少しプログラムを滑りこんで、若さだけでなくロシア一番手としての貫録も見せたいところだ。
ワグナー、レオノワはNHK杯で上位に食い込めば初のグランプリファイナル進出も見えてくる。そうした展開を強くは意識せず、あるいは励みにし、どこまで彼女たちらしい姿を日本のファンに見せられるだろうか。
■欧州王者のレピスト、日本からは石川も
また忘れてはならないのは、NHK杯がグランプリ初戦となる二人、ローラ・レピスト(フィンランド)と、サラ・マイヤー(スイス)だ。21歳のレピストは現ヨーロッパチャンピオンで、いい波にのって成長中の選手。25歳のマイヤーはバンクーバーで3度目の五輪出場を目指すベテランで、欧州選手権2位の実績ももつおなじみのスケーターだ。
マイヤーは06年にファイナルに進出したこともあり、レピストも2年前のスケートカナダでショートプログラム1位につけたことを自信にし、その後の躍進につなげている。ともに海外勢のなかではスタートダッシュが早い、つまりグランプリシリーズでも調子を整えられる二人。しかも第4戦までじっくり時間をかけて調整してきただろう2選手、要注意の存在かもしれない。
日本からはもう一人、負傷欠場の武田奈也に代わり、今季シニアデビューの石川翔子が登場する。長身をいかしたダイナミックな演技は荒川静香を彷彿(ほうふつ)とさせるところがあり、ルッツやフリップの3回転も持つ。今シーズンは10月の東京選手権でも堂々の優勝。誰もが夢見るNHK杯出場のチャンス、存分に生かし切ってほしい。
■高橋復帰、最高メンバーの男子
男子シングルは、文句なく今季グランプリ6戦中、最高の組み合わせ。世界中のスケートファンが楽しみにしていた一戦が、誰ひとりの欠場もなく、ついに幕を開ける。
まず昨シーズンのグランプリファイナル表彰台の3人、ジェレミー・アボット(アメリカ)、小塚崇彦(トヨタ自動車)、ジョニー・ウィアー(アメリカ)の3人が勢ぞろい。さらに高橋大輔(関西大学大学院)、ブライアン・ジュベール(フランス)と世界選手権メダリストが二人、ウィアーも含めれば3人も集結。ここにシニアの世界大会のメダルこそないが、フランス大会3位に入ったアダム・リッポン(アメリカ)、ロシア大会3位のアルテム・ボロデュリン(ロシア)と、今シーズン破竹の勢いの若手が加わる。この7人のうち、誰かは最終グループに残れないという展開が、始まる前から決まっているのだから驚きだ。
見どころはと言えば全選手の一挙手一投足すべてだが、やはり期待したいのは高橋大輔のグランプリ復帰第一戦か。シーズンオフのアイスショーではすでに美しい滑りを見せてファンを安心させてくれたし、10月のフィンランディアトロフィーでは見事優勝。しかし強豪のそろうグランプリシリーズはまる2年ぶり、日本での試合は07年全日本選手権以来となる。フィンランディア優勝後、課題だった4回転ジャンプも安定し始め、うまく調整はできている様子だが、地元での復帰戦という大きな緊張感をどこまではねのけてくれるか。そしてオリンピック金メダルを狙うプログラム『道』の日本初公開で、どれだけ人々を沸かせてくれるのか。
■小塚は主役の座を奪えるか?
高橋に続き、というよりも、高橋を追い抜く勢いでバンクーバーへの道を邁進(まいしん)中の小塚崇彦にも、熱い視線は注がれている。エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)に続いてロシアカップ2位という成績も立派だが、プルシェンコの練習を目の当たりにし、あの人間離れした4回転を肉眼に収めてきたこと、これが今シーズンの小塚にどれほどの栄養になったかが楽しみだ。フリー冒頭に挑戦する4回転の成否も気になるが、今年はショート、フリーともに観衆を魅了できるプログラムを用意できている。高橋やジュベール、ウィアーから主役の座をもぎ取る勢いの大活躍を見せてくれるかもしれない。
そして気になるのは、初戦でそれぞれまさかの表彰台落ちを経験したジュベール(フランス大会4位)とウィアー(ロシア大会4位)の2戦目。もとより安定感抜群とはいえない気まぐれチャンピオンたちだが、フランスで4回転をことごとく失敗したジュベール、ロシアで氷をたたいてジャンプミスを悔しがったウィアー、ともにシーズン前半とはいえ、気にかかる不調ぶりだ。この後、国内選手権などを控えている二人、NHK杯にピークを合わせてくる必要はないが、それでも日本で人気のある彼らの元気な姿は見たい。
特に今シーズンは、ジュベールがデンコワ&スタビスキー、ウィアーがデイビット・ウィルソンと、それぞれ新しい振付師と組み、ともに個性的なプログラムを携えている。ジュベールのフリーは雄々しさと壮大さの中に迫力あるステップも入ったジュベールらしさ全開のプログラム。ウィアーに至っては、ジョニーカラーここに極まれりといった、彼にしかできないポーズやムーブメントが満載。ショート、フリーともに「自分はこれだ!」と確信をもった滑りをロシアでは見せてくれた。長くフィギュアスケートファンを楽しませてくれた個性派二人の記念碑的な作品。オリンピック前、そんなプログラムを日本で見られることを、何よりも楽しみにしよう。
■コーチの親子対決にも注目
さらにもう一人。目を離せない選手が昨年のグランプリファイナルチャンピオンにして全米チャンピオン、ジェレミー・アボット(アメリカ)。端正な滑りも4回転ジャンプも持つ選手として、昨年一気にスターダムを駆け上がってきた。しかし今シーズンは、コーチを慣れ親しんだコロラドスプリングスのトム・ザカライセックからデトロイトの佐藤有香に変更。小塚崇彦のコーチが佐藤信夫・久美子夫妻であることから、とても珍しいコーチの親子対決が実現している。10月のジャパンオープンの際には、「まだまだ対決じゃないですよ」と、ちょっと照れ笑いの有香コーチに対し、信夫・久美子コーチはこうした機会が楽しくてたまらない様子だった。小塚、アボットが同グループで滑る際には、リンクサイドのコーチ陣の表情にも、ちょっと目を向けてみたい。
以上5人の世界選手権、あるいはグランプリファイナルのメダリストを相手に一つでも順位を上げたいのがリッポン、ボロデュリン、そして日本の村上大介(青森短期大学)だ。
18歳の村上にとってはこれがシニアのグランプリシリーズデビュー戦。神奈川生まれのアメリカ育ち、16歳で2種類の4回転をマスターした強力なジャンパーは、昨年のNHK杯を「いつかこんな試合に出られたらいいな」と思いながら客席から見ていたという。それがはやくも一年後に巡ってきたチャンス。デビューの喜びたっぷりの、はつらつとした滑りを期待したい。
高橋、小塚から見えた確信と安藤に感じた不安
フィギュアスケート・NHK杯総括
オリンピックシーズンの地元開催グランプリシリーズ、NHK杯。結果は、女子で安藤美姫が優勝したものの、彼女にしてはジャンプミスも多く、少し不安の残る演技。表彰台が期待されていた中野友加里は、総合4位と振るわなかった。
さらに男子は高橋大輔、小塚崇彦と、期待の二人がともにメダルなし。
多くの人がオリンピックに向けての景気付け的に考えていた大会で、この結果。日本フィギュアスケート、大丈夫だろうか? ――そう思ってしまった人も、いるかもしれない。果たして本当にそうだろうか。
■確実に五輪へ向かう一戦をこなした高橋
まずは男子シングル。高橋は前半の4回転やトリプルアクセルでステップアウト、後半にはさらに転倒が二つ。小塚は4回転で転倒し、跳べるはずのトリプルアクセルも2度ともミス、簡単に決められるはずのジャンプもステップアウトやダウングレードの連続……。二人そろって、見たこともないほどの大崩れを見せてしまう。しかしこの結果を受けてさえ、高橋、小塚はそれほど心配ないな、と思うことができる一戦だった。
右膝靱帯(じんたい)の手術を経て復帰した高橋は、一年間のリハビリでけが以前の身体に戻すのではなく、より可動域が広く、柔軟性の高い身体へと肉体改造してきたことは、すでに報じられている通り。しかし一口に身体を変えるといっても一筋縄でいかないのが、繊細さを極める競技、フィギュアスケートだ。
「問題は彼の中にではなく、外側にあります。この一年で体つきも大きく変わったことで、スケート靴のブレードに体を乗せる位置さえも変わってしまった。悩んでいるのは、今の体ではエッジのどこに体重を乗せるのがベストか、ということ。そこでスケート靴との相性など、様々な試みをしているところです。体が変わったことで以前の経験が使えない、という難しさもあって……。でもエッジの問題だけぴたりとはまれば、様々なことががらりと変わるはずです」(長光歌子コーチ)
けがを乗り越えて、いきなりのオリンピックイヤー。高橋といえど、やすやすと本調子に戻すことは難しかったか。そう感じつつも、靴の問題の解決を待てば新生・高橋大輔は必ず現れるという確信をコーチの話などから得ることができた。
演技を見ても、それほどの心配は感じない。特にプログラム終盤、ジャッジから軒並み+2をもらえたストレートラインステップ。これだけジャンプが崩れてもなお、強く、流麗で、高橋の真骨頂と言える渾身のステップを、しっかりプログラムの最後に楽しませてくれた。きっと心はジャンプの失敗のことで頭がいっぱいだろうに、いい笑顔を見せて、観客を喜ばせる振付けも忘れない。高橋自身も、現在の自分の課題と、自分のできること、両方を分かっているのだろう。
「順位はみなさんの期待されたものではなかったかもしれません。でも、様々な問題があったなか、このすごいメンバーがそろうなかで、大きな試合を一つこなした。これは彼にとって大きな自信になります。これからさらに課題を修正して、次のカナダに向けて一からトライしなおしていきますね」(長光コーチ)
グランプリシリーズ1戦目は4位。しかし高橋はオリンピックまでの一試合にすぎない一戦を、確実にこなした。
■7位の小塚は「表現体」として成長
高橋とは違い、小塚は様々な点で万全の状態でNHK杯に入ることができたという。
ロシア杯後の練習も好調で、会場入り後は公式練習だけでなく、直前の6分練習でもきれいに4回転を成功。しかし「練習でもずっと調子よく来ていた4回転、跳びたくて仕方なかったんでしょうね」と佐藤久美子コーチ。意外なほど強敵がそろったこの一戦でこそ決めたい、そんな思いが強すぎた結果、4回転の失敗に引きずられるようにガタガタになってしまったジャンプ……。
しかし高橋が終盤のステップで大丈夫、と感じたように、小塚は序盤、最初の4回転に入る直前のムーブメントに「大丈夫!」を感じた。このパート、彼自身はきっと、冒頭の4回転のことで頭がいっぱいだったはずだ。並みの選手ならば、最初に来る大技を意識して、振付けをしっかりこなすところまでなかなか気持ちがいかない部分だが、今年の小塚は違う。たとえば彼の、手の位置の高さにぐっとくる。彼の腕がそこにあること、それだけに恍惚(こうこつ)とする。思わず「最初は4回転!」であることをこちらが忘れてしまうような序盤の動きに、今シーズンの「表現体」としての小塚の、大きな成長を見た気がした。
おそらく小塚がNHK杯で学んだことは「絶好調状態での戦い方」だろう。「これなら勝てる」、「これなら跳べる」と思った時、自分のメンタルにどんなことが起きるかを、今回はよく分かったはずだ。
小塚もまた、オリンピックで最上のパフォーマンスをするための階段を、NHK杯で一つ上った。
■なぜ力を発揮できなかったのか?
一方の女子シングル。高橋・小塚ほどの大乱調ではなかったが、安藤美姫はジャンプの助走から勢いがなく、独特の表現技術とスピード感は十分に発揮できず。中野友加里は大きなミスはサルコウの転倒くらいだったものの、ジャンプのダウングレードやエレメンツのレベル取りこぼしなどが多く、得点につながらなかったのが残念だった。
しかし、シーズン前のトレーニング状況、オリンピックシーズンに向かう気持ちの強さなどを本人や関係者に取材してきた立場から見ると、ここまで二人が力を発揮できないのはおかしい! とどうしても思ってしまう。また高橋や小塚に対してのように、「次はきっと大丈夫!」と言いきれない不安も感じた。
準備ができているはずの安藤、中野は、なぜ力を発揮できなかったのか?
一番の原因は、やはりこのグランプリシリーズにオリンピック代表選考が懸かっているためではないか、と思う。
「ファイナルに出場したい、その気持ちはどうしてもありました。だから気持ちをしっかり持てなくて、フリーが終わった今、自分が何をやったか覚えていないほどなんです」(安藤)
「自分では意識していないつもりだったけれど、やはりどうしても『ここで順位を取ってファイナルへ』という思いが頭をよぎりました。その結果、心と身体がうまくかみ合わず、気持ちばかりが先走りしてしまったかもしれない」(中野)
男子同様五輪出場枠「3」を持つ、日本の女子シングル。ここを狙ってくる実力者は男子以上に多く、代表争いは熾烈(しれつ)を極めていることは、よく知られている。今年のグランプリシリーズはファイナル進出者のうち日本人最上位者(かつ表彰台に手が届いたもの)がまず一人内定する、そんな形で代表選考に直接絡む試合となっている。これが多くの日本選手たち、特に女子選手たちを今、苦しめているのではないだろうか。
まずファイナルに進むために、グランプリ2試合から落とせない。ファイナルに出られれば、そこで日本人首位を狙わねばならず、気が抜けない。そしてもちろん全日本選手権は、全員が全力投球――日本選手、特に女子の五輪代表候補たちは、シーズン中ほとんどの試合をコンディション調整や大技の挑戦などに使うことができないのだ。これは「グランプリシリーズは課題を見つける場」、「焦点は国内選手権に定めている」と口をそろえて語る海外勢とは大きく状況が異なっている。
■シーズン序盤から張り詰めた状況が裏目に出なければ…
五輪代表選考は難しい。国内選手権の一発勝負ではどうしても本当の実力者を選べない可能性があるし、ポイント制などですべての試合を選考対象にしていたら、選手たちの負担が大きい。どんな選考方法がベストかは難しいところだが、せっかくシーズン初めに用意されている国際試合、グランプリシリーズ。ここは選手たちがリラックスして階段を上がるための試合だったらもっとよかったのに、と考えてしまう。
代表争いまでの厳しい戦いを、気を抜かずに戦い抜いた、そんな日本選手たちだけが、五輪本番にはもう疲れ切ってしまっていた……、そんなことにならなければいいのだが。
とにかく、まずはオリンピック出場権を! その気持ちが強いあまり力を発揮できていない安藤、中野。二人ともが、本当は心身ともにいいシーズンを送れるだけの準備ができているのは確かだ。
「2年続けて出場していたファイナルに出られないことが残念。ちょっと情けないですね」
フリー後にそんなことを語っていた中野だが、シーズン前の言葉は全く違っていた。
「これまでのいい成績があるから、プレッシャーが大きくなる。過去のことは忘れて、今年はスケートを楽しみたいんです」
今、中野が忘れがちなのは、「楽しみたい」この気持ちの方だろう。
シーズンに入り、気持ちが不安定になりがちな今、彼女たちには、シーズン前にこなしてきた練習、充実していた気持ちを、ぜひ今、思い出してほしい。きっとそれぞれのコーチたちも同じことを言っているだろうが、「あなたがしてきたことを信じれば、きっと大丈夫!」そんなことを、外野からも思う。
オリンピックを前にしたチームジャパン。スターも実力者も一人や二人ではない。多くの選手が世界で戦える力を持っているし、力を発揮できるだけの万全の準備を、今シーズンはしてきた。あとは彼らが五輪前、心配なく一試合一試合で成長していける、そんな状況こそが必要だ。
*** 以上、記事より ***
ひとことで言うなら「予想外の結果」。
「ファイナルで内定」が選手たちの気持ちをぶれさせてしまうことになったのは確かだと思います。そりゃとっとと内定欲しいですよね。でもその結果、余計なプレッシャーが、というのはいただけないです。
プレッシャーに負けていて五輪で勝てるのか? って話もありますが。
別に金メダルじゃなくていいから、楽しんで演技を披露して欲しいものです。
2009.11/03 [Tue]
中国杯総括
女子のロシェット、男子ライザチェクら実力者に注目
フィギュアスケート、中国杯見どころ
■地元での五輪に向け、仕上がり順調のロシェット
女子シングルでは今シーズンの出足を早く見たい注目選手が、グランプリ1戦目として多数登場。前2大会を制したキム・ヨナ(韓国)、安藤美姫(トヨタ自動車)に続いて誰が五輪のメダル候補に名乗りを上げるか、楽しみな試合となりそうだ。
まず注目度ナンバーワンは、カナダのジョアニー・ロシェット。10月のジャパンオープンで来日した際は、アウェーでのシーズン初戦にもかかわらず、自己ベストスコア以上の演技で女子シングルトップの成績に。ほとんどのジャンプを確実に決め、ロシェットの持ち味を生かした迫力ある演技で観客から手拍子も貰い、さすがに地元開催五輪に向け、早くから調子を合わせてきたところを見せた。この調子をグランプリシリーズでも保って、名実ともに五輪チャンピオン最有力選手となるか。またオフの間に練習を積んだというトリプルサルコウ−トリプルサルコウのコンビネーションジャンプなど、後半戦に向け強力な武器となるジャンプを、この時期の試合で挑むかにも注目してみたい。
次に楽しみなのは、アメリカのレイチェル・フラットと、長洲未来。選手層の厚さにも関わらず、オリンピックでのアメリカ女子の出場枠はたった2つ。すでにグランプリシリーズには、有力候補者のうちの3人、キャロライン・ザン、アリッサ・シズニー、アシュレイ・ワグナーが登場している。ワグナーがロシア杯にて、グランプリ自己最高位の2位に入っているほか、シズニーもメンタリティの弱さを克服して四肢から表情、背中まできれいに動かせるシズニーらしいプログラムをすでに見せている。ここで、今最も勢いのあるフラットと、昨年は不振から脱出できなかったものの2008年全米チャンピオンの実績を持つ長洲未来が、どこまでの演技をしてくるか。アメリカの場合、五輪代表の最も大きな選考要素は全米選手権だが、若手の二人としてはグランプリから並み居るベテラン選手たちを抑える活躍をし、自信をつけたいところだろう。
■日本からは村主、鈴木が出場
また日本のベテラン二人、村主章枝(AK)と鈴木明子(邦和スポーツランド)も、中国杯でグランプリ第1戦を迎える。ご存じのように、浅田真央、安藤美姫、中野友加里と五輪代表権を競う二人。現時点では村主が10月上旬のフィンランディア・トロフィーで7位、準備の遅れが心配されているのに対し、鈴木明子は9月の中部選手権にて圧巻のフリー「ウエストサイド・ストーリー」を披露して優勝。フィンランディア後の村主の追い込み具合はどうか、鈴木の好調は国際舞台でも発揮されるのか、見逃せない二人となる。
またフランス大会に続いて2戦目となるのが、イタリアのカロリナ・コストナー。今シーズンから練習地もコーチも変更し、これで精神的な強さを得られるかどうか、シーズン前には話題となっていた。フランスでは新生・カロリナの誕生にメディアもファンも大きな期待を寄せるなかで、柔らかな表現とあでやかな表情を見せつつもジャンプの決まらない演技で6位。本来ならば五輪メダリスト候補筆頭のはずの実力者、今シーズンも力を発揮することなく終わってしまうのか……。少し心配しながら、見守りたいところだ。
■織田とライザチェックの対決は?
男子シングルは、現世界チャンピオンのエバン・ライザチェク(アメリカ)が今季グランプリ初登場。五輪に向けて闘志むき出しの彼が、フランス大会で世界選手権優勝時のライザチェクの得点(242.23)を越えてしまった織田信成(242.53)と対峙することになる。
織田は初戦で好評だったフリープログラムを、2週間という短い間でさらに魅力的なものにしてくるか。ライザチェクは現世界王者としてどんな滑り出しを見せるのか。またロシア杯で4回転をショートプログラムから軽々跳んでしまったエフゲニー・プルシェンコの復活を受けて、4回転を持っているが封印することも多い二人が、今大会はどんなジャンプ構成で挑むのか。見どころは多い。
ライザチェク、織田に絡む選手としては、昨季欧州選手権2位、世界選手権5位、26歳にして頭角を現したサミュエル・コンテスティ(イタリア)、逆に15歳の若さで世界選手権8位と急成長したデニス・テン(カザフスタン)の二人だろうか。特にテンは、これがシニアのグランプリシリーズデビュー戦。大舞台ほど力を発揮できる勝負度胸と、15歳にして観客をひきつけるにはどう動けばいいかを知っている、驚きのエンターティナーぶりを見せてくれるだろう。このあたりの選手たち――五輪メダリスト候補まではいかないが、この半年を大いにかき回してくれそうな選手の仕上がり具合こそが楽しみ、というファンも多い。
またフランス大会で思うような演技ができなかった二人の4回転ジャンパー、ヤニック・ポンセロ(フランス)とセルゲイ・ボロノフ(ロシア)は、それぞれ2戦目。ポンセロは素晴らしい高さの4回転を披露しつつも、フリー後半はスタミナ切れ。ボロノフも4回転を決めたフィンランディア・トロフィーからの連戦疲れか、精彩を欠いた演技を見せている。女子のアメリカ勢、日本勢同様、男子のロシア勢、フランス勢など、国内の五輪代表争いが厳しい国の選手たちが、どこまで戦えるのか――今大会も興味は尽きない。
初優勝をつかんだ鈴木明子の『ウエストサイド・ストーリー』
フィギュアスケート・中国杯総括
■鈴木明子がフリーで逆転しGP初優勝
ジョアニー・ロシェット(カナダ)、カロリーナ・コストナー(イタリア)ら、世界選手権のメダリストがそろう中での鈴木明子(邦和スポーツランド)の初優勝。
グランプリ1勝の大きさもさることながら、内容の良さにも驚いてしまう素晴らしい勝利だった。
鈴木明子のフリープログラム『ウエストサイド・ストーリー』は、ジャンプにミスがない、エレメンツのレベルが取れている、それだけのプログラムではない。
「初めは、『あっこちゃんがウエストサイド?』ってみんなが意外そうな顔をしたし、私自身もそう思いました(笑)」(シーズン前のインタビュー)
と、本人が語るように、情熱的に踊るタンゴや民族舞踊が真骨頂の鈴木明子からは、ちょっとイメージを外した感のあるアメリカンナンバー。しかし初めて振付けを担当したシェイ・リーン・ボーンは、鈴木明子がマリアを演じたらこんなに素晴らしいことを、きちんと見抜いていたのだ。
彼女特有の豊かな表情と力強い動きは「気は強いけれど実は繊細なマリア」を表現するのにぴったり。そして誰もがくぎ付けになった華やかな笑顔は、このプログラムに対する自信と信頼も見てとれた。
すでにバレエや舞台で名作となった作品を、氷上で新しく構築することは、そうそうたやすいことではない。『白鳥の湖』をバレエ以上のものにする、『カルメン』をオペラ以上のものにする――後発芸術であるフィギュアスケートは、いつもそんな難しさに挑戦してきた。
■「フィギュアスケートのウエストサイド」
この日世界にお披露目となった「鈴木明子の『ウエストサイド・ストーリー』」は、もともとの持つミュージカルの雰囲気をそのまま再現しつつ、生の音楽も歌の力も、群舞の迫力も借りられない中、滑りのスピードと躍動感でこの物語を表そうとした、まぎれもない「フィギュアスケートのウエストサイド」だ。
こののち、『カルメン』といえばカタリナ・ビット(旧東ドイツ サラエボ、カルガリー五輪金メダリスト)を、『白鳥』といえばオクサナ・バイウル(ウクライナ リレハンメル五輪金メダリスト)を誰もが思い浮かべるように、『ウエストサイド・ストーリー』といえば真っ先に鈴木明子の名が挙げられる、そんな作品と言えるのではないだろうか。
本来ならばプログラムコンポーネンツも高得点が期待できる出来だったが、5項目とも6点台が並んでしまったのは残念。しかしこれも、鈴木明子が世界選手権に一度も出たことがない、シニアのグランプリさえまだ通算2戦目の選手ゆえ。中国杯優勝の実績を受け、次戦以降はきっとこうしたあいまいな部分の採点も上がってくるはずだ。
しかし今シーズン、女子シングルはキム・ヨナ(韓国)の『007』(デイビッド・ウィルソン振付け)、安藤美姫(トヨタ自動車)の『クレオパトラ』(リー・アン・ミラー&ニコライ・モロゾフ振付け)、中野友加里(プリンスホテル)の『火の鳥』(マリーナ・ズウェア振付け)、そして鈴木の『ウエストサイド・ストーリー』と、プログラムに名作が多いのがうれしい。
■敗れた強豪選手の仕上がり
女子シングルは冬季競技の華と言われつつも、実際には男子やペアの方に圧倒的な個性を持つ選手や名プログラムは多かった。今シーズンもエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)、ステファン・ランビール(スイス)、高橋大輔(関西大学大学院)らの復活があり、見逃せないのは実は男子シングルの方、という意見が多かったはずだ。しかし女子選手、しかも黒髪、黒い瞳を持つ東洋人の選手たちがシーズン初めから立て続けに見せてくれた好プログラム。女子シングルも、かつてないほど彩り豊かな五輪シーズンとなりそうだ。
きちんとシーズン初めから仕上げてくる日本人選手、その典型のような鈴木明子が優勝。しかし敗れた強豪選手たちも、決してこの先の戦い、侮ることはできない。
筆頭は世界選手権メダリストで10月上旬のジャパンオープンでも仕上がりの早さを見せたロシェット(3位)。フリーはショートプログラム7位の結果を受け、表情も堅く、ダブルアクセルの転倒などもあった。しかし成功したジャンプはどれもしっかり自分の技術として身に付けてきた自信にあふれていたし、滑りにも振付けにも「練習はしてきている」確信を感じさせる動きが見てとれた。
海外勢、とりわけ北米勢は、グランプリシリーズでの調子ほど、あてにならないものはない。シーズン当初と世界選手権では見違えるような滑りを見せてくるから、この1戦だけを見てロシェットの評価を下げてはならないだろう。まずは次戦、カナダ大会でどこまで調子を取り戻してくるか、楽しみにしてみたい。
■織田がGPシリーズ連覇でファイナルへ進出
男子シングルでは織田信成(関西大学)が、ショートとフリー通して1位の完全優勝。フランス大会と合わせて2勝目、鈴木明子とふたりでアベック優勝。さらにはロシア大会の安藤美姫の優勝と合わせれば、グランプリシリーズは3大会連続日本人選手優勝、と、めでたいことずくめの勝利だった。
フランス大会に続いて2度目の『チャップリン』、初戦では振付けの妙に大いにひかれたが、今回は織田信成のジャンプの確かさがこのプログラムの流れを根底から支えている、そんなことを改めて知らされる思いだった。
力をあまり使わない織田信成のリズミカルなジャンプ、「猫のようなテイクオフとランディング」とたたえられる彼だけの軽さ、美しさ、伸びやかさが、『チャップリン』の世界にほんとうにきれいに溶け込んでいるのだ。フィギュアスケートのジャンプ、時には「直立したまま回転する」という奇妙な動きが、プログラムの世界観から浮いてしまうことも多い。しかし、まれにジャンプの持つ美しさや力強さがプログラムを引き立てる、不思議な力を発揮してしまうこともある。織田のジャンプの気持ちのいい決まり方は、彼の表現しようとする喜劇王の物語に潤いを与えている――そんな魅力に、2度目の『チャップリン』では気づくことができた。
■世界チャンピオン・ライザチェクを抑えての勝利
フランス大会に続いて4回転に挑戦できず、後半のトリプルアクセルもシングルになってしまった、その点を織田本人は悔いてもいるだろう。しかしこの日のジャンプで最も美しかったのは、アクセル失敗直後に跳んだトリプルルッツ−トリプルトウ−ダブルループのコンビネーションだ。いつもと同じように「あかん! とりかえさな!」の気持ちで跳んだジャンプさえ、こんなにも美しい。
優勝しても反省しきりと伝えられる織田信成だが、自分がこんなにも美しいジャンプを跳べること、素晴らしいプログラムを五輪シーズンに滑れていることに、もっと自信を持った方がいい。世界チャンピオン・ライザチェク(米国)を抑えての勝利を、もっと喜んだ方がいい。『チャップリン』はもっと自信たっぷりに滑るべきプログラムだし、もっともっと弾けた笑顔が映えるプログラムのはずだ。
■「最後に勝つ者が勝者」の五輪シーズン
一方、ワールドチャンピオンの初戦として注目されたライザチェクは、フリーで順位を上げつつも織田におよばず2位。大きなミスこそなかったものの、ジャンプの軸は曲がりがちで跳躍は重く、ステップなどにはスピードがなく、全体的に精彩を欠く演技を見せてしまった。見ている人がプログラムに入り込めない、織田信成の演技とはその点で一番大きく差がついてしまったのだろう。
ライサチェクは分類してみれば「気迫型」の選手。調子が悪くても身体が勝手に動いてしまう、意識しなくてもきれいなラインを出せる、そんな器用なタイプの選手ではない。やはりスタートダッシュの遅い北米勢、まだまだ試運転、という段階か。
しかしまだ未完成ながら、プログラムには印象的な振り付けも多く、ジャンプの直前にスパイラルを入れるなど、凝った工夫もされている。「気迫型」だからこそ、準備万端整えて、気持ちが入りこんだ時には、驚くほどまったく別のプログラムを見せてしまうはずだ。
ロシェット同様、「ライザチェク、今年はいまいち」などとこの段階で決めつけてしまうのは、早すぎる。こんなタイプの選手の存在こそ、「最後に勝つ者が勝者」の五輪シーズン、一番怖いのだ。
*** 以上、記事より ***
織田があっさりファイナル進出を決めました。
そして鈴木明子、GP初優勝おめでとう〜!
フィギュアスケート、中国杯見どころ
■地元での五輪に向け、仕上がり順調のロシェット
女子シングルでは今シーズンの出足を早く見たい注目選手が、グランプリ1戦目として多数登場。前2大会を制したキム・ヨナ(韓国)、安藤美姫(トヨタ自動車)に続いて誰が五輪のメダル候補に名乗りを上げるか、楽しみな試合となりそうだ。
まず注目度ナンバーワンは、カナダのジョアニー・ロシェット。10月のジャパンオープンで来日した際は、アウェーでのシーズン初戦にもかかわらず、自己ベストスコア以上の演技で女子シングルトップの成績に。ほとんどのジャンプを確実に決め、ロシェットの持ち味を生かした迫力ある演技で観客から手拍子も貰い、さすがに地元開催五輪に向け、早くから調子を合わせてきたところを見せた。この調子をグランプリシリーズでも保って、名実ともに五輪チャンピオン最有力選手となるか。またオフの間に練習を積んだというトリプルサルコウ−トリプルサルコウのコンビネーションジャンプなど、後半戦に向け強力な武器となるジャンプを、この時期の試合で挑むかにも注目してみたい。
次に楽しみなのは、アメリカのレイチェル・フラットと、長洲未来。選手層の厚さにも関わらず、オリンピックでのアメリカ女子の出場枠はたった2つ。すでにグランプリシリーズには、有力候補者のうちの3人、キャロライン・ザン、アリッサ・シズニー、アシュレイ・ワグナーが登場している。ワグナーがロシア杯にて、グランプリ自己最高位の2位に入っているほか、シズニーもメンタリティの弱さを克服して四肢から表情、背中まできれいに動かせるシズニーらしいプログラムをすでに見せている。ここで、今最も勢いのあるフラットと、昨年は不振から脱出できなかったものの2008年全米チャンピオンの実績を持つ長洲未来が、どこまでの演技をしてくるか。アメリカの場合、五輪代表の最も大きな選考要素は全米選手権だが、若手の二人としてはグランプリから並み居るベテラン選手たちを抑える活躍をし、自信をつけたいところだろう。
■日本からは村主、鈴木が出場
また日本のベテラン二人、村主章枝(AK)と鈴木明子(邦和スポーツランド)も、中国杯でグランプリ第1戦を迎える。ご存じのように、浅田真央、安藤美姫、中野友加里と五輪代表権を競う二人。現時点では村主が10月上旬のフィンランディア・トロフィーで7位、準備の遅れが心配されているのに対し、鈴木明子は9月の中部選手権にて圧巻のフリー「ウエストサイド・ストーリー」を披露して優勝。フィンランディア後の村主の追い込み具合はどうか、鈴木の好調は国際舞台でも発揮されるのか、見逃せない二人となる。
またフランス大会に続いて2戦目となるのが、イタリアのカロリナ・コストナー。今シーズンから練習地もコーチも変更し、これで精神的な強さを得られるかどうか、シーズン前には話題となっていた。フランスでは新生・カロリナの誕生にメディアもファンも大きな期待を寄せるなかで、柔らかな表現とあでやかな表情を見せつつもジャンプの決まらない演技で6位。本来ならば五輪メダリスト候補筆頭のはずの実力者、今シーズンも力を発揮することなく終わってしまうのか……。少し心配しながら、見守りたいところだ。
■織田とライザチェックの対決は?
男子シングルは、現世界チャンピオンのエバン・ライザチェク(アメリカ)が今季グランプリ初登場。五輪に向けて闘志むき出しの彼が、フランス大会で世界選手権優勝時のライザチェクの得点(242.23)を越えてしまった織田信成(242.53)と対峙することになる。
織田は初戦で好評だったフリープログラムを、2週間という短い間でさらに魅力的なものにしてくるか。ライザチェクは現世界王者としてどんな滑り出しを見せるのか。またロシア杯で4回転をショートプログラムから軽々跳んでしまったエフゲニー・プルシェンコの復活を受けて、4回転を持っているが封印することも多い二人が、今大会はどんなジャンプ構成で挑むのか。見どころは多い。
ライザチェク、織田に絡む選手としては、昨季欧州選手権2位、世界選手権5位、26歳にして頭角を現したサミュエル・コンテスティ(イタリア)、逆に15歳の若さで世界選手権8位と急成長したデニス・テン(カザフスタン)の二人だろうか。特にテンは、これがシニアのグランプリシリーズデビュー戦。大舞台ほど力を発揮できる勝負度胸と、15歳にして観客をひきつけるにはどう動けばいいかを知っている、驚きのエンターティナーぶりを見せてくれるだろう。このあたりの選手たち――五輪メダリスト候補まではいかないが、この半年を大いにかき回してくれそうな選手の仕上がり具合こそが楽しみ、というファンも多い。
またフランス大会で思うような演技ができなかった二人の4回転ジャンパー、ヤニック・ポンセロ(フランス)とセルゲイ・ボロノフ(ロシア)は、それぞれ2戦目。ポンセロは素晴らしい高さの4回転を披露しつつも、フリー後半はスタミナ切れ。ボロノフも4回転を決めたフィンランディア・トロフィーからの連戦疲れか、精彩を欠いた演技を見せている。女子のアメリカ勢、日本勢同様、男子のロシア勢、フランス勢など、国内の五輪代表争いが厳しい国の選手たちが、どこまで戦えるのか――今大会も興味は尽きない。
初優勝をつかんだ鈴木明子の『ウエストサイド・ストーリー』
フィギュアスケート・中国杯総括
■鈴木明子がフリーで逆転しGP初優勝
ジョアニー・ロシェット(カナダ)、カロリーナ・コストナー(イタリア)ら、世界選手権のメダリストがそろう中での鈴木明子(邦和スポーツランド)の初優勝。
グランプリ1勝の大きさもさることながら、内容の良さにも驚いてしまう素晴らしい勝利だった。
鈴木明子のフリープログラム『ウエストサイド・ストーリー』は、ジャンプにミスがない、エレメンツのレベルが取れている、それだけのプログラムではない。
「初めは、『あっこちゃんがウエストサイド?』ってみんなが意外そうな顔をしたし、私自身もそう思いました(笑)」(シーズン前のインタビュー)
と、本人が語るように、情熱的に踊るタンゴや民族舞踊が真骨頂の鈴木明子からは、ちょっとイメージを外した感のあるアメリカンナンバー。しかし初めて振付けを担当したシェイ・リーン・ボーンは、鈴木明子がマリアを演じたらこんなに素晴らしいことを、きちんと見抜いていたのだ。
彼女特有の豊かな表情と力強い動きは「気は強いけれど実は繊細なマリア」を表現するのにぴったり。そして誰もがくぎ付けになった華やかな笑顔は、このプログラムに対する自信と信頼も見てとれた。
すでにバレエや舞台で名作となった作品を、氷上で新しく構築することは、そうそうたやすいことではない。『白鳥の湖』をバレエ以上のものにする、『カルメン』をオペラ以上のものにする――後発芸術であるフィギュアスケートは、いつもそんな難しさに挑戦してきた。
■「フィギュアスケートのウエストサイド」
この日世界にお披露目となった「鈴木明子の『ウエストサイド・ストーリー』」は、もともとの持つミュージカルの雰囲気をそのまま再現しつつ、生の音楽も歌の力も、群舞の迫力も借りられない中、滑りのスピードと躍動感でこの物語を表そうとした、まぎれもない「フィギュアスケートのウエストサイド」だ。
こののち、『カルメン』といえばカタリナ・ビット(旧東ドイツ サラエボ、カルガリー五輪金メダリスト)を、『白鳥』といえばオクサナ・バイウル(ウクライナ リレハンメル五輪金メダリスト)を誰もが思い浮かべるように、『ウエストサイド・ストーリー』といえば真っ先に鈴木明子の名が挙げられる、そんな作品と言えるのではないだろうか。
本来ならばプログラムコンポーネンツも高得点が期待できる出来だったが、5項目とも6点台が並んでしまったのは残念。しかしこれも、鈴木明子が世界選手権に一度も出たことがない、シニアのグランプリさえまだ通算2戦目の選手ゆえ。中国杯優勝の実績を受け、次戦以降はきっとこうしたあいまいな部分の採点も上がってくるはずだ。
しかし今シーズン、女子シングルはキム・ヨナ(韓国)の『007』(デイビッド・ウィルソン振付け)、安藤美姫(トヨタ自動車)の『クレオパトラ』(リー・アン・ミラー&ニコライ・モロゾフ振付け)、中野友加里(プリンスホテル)の『火の鳥』(マリーナ・ズウェア振付け)、そして鈴木の『ウエストサイド・ストーリー』と、プログラムに名作が多いのがうれしい。
■敗れた強豪選手の仕上がり
女子シングルは冬季競技の華と言われつつも、実際には男子やペアの方に圧倒的な個性を持つ選手や名プログラムは多かった。今シーズンもエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)、ステファン・ランビール(スイス)、高橋大輔(関西大学大学院)らの復活があり、見逃せないのは実は男子シングルの方、という意見が多かったはずだ。しかし女子選手、しかも黒髪、黒い瞳を持つ東洋人の選手たちがシーズン初めから立て続けに見せてくれた好プログラム。女子シングルも、かつてないほど彩り豊かな五輪シーズンとなりそうだ。
きちんとシーズン初めから仕上げてくる日本人選手、その典型のような鈴木明子が優勝。しかし敗れた強豪選手たちも、決してこの先の戦い、侮ることはできない。
筆頭は世界選手権メダリストで10月上旬のジャパンオープンでも仕上がりの早さを見せたロシェット(3位)。フリーはショートプログラム7位の結果を受け、表情も堅く、ダブルアクセルの転倒などもあった。しかし成功したジャンプはどれもしっかり自分の技術として身に付けてきた自信にあふれていたし、滑りにも振付けにも「練習はしてきている」確信を感じさせる動きが見てとれた。
海外勢、とりわけ北米勢は、グランプリシリーズでの調子ほど、あてにならないものはない。シーズン当初と世界選手権では見違えるような滑りを見せてくるから、この1戦だけを見てロシェットの評価を下げてはならないだろう。まずは次戦、カナダ大会でどこまで調子を取り戻してくるか、楽しみにしてみたい。
■織田がGPシリーズ連覇でファイナルへ進出
男子シングルでは織田信成(関西大学)が、ショートとフリー通して1位の完全優勝。フランス大会と合わせて2勝目、鈴木明子とふたりでアベック優勝。さらにはロシア大会の安藤美姫の優勝と合わせれば、グランプリシリーズは3大会連続日本人選手優勝、と、めでたいことずくめの勝利だった。
フランス大会に続いて2度目の『チャップリン』、初戦では振付けの妙に大いにひかれたが、今回は織田信成のジャンプの確かさがこのプログラムの流れを根底から支えている、そんなことを改めて知らされる思いだった。
力をあまり使わない織田信成のリズミカルなジャンプ、「猫のようなテイクオフとランディング」とたたえられる彼だけの軽さ、美しさ、伸びやかさが、『チャップリン』の世界にほんとうにきれいに溶け込んでいるのだ。フィギュアスケートのジャンプ、時には「直立したまま回転する」という奇妙な動きが、プログラムの世界観から浮いてしまうことも多い。しかし、まれにジャンプの持つ美しさや力強さがプログラムを引き立てる、不思議な力を発揮してしまうこともある。織田のジャンプの気持ちのいい決まり方は、彼の表現しようとする喜劇王の物語に潤いを与えている――そんな魅力に、2度目の『チャップリン』では気づくことができた。
■世界チャンピオン・ライザチェクを抑えての勝利
フランス大会に続いて4回転に挑戦できず、後半のトリプルアクセルもシングルになってしまった、その点を織田本人は悔いてもいるだろう。しかしこの日のジャンプで最も美しかったのは、アクセル失敗直後に跳んだトリプルルッツ−トリプルトウ−ダブルループのコンビネーションだ。いつもと同じように「あかん! とりかえさな!」の気持ちで跳んだジャンプさえ、こんなにも美しい。
優勝しても反省しきりと伝えられる織田信成だが、自分がこんなにも美しいジャンプを跳べること、素晴らしいプログラムを五輪シーズンに滑れていることに、もっと自信を持った方がいい。世界チャンピオン・ライザチェク(米国)を抑えての勝利を、もっと喜んだ方がいい。『チャップリン』はもっと自信たっぷりに滑るべきプログラムだし、もっともっと弾けた笑顔が映えるプログラムのはずだ。
■「最後に勝つ者が勝者」の五輪シーズン
一方、ワールドチャンピオンの初戦として注目されたライザチェクは、フリーで順位を上げつつも織田におよばず2位。大きなミスこそなかったものの、ジャンプの軸は曲がりがちで跳躍は重く、ステップなどにはスピードがなく、全体的に精彩を欠く演技を見せてしまった。見ている人がプログラムに入り込めない、織田信成の演技とはその点で一番大きく差がついてしまったのだろう。
ライサチェクは分類してみれば「気迫型」の選手。調子が悪くても身体が勝手に動いてしまう、意識しなくてもきれいなラインを出せる、そんな器用なタイプの選手ではない。やはりスタートダッシュの遅い北米勢、まだまだ試運転、という段階か。
しかしまだ未完成ながら、プログラムには印象的な振り付けも多く、ジャンプの直前にスパイラルを入れるなど、凝った工夫もされている。「気迫型」だからこそ、準備万端整えて、気持ちが入りこんだ時には、驚くほどまったく別のプログラムを見せてしまうはずだ。
ロシェット同様、「ライザチェク、今年はいまいち」などとこの段階で決めつけてしまうのは、早すぎる。こんなタイプの選手の存在こそ、「最後に勝つ者が勝者」の五輪シーズン、一番怖いのだ。
*** 以上、記事より ***
織田があっさりファイナル進出を決めました。
そして鈴木明子、GP初優勝おめでとう〜!
2009.10/26 [Mon]
ロシア大会総括
浅田の復調は? 初戦の安藤と優勝争い
フィギュアスケート、ロシア杯見どころ
■立て直しはかる浅田と初戦を迎える安藤
女子シングルには、日本の2トップ、浅田真央(中京大)と安藤美姫(トヨタ自動車)が登場。第1戦に続き、見逃せない顔合わせとなっている。
まずはフランス杯(エリック・ボンパール杯)での不調からたった1週間で、浅田がどれだけ気持ちとジャンプを立て直してくるかが気になる。ホームリンクのあるロシアで追い込んだ練習ができるとはいえ、1週間で問題点を探し、解決することは容易ではない。昨年のフランス杯失敗からNHK杯での復活など、これまでは悔しかった試合の次には吹っ切れたいい演技を見せてきた浅田だが、今回はどうか。
一方グランプリシリーズ初戦の安藤。ジャパンオープンもエキシビションのみの出場だったため、彼女にとってはシーズン初戦でもあり、試合での披露は初めてとなるショート、フリー両プログラムが楽しみだ。特にフリー『クレオパトラ』は、かつて4回転を跳んだプログラム『火の鳥』を振付けたリー・アン・ミラーに依頼した意欲作。どんなふうに見せてくれるのか、またこの時点でのジャンプの切れ味はどうかなど、チェックポイントは多い。安藤自身は、「難度の高いジャンプに挑戦するよりも、自分がどう音楽を感じて表現できるかを見せたい」と語る今年。毎シーズン滑り出しはエンジンのかかりにくい安藤だから、まだ五輪モードで全力を出し切るまではいかないだろう。しかし技術、表現、どちらに比重を置いてくるかなど、今シーズンの戦い方のコンセプトは見えてくるはずだ。
浅田と安藤のどちらが勝つか、また1戦目のキム・ヨナ(韓国)との点差なども気になるところだが、初戦の安藤と連戦の浅田では条件が少し違うし、ジャッジパネルの違うフランス杯との点差も単純には比較しにくい。早急に各選手をランク付けするよりも、現時点での課題やプログラム傾向などをじっくり考えてみる、そんな一戦として楽しんでみたい。
■成長著しいレオノワに注目
女子のエントリーを見ると、ほぼ安藤、浅田の戦いとなる見通しだが、絡んでくるとしたらロシアのアリーナ・レオノワ、米国のアリッサ・シズニー、アシュリー・ワグナーといったところか。
特に注目は、現世界ジュニアチャンピオンで、勢いよく成長中のレオノワ。すでに今シーズン、フィンランディア杯にて欧州チャンピオンのラウラ・レピスト(フィンランド)や村主章枝(Ak)を抑えて優勝。勢いに乗ったところで地元のグランプリシリーズ、初の表彰台に立ちたいところだ。
米国のふたりも、国内の五輪代表争いが激しい中で一戦目のグランプリを迎える。フランス杯では国内ライバルであるサーシャ・コーエンが欠場、キャロライン・ジャンがミスの多い演技で4位と低迷。米国女子の元気のなさが気になる中、2選手の奮起を期待したい。
■小塚が復帰のプルシェンコと対戦
男子シングル一番の話題は、なんといってもエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)の4シーズンぶりの競技復帰だ。古傷の痛みがまだ残る中、このオフシーズンは十分な練習をコンスタントに続け、トリプルアクセルはもちろん、4回転のコンビネーションを跳ぶところまで戻しているという。ロシア杯の氷の上に乗るその瞬間まで、まだ本当にプルシェンコが戻ってくるのが信じられない思いだが、まずは孤高のチャンピオンのアスリートとしての復活を喜びたい。
迎え撃つのは日本の小塚崇彦(トヨタ自動車)。パトリック・チャン(カナダ)が欠場のため、休んでいたプルシェンコに現役競技の厳しさを知らせる役目は、小塚が担うことになった。ここで「今シーズンは余裕かな」などとプルシェンコに思わせないような滑りを、ぜひ見せてほしいところだ。
しかし初戦となった9月の中部選手権では、ショートプログラムこそ圧倒的なうまさを見せたものの、まだ滑り込みの足りないフリープログラムではミスを連発し、大学の後輩である無良崇人(中京大)の後塵(こうじん)を拝した(総合では優勝)。ジャパンオープンでも本来の伸びやかな滑りが見られず不安が残るが、この数週間でどこまで追い込んできたか、まずは初戦を楽しみにしたい。
かつてともに競ったジョニー・ウィアー(米国)も、小塚とともにプルシェンコに「お帰りなさい」を言う立場。プルシェンコとはまたカラーの違うアーティスティックなスケートを、競技の場でずっと追求してきた選手として、小塚同様「アマチュアの本気」を見せてくれるだろう。
さらに若手では、米国のブランドン・ムロズとフランスのフローラン・アモディオに注目。ともに五輪出場枠を狙って国内のベテランたちに挑む立場にある。
ムロズは、フランス杯で同世代のライバル、アダム・リッポンが表彰台に立ち、同じリンクの先輩、ライアン・ブラッドリーが4回転を決めているため、大きな刺激を受けているだろう。一方、地元でブライアン・ジュベール、ヤニック・ポンセロ、アルバン・プロベールの3人の先輩が誰も表彰台に立てなかった試合を見ていたアモディオも、「ここはおれが!」と、闘志に火が付いているはず。プルシェンコ復帰の場で、次代のスターとして名乗りを上げたいところだ。
優勝の安藤と5位の浅田、明暗を分けた一戦
フィギュアスケート・ロシア杯総括
■地力つけた安藤が3年ぶりの優勝
まずは安藤美姫(トヨタ自動車)の3年ぶり、2回目のグランプリシリーズ優勝を心から喜びたい。
ショートプログラムで挑戦した3回転−3回転ほか、エレメンツの成熟度、またプログラムの作品としての完成度。ともにまだまだ本人も満足していないレベルではあった。しかし、五輪に向けてしっかり気持ちを定め、迷いを感じずに着実にオフシーズンの練習を積み上げてきた、そんなことが見ているものにも伝わる一戦だったと思う。
特にフリープログラムの『クレオパトラ』に関しては、記者会見で海外メディアも興味を持ってその背景を聞きたがるほど、印象深い作品だ。エキゾチックな動き、鋭い目線、スパイラルなどで美しいポジションをキープするときに見せる、ぞくっとするような体のライン。安藤の持つ女性としての魅力を全開にするプログラムを、振り付け師のリー・アン・ミラーとニコライ・モロゾフコーチは作り上げた。ステップのスピードなどはなく、未だ少し迫力不足ではあるが、完成形を早く見たいと思わせるプログラムだ。他選手のミスに少し助けられた感はあるが、全力を出せなかった試合でもきっちり優勝できるだけの地力もついてきた。
「メダルがあるのとないのとでは、次の試合に向かう気持ちが違います。優勝してうれしいというより、少しほっとしました(笑)。でも滑りは決して良くはなかった。ジャンプは失敗してしまったし、ステップはまあまあいい動きができたけれど、スピードがなかった。だから課題をうまく見つけられた試合だったと思います。NHK杯ではもっと自分らしく、もっといい演技をしたい」(安藤)
4年とは、かくも長いものなのか、と思った。4年前、トリノ五輪を前にしたシーズンも、グランプリシリーズはくしくも同じ、ロシア杯とNHK杯。しかし当時は、次の五輪シーズンをこれほど人間としてもアスリートとしても心を成長させて迎えるとは思わなかった。
「一度味わっていますから(笑)、落ち着いてシーズンに臨めています」と語った、4年間かけて成長した安藤が、女子シングルのチャンピオンとなった。
■深刻な浅田の不調、問題は気持ちの部分
一方で誰もが肩を落としたのが、浅田真央(中京大)だ。ある程度の不調を予測をしていた者でさえも、これほど深刻な結果になるとは思わなかった、グランプリシリーズ5位という成績。
フリープログラム当日、公式練習での浅田は不調の影などみじんもなかった。練習で見せた『鐘』はこんなに良い作品なのかと驚くほど、ドラマチックで力強く、すごみのあるプログラムだった。ジャンプはほぼトリプルアクセルの練習に終始していたが、助走にもスピードがあり、回転も美しい“浅田のトリプルアクセル”が、朝の時点では何度も跳べていた。プログラムはしっかり自分のものにしているし、ジャンプも問題なく跳べる。そんな選手が、なぜ本番であそこまで崩れてしまったのか?
やはり浅田の気持ちの部分、そこだけが万全ではないのだろう。復活を果たした男子シングルのエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)は、「もう一度金メダルを取りたい」ときっぱり言ってのけた。まっすぐに進んでいくべき目標があり、少しもそこへ向かう心はぶれていない。特に五輪の金メダルにこだわらないという安藤もまた、「体のことも、環境のことも、余計な心配をしなくてすんでいます。きっとただただ、楽なんだと思います」と語る。浅田だけではなくプルシェンコも安藤も、この特別なシーズンを乗り切っていくに際し、不安でいっぱいなのだ。しかし両者はあふれ出る不安を抑えるすべを、それぞれに心得ている。着実に経験を積んできた、20代の選手だからこそできることだ。
スーパーアスリートとはいえ、浅田もまだ19歳。今がまだ難しいのならば、ゆっくり時間をかけてそこまでたどりつけばいいと思う。何といっても待ちに待った五輪シーズン、人は国民のアイドルが金メダルを取る姿を見たいと願うだろう。でもそれは、今シーズンでなくてもいいのではないだろうか? 安藤も、中野友加里(プリンスホテル)も、荒川静香(トリノ五輪金メダリスト、現解説者)も、輝きを得る前に、本当に大きな壁にぶつかり、自分を探すため、自分を守るために、長い間苦しんできた。浅田も彼女の魅力を最大限見せられるようになるのは、このシーズンの後かもしれない、と思う。
「ジャンプの跳び方を、もう一度見直してみようと思います。気持ちの面も、自分の中でしっかり整理した方がいいと思います」(ショートプログラム終了後、浅田のコメント)
いつまでもかわいいお人形のようだと思っていたが、心の中は大きな音を立てて大人になりつつある。
なぜ自分が跳べないのか? なぜ気持ちが小さくなってしまうのか? 浅田は今、必死に考えているところだ。私たちは焦らず、彼女がひとつ自分の弱さを乗り越えるその時を、ゆっくり待つところではないだろうか。
大きなプレッシャーと、責任感と、どうしようもない不安の中で、このまま浅田がスケートを嫌いになってしまう。そのことだけは、何があっても避けたい。
■男子は“帝王”プルシェンコが復活
ついに見ることができた、プルシェンコの復活劇。これを見るためだけでも、ロシアに来たかいがあった――そう思わせてくれる、華やかな祝祭だった。
ショートプログラムでも、フリープログラムでも、6分練習に現れた彼はどこか所在なさげで、氷の上にいるどの選手よりも緊張しているように見えた。しかしひとたび音楽が鳴れば、難なく決めてしまう4回転のコンビネーションジャンプ。いったい、どれほどの選手たちがこのジャンプをものにするため、どれだけの苦労を重ねていると思うのか? そしてトリプルアクセルなどは、まるでくしゃみをするように軽々と、ルッツの3回転などは、彼が跳ぶとジャンプが何でもないもののように見えてしまうから笑うしかない。
確かにスピンなどは、高いレベルを取ってはいるが、現役のトップ選手に比べればポジションも回転速度も少し物足りない。ステップも、プルシェンコらしい上体の動きは見せたけれど、スピード感はまだない。でもきっと、まずはこの試合でジャンプをすべて納得のいくものにして、五輪本番までに少しずつほかのエレメンツも取り戻していくつもりなのだろう。
それよりもプログラムの随所に見せる猛々しい表情や、見せるパートの決めポーズ、余裕が出てくると始める観客へのアピール……そんな「プルシェンコらしさ」が素晴らしかった。この3年間「休んでいた」と言われがちな彼だが、本当は1年だけ休んで復帰すべく、毎年さまざまな試みをしていたという。それでも体が戻り切らずに競技できなかった苦しさ、五輪チャンピオンとしての多くの経験、そんなものが帝王・プルシェンコの演技に深みを増していると思った。そして最も美しくにじみ出ていたのは「競技に戻りたい」という強い意思と「帰ってきた」という喜びだった。
信じられないことに、復帰第一戦のフリープログラムで、ジャンプはパーフェクト。最後には少し疲れを見せ、止まるように演技を終えて、静かにガッツポーズ。この瞬間、すべての「戻りたかった」スケーターは彼を心底うらやましく思い、すべてのスケーターが、彼の帰還を称賛したことだろう。
プルシェンコの復活は、フィギュアスケート界にとって素晴らしい事件だ。そしてプルシェンコがもうひとつ作り上げていく伝説の始まりでもあると思う。彼の振り付けをアシストしているバフタン・ムルマニゼは「私たちのしているものは、ケガさえなければ30歳でも世界チャンピオンになれるスポーツなのです」と語った。満身創痍(そうい)の体を駆使してもう一度五輪チャンピオンになろうとしているプルシェンコは、フィギュアスケートを若い選手だけのスポーツではない、長く競技人生の続きうるスポーツとして、新たに作り上げようとしている。
■ギターの音を体現した小塚
そのプルシェンコの演技をリンクサイドでじっと見ていた、準優勝の小塚崇彦(トヨタ自動車)。
“帝王”との得点差は25点だったが「彼が五輪チャンピオンになったときの点数は258点、同じ年に僕が世界ジュニアで優勝したときの点数が180点。その差を考えれば、3年半かけてけっこう縮めることができたかな」と笑ってみせた。
得点差はともかく、プルシェンコを迎え撃つ現役スケーター代表として、彼もまた素晴らしい演技を見せてくれた。ショートプログラムもフリープログラムも、ともにエレキギターをフィーチャーしたプログラム。オフシーズンにアイスショーで見た時には、「彼の美しい滑りには、音楽が合わないのではないか。もっとアコースティックな響きや、ノーブルなサウンドの方が似合うのではないか」などと思うほど、しっくりとプログラムを見せ切れてはいなかった。
しかし「僕にとってはこの試合からがシーズンイン」というロシア杯。見事に音楽を自分のものにしてきたことに驚いた。「何かを演じるのではなく、音楽を体で表現するスケートを目指す」と話してくれたのは、今年の4月。なるほどこういうことか、と思う。2本のプログラムで彼の滑りが見せたのは、ギターの持つ野性味や不良っぽさ、そして反骨心や哀愁。耳で聞こえる音楽の性格、楽器の特質を、滑りと体の動きで目に見える形として表すということ。引退したジェフリー・バトルはピアノの音に何よりも親和性のある滑りをしていたが、20歳で初めて五輪を目指す今の小塚の滑りには、エレキギターの響きが実によく似合っていた。
ミスのなかったショートプログラムは特にすばらしく、得点でプルシェンコを超えたのでは? と一瞬思ったほど。フリープログラムでは練習で決めていた4回転の失敗を悔しがっていたが、ジャパンオープンや中部ブロックでの演技に比べれば動きの柔らかさ、リズミカルさは格段にアップし、エレメンツも気持ちもうまくひとつのプログラムの中に収まっていた。
しかし、もう一段階気持ちのリミッターが解放されたら、さらにすごいプログラムになるだろうな、という予感のする演技でもあった。小塚の場合、昨年のそれは全日本選手権でのフリープログラム、『ロミオ』だった。今年もきっと、シーズンのどこかで見せてくれるだろうその演技、そして「音を滑るスケーター」小塚の完成形を待ちたい。
*** 以上、記事より ***
うーん、真央早々に離脱。まぁいいのではーと思います。荒川さんも五輪シーズンはファイナルに進めなかったわけだし。
ってまぁへこみっぷりのレベルが違う気もしますが。
あれこれ言われて大変だとは思いますが、壁を乗り越えて欲しいものです。
フィギュアスケート、ロシア杯見どころ
■立て直しはかる浅田と初戦を迎える安藤
女子シングルには、日本の2トップ、浅田真央(中京大)と安藤美姫(トヨタ自動車)が登場。第1戦に続き、見逃せない顔合わせとなっている。
まずはフランス杯(エリック・ボンパール杯)での不調からたった1週間で、浅田がどれだけ気持ちとジャンプを立て直してくるかが気になる。ホームリンクのあるロシアで追い込んだ練習ができるとはいえ、1週間で問題点を探し、解決することは容易ではない。昨年のフランス杯失敗からNHK杯での復活など、これまでは悔しかった試合の次には吹っ切れたいい演技を見せてきた浅田だが、今回はどうか。
一方グランプリシリーズ初戦の安藤。ジャパンオープンもエキシビションのみの出場だったため、彼女にとってはシーズン初戦でもあり、試合での披露は初めてとなるショート、フリー両プログラムが楽しみだ。特にフリー『クレオパトラ』は、かつて4回転を跳んだプログラム『火の鳥』を振付けたリー・アン・ミラーに依頼した意欲作。どんなふうに見せてくれるのか、またこの時点でのジャンプの切れ味はどうかなど、チェックポイントは多い。安藤自身は、「難度の高いジャンプに挑戦するよりも、自分がどう音楽を感じて表現できるかを見せたい」と語る今年。毎シーズン滑り出しはエンジンのかかりにくい安藤だから、まだ五輪モードで全力を出し切るまではいかないだろう。しかし技術、表現、どちらに比重を置いてくるかなど、今シーズンの戦い方のコンセプトは見えてくるはずだ。
浅田と安藤のどちらが勝つか、また1戦目のキム・ヨナ(韓国)との点差なども気になるところだが、初戦の安藤と連戦の浅田では条件が少し違うし、ジャッジパネルの違うフランス杯との点差も単純には比較しにくい。早急に各選手をランク付けするよりも、現時点での課題やプログラム傾向などをじっくり考えてみる、そんな一戦として楽しんでみたい。
■成長著しいレオノワに注目
女子のエントリーを見ると、ほぼ安藤、浅田の戦いとなる見通しだが、絡んでくるとしたらロシアのアリーナ・レオノワ、米国のアリッサ・シズニー、アシュリー・ワグナーといったところか。
特に注目は、現世界ジュニアチャンピオンで、勢いよく成長中のレオノワ。すでに今シーズン、フィンランディア杯にて欧州チャンピオンのラウラ・レピスト(フィンランド)や村主章枝(Ak)を抑えて優勝。勢いに乗ったところで地元のグランプリシリーズ、初の表彰台に立ちたいところだ。
米国のふたりも、国内の五輪代表争いが激しい中で一戦目のグランプリを迎える。フランス杯では国内ライバルであるサーシャ・コーエンが欠場、キャロライン・ジャンがミスの多い演技で4位と低迷。米国女子の元気のなさが気になる中、2選手の奮起を期待したい。
■小塚が復帰のプルシェンコと対戦
男子シングル一番の話題は、なんといってもエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)の4シーズンぶりの競技復帰だ。古傷の痛みがまだ残る中、このオフシーズンは十分な練習をコンスタントに続け、トリプルアクセルはもちろん、4回転のコンビネーションを跳ぶところまで戻しているという。ロシア杯の氷の上に乗るその瞬間まで、まだ本当にプルシェンコが戻ってくるのが信じられない思いだが、まずは孤高のチャンピオンのアスリートとしての復活を喜びたい。
迎え撃つのは日本の小塚崇彦(トヨタ自動車)。パトリック・チャン(カナダ)が欠場のため、休んでいたプルシェンコに現役競技の厳しさを知らせる役目は、小塚が担うことになった。ここで「今シーズンは余裕かな」などとプルシェンコに思わせないような滑りを、ぜひ見せてほしいところだ。
しかし初戦となった9月の中部選手権では、ショートプログラムこそ圧倒的なうまさを見せたものの、まだ滑り込みの足りないフリープログラムではミスを連発し、大学の後輩である無良崇人(中京大)の後塵(こうじん)を拝した(総合では優勝)。ジャパンオープンでも本来の伸びやかな滑りが見られず不安が残るが、この数週間でどこまで追い込んできたか、まずは初戦を楽しみにしたい。
かつてともに競ったジョニー・ウィアー(米国)も、小塚とともにプルシェンコに「お帰りなさい」を言う立場。プルシェンコとはまたカラーの違うアーティスティックなスケートを、競技の場でずっと追求してきた選手として、小塚同様「アマチュアの本気」を見せてくれるだろう。
さらに若手では、米国のブランドン・ムロズとフランスのフローラン・アモディオに注目。ともに五輪出場枠を狙って国内のベテランたちに挑む立場にある。
ムロズは、フランス杯で同世代のライバル、アダム・リッポンが表彰台に立ち、同じリンクの先輩、ライアン・ブラッドリーが4回転を決めているため、大きな刺激を受けているだろう。一方、地元でブライアン・ジュベール、ヤニック・ポンセロ、アルバン・プロベールの3人の先輩が誰も表彰台に立てなかった試合を見ていたアモディオも、「ここはおれが!」と、闘志に火が付いているはず。プルシェンコ復帰の場で、次代のスターとして名乗りを上げたいところだ。
優勝の安藤と5位の浅田、明暗を分けた一戦
フィギュアスケート・ロシア杯総括
■地力つけた安藤が3年ぶりの優勝
まずは安藤美姫(トヨタ自動車)の3年ぶり、2回目のグランプリシリーズ優勝を心から喜びたい。
ショートプログラムで挑戦した3回転−3回転ほか、エレメンツの成熟度、またプログラムの作品としての完成度。ともにまだまだ本人も満足していないレベルではあった。しかし、五輪に向けてしっかり気持ちを定め、迷いを感じずに着実にオフシーズンの練習を積み上げてきた、そんなことが見ているものにも伝わる一戦だったと思う。
特にフリープログラムの『クレオパトラ』に関しては、記者会見で海外メディアも興味を持ってその背景を聞きたがるほど、印象深い作品だ。エキゾチックな動き、鋭い目線、スパイラルなどで美しいポジションをキープするときに見せる、ぞくっとするような体のライン。安藤の持つ女性としての魅力を全開にするプログラムを、振り付け師のリー・アン・ミラーとニコライ・モロゾフコーチは作り上げた。ステップのスピードなどはなく、未だ少し迫力不足ではあるが、完成形を早く見たいと思わせるプログラムだ。他選手のミスに少し助けられた感はあるが、全力を出せなかった試合でもきっちり優勝できるだけの地力もついてきた。
「メダルがあるのとないのとでは、次の試合に向かう気持ちが違います。優勝してうれしいというより、少しほっとしました(笑)。でも滑りは決して良くはなかった。ジャンプは失敗してしまったし、ステップはまあまあいい動きができたけれど、スピードがなかった。だから課題をうまく見つけられた試合だったと思います。NHK杯ではもっと自分らしく、もっといい演技をしたい」(安藤)
4年とは、かくも長いものなのか、と思った。4年前、トリノ五輪を前にしたシーズンも、グランプリシリーズはくしくも同じ、ロシア杯とNHK杯。しかし当時は、次の五輪シーズンをこれほど人間としてもアスリートとしても心を成長させて迎えるとは思わなかった。
「一度味わっていますから(笑)、落ち着いてシーズンに臨めています」と語った、4年間かけて成長した安藤が、女子シングルのチャンピオンとなった。
■深刻な浅田の不調、問題は気持ちの部分
一方で誰もが肩を落としたのが、浅田真央(中京大)だ。ある程度の不調を予測をしていた者でさえも、これほど深刻な結果になるとは思わなかった、グランプリシリーズ5位という成績。
フリープログラム当日、公式練習での浅田は不調の影などみじんもなかった。練習で見せた『鐘』はこんなに良い作品なのかと驚くほど、ドラマチックで力強く、すごみのあるプログラムだった。ジャンプはほぼトリプルアクセルの練習に終始していたが、助走にもスピードがあり、回転も美しい“浅田のトリプルアクセル”が、朝の時点では何度も跳べていた。プログラムはしっかり自分のものにしているし、ジャンプも問題なく跳べる。そんな選手が、なぜ本番であそこまで崩れてしまったのか?
やはり浅田の気持ちの部分、そこだけが万全ではないのだろう。復活を果たした男子シングルのエフゲニー・プルシェンコ(ロシア)は、「もう一度金メダルを取りたい」ときっぱり言ってのけた。まっすぐに進んでいくべき目標があり、少しもそこへ向かう心はぶれていない。特に五輪の金メダルにこだわらないという安藤もまた、「体のことも、環境のことも、余計な心配をしなくてすんでいます。きっとただただ、楽なんだと思います」と語る。浅田だけではなくプルシェンコも安藤も、この特別なシーズンを乗り切っていくに際し、不安でいっぱいなのだ。しかし両者はあふれ出る不安を抑えるすべを、それぞれに心得ている。着実に経験を積んできた、20代の選手だからこそできることだ。
スーパーアスリートとはいえ、浅田もまだ19歳。今がまだ難しいのならば、ゆっくり時間をかけてそこまでたどりつけばいいと思う。何といっても待ちに待った五輪シーズン、人は国民のアイドルが金メダルを取る姿を見たいと願うだろう。でもそれは、今シーズンでなくてもいいのではないだろうか? 安藤も、中野友加里(プリンスホテル)も、荒川静香(トリノ五輪金メダリスト、現解説者)も、輝きを得る前に、本当に大きな壁にぶつかり、自分を探すため、自分を守るために、長い間苦しんできた。浅田も彼女の魅力を最大限見せられるようになるのは、このシーズンの後かもしれない、と思う。
「ジャンプの跳び方を、もう一度見直してみようと思います。気持ちの面も、自分の中でしっかり整理した方がいいと思います」(ショートプログラム終了後、浅田のコメント)
いつまでもかわいいお人形のようだと思っていたが、心の中は大きな音を立てて大人になりつつある。
なぜ自分が跳べないのか? なぜ気持ちが小さくなってしまうのか? 浅田は今、必死に考えているところだ。私たちは焦らず、彼女がひとつ自分の弱さを乗り越えるその時を、ゆっくり待つところではないだろうか。
大きなプレッシャーと、責任感と、どうしようもない不安の中で、このまま浅田がスケートを嫌いになってしまう。そのことだけは、何があっても避けたい。
■男子は“帝王”プルシェンコが復活
ついに見ることができた、プルシェンコの復活劇。これを見るためだけでも、ロシアに来たかいがあった――そう思わせてくれる、華やかな祝祭だった。
ショートプログラムでも、フリープログラムでも、6分練習に現れた彼はどこか所在なさげで、氷の上にいるどの選手よりも緊張しているように見えた。しかしひとたび音楽が鳴れば、難なく決めてしまう4回転のコンビネーションジャンプ。いったい、どれほどの選手たちがこのジャンプをものにするため、どれだけの苦労を重ねていると思うのか? そしてトリプルアクセルなどは、まるでくしゃみをするように軽々と、ルッツの3回転などは、彼が跳ぶとジャンプが何でもないもののように見えてしまうから笑うしかない。
確かにスピンなどは、高いレベルを取ってはいるが、現役のトップ選手に比べればポジションも回転速度も少し物足りない。ステップも、プルシェンコらしい上体の動きは見せたけれど、スピード感はまだない。でもきっと、まずはこの試合でジャンプをすべて納得のいくものにして、五輪本番までに少しずつほかのエレメンツも取り戻していくつもりなのだろう。
それよりもプログラムの随所に見せる猛々しい表情や、見せるパートの決めポーズ、余裕が出てくると始める観客へのアピール……そんな「プルシェンコらしさ」が素晴らしかった。この3年間「休んでいた」と言われがちな彼だが、本当は1年だけ休んで復帰すべく、毎年さまざまな試みをしていたという。それでも体が戻り切らずに競技できなかった苦しさ、五輪チャンピオンとしての多くの経験、そんなものが帝王・プルシェンコの演技に深みを増していると思った。そして最も美しくにじみ出ていたのは「競技に戻りたい」という強い意思と「帰ってきた」という喜びだった。
信じられないことに、復帰第一戦のフリープログラムで、ジャンプはパーフェクト。最後には少し疲れを見せ、止まるように演技を終えて、静かにガッツポーズ。この瞬間、すべての「戻りたかった」スケーターは彼を心底うらやましく思い、すべてのスケーターが、彼の帰還を称賛したことだろう。
プルシェンコの復活は、フィギュアスケート界にとって素晴らしい事件だ。そしてプルシェンコがもうひとつ作り上げていく伝説の始まりでもあると思う。彼の振り付けをアシストしているバフタン・ムルマニゼは「私たちのしているものは、ケガさえなければ30歳でも世界チャンピオンになれるスポーツなのです」と語った。満身創痍(そうい)の体を駆使してもう一度五輪チャンピオンになろうとしているプルシェンコは、フィギュアスケートを若い選手だけのスポーツではない、長く競技人生の続きうるスポーツとして、新たに作り上げようとしている。
■ギターの音を体現した小塚
そのプルシェンコの演技をリンクサイドでじっと見ていた、準優勝の小塚崇彦(トヨタ自動車)。
“帝王”との得点差は25点だったが「彼が五輪チャンピオンになったときの点数は258点、同じ年に僕が世界ジュニアで優勝したときの点数が180点。その差を考えれば、3年半かけてけっこう縮めることができたかな」と笑ってみせた。
得点差はともかく、プルシェンコを迎え撃つ現役スケーター代表として、彼もまた素晴らしい演技を見せてくれた。ショートプログラムもフリープログラムも、ともにエレキギターをフィーチャーしたプログラム。オフシーズンにアイスショーで見た時には、「彼の美しい滑りには、音楽が合わないのではないか。もっとアコースティックな響きや、ノーブルなサウンドの方が似合うのではないか」などと思うほど、しっくりとプログラムを見せ切れてはいなかった。
しかし「僕にとってはこの試合からがシーズンイン」というロシア杯。見事に音楽を自分のものにしてきたことに驚いた。「何かを演じるのではなく、音楽を体で表現するスケートを目指す」と話してくれたのは、今年の4月。なるほどこういうことか、と思う。2本のプログラムで彼の滑りが見せたのは、ギターの持つ野性味や不良っぽさ、そして反骨心や哀愁。耳で聞こえる音楽の性格、楽器の特質を、滑りと体の動きで目に見える形として表すということ。引退したジェフリー・バトルはピアノの音に何よりも親和性のある滑りをしていたが、20歳で初めて五輪を目指す今の小塚の滑りには、エレキギターの響きが実によく似合っていた。
ミスのなかったショートプログラムは特にすばらしく、得点でプルシェンコを超えたのでは? と一瞬思ったほど。フリープログラムでは練習で決めていた4回転の失敗を悔しがっていたが、ジャパンオープンや中部ブロックでの演技に比べれば動きの柔らかさ、リズミカルさは格段にアップし、エレメンツも気持ちもうまくひとつのプログラムの中に収まっていた。
しかし、もう一段階気持ちのリミッターが解放されたら、さらにすごいプログラムになるだろうな、という予感のする演技でもあった。小塚の場合、昨年のそれは全日本選手権でのフリープログラム、『ロミオ』だった。今年もきっと、シーズンのどこかで見せてくれるだろうその演技、そして「音を滑るスケーター」小塚の完成形を待ちたい。
*** 以上、記事より ***
うーん、真央早々に離脱。まぁいいのではーと思います。荒川さんも五輪シーズンはファイナルに進めなかったわけだし。
ってまぁへこみっぷりのレベルが違う気もしますが。
あれこれ言われて大変だとは思いますが、壁を乗り越えて欲しいものです。
2009.10/19 [Mon]
エリック杯総括
浅田真央とキム・ヨナ、名勝負の第一幕へ
フィギュアスケート、エリック・ボンパール杯見どころ
■浅田のジャンプ構成、キム・ヨナの新プログラムに注目
第一戦フランス大会(エリック・ボンパール杯)。グランプリシリーズ出場選手発表の瞬間から人々をあっと言わせたのは、やはり女子シングルの浅田真央(中京大)、キム・ヨナ(韓国)。世界チャンピオン二人の、初戦からの顔合わせだろう。
二人がファイナル以外のグランプリシリーズで対戦するのは、ジュニア、シニアを通したこの6年間で初めてのこと。しかも五輪シーズンのグランプリ初戦とあって、過剰なほど注目度が増しているようだ。二人ともに「相手のことは特に意識していない」と言いつつも、やりにくい初戦であることは確かだろう。
注目点は浅田のジャンプ構成、そして未だベールに包まれたままのキム・ヨナの新プログラムだ。
浅田はトリプルアクセルをショートプログラムから取り入れ、フリープログラムでは2度挑戦するなど、得意のトリプルアクセルを中心とした作戦をシーズン初戦から試してくるかどうか。また『007』、『ピアノ協奏曲ヘ長』(ガーシュイン)という、王道から外れたプログラムを用意してきたキム・ヨナが、どこまで存在感のある演技を見せるか。
特にキム・ヨナのプログラムは、ここ数年継続してコンビを組んでいる奇才・デービッド・ウィルソンの作品。五輪シーズンとなると、有力選手ほど良く知られたクラシックやフィギュアスケートの定番音楽をプログラムに選びがちだ。カタリナ・ビットの『カルメン』、オクサナ・バイウルの『白鳥』など、語り継がれる五輪チャンピオンの名プログラムも定番が多い。しかしウィルソンが現在誰よりも力を入れているだろうキム・ヨナに選んだ曲は、遊びの要素が強い映画音楽と、クラシックといえどジャズ風の曲。意外な選曲だが、だからこそ圧倒的なウィルソンの自信がうかがえもする。間違いなく名プログラムになるだろう作品を、キム・ヨナはこの時点でどこまで滑りこんでいるだろうか。
まずは楽しみに見てみたいシーズン初顔合わせだが、どちらかがたとえ大差をつけて勝ったとしても、ここで五輪での勝敗が決まったような論調になるのは避けたい。それよりも、ここでの敗者が今後どう立て直してくるか、勝者はさらにどこを成長させてくるのか。五輪本番の一戦を見ただけでは味わえない、名勝負の第一幕開演として楽しみたい。
■中野も参戦、現在のコンディションは
またフランス大会は二人に加え、カロリナ・コストナー(イタリア)、中野友加里(プリンスホテル)、キャロライン・ザン(米国)といったグランプリファイナル進出経験者も顔をそろえる。特に中野は、先日のジャパンオープンこそ転倒で右肩を打つアクシデントのため精彩を欠いてしまったが、大きなシーズンに向けてしっかりと準備を積んできている。五輪でぜひ跳びたいというトリプルアクセルの、現在のコンディションにも注目してみたい。
また、まだグランプリシリーズでの目立った活躍はないが、今シーズン好調を伝えられるグルジアのエレーネ・ゲテバニシビリの登場も楽しみだ。浅田やキム・ヨナと同じ19歳で、トリノ五輪シーズンに華々しく登場しつつも、その後満足な結果は残せずにきた。ジュニアで活躍しても体形変化の影響で表舞台から消えてしまう女子選手も多い中、祖国の戦禍という逆境をも乗り越え、本来のジャンプを取り戻しつつある選手として覚えておきたい。
■男子は4回転ジャンパーが集結
浅田、キム・ヨナのそろう女子の大一番に目が行きがちなフランス大会だが、実は男子シングルも素晴らしいメンバーが初戦を飾ることとなった。
世界選手権のメダリストこそ、地元のブライアン・ジュベール(フランス)一人だが、欧州チャンピオンのトマシュ・ベルネル(チェコ)、過去、グランプリファイナルに2度進出している織田信成(関西大)。さらに世界ジュニアチャンピオンのアダム・リッポン(米国)、ロシアチャンピオンのセルゲイ・ボロノフ、フランスチャンピオンのヤニック・ポンセロ、昨年のスケートカナダ2位で米国の五輪代表を狙うライアン・ブラッドリーら、実力者がずらりとそろった。
面白いのはこのメインメンバーのうち、若いリッポンを除く6人が、強力な4回転ジャンパーだということ。パワフルな4回転が代名詞のジュベールだけでなく、「世界一美しい4回転トゥループ」と他国のコーチにも称賛されるヴェルネル、決まれば4回転−3回転−3回転も可能というジャンプの軽さが持ち味の織田など、さまざまなタイプの4回転ジャンパーが顔を合わせたのも面白い。ロシアのボロノフも、先週のフィンランディア杯で4回転を成功させ、フリーでは高橋大輔(関大大学院)を抑えて一位になったばかり。自信をもって挑んでくることだろう。
シーズン序盤のため、全員が挑んでくるとは限らないが、公式練習からお互いを意識しあっての4回転合戦となれば楽しそうだ。ひょっとしたらグランプリシリーズでありながら、4回転を跳んでも表彰台に乗れない、などというハイレベルな戦いになるかもしれない。
世界選手権では2年連続で4回転ジャンプなしのチャンピオンが生まれている現在。五輪男子シングルでは4回転がどれほどキーポイントになるのか、占えそうな一戦が早くもスタートする。
2位に終わった浅田真央が取り戻したいもの
エリック・ボンパール杯総括
■36点差がついた対決
浅田真央とキム・ヨナのいきなりの顔合わせで注目されたエリック・ボンパール杯女子シングル。両者のコンディションやプログラムの完成度などから、キム・ヨナ有利がささやかれてはいたものの、ここまでの点差がついてしまうとは残念な結果だ。
やはり素晴らしかったのはキム・ヨナの演技、特にショートプログラム。
最初のポーズでまず見る人をドキッとさせ、ちょっとエロティックだったりコケティッシュだったり、さまざまな表情を2分40秒にちりばめて見せた。そこに恐ろしいほどの飛距離を持ったルッツ−トゥループの3回転3回転など、完ぺきなジャンプがきれいにはまる。振付師デービッド・ウィルソンがすべての力を尽くして作った、スターのためのプログラム。
しかしフリーはショートプログラムほど作品としてのインパクトはなく、フリップが抜けるなど小さくないミスもあった。総合得点で210.03点をマークし、173.99の浅田真央とは36点差が付いた。
浅田真央はショートプログラムで失敗したトリプルアクセルを、フリーでは一度成功。さらに「重厚感があるから気持ちも強く持てそう」と自ら選んだ音楽『鐘』に乗り、昨年までとは少し違う浅田真央を見せてくれた。高くまっすぐ足を上げたスパイラルには、昨年までなかったある種の凄みのようなものが宿っていたし、きっぱりとした動きで凛々しい振付けをこなすさまは、今年バージョンの大人の浅田だ。
エレメンツのできにしても表現にしても、36点差がつくほど浅田が劣っていたとは思えない。しかし数字の印象は残酷だ。この点差がまず浅田自身にとってダメージにならないこと、見る側の意識に強く植え付けられないことを祈るしかない。
■スケートを楽しむ気持ち
しかし36点ほどではないとはいえ、現時点である程度の点差が、キム・ヨナとの間に開いてしまったのは確かだ。浅田はこの差を、どう縮めていけばいいのか。プログラムの作品としてのクオリティはどうか? コーチとのパートナーシップは? エレメンツのレベルチェックの必要性、トリプルアクセルに頼りすぎた作戦の見直し……。さまざまな意見が交わされるだろう。しかし一番に取り組まなければならないのは、やはり気持ちの問題。 もう浅田は、トリプルアクセルを跳ぶことも、金メダルを取ることも、いっさい考えなくていい。ただ、少女時代のように楽しくスケートを滑ること。楽しそうに滑っている“真央ちゃん”を見せてくれること。しばらくは、それだけを考えてもいいのではないだろうか。
極端なことを言えばスケートを楽しいと思う気持ち、それさえ取り戻せれば、ジャンプだって跳べるし、重いといわれるプログラムさえ、生き生きと魅力的に見せられる。36点差など、すぐに埋まってしまうのではないかと思う。もし「楽しむこと」を最優先してバンクーバー五輪で敗れたとしても、太陽のような浅田の姿に誰もが心から喝采(かっさい)を送るだろう。その時できたパフォーマンスが五輪の先に向かっていく力にもなるだろう。
もう勝たなくても、跳ばなくてもいい。どうかスケートを楽しんで。そんな言葉を、かけられるものなら浅田にかけたい。
ベルシー競技場に集ったフランスのスケートファンの間にも、浅田のファンは多かった。「マオチャン、ガンバレー」とたどたどしくも日本語で大きな声をかける子どもたち。フリーの最初のトリプルアクセルに、手をたたいて喜んでくれたパリジェンヌたち。エリック・ボンパール杯は浅田がジュニア時代から幾度となく出場している大会だ。彼らはみな、この上なく楽しそうに滑る浅田を知っているし、今や日本のみならず世界中で、あの楽しそうな浅田を見たいと皆が思っているはずだ。
■男子は織田が優勝
エリック・ボンパール杯、男子シングル。これだけの4回転ジャンパーがそろいながら、トリプルアクセルまでのジャンプで手堅くまとめた織田信成(関西大)が優勝。現在の採点方式の元で高難度ジャンプを跳ぶことがいかに難しいか、再確認させられる一戦となった。
優勝した織田は、練習ではかなりの確率で4回転を跳べるジャンパーだ。「公式練習での調子を見て、自分で決めました」という今回の4回転回避は、「逃げ」ではなく「手堅い選択」と称えたい。「跳ばないという決断にも勇気がいる」とは、女子で数少ないトリプルアクセルジャンパー、中野友加里(プリンスホテル)の弁だが、万全でない状態で「跳ぶ無謀」よりも、正確な状況判断を経ての「跳ばない勇気」、そこから手に入れた勝利は、もっと評価されてもいいだろう。
■良さを100パーセント引き出すフリー
さらにエリック・ボンパール杯での織田は、ジャンプの難度を下げたことで気持ちに余裕も生まれ、『チャップリンメドレー』にのって素晴らしくドラマチックなフリーを見せてくれた。大柄な選手たちがそろった今大会の最終グループ、細身で小柄の織田は、6分練習などではどうしてもスケールが小さく見えてしまう。しかしこの夏、「5コンポーネンツ(演技構成点)をどうしても上げたい」と、意識して作り上げたプログラムを滑りだしたとたん、織田信成らしいキュートな世界が、観客を包みこんでしまったのだ。
男子選手に「キュート」などという形容詞はおかしいかもしれないが、織田信成には、それがぴったり。投げキスを織り込んだステップ、おどけたマイム、ちょっと格好をつけてポーズ、そして大きくたっぷりの表情。彼の体格と容姿、キャラクターだからこそできる、織田信成だけの唯一無二の世界、100パーセント彼の良さを引き出すプログラムを、よくぞ五輪シーズンに用意してきたと思う。
ショートプログラムでは思ったような点数がセカンドマークでもらえない、と涙も見せたが、フリーではまず観客を大いにのせて味方につけ、審判から点数をもぎ取ってしまったようだ。
この楽しいプログラムに、さらに4回転が入ったら? そう思うと、とてもわくわくする。また、4回転なしでもこれだけ見せられるプログラム、点数の出るプログラムを得たことも、織田にとっては自信になっただろう。この先の試合で4回転を回避する決断をした時も、自分は4回転だけではないと胸を張って披露できる、そんなプログラムだ。
■2位にベルネル、3位にリッポン
男子2位はトマシュ・ベルネル。フリーの冒頭で世にも美しい4回転−3回転を跳び、さらに伸びやかな滑りで魅了しながらも、後半に小さなミスが続いてしまったのが惜しい。しかし、「今シーズンは(エフゲニー・)プルシェンコも(ステファン・)ランビエールも帰ってくる。オリンピックで一番エキサイティングなのは、男子だろうね!」と、大一番に参戦する気合十分。2戦目、そしてファイナルと、チャンスはまだまだある。本来のベルネルをシーズン前半で見せ、五輪メダル候補に名乗りを上げたいところだ。
3位にはグランプリシリーズ参戦2年目のアダム・リッポン(米国)がうれしい初表彰台。今季より振付けを担当したデービッド・ウィルソンのプログラムは、彼のノーブルな魅力をさらに引き出していた。エバン・ライザチェク、ジョニー・ウィアー、ジェレミー・アボットに対抗して、五輪米国代表を目指すため、幸先のいいスタートとなったようだ。
*** 以上、記事より ***
女子は、まぁ予想通りの結果とでも言いましょうか。
シーズン序盤からほぼ完璧に滑り込んでくるキムヨナと、スロースターターの浅田真央。コラムにもありましたが、「差がある」とジャッジに思わせるのは得策ではないと思いますが……初戦じゃ仕方ないなぁ、というのが正直なところ。
パーフェクトに拘る割にパーフェクトに演技できないのが実情ならば、多少の取りこぼしが怖くないひとつひとつの技の完成度を磨く方がいい気もします。
織田はFSが特によかったと思います。欧米はワールドに照準を合わせてくる選手が多いので、フランス勢の低迷はこれから持ち直してくると思うのですが……ちょっと気になるなぁ。
このまま行くと、新・名コーチはブライアン・オーサー(キムヨナと、男子3位のリッポンのコーチ)ってことになるんでしょうかねー。
フィギュアスケート、エリック・ボンパール杯見どころ
■浅田のジャンプ構成、キム・ヨナの新プログラムに注目
第一戦フランス大会(エリック・ボンパール杯)。グランプリシリーズ出場選手発表の瞬間から人々をあっと言わせたのは、やはり女子シングルの浅田真央(中京大)、キム・ヨナ(韓国)。世界チャンピオン二人の、初戦からの顔合わせだろう。
二人がファイナル以外のグランプリシリーズで対戦するのは、ジュニア、シニアを通したこの6年間で初めてのこと。しかも五輪シーズンのグランプリ初戦とあって、過剰なほど注目度が増しているようだ。二人ともに「相手のことは特に意識していない」と言いつつも、やりにくい初戦であることは確かだろう。
注目点は浅田のジャンプ構成、そして未だベールに包まれたままのキム・ヨナの新プログラムだ。
浅田はトリプルアクセルをショートプログラムから取り入れ、フリープログラムでは2度挑戦するなど、得意のトリプルアクセルを中心とした作戦をシーズン初戦から試してくるかどうか。また『007』、『ピアノ協奏曲ヘ長』(ガーシュイン)という、王道から外れたプログラムを用意してきたキム・ヨナが、どこまで存在感のある演技を見せるか。
特にキム・ヨナのプログラムは、ここ数年継続してコンビを組んでいる奇才・デービッド・ウィルソンの作品。五輪シーズンとなると、有力選手ほど良く知られたクラシックやフィギュアスケートの定番音楽をプログラムに選びがちだ。カタリナ・ビットの『カルメン』、オクサナ・バイウルの『白鳥』など、語り継がれる五輪チャンピオンの名プログラムも定番が多い。しかしウィルソンが現在誰よりも力を入れているだろうキム・ヨナに選んだ曲は、遊びの要素が強い映画音楽と、クラシックといえどジャズ風の曲。意外な選曲だが、だからこそ圧倒的なウィルソンの自信がうかがえもする。間違いなく名プログラムになるだろう作品を、キム・ヨナはこの時点でどこまで滑りこんでいるだろうか。
まずは楽しみに見てみたいシーズン初顔合わせだが、どちらかがたとえ大差をつけて勝ったとしても、ここで五輪での勝敗が決まったような論調になるのは避けたい。それよりも、ここでの敗者が今後どう立て直してくるか、勝者はさらにどこを成長させてくるのか。五輪本番の一戦を見ただけでは味わえない、名勝負の第一幕開演として楽しみたい。
■中野も参戦、現在のコンディションは
またフランス大会は二人に加え、カロリナ・コストナー(イタリア)、中野友加里(プリンスホテル)、キャロライン・ザン(米国)といったグランプリファイナル進出経験者も顔をそろえる。特に中野は、先日のジャパンオープンこそ転倒で右肩を打つアクシデントのため精彩を欠いてしまったが、大きなシーズンに向けてしっかりと準備を積んできている。五輪でぜひ跳びたいというトリプルアクセルの、現在のコンディションにも注目してみたい。
また、まだグランプリシリーズでの目立った活躍はないが、今シーズン好調を伝えられるグルジアのエレーネ・ゲテバニシビリの登場も楽しみだ。浅田やキム・ヨナと同じ19歳で、トリノ五輪シーズンに華々しく登場しつつも、その後満足な結果は残せずにきた。ジュニアで活躍しても体形変化の影響で表舞台から消えてしまう女子選手も多い中、祖国の戦禍という逆境をも乗り越え、本来のジャンプを取り戻しつつある選手として覚えておきたい。
■男子は4回転ジャンパーが集結
浅田、キム・ヨナのそろう女子の大一番に目が行きがちなフランス大会だが、実は男子シングルも素晴らしいメンバーが初戦を飾ることとなった。
世界選手権のメダリストこそ、地元のブライアン・ジュベール(フランス)一人だが、欧州チャンピオンのトマシュ・ベルネル(チェコ)、過去、グランプリファイナルに2度進出している織田信成(関西大)。さらに世界ジュニアチャンピオンのアダム・リッポン(米国)、ロシアチャンピオンのセルゲイ・ボロノフ、フランスチャンピオンのヤニック・ポンセロ、昨年のスケートカナダ2位で米国の五輪代表を狙うライアン・ブラッドリーら、実力者がずらりとそろった。
面白いのはこのメインメンバーのうち、若いリッポンを除く6人が、強力な4回転ジャンパーだということ。パワフルな4回転が代名詞のジュベールだけでなく、「世界一美しい4回転トゥループ」と他国のコーチにも称賛されるヴェルネル、決まれば4回転−3回転−3回転も可能というジャンプの軽さが持ち味の織田など、さまざまなタイプの4回転ジャンパーが顔を合わせたのも面白い。ロシアのボロノフも、先週のフィンランディア杯で4回転を成功させ、フリーでは高橋大輔(関大大学院)を抑えて一位になったばかり。自信をもって挑んでくることだろう。
シーズン序盤のため、全員が挑んでくるとは限らないが、公式練習からお互いを意識しあっての4回転合戦となれば楽しそうだ。ひょっとしたらグランプリシリーズでありながら、4回転を跳んでも表彰台に乗れない、などというハイレベルな戦いになるかもしれない。
世界選手権では2年連続で4回転ジャンプなしのチャンピオンが生まれている現在。五輪男子シングルでは4回転がどれほどキーポイントになるのか、占えそうな一戦が早くもスタートする。
2位に終わった浅田真央が取り戻したいもの
エリック・ボンパール杯総括
■36点差がついた対決
浅田真央とキム・ヨナのいきなりの顔合わせで注目されたエリック・ボンパール杯女子シングル。両者のコンディションやプログラムの完成度などから、キム・ヨナ有利がささやかれてはいたものの、ここまでの点差がついてしまうとは残念な結果だ。
やはり素晴らしかったのはキム・ヨナの演技、特にショートプログラム。
最初のポーズでまず見る人をドキッとさせ、ちょっとエロティックだったりコケティッシュだったり、さまざまな表情を2分40秒にちりばめて見せた。そこに恐ろしいほどの飛距離を持ったルッツ−トゥループの3回転3回転など、完ぺきなジャンプがきれいにはまる。振付師デービッド・ウィルソンがすべての力を尽くして作った、スターのためのプログラム。
しかしフリーはショートプログラムほど作品としてのインパクトはなく、フリップが抜けるなど小さくないミスもあった。総合得点で210.03点をマークし、173.99の浅田真央とは36点差が付いた。
浅田真央はショートプログラムで失敗したトリプルアクセルを、フリーでは一度成功。さらに「重厚感があるから気持ちも強く持てそう」と自ら選んだ音楽『鐘』に乗り、昨年までとは少し違う浅田真央を見せてくれた。高くまっすぐ足を上げたスパイラルには、昨年までなかったある種の凄みのようなものが宿っていたし、きっぱりとした動きで凛々しい振付けをこなすさまは、今年バージョンの大人の浅田だ。
エレメンツのできにしても表現にしても、36点差がつくほど浅田が劣っていたとは思えない。しかし数字の印象は残酷だ。この点差がまず浅田自身にとってダメージにならないこと、見る側の意識に強く植え付けられないことを祈るしかない。
■スケートを楽しむ気持ち
しかし36点ほどではないとはいえ、現時点である程度の点差が、キム・ヨナとの間に開いてしまったのは確かだ。浅田はこの差を、どう縮めていけばいいのか。プログラムの作品としてのクオリティはどうか? コーチとのパートナーシップは? エレメンツのレベルチェックの必要性、トリプルアクセルに頼りすぎた作戦の見直し……。さまざまな意見が交わされるだろう。しかし一番に取り組まなければならないのは、やはり気持ちの問題。 もう浅田は、トリプルアクセルを跳ぶことも、金メダルを取ることも、いっさい考えなくていい。ただ、少女時代のように楽しくスケートを滑ること。楽しそうに滑っている“真央ちゃん”を見せてくれること。しばらくは、それだけを考えてもいいのではないだろうか。
極端なことを言えばスケートを楽しいと思う気持ち、それさえ取り戻せれば、ジャンプだって跳べるし、重いといわれるプログラムさえ、生き生きと魅力的に見せられる。36点差など、すぐに埋まってしまうのではないかと思う。もし「楽しむこと」を最優先してバンクーバー五輪で敗れたとしても、太陽のような浅田の姿に誰もが心から喝采(かっさい)を送るだろう。その時できたパフォーマンスが五輪の先に向かっていく力にもなるだろう。
もう勝たなくても、跳ばなくてもいい。どうかスケートを楽しんで。そんな言葉を、かけられるものなら浅田にかけたい。
ベルシー競技場に集ったフランスのスケートファンの間にも、浅田のファンは多かった。「マオチャン、ガンバレー」とたどたどしくも日本語で大きな声をかける子どもたち。フリーの最初のトリプルアクセルに、手をたたいて喜んでくれたパリジェンヌたち。エリック・ボンパール杯は浅田がジュニア時代から幾度となく出場している大会だ。彼らはみな、この上なく楽しそうに滑る浅田を知っているし、今や日本のみならず世界中で、あの楽しそうな浅田を見たいと皆が思っているはずだ。
■男子は織田が優勝
エリック・ボンパール杯、男子シングル。これだけの4回転ジャンパーがそろいながら、トリプルアクセルまでのジャンプで手堅くまとめた織田信成(関西大)が優勝。現在の採点方式の元で高難度ジャンプを跳ぶことがいかに難しいか、再確認させられる一戦となった。
優勝した織田は、練習ではかなりの確率で4回転を跳べるジャンパーだ。「公式練習での調子を見て、自分で決めました」という今回の4回転回避は、「逃げ」ではなく「手堅い選択」と称えたい。「跳ばないという決断にも勇気がいる」とは、女子で数少ないトリプルアクセルジャンパー、中野友加里(プリンスホテル)の弁だが、万全でない状態で「跳ぶ無謀」よりも、正確な状況判断を経ての「跳ばない勇気」、そこから手に入れた勝利は、もっと評価されてもいいだろう。
■良さを100パーセント引き出すフリー
さらにエリック・ボンパール杯での織田は、ジャンプの難度を下げたことで気持ちに余裕も生まれ、『チャップリンメドレー』にのって素晴らしくドラマチックなフリーを見せてくれた。大柄な選手たちがそろった今大会の最終グループ、細身で小柄の織田は、6分練習などではどうしてもスケールが小さく見えてしまう。しかしこの夏、「5コンポーネンツ(演技構成点)をどうしても上げたい」と、意識して作り上げたプログラムを滑りだしたとたん、織田信成らしいキュートな世界が、観客を包みこんでしまったのだ。
男子選手に「キュート」などという形容詞はおかしいかもしれないが、織田信成には、それがぴったり。投げキスを織り込んだステップ、おどけたマイム、ちょっと格好をつけてポーズ、そして大きくたっぷりの表情。彼の体格と容姿、キャラクターだからこそできる、織田信成だけの唯一無二の世界、100パーセント彼の良さを引き出すプログラムを、よくぞ五輪シーズンに用意してきたと思う。
ショートプログラムでは思ったような点数がセカンドマークでもらえない、と涙も見せたが、フリーではまず観客を大いにのせて味方につけ、審判から点数をもぎ取ってしまったようだ。
この楽しいプログラムに、さらに4回転が入ったら? そう思うと、とてもわくわくする。また、4回転なしでもこれだけ見せられるプログラム、点数の出るプログラムを得たことも、織田にとっては自信になっただろう。この先の試合で4回転を回避する決断をした時も、自分は4回転だけではないと胸を張って披露できる、そんなプログラムだ。
■2位にベルネル、3位にリッポン
男子2位はトマシュ・ベルネル。フリーの冒頭で世にも美しい4回転−3回転を跳び、さらに伸びやかな滑りで魅了しながらも、後半に小さなミスが続いてしまったのが惜しい。しかし、「今シーズンは(エフゲニー・)プルシェンコも(ステファン・)ランビエールも帰ってくる。オリンピックで一番エキサイティングなのは、男子だろうね!」と、大一番に参戦する気合十分。2戦目、そしてファイナルと、チャンスはまだまだある。本来のベルネルをシーズン前半で見せ、五輪メダル候補に名乗りを上げたいところだ。
3位にはグランプリシリーズ参戦2年目のアダム・リッポン(米国)がうれしい初表彰台。今季より振付けを担当したデービッド・ウィルソンのプログラムは、彼のノーブルな魅力をさらに引き出していた。エバン・ライザチェク、ジョニー・ウィアー、ジェレミー・アボットに対抗して、五輪米国代表を目指すため、幸先のいいスタートとなったようだ。
*** 以上、記事より ***
女子は、まぁ予想通りの結果とでも言いましょうか。
シーズン序盤からほぼ完璧に滑り込んでくるキムヨナと、スロースターターの浅田真央。コラムにもありましたが、「差がある」とジャッジに思わせるのは得策ではないと思いますが……初戦じゃ仕方ないなぁ、というのが正直なところ。
パーフェクトに拘る割にパーフェクトに演技できないのが実情ならば、多少の取りこぼしが怖くないひとつひとつの技の完成度を磨く方がいい気もします。
織田はFSが特によかったと思います。欧米はワールドに照準を合わせてくる選手が多いので、フランス勢の低迷はこれから持ち直してくると思うのですが……ちょっと気になるなぁ。
このまま行くと、新・名コーチはブライアン・オーサー(キムヨナと、男子3位のリッポンのコーチ)ってことになるんでしょうかねー。
2009.10/15 [Thu]
09-10シーズン展望
浅田ら日本勢、五輪シーズン開幕戦で不安残す
プロアマ混合3地域対抗戦「ジャパンオープン」
大きな悲鳴が起きたわけではないが、どよめきが生まれたのは確かだった。フィギュアスケートのプロアマ混合3地域対抗戦「ジャパンオープン」は、4連覇を期待された日本チームがダントツの最下位に沈むという意外な結末を迎えた。男子2名、女子2名で構成された各チームが合計得点を争い、欧州チームが464.03点で初優勝。2位は、きん差の463.90点で北米チーム。日本チームは大きく離された434.17点で3位だった。大会はISU(国際スケート連盟)主催の公式戦ではなく、アマチュア選手は来年2月のバンクーバー冬季五輪でピークを迎えるよう調整をしている段階だ。今後の試合でも同様の順位や得点差が生まれると単純には考えにくく、結果自体は日本勢にとって悲観すべきものではない。しかし、内容面で今後のシーズンに一抹の不安を残したのは気がかりだ。アマ競技を引退しているプロ選手の点数が伸びない、あるいは特定の選手の状態が悪くてブレーキになるという敗因は十分に考えられたが、今回は浅田真央(中京大)ら日本が誇るバンクーバーのメダル候補3人が総崩れ(もう1人はプロの本田武史が参加)。対照的に海外勢は好調で、いきなり自己ベストを出す選手も出るなど、順調な調整ぶりを印象付けた。
■浅田「ジャンプが決まらないと良い流れが出ない」
大会はチーム順位もさることながら、浅田ら世界のトップスケーターが新シーズンのフリースケーティングを披露することが大きな関心を呼んでいた。黒と青の衣装でリンクに登場した最終滑走者の浅田は、ラスマニノフの「鐘」で3回転半ジャンプ(トリプルアクセル=以下、3A)を二つ組み込んだ高難度の演技構成に臨んだが、2回転トウループへのコンビネーションを狙った冒頭の3Aで着氷後に転倒。さらに続けて跳んだ3Aは、ジャンプのタイミングが合わずに回転不足のままジャンプを降りてしまう「パンク」の失敗で1Aとなった。さらに、苦手の3回転サルコウでもパンク。102.94点と伸び悩み、日本を逆転優勝に導くことはできなかった。「初めて(観衆の前で)フリースケーティングを滑ったけど、たくさん課題が残った。自分でも『どうなるかな』と思う気持ちが強くて、練習してきたことが出し切れなかった。(プログラム自体に)物語はないので、ジャンプが決まらないと良い流れが出てこない」と浅田。荘厳なピアノ曲を演技の迫力に変えることができなかった失敗を悔やんだ。このほか、「火の鳥」を披露した女子の中野友加里(プリンスホテル)も冒頭の3Aを失敗。転倒で右肩を痛めたこともあり、その後も精彩を欠いた。男子の小塚崇彦(トヨタ自動車)は「ギター・コンツェルト」を披露したが、4回転トウループが2回転になり、3回転サルコウでパンクするなど、こちらもミスが目立った。
■ロシェットは自己ベストを更新
一方、海外勢は思わぬ好調ぶりを見せた。これまで日本で行われる団体戦やエキシビションマッチでは、まじめにコンディションを整えてくる日本勢に対し、海外勢は状態がまちまちということが珍しくなかった。しかし、今回は五輪で地元の星としてメダルの期待がかかる女子シングルのジョアニー・ロシェット(カナダ)や、今季で現役復帰する男子のステファン・ランビエル(スイス)らが、シーズン序盤から五輪に向けて着実にステップを踏んでいることをうかがわせた。「サムソンとデリラ」を披露したロシェットは、冒頭の連続ジャンプでミスがあったものの、2つのスピンでレベル4(最高難度)の判定を受けるなど見事な出来栄えで自己ベストとなる126.39点をマーク。「シーズンの良いスタートを切った形だけど、まだスピードとパワーが不足している」と、今後のさらなる向上にも意欲的だった。男子のランビエルは「オトロ・ポルテーニョ」で、腕を大きく動かしながら独特の世界を表現。4回転ジャンプは転倒したが、圧倒的な高速スピンは健在で、今大会の参加選手では最高の150.52点を記録し「正直に言って(引退の理由となった腰の負傷で)まだ痛みがあるけど、腰に負担がかからないようにコントロールしながらやっている」と、こちらも復調途上をアピールした。
■本格的なシーズン開幕は目前
残念ながら今回は不発に終わった日本勢だが、このまま沈んでいくはずはない。浅田はこれまでも不調を覆して驚異的な強さを見せた過去がある。中野は「今回はシーズン初戦だったので緊張感もあって気が回らなかったが、何を表現し、どのように滑りたいのかを明確に演技して、お客さんに伝えられるように練習を積みたい。プログラムも2日前に変えたばかりでなじんでいないし、本当はもう一つレベルの高い構成にして、決められるようになりたいという目標はある」と、今後について連続3回転ジャンプも取り入れていく可能性を示唆している。大会後に同会場で行われたアイスショー「カーニバル・オン・アイス」で演技を見せた安藤美姫(トヨタ自動車)や、ショーナンバーで軽やかに3Aを決めた高橋大輔(関大大学院)を含めた日本勢と、好調な滑り出しを見せている海外勢との“ガチンコ対決”は、10月15日から行われるエリック・ポンパール杯を初戦とするグランプリシリーズで本格的な幕開けを迎える。この日残された不安は単なる杞憂(きゆう)か、苦闘の予兆か。五輪シーズンの緊張感が張り詰めていく。
フィギュアスケート、グランプリシリーズ展望
高橋ら金メダル候補は10人以上 男子編
フィギュアスケート男子シングル。注目度においては女子に一歩、二歩譲ることの多いこの種目だが、グランプリシリーズが10月15日から始まる今シーズンは何十年に一度かの充実期、と言っていいかもしれない。
2006年トリノ五輪でトップを競った世代がほぼそのまま競技に残り、バンクーバー五輪も同じメンバーで競われるだろうと予想されていた4年前。昨シーズンはジェフリー・バトル(カナダ)、ステファン・ランビエール(スイス)の引退、高橋大輔(関西大学大学院)のけがによる戦線離脱といったショッキングな出来事はあったが、その代わりにパトリック・チャン(カナダ)、小塚崇彦(トヨタ自動車)といった若手、ジェレミー・アボット(米国)、サミュエル・コンテスティ(イタリア)ら新顔のベテランも実力を伸ばしてきた。ここにさらに、世界選手権初出場で8位のデニス・テン(カザフスタン)、世界ジュニア2連覇のアダム・リッポン(米国)といったさらなる若手も加わり、五輪シーズンは面白くなるぞ、と思った矢先――トリノ五輪金メダリスト、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)、同じく銀メダリストのランビエールの競技復帰が相次いで発表され、世界中のスケートファンを驚愕(きょうがく)させた。そして日本の高橋も、右ひざ前十字じん帯断裂のけがから満を持して復帰する――。
もう役者がそろいすぎて、どこに注目していいのか見当もつかない。ベテラン、復帰組、躍進組、若手、超若手と入り乱れて、金メダル候補が10人、いやそれ以上いる、と言ってもいいほどだ。
■個性派ぞろいの「ベテラン世代トップ6」
まずはトリノ五輪1位から8位までの選手中、現役で残っている6人。彼らがまずは「ベテラン世代のトップ6」といっていいだろう。
トリノ優勝のプルシェンコ、2位のランビエール、4位のエヴァン・ライザチェク(米国)、5位のジョニー・ウィアー(米国)、6位のブライアン・ジュベール(フランス)、そして8位の高橋。
トリノ五輪では、王者プルシェンコの一人勝ちが始まる前から予想できたが、今シーズンはそうはいかない。プルシェンコがけがの療養などで試合に出なかった3年間に、ランビエール、ジュベール、ライザチェクは世界チャンピオンとなり、ウィアーと高橋もそれぞれ世界選手権メダリストとなるほど成長。かつてのライバルたちがプルシェンコに追い付き、実力が拮抗(きっこう)する中、グランプリシリーズでも一戦一戦で勝者が変わるほどの激戦を見せてくれるだろう(注:ランビエールのみ、グランプリシリーズへのエントリーはない)。
彼らは年齢でいえば23歳から26歳。高橋に言わせると、「ずっと一緒に戦ってきたオジサン世代」とのことだが、この6人、高い技術を持つだけでなく、それぞれが超個性派だったことも、今、男子フィギュアスケートを面白くしている要因の一つだ。
■ジャンプのジュベール、存在感光る米2選手
まずは男子スケート最大の魅力である、4回転ジャンプの申し子、ジュベール。筋肉の塊のような彼の体がパワフルに4回回って着氷した瞬間、リンクは勝どきに似た大歓声に包まれる。今年もフランス国内で行われたローカル試合からトゥループ、サルコウと2種類の4回転に挑んだようで、シーズン初めからジャンプでこの時代を制する者たらんと、意欲的だ。
一方で4回転ジャンプを回避することは多いものの、プログラムの芸術性や氷の上での存在感で大きくアピールできるのが、米国の二人。ウィアーは誰から教えられたものでもない、生まれ持った気品を滑ることで表現できるスケーターで、これまでは本人も愛してやまないロシア系振付師の作品を滑ることが多かった。それがオリンピックシーズン、キム・ヨナ(韓国)の振付師としておなじみのデービッド・ウィルソンに振付けを依頼したことで大きな話題に。グランプリシリーズではウィアーの新プログラム、新境地に要注目だ。
トリプルアクセルまでのジャンプで昨シーズンの世界チャンピオンとなったライザチェクもまた、長い手足を生かして青年の感情をほとばしる演技で、強い存在感を持つ。今年は北米での五輪開催ということで、バンクーバーオリンピックの顔として、米国内からも強い期待を寄せられている一人。五輪CMなどへの登場も本人が存分に楽しんでいるようで、現世界チャンピオンの誇りを持ってシーズンインしてきそうだ。
■復帰果たすプルシェンコ、高橋、ランビエール
否が応にも注目度抜群の、ここ2シーズンの世界メダリストたち。しかし彼ら以上に今年のグランプリシリーズでの演技が楽しみな選手は、プルシェンコ、そして日本の高橋だろう。
プルシェンコの競技復帰、グランプリシリーズへの参戦。その発表は、誰もが「さすがにもうない」と思っていたことが現実になってしまった、そんな驚きの瞬間だった。トリノ後、一時はアスリートらしからぬ体形を見せてもいたが、現在は体のコンディションも整え、4回転のコンビネーションジャンプも難なく決めているという。ファンとしては、競技者としてのプルシェンコが再び見られると思うとわくわくが止まらない。また彼と戦う選手にとっても、「あのプルシェンコと戦える!」という喜びは何よりも大きいに違いない。プルシェンコに勝ってこそ、本当の王者――彼の復帰は、今シーズンの男子シングルの価値をいっそう高めたともいえる。
そしてグランプリシリーズ、日本中の、いや世界のスケートファンが復活を待ちに待ったもう一人が、高橋だ。すでに日本国内では、『フレンズ・オン・アイス』、『カーニバル・オン・アイス』などで元気な姿を見せ、いっそう柔らかさを増した演技、さらに伸びやかになったスケートで、「やはり大輔!」と見る者をうならせた。特に『カーニバル・オン・アイス』では、プログラムの中でトリプルアクセルにも成功。この一年間、リハビリも、その後の氷上練習もいい調子でこなしてきた中、『フレンズ・オン・アイス』後に一度、ジャンプの調子を落とした時期もあったという。その影響で、4回転ジャンプを取り戻すところまでは現時点(10月上旬)では達していないが、シリーズ登場は4戦目NHK杯と6戦目のスケートカナダ。そこまでには間に合わせたい、と意欲は十分だ。あとは1年のブランクで失っていた試合勘を、取り戻せるかどうか。
グランプリシリーズには出場しないが、ここに加わってくるのが、二度の世界チャンピオン経験者、ランビエール。この同世代の6人、全員が勢ぞろいするだけでも、バンクーバー五輪シーズンの男子シングルは、本当に見逃せないものとなりそうだ。
■新世代を代表するチャンと小塚
6人の最強のベテランたち。彼らを追いかけ、ひょっとしたら追い越すかもしれない新人たちにも、ぜひ注目してみたい。筆頭は、何といっても昨シーズンの世界銀メダリスト、チャン。まだ18歳という若さだが、スケーティングの質をとっても、見る人を引き込む音楽表現をとっても、すでに老成した感がある。一方で4回転ジャンプの成功は、年齢的にもまだまだこれから。しかし限られたジャンプでもベテラン6人を食っていく可能性は十分あり、地元開催の五輪を前に、まずグランプリでどこまで行くかは見ものだ。
チャンと同じく、昨年のグランプリシリーズで快進撃を見せ、ファイナル2位まで進んだ小塚のさらなる飛躍にも期待したい。彼は昨シーズンの「テイクファイブ」「ロミオとジュリエット」という二つのプログラムが、その若々しさとスケーティングにあまりにもマッチしていたことが記憶に新しい。今シーズンは、すでに披露しているエレキギターのプログラムを自分のものにできるかがどうか、それがまず前半戦、鍵になるだろう。
■さらなる若手、テンとリッポンにも注目
また今シーズン、一気に伸びてきそうな若手として、カザフスタンのテンを挙げておきたい。3月の世界選手権フリーでは、まったく無名の初出場選手ながら、パーフェクトかつパワフルな演技で会場を熱狂させた16歳。今、気になる男子選手として、「デニス君!」と浅田真央(中京大)がその名を挙げるほど、ファンにもスケーターにも注目されている選手だ。162センチという小さな体、またシニアのグランプリシリーズは初めての体験。それでも今シーズン、誰よりも怖いものなしで激戦の男子シングルに旋風を巻き起こしてくれそうだ。
20代以下の選手ではもう一人、米国のアダム・リッポンからも目が離せない。昨シーズン途中、コーチをキム・ヨナと同じブライアン・オーサーに変更。前コーチ、ニコライ・モロゾフの元で磨いた華やかさに、試合での確実性を加え、高得点で世界ジュニアチャンピオンとなった。オリンピックでも十分活躍できそうな選手だが、米国代表になるためには国内の有力選手たち、そして同世代のライバルたちを打ち破らなければならない厳しい立場にある。だからこそシーズン前半のグランプリシリーズから飛ばして行くだろうリッポン。日本のアイスショーも大いに沸かせた、貴公子のような、やんちゃな少年のような、魅力的な世界をまた見せてくれるだろう。
■アンダー20のスタートダッシュは!?
チャン、小塚、リッポンを中心に、今シーズンは20代以下の世代で期待できる選手はまだまだ多い。米国のブランドン・ムロズ、カナダのケヴィン・レイノルズ、フランスのフローラン・アモディオ、日本の無良崇人(中京大)など、国内での激戦を勝ち抜いてオリンピック出場権を狙いたい選手たちは特に、グランプリシリーズでスタートダッシュできるかどうかが気になる。さらにチェコのミハル・ブレジナ、スペインのファビエル・フェルナンデスら、グランプリ初お目見えの10代も、ジュニアでの前評判が高く、ぜひ名前を覚えておいてほしいスケーターだ。
高い実績のあるベテランVSアンダー20の新人たち。ここにさらに中堅のトマーシュ・ヴェルネル(チェコ)、アボット、織田信成(関西大)ら、ファイナル進出経験のある選手たちもおとなしくはしていないだろう。グランプリシリーズ6戦すべて、参加選手すべてから目が離せない……そんな夢のようなシーズンが、もうすぐ始まる。
フィギュアスケート、グランプリシリーズ展望
2強の浅田、キム・ヨナを20代が追う 女子編
■女子シングルをリードする浅田とキム・ヨナ
一体だれが勝つのか分からない男子シングル。それに比べれば、女子シングルは比較的上位メンバーが落ち着いた状態でオリンピックシーズンを迎えたといっていいだろう。
やはり強いのは、2007年安藤美姫(トヨタ自動車)、08年浅田真央(中京大)、そして09年キム・ヨナ(韓国)の、3人の世界チャンピオン。さらにこの3年間で世界選手権表彰台に乗っているカロリナ・コストナー(イタリア)とジョアニー・ロシェット(カナダ)。10月15日から始まるグランプリシリーズもこの5人を軸に展開していくことになりそうだ。
まずは2強と目されているのが19歳のふたり、浅田とキム・ヨナ。スコアで見れば自己ベストはキム・ヨナ207.71点、浅田201.87点と、世界でたった二人だけ200点台をマークしていることからも、今年は二人のライバル対決の集大成、という声が高い。
浅田はこの夏、得意のトリプルアクセルの精度をさらに高め、トリプルアクセル−トリプルトゥループという男子のトップ選手並みのコンビネーションジャンプも習得。常に高い目標を掲げてモチベーションをアップし、淡々と練習をこなすという、浅田らしいオフシーズンを送ってきた。
一方でキム・ヨナも、観客への吸引力をいっそう増したスケートを韓国のアイスショーにて披露。コーチのブライアン・オーサー、振付師のデービッド・ウィルソンともしっかりした信頼関係を築き、王道でない新プログラム作りを含め、オリンピックへの準備は万端のようだ。
しかしまだ19歳になったばかりの二人には、不安要素もある。特にキム・ヨナは、たった一人で韓国国民の期待すべてを背負って金メダルを取りに行く大きな使命に、どこまで耐えられるか。夏以降、取材もすべてシャットアウトしており、韓国メディアもほとんど彼女の今の状態を把握できていないという。ここまでの厳戒態勢が、逆にキム・ヨナの心理面で負担にならないか、少し気にかかるところだ。
また浅田も昨シーズンから、小さな不安を心に抱えたまま試合に臨むことがあり、そんな時には彼女本来の、晴ればれとした滑りを見せられないことも多い。
同じ時代にアジアに現れた二人のスター。ジュニアの頃から磨き合ってきた二人が、二人ともに最高の舞台で最高の演技を見せる――そのためにグランプリシリーズでどんな準備をしていくのか、見守っていきたい。
■安藤、ロシェット、コストナーの追い上げに期待
また今シーズンは、浅田、キム・ヨナの二人の10代を追い上げる3人の20代にもぜひ注目したい。
日本の安藤は、06年から師事しているニコライ・モロゾフコーチの下、トリノ五輪後も山あり谷ありの競技人生を送ってきたが、今シーズンは昨年同様、非常に充実したメンタルで練習に臨めているという。「ジャンプの安藤」でありながら、今シーズンは4回転にもそれほどこだわらず、「オリンピックで見せたいもの」を披露するため、しっかりとプログラムの滑りこみに力を入れているようだ。
一方話題となっているのは、昨シーズン世界選手権2位に入り、初めてワールドメダルを手にしたロシェットの好調ぶり。10月に日本で開催されたジャパンオープンでは、シーズン序盤ながらパーソナルベストを更新するフリーを見せ、ジャンプの確実さと力強い存在感をアピール。地元カナダ開催のオリンピックに向け、エンジン全開なところを見せてくれた。
さらに安藤、ロシェットと同世代のコストナー。世界選手権で2度、グランプリファイナルで2度メダルを得ているトップスケーターだが、昨シーズンの世界選手権では12位と大きく沈んでしまった。高い技術と美しい音楽表現力を持ち合わせるスケーターだが、プレッシャーに弱く、試合でなかなか本領を発揮できないと言われて久しい。しかしこのオフシーズンは、慣れ親しんだミヒャエル・フースコーチの下を離れ、米ロサンゼルスにて名将フランク・キャロルに師事。新天地で気分を変えたことで「優しすぎる」アスリートがどう変わったか、興味深く見ていきたい。
安藤、ロシェット、コストナー。この3人は、やはりジュニア時代から試合で顔を合わせることが多く、「6点満点時代を知っている同世代」として、なかなか気の合う仲間だとか。それぞれに艱難(かんなん)辛苦の10代を越え、今、大人のスケーターとして成熟しつつある3人。2度目となるオリンピックシーズンが、それぞれにとって誇れる一年になれば、と思う。10代対決に、さらに大人の女性の華やかさを持った3人が絡み合えば、オリンピックシーズンの女子シングル、この上なく見応えあるものになるだろう。
■成長著しい10代のライジングスター
では5人の世界選手権メダリストに迫る選手は誰か? 今年、一気に伸びそうな世代として、やはり米国とロシアの10代が怖い存在だろうか。
筆頭は世界選手権5位のレイチェル・フラット(米国)。ジャンプにもスケーティングにも難がなく、バランスの良い選手として知られていたが、昨シーズンは大きな試合でしっかり結果を出し、パワフルな演技で何度も拍手喝さいを浴びた。米国は選手層の厚さに比して、オリンピック代表になれる選手はたったふたり。国内戦からし烈な競争となりそうだが、まずはフラットが頭一つ抜けたといっていいだろう。
ロシアからは、やはり昨シーズン急成長した現世界ジュニアチャンピオン、アリーナ・レオノワが名乗りを上げている。イリーナ・スルツカヤの引退以降、なかなか秀でた後継者が現れなかったロシア女子だが、レオノワはロシア人として8年ぶりに世界ジュニアを制し、その勢いで初出場の世界選手権でも7位。スポーティーでガッツポーズも良く似合う選手だが、今シーズンもすでにフィンランディア杯で村主章枝、ラウラ・レピスト(フィンランド)らを抑えて優勝しており、気合いは十分入っていそうだ。
フラット、レオノワといった昨年のライジングスターに加え、それ以前から注目を集めていたキャロライン・ジャン、長洲未来(ともに米国)らも、伸び悩みの時期を抜けてもうひと成長が期待できそうな10代。この中からトップ5に割って入る選手が出てくるかもしれない。
■中野、村主ら中堅、ベテラン選手にも注目
期待を込めて10代を先に紹介してしまったが、おなじみの中堅選手たちにも、グランプリファイナルを狙って奮闘してくれそうなスケーターはたくさんいる。
10月のジャパンオープンには故障のため来日できなかったが、バンクーバーは出場すれば3度目の五輪となるサラ・マイヤー(スイス)の、ベテランながらピュアでみずみずしい演技も楽しみにしたい。有力選手の多いフィンランドからは、現ヨーロッパチャンピオン、ラウラ・レピストの美しいスケーティング、それが引き立つ確実なジャンプが見られるかどうか。さらには、トリノ五輪以来の競技復帰となるサーシャ・コーエン(米国)がどこまで試合に向けてコンディションを整えてくるかも注目だ。ふくらはぎの負傷によりエリック・ボンパール杯は欠場するが、第5戦のスケート・アメリカで、またあのため息の出るようなスパイラルや情熱的なパフォーマンスが見られるだろうか。
また日本からは3人のベテラン、中野友加里(プリンスホテル)、村主章枝(Ak)、鈴木明子(邦和スポーツランド)の五輪代表争いもかかった前半戦は、大きな話題となるだろう。
中野はトリノ五輪出場を惜しいところで逃してから4年。美しさも基礎技術力も毎年のようにアップし続け、世界トップ5の常連となった選手だ。自らのスケート人生の「ゴール」として位置付けた今シーズン、師事して6年目の佐藤信夫コーチのスケート哲学と、体に染み込んだマリーナ・ズウェアの作品を手に、スケーター・中野はどんな完成図を見せてくれるのか。
その中野を抑え、昨年は見事3年ぶりに世界選手権出場を果たしたのが村主。今年29歳ながら長年トップスケーターとして体を張り続け、「体力面はまったく問題ない、まだまだいける」と言ってのけるスタミナには舌を巻く。トリノ五輪後は毎年コーチを変え、相次ぐ環境変化に苦労もしたようだが、多くの名コーチから学んだことをすべて蓄え、3度目のオリンピックを狙っていく。
そして今シーズン、グランプリシリーズでも五輪代表争いでも台風の目となりそうなのが、24歳の鈴木。ご存じのように病気を乗り越えてリンクに戻ってきた選手だが、昨年のNHK杯銀メダルですっかりお茶の間にも名を知られ、オリンピック出場を本気で狙える選手となった。今年はグランプリシリーズでも初めて2戦エントリー。ファイナル進出のチャンスも得る中で、プログラムにはシェイ・リーン・ボーン振付けの『ウエストサイド・ストーリー』という自信作を用意。村主、中野のような実績や経験はまだない選手だが、もともとは一つ下の中野と子ども時代から競ってきた実力者だ。
浅田、安藤に加えてベテラン3人、さらに追いかける選手たちも含めて、記憶に残る素晴らしい五輪代表争いが繰り広げられることを期待したい。
選手寿命の短い女子シングルの選手にとっては、4年に一度のオリンピックイヤーが旬の時期にやってくるかどうかは、運によるところが非常に大きい。本当はオリンピックシーズンばかりでなく、毎年毎年の動向を見て素晴らしい選手たちの成長を追いかけたいところだ。
しかしやはり冬季五輪の華は、女子シングル。一人、二人のスターだけではなく、世界中に散りばめられた宝石のように、美しく気高い選手たちがこのスポーツを輝かせている。宝石たちの華やかな“供宴”は、4年に一度だけフィギュアスケートに注目する人々をも、きっと虜(とりこ)にしてくれるだろう。
*** 以上、記事より ***
ランビ復活! とか、デー復帰とか、プルシェンコもコーエンも出てきますよ! とかとかとか。
と思ったら、コーエンはエリック欠場かー。残念。
プロアマ混合3地域対抗戦「ジャパンオープン」
大きな悲鳴が起きたわけではないが、どよめきが生まれたのは確かだった。フィギュアスケートのプロアマ混合3地域対抗戦「ジャパンオープン」は、4連覇を期待された日本チームがダントツの最下位に沈むという意外な結末を迎えた。男子2名、女子2名で構成された各チームが合計得点を争い、欧州チームが464.03点で初優勝。2位は、きん差の463.90点で北米チーム。日本チームは大きく離された434.17点で3位だった。大会はISU(国際スケート連盟)主催の公式戦ではなく、アマチュア選手は来年2月のバンクーバー冬季五輪でピークを迎えるよう調整をしている段階だ。今後の試合でも同様の順位や得点差が生まれると単純には考えにくく、結果自体は日本勢にとって悲観すべきものではない。しかし、内容面で今後のシーズンに一抹の不安を残したのは気がかりだ。アマ競技を引退しているプロ選手の点数が伸びない、あるいは特定の選手の状態が悪くてブレーキになるという敗因は十分に考えられたが、今回は浅田真央(中京大)ら日本が誇るバンクーバーのメダル候補3人が総崩れ(もう1人はプロの本田武史が参加)。対照的に海外勢は好調で、いきなり自己ベストを出す選手も出るなど、順調な調整ぶりを印象付けた。
■浅田「ジャンプが決まらないと良い流れが出ない」
大会はチーム順位もさることながら、浅田ら世界のトップスケーターが新シーズンのフリースケーティングを披露することが大きな関心を呼んでいた。黒と青の衣装でリンクに登場した最終滑走者の浅田は、ラスマニノフの「鐘」で3回転半ジャンプ(トリプルアクセル=以下、3A)を二つ組み込んだ高難度の演技構成に臨んだが、2回転トウループへのコンビネーションを狙った冒頭の3Aで着氷後に転倒。さらに続けて跳んだ3Aは、ジャンプのタイミングが合わずに回転不足のままジャンプを降りてしまう「パンク」の失敗で1Aとなった。さらに、苦手の3回転サルコウでもパンク。102.94点と伸び悩み、日本を逆転優勝に導くことはできなかった。「初めて(観衆の前で)フリースケーティングを滑ったけど、たくさん課題が残った。自分でも『どうなるかな』と思う気持ちが強くて、練習してきたことが出し切れなかった。(プログラム自体に)物語はないので、ジャンプが決まらないと良い流れが出てこない」と浅田。荘厳なピアノ曲を演技の迫力に変えることができなかった失敗を悔やんだ。このほか、「火の鳥」を披露した女子の中野友加里(プリンスホテル)も冒頭の3Aを失敗。転倒で右肩を痛めたこともあり、その後も精彩を欠いた。男子の小塚崇彦(トヨタ自動車)は「ギター・コンツェルト」を披露したが、4回転トウループが2回転になり、3回転サルコウでパンクするなど、こちらもミスが目立った。
■ロシェットは自己ベストを更新
一方、海外勢は思わぬ好調ぶりを見せた。これまで日本で行われる団体戦やエキシビションマッチでは、まじめにコンディションを整えてくる日本勢に対し、海外勢は状態がまちまちということが珍しくなかった。しかし、今回は五輪で地元の星としてメダルの期待がかかる女子シングルのジョアニー・ロシェット(カナダ)や、今季で現役復帰する男子のステファン・ランビエル(スイス)らが、シーズン序盤から五輪に向けて着実にステップを踏んでいることをうかがわせた。「サムソンとデリラ」を披露したロシェットは、冒頭の連続ジャンプでミスがあったものの、2つのスピンでレベル4(最高難度)の判定を受けるなど見事な出来栄えで自己ベストとなる126.39点をマーク。「シーズンの良いスタートを切った形だけど、まだスピードとパワーが不足している」と、今後のさらなる向上にも意欲的だった。男子のランビエルは「オトロ・ポルテーニョ」で、腕を大きく動かしながら独特の世界を表現。4回転ジャンプは転倒したが、圧倒的な高速スピンは健在で、今大会の参加選手では最高の150.52点を記録し「正直に言って(引退の理由となった腰の負傷で)まだ痛みがあるけど、腰に負担がかからないようにコントロールしながらやっている」と、こちらも復調途上をアピールした。
■本格的なシーズン開幕は目前
残念ながら今回は不発に終わった日本勢だが、このまま沈んでいくはずはない。浅田はこれまでも不調を覆して驚異的な強さを見せた過去がある。中野は「今回はシーズン初戦だったので緊張感もあって気が回らなかったが、何を表現し、どのように滑りたいのかを明確に演技して、お客さんに伝えられるように練習を積みたい。プログラムも2日前に変えたばかりでなじんでいないし、本当はもう一つレベルの高い構成にして、決められるようになりたいという目標はある」と、今後について連続3回転ジャンプも取り入れていく可能性を示唆している。大会後に同会場で行われたアイスショー「カーニバル・オン・アイス」で演技を見せた安藤美姫(トヨタ自動車)や、ショーナンバーで軽やかに3Aを決めた高橋大輔(関大大学院)を含めた日本勢と、好調な滑り出しを見せている海外勢との“ガチンコ対決”は、10月15日から行われるエリック・ポンパール杯を初戦とするグランプリシリーズで本格的な幕開けを迎える。この日残された不安は単なる杞憂(きゆう)か、苦闘の予兆か。五輪シーズンの緊張感が張り詰めていく。
フィギュアスケート、グランプリシリーズ展望
高橋ら金メダル候補は10人以上 男子編
フィギュアスケート男子シングル。注目度においては女子に一歩、二歩譲ることの多いこの種目だが、グランプリシリーズが10月15日から始まる今シーズンは何十年に一度かの充実期、と言っていいかもしれない。
2006年トリノ五輪でトップを競った世代がほぼそのまま競技に残り、バンクーバー五輪も同じメンバーで競われるだろうと予想されていた4年前。昨シーズンはジェフリー・バトル(カナダ)、ステファン・ランビエール(スイス)の引退、高橋大輔(関西大学大学院)のけがによる戦線離脱といったショッキングな出来事はあったが、その代わりにパトリック・チャン(カナダ)、小塚崇彦(トヨタ自動車)といった若手、ジェレミー・アボット(米国)、サミュエル・コンテスティ(イタリア)ら新顔のベテランも実力を伸ばしてきた。ここにさらに、世界選手権初出場で8位のデニス・テン(カザフスタン)、世界ジュニア2連覇のアダム・リッポン(米国)といったさらなる若手も加わり、五輪シーズンは面白くなるぞ、と思った矢先――トリノ五輪金メダリスト、エフゲニー・プルシェンコ(ロシア)、同じく銀メダリストのランビエールの競技復帰が相次いで発表され、世界中のスケートファンを驚愕(きょうがく)させた。そして日本の高橋も、右ひざ前十字じん帯断裂のけがから満を持して復帰する――。
もう役者がそろいすぎて、どこに注目していいのか見当もつかない。ベテラン、復帰組、躍進組、若手、超若手と入り乱れて、金メダル候補が10人、いやそれ以上いる、と言ってもいいほどだ。
■個性派ぞろいの「ベテラン世代トップ6」
まずはトリノ五輪1位から8位までの選手中、現役で残っている6人。彼らがまずは「ベテラン世代のトップ6」といっていいだろう。
トリノ優勝のプルシェンコ、2位のランビエール、4位のエヴァン・ライザチェク(米国)、5位のジョニー・ウィアー(米国)、6位のブライアン・ジュベール(フランス)、そして8位の高橋。
トリノ五輪では、王者プルシェンコの一人勝ちが始まる前から予想できたが、今シーズンはそうはいかない。プルシェンコがけがの療養などで試合に出なかった3年間に、ランビエール、ジュベール、ライザチェクは世界チャンピオンとなり、ウィアーと高橋もそれぞれ世界選手権メダリストとなるほど成長。かつてのライバルたちがプルシェンコに追い付き、実力が拮抗(きっこう)する中、グランプリシリーズでも一戦一戦で勝者が変わるほどの激戦を見せてくれるだろう(注:ランビエールのみ、グランプリシリーズへのエントリーはない)。
彼らは年齢でいえば23歳から26歳。高橋に言わせると、「ずっと一緒に戦ってきたオジサン世代」とのことだが、この6人、高い技術を持つだけでなく、それぞれが超個性派だったことも、今、男子フィギュアスケートを面白くしている要因の一つだ。
■ジャンプのジュベール、存在感光る米2選手
まずは男子スケート最大の魅力である、4回転ジャンプの申し子、ジュベール。筋肉の塊のような彼の体がパワフルに4回回って着氷した瞬間、リンクは勝どきに似た大歓声に包まれる。今年もフランス国内で行われたローカル試合からトゥループ、サルコウと2種類の4回転に挑んだようで、シーズン初めからジャンプでこの時代を制する者たらんと、意欲的だ。
一方で4回転ジャンプを回避することは多いものの、プログラムの芸術性や氷の上での存在感で大きくアピールできるのが、米国の二人。ウィアーは誰から教えられたものでもない、生まれ持った気品を滑ることで表現できるスケーターで、これまでは本人も愛してやまないロシア系振付師の作品を滑ることが多かった。それがオリンピックシーズン、キム・ヨナ(韓国)の振付師としておなじみのデービッド・ウィルソンに振付けを依頼したことで大きな話題に。グランプリシリーズではウィアーの新プログラム、新境地に要注目だ。
トリプルアクセルまでのジャンプで昨シーズンの世界チャンピオンとなったライザチェクもまた、長い手足を生かして青年の感情をほとばしる演技で、強い存在感を持つ。今年は北米での五輪開催ということで、バンクーバーオリンピックの顔として、米国内からも強い期待を寄せられている一人。五輪CMなどへの登場も本人が存分に楽しんでいるようで、現世界チャンピオンの誇りを持ってシーズンインしてきそうだ。
■復帰果たすプルシェンコ、高橋、ランビエール
否が応にも注目度抜群の、ここ2シーズンの世界メダリストたち。しかし彼ら以上に今年のグランプリシリーズでの演技が楽しみな選手は、プルシェンコ、そして日本の高橋だろう。
プルシェンコの競技復帰、グランプリシリーズへの参戦。その発表は、誰もが「さすがにもうない」と思っていたことが現実になってしまった、そんな驚きの瞬間だった。トリノ後、一時はアスリートらしからぬ体形を見せてもいたが、現在は体のコンディションも整え、4回転のコンビネーションジャンプも難なく決めているという。ファンとしては、競技者としてのプルシェンコが再び見られると思うとわくわくが止まらない。また彼と戦う選手にとっても、「あのプルシェンコと戦える!」という喜びは何よりも大きいに違いない。プルシェンコに勝ってこそ、本当の王者――彼の復帰は、今シーズンの男子シングルの価値をいっそう高めたともいえる。
そしてグランプリシリーズ、日本中の、いや世界のスケートファンが復活を待ちに待ったもう一人が、高橋だ。すでに日本国内では、『フレンズ・オン・アイス』、『カーニバル・オン・アイス』などで元気な姿を見せ、いっそう柔らかさを増した演技、さらに伸びやかになったスケートで、「やはり大輔!」と見る者をうならせた。特に『カーニバル・オン・アイス』では、プログラムの中でトリプルアクセルにも成功。この一年間、リハビリも、その後の氷上練習もいい調子でこなしてきた中、『フレンズ・オン・アイス』後に一度、ジャンプの調子を落とした時期もあったという。その影響で、4回転ジャンプを取り戻すところまでは現時点(10月上旬)では達していないが、シリーズ登場は4戦目NHK杯と6戦目のスケートカナダ。そこまでには間に合わせたい、と意欲は十分だ。あとは1年のブランクで失っていた試合勘を、取り戻せるかどうか。
グランプリシリーズには出場しないが、ここに加わってくるのが、二度の世界チャンピオン経験者、ランビエール。この同世代の6人、全員が勢ぞろいするだけでも、バンクーバー五輪シーズンの男子シングルは、本当に見逃せないものとなりそうだ。
■新世代を代表するチャンと小塚
6人の最強のベテランたち。彼らを追いかけ、ひょっとしたら追い越すかもしれない新人たちにも、ぜひ注目してみたい。筆頭は、何といっても昨シーズンの世界銀メダリスト、チャン。まだ18歳という若さだが、スケーティングの質をとっても、見る人を引き込む音楽表現をとっても、すでに老成した感がある。一方で4回転ジャンプの成功は、年齢的にもまだまだこれから。しかし限られたジャンプでもベテラン6人を食っていく可能性は十分あり、地元開催の五輪を前に、まずグランプリでどこまで行くかは見ものだ。
チャンと同じく、昨年のグランプリシリーズで快進撃を見せ、ファイナル2位まで進んだ小塚のさらなる飛躍にも期待したい。彼は昨シーズンの「テイクファイブ」「ロミオとジュリエット」という二つのプログラムが、その若々しさとスケーティングにあまりにもマッチしていたことが記憶に新しい。今シーズンは、すでに披露しているエレキギターのプログラムを自分のものにできるかがどうか、それがまず前半戦、鍵になるだろう。
■さらなる若手、テンとリッポンにも注目
また今シーズン、一気に伸びてきそうな若手として、カザフスタンのテンを挙げておきたい。3月の世界選手権フリーでは、まったく無名の初出場選手ながら、パーフェクトかつパワフルな演技で会場を熱狂させた16歳。今、気になる男子選手として、「デニス君!」と浅田真央(中京大)がその名を挙げるほど、ファンにもスケーターにも注目されている選手だ。162センチという小さな体、またシニアのグランプリシリーズは初めての体験。それでも今シーズン、誰よりも怖いものなしで激戦の男子シングルに旋風を巻き起こしてくれそうだ。
20代以下の選手ではもう一人、米国のアダム・リッポンからも目が離せない。昨シーズン途中、コーチをキム・ヨナと同じブライアン・オーサーに変更。前コーチ、ニコライ・モロゾフの元で磨いた華やかさに、試合での確実性を加え、高得点で世界ジュニアチャンピオンとなった。オリンピックでも十分活躍できそうな選手だが、米国代表になるためには国内の有力選手たち、そして同世代のライバルたちを打ち破らなければならない厳しい立場にある。だからこそシーズン前半のグランプリシリーズから飛ばして行くだろうリッポン。日本のアイスショーも大いに沸かせた、貴公子のような、やんちゃな少年のような、魅力的な世界をまた見せてくれるだろう。
■アンダー20のスタートダッシュは!?
チャン、小塚、リッポンを中心に、今シーズンは20代以下の世代で期待できる選手はまだまだ多い。米国のブランドン・ムロズ、カナダのケヴィン・レイノルズ、フランスのフローラン・アモディオ、日本の無良崇人(中京大)など、国内での激戦を勝ち抜いてオリンピック出場権を狙いたい選手たちは特に、グランプリシリーズでスタートダッシュできるかどうかが気になる。さらにチェコのミハル・ブレジナ、スペインのファビエル・フェルナンデスら、グランプリ初お目見えの10代も、ジュニアでの前評判が高く、ぜひ名前を覚えておいてほしいスケーターだ。
高い実績のあるベテランVSアンダー20の新人たち。ここにさらに中堅のトマーシュ・ヴェルネル(チェコ)、アボット、織田信成(関西大)ら、ファイナル進出経験のある選手たちもおとなしくはしていないだろう。グランプリシリーズ6戦すべて、参加選手すべてから目が離せない……そんな夢のようなシーズンが、もうすぐ始まる。
フィギュアスケート、グランプリシリーズ展望
2強の浅田、キム・ヨナを20代が追う 女子編
■女子シングルをリードする浅田とキム・ヨナ
一体だれが勝つのか分からない男子シングル。それに比べれば、女子シングルは比較的上位メンバーが落ち着いた状態でオリンピックシーズンを迎えたといっていいだろう。
やはり強いのは、2007年安藤美姫(トヨタ自動車)、08年浅田真央(中京大)、そして09年キム・ヨナ(韓国)の、3人の世界チャンピオン。さらにこの3年間で世界選手権表彰台に乗っているカロリナ・コストナー(イタリア)とジョアニー・ロシェット(カナダ)。10月15日から始まるグランプリシリーズもこの5人を軸に展開していくことになりそうだ。
まずは2強と目されているのが19歳のふたり、浅田とキム・ヨナ。スコアで見れば自己ベストはキム・ヨナ207.71点、浅田201.87点と、世界でたった二人だけ200点台をマークしていることからも、今年は二人のライバル対決の集大成、という声が高い。
浅田はこの夏、得意のトリプルアクセルの精度をさらに高め、トリプルアクセル−トリプルトゥループという男子のトップ選手並みのコンビネーションジャンプも習得。常に高い目標を掲げてモチベーションをアップし、淡々と練習をこなすという、浅田らしいオフシーズンを送ってきた。
一方でキム・ヨナも、観客への吸引力をいっそう増したスケートを韓国のアイスショーにて披露。コーチのブライアン・オーサー、振付師のデービッド・ウィルソンともしっかりした信頼関係を築き、王道でない新プログラム作りを含め、オリンピックへの準備は万端のようだ。
しかしまだ19歳になったばかりの二人には、不安要素もある。特にキム・ヨナは、たった一人で韓国国民の期待すべてを背負って金メダルを取りに行く大きな使命に、どこまで耐えられるか。夏以降、取材もすべてシャットアウトしており、韓国メディアもほとんど彼女の今の状態を把握できていないという。ここまでの厳戒態勢が、逆にキム・ヨナの心理面で負担にならないか、少し気にかかるところだ。
また浅田も昨シーズンから、小さな不安を心に抱えたまま試合に臨むことがあり、そんな時には彼女本来の、晴ればれとした滑りを見せられないことも多い。
同じ時代にアジアに現れた二人のスター。ジュニアの頃から磨き合ってきた二人が、二人ともに最高の舞台で最高の演技を見せる――そのためにグランプリシリーズでどんな準備をしていくのか、見守っていきたい。
■安藤、ロシェット、コストナーの追い上げに期待
また今シーズンは、浅田、キム・ヨナの二人の10代を追い上げる3人の20代にもぜひ注目したい。
日本の安藤は、06年から師事しているニコライ・モロゾフコーチの下、トリノ五輪後も山あり谷ありの競技人生を送ってきたが、今シーズンは昨年同様、非常に充実したメンタルで練習に臨めているという。「ジャンプの安藤」でありながら、今シーズンは4回転にもそれほどこだわらず、「オリンピックで見せたいもの」を披露するため、しっかりとプログラムの滑りこみに力を入れているようだ。
一方話題となっているのは、昨シーズン世界選手権2位に入り、初めてワールドメダルを手にしたロシェットの好調ぶり。10月に日本で開催されたジャパンオープンでは、シーズン序盤ながらパーソナルベストを更新するフリーを見せ、ジャンプの確実さと力強い存在感をアピール。地元カナダ開催のオリンピックに向け、エンジン全開なところを見せてくれた。
さらに安藤、ロシェットと同世代のコストナー。世界選手権で2度、グランプリファイナルで2度メダルを得ているトップスケーターだが、昨シーズンの世界選手権では12位と大きく沈んでしまった。高い技術と美しい音楽表現力を持ち合わせるスケーターだが、プレッシャーに弱く、試合でなかなか本領を発揮できないと言われて久しい。しかしこのオフシーズンは、慣れ親しんだミヒャエル・フースコーチの下を離れ、米ロサンゼルスにて名将フランク・キャロルに師事。新天地で気分を変えたことで「優しすぎる」アスリートがどう変わったか、興味深く見ていきたい。
安藤、ロシェット、コストナー。この3人は、やはりジュニア時代から試合で顔を合わせることが多く、「6点満点時代を知っている同世代」として、なかなか気の合う仲間だとか。それぞれに艱難(かんなん)辛苦の10代を越え、今、大人のスケーターとして成熟しつつある3人。2度目となるオリンピックシーズンが、それぞれにとって誇れる一年になれば、と思う。10代対決に、さらに大人の女性の華やかさを持った3人が絡み合えば、オリンピックシーズンの女子シングル、この上なく見応えあるものになるだろう。
■成長著しい10代のライジングスター
では5人の世界選手権メダリストに迫る選手は誰か? 今年、一気に伸びそうな世代として、やはり米国とロシアの10代が怖い存在だろうか。
筆頭は世界選手権5位のレイチェル・フラット(米国)。ジャンプにもスケーティングにも難がなく、バランスの良い選手として知られていたが、昨シーズンは大きな試合でしっかり結果を出し、パワフルな演技で何度も拍手喝さいを浴びた。米国は選手層の厚さに比して、オリンピック代表になれる選手はたったふたり。国内戦からし烈な競争となりそうだが、まずはフラットが頭一つ抜けたといっていいだろう。
ロシアからは、やはり昨シーズン急成長した現世界ジュニアチャンピオン、アリーナ・レオノワが名乗りを上げている。イリーナ・スルツカヤの引退以降、なかなか秀でた後継者が現れなかったロシア女子だが、レオノワはロシア人として8年ぶりに世界ジュニアを制し、その勢いで初出場の世界選手権でも7位。スポーティーでガッツポーズも良く似合う選手だが、今シーズンもすでにフィンランディア杯で村主章枝、ラウラ・レピスト(フィンランド)らを抑えて優勝しており、気合いは十分入っていそうだ。
フラット、レオノワといった昨年のライジングスターに加え、それ以前から注目を集めていたキャロライン・ジャン、長洲未来(ともに米国)らも、伸び悩みの時期を抜けてもうひと成長が期待できそうな10代。この中からトップ5に割って入る選手が出てくるかもしれない。
■中野、村主ら中堅、ベテラン選手にも注目
期待を込めて10代を先に紹介してしまったが、おなじみの中堅選手たちにも、グランプリファイナルを狙って奮闘してくれそうなスケーターはたくさんいる。
10月のジャパンオープンには故障のため来日できなかったが、バンクーバーは出場すれば3度目の五輪となるサラ・マイヤー(スイス)の、ベテランながらピュアでみずみずしい演技も楽しみにしたい。有力選手の多いフィンランドからは、現ヨーロッパチャンピオン、ラウラ・レピストの美しいスケーティング、それが引き立つ確実なジャンプが見られるかどうか。さらには、トリノ五輪以来の競技復帰となるサーシャ・コーエン(米国)がどこまで試合に向けてコンディションを整えてくるかも注目だ。ふくらはぎの負傷によりエリック・ボンパール杯は欠場するが、第5戦のスケート・アメリカで、またあのため息の出るようなスパイラルや情熱的なパフォーマンスが見られるだろうか。
また日本からは3人のベテラン、中野友加里(プリンスホテル)、村主章枝(Ak)、鈴木明子(邦和スポーツランド)の五輪代表争いもかかった前半戦は、大きな話題となるだろう。
中野はトリノ五輪出場を惜しいところで逃してから4年。美しさも基礎技術力も毎年のようにアップし続け、世界トップ5の常連となった選手だ。自らのスケート人生の「ゴール」として位置付けた今シーズン、師事して6年目の佐藤信夫コーチのスケート哲学と、体に染み込んだマリーナ・ズウェアの作品を手に、スケーター・中野はどんな完成図を見せてくれるのか。
その中野を抑え、昨年は見事3年ぶりに世界選手権出場を果たしたのが村主。今年29歳ながら長年トップスケーターとして体を張り続け、「体力面はまったく問題ない、まだまだいける」と言ってのけるスタミナには舌を巻く。トリノ五輪後は毎年コーチを変え、相次ぐ環境変化に苦労もしたようだが、多くの名コーチから学んだことをすべて蓄え、3度目のオリンピックを狙っていく。
そして今シーズン、グランプリシリーズでも五輪代表争いでも台風の目となりそうなのが、24歳の鈴木。ご存じのように病気を乗り越えてリンクに戻ってきた選手だが、昨年のNHK杯銀メダルですっかりお茶の間にも名を知られ、オリンピック出場を本気で狙える選手となった。今年はグランプリシリーズでも初めて2戦エントリー。ファイナル進出のチャンスも得る中で、プログラムにはシェイ・リーン・ボーン振付けの『ウエストサイド・ストーリー』という自信作を用意。村主、中野のような実績や経験はまだない選手だが、もともとは一つ下の中野と子ども時代から競ってきた実力者だ。
浅田、安藤に加えてベテラン3人、さらに追いかける選手たちも含めて、記憶に残る素晴らしい五輪代表争いが繰り広げられることを期待したい。
選手寿命の短い女子シングルの選手にとっては、4年に一度のオリンピックイヤーが旬の時期にやってくるかどうかは、運によるところが非常に大きい。本当はオリンピックシーズンばかりでなく、毎年毎年の動向を見て素晴らしい選手たちの成長を追いかけたいところだ。
しかしやはり冬季五輪の華は、女子シングル。一人、二人のスターだけではなく、世界中に散りばめられた宝石のように、美しく気高い選手たちがこのスポーツを輝かせている。宝石たちの華やかな“供宴”は、4年に一度だけフィギュアスケートに注目する人々をも、きっと虜(とりこ)にしてくれるだろう。
*** 以上、記事より ***
ランビ復活! とか、デー復帰とか、プルシェンコもコーエンも出てきますよ! とかとかとか。
と思ったら、コーエンはエリック欠場かー。残念。
2009.09/09 [Wed]
日米親善高校野球09
日米親善高校野球大会
高校野球、日米親善試合に18選手 菊池雄は選ばれず
日本高校野球連盟は24日、日米親善試合に出場する18選手を発表した。日本高野連の技術・振興委員会のメンバーらが、この日終了した全国選手権の出場選手から選んだ。監督は大藤敏行・中京大中京監督、コーチは佐々木洋・花巻東監督が務める。花巻東の菊池雄は背筋痛の報告があり、選ばれなかった。
選抜チームは27日に結団式を行い、9月1日に米ロサンゼルスに向けて出発。練習試合を含めて計4試合を戦い、帰国は9日の予定。選ばれた選手は次の通り。
◇
▽投手(7人) (1)堂林翔太(中京大中京)右右 (2)伊藤直輝(日本文理)右右 (3)山田智弘(県岐阜商)右右 (4)新西貴利(都城商)右右 (5)佐藤朔弥(東北)右右 (6)庄司隼人(常葉橘)右左 (7)岡田俊哉(智弁和歌山)左左▽捕手(3人) (8)原口文仁(帝京)右右 (9)河野元貴(九州国際大付)右左 (10)山崎裕貴(関西学院)右右▽内野手(5人) (11)武石光司(日本文理)右左 (12)柏葉康貴(花巻東)右右 (13)河合完治(中京大中京)右左 (14)猿川拓朗(花巻東)右左 (15)今宮健太(明豊)右右▽外野手(3人) (16)伊藤隆比古(中京大中京)右左 (17)高橋義人(日本文理)右左 (18)江崎秋馬(県岐阜商)右右
(丸カッコ内の数字は背番号、左右は投打、全員3年)
日本選抜、米に勝利 親善高校野球第1戦
【コンプトン(米カリフォルニア州)=山下弘展】高校野球の日米親善試合(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)は5日(日本時間6日)、当地で第1戦があり、日本選抜が8―5で米国選抜に勝利した。
日本は1回、猿川(花巻東)の適時打で先制。2回には3本の二塁打などで3点を挙げてリードを広げるが、中盤以降、米国が反撃。同点の9回、堂林(中京大中京)のソロで勝ち越すと、以降も3安打などで突き放した。
日米2―2で引き分け 親善高校野球第2戦
【コンプトン(米カリフォルニア州)=山下弘展】高校野球の日米親善試合は6日、当地で第2戦があり、2―2で引き分けた。対戦成績は日本選抜の1勝1分け。7日に最終の第3戦がある。
日本は2回1死一、三塁から伊藤隆(中京大中京)の一ゴロの間に先取点。8回に1死二、三塁から猿川(花巻東)の遊ゴロの間に2点目を挙げたが、直後に2番手・新西(都城商)がつかまり、追いつかれた。
最終戦、日本敗れる 日米親善高校野球
【コンプトン(米カリフォルニア州)=山下弘展】高校野球の日米親善試合(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)は7日(日本時間8日)、当地で最終の第3戦があり、日本選抜は6―8で敗れた。通算成績は1勝1敗1分け。チームは日本時間9日に帰国する。
試合は序盤から点の取り合い。日本は1回に河合(中京大中京)の内野安打で1点を先取。2回も下位打線の連打など打者10人の攻撃で4点をあげたが、その度に米国に追いつかれた。1点リードの4回、伊藤直(日本文理)が2本塁打を浴びて逆転を許すと、その後は米国の投手陣を打ち崩せなかった。
*** 以上、記事より ***
上記記事は写真が色々載っていますが、試合内容についてはあっさり。
メンバー一覧や、スコアなどの結果詳細については、この記事最初の「日米親善高校野球大会」@高野連参照のこと。
それにしても……エキシビションも3-1で勝ったし、勝てると思ったんですけどねー。結局五分かー。
参戦した彼らの多くは、今月末開催の国体にも出場予定です。
これの前に、関東選抜がAAAに出場したんですけど……結果は3位でした。変則的な試合の組み合わせもよく分からなかったので割愛。何で8チーム出ていて、最後の試合しか勝てなかった日本が3位?
高校野球、日米親善試合に18選手 菊池雄は選ばれず
日本高校野球連盟は24日、日米親善試合に出場する18選手を発表した。日本高野連の技術・振興委員会のメンバーらが、この日終了した全国選手権の出場選手から選んだ。監督は大藤敏行・中京大中京監督、コーチは佐々木洋・花巻東監督が務める。花巻東の菊池雄は背筋痛の報告があり、選ばれなかった。
選抜チームは27日に結団式を行い、9月1日に米ロサンゼルスに向けて出発。練習試合を含めて計4試合を戦い、帰国は9日の予定。選ばれた選手は次の通り。
◇
▽投手(7人) (1)堂林翔太(中京大中京)右右 (2)伊藤直輝(日本文理)右右 (3)山田智弘(県岐阜商)右右 (4)新西貴利(都城商)右右 (5)佐藤朔弥(東北)右右 (6)庄司隼人(常葉橘)右左 (7)岡田俊哉(智弁和歌山)左左▽捕手(3人) (8)原口文仁(帝京)右右 (9)河野元貴(九州国際大付)右左 (10)山崎裕貴(関西学院)右右▽内野手(5人) (11)武石光司(日本文理)右左 (12)柏葉康貴(花巻東)右右 (13)河合完治(中京大中京)右左 (14)猿川拓朗(花巻東)右左 (15)今宮健太(明豊)右右▽外野手(3人) (16)伊藤隆比古(中京大中京)右左 (17)高橋義人(日本文理)右左 (18)江崎秋馬(県岐阜商)右右
(丸カッコ内の数字は背番号、左右は投打、全員3年)
日本選抜、米に勝利 親善高校野球第1戦
【コンプトン(米カリフォルニア州)=山下弘展】高校野球の日米親善試合(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)は5日(日本時間6日)、当地で第1戦があり、日本選抜が8―5で米国選抜に勝利した。
日本は1回、猿川(花巻東)の適時打で先制。2回には3本の二塁打などで3点を挙げてリードを広げるが、中盤以降、米国が反撃。同点の9回、堂林(中京大中京)のソロで勝ち越すと、以降も3安打などで突き放した。
日米2―2で引き分け 親善高校野球第2戦
【コンプトン(米カリフォルニア州)=山下弘展】高校野球の日米親善試合は6日、当地で第2戦があり、2―2で引き分けた。対戦成績は日本選抜の1勝1分け。7日に最終の第3戦がある。
日本は2回1死一、三塁から伊藤隆(中京大中京)の一ゴロの間に先取点。8回に1死二、三塁から猿川(花巻東)の遊ゴロの間に2点目を挙げたが、直後に2番手・新西(都城商)がつかまり、追いつかれた。
最終戦、日本敗れる 日米親善高校野球
【コンプトン(米カリフォルニア州)=山下弘展】高校野球の日米親善試合(朝日新聞社、日本高校野球連盟主催)は7日(日本時間8日)、当地で最終の第3戦があり、日本選抜は6―8で敗れた。通算成績は1勝1敗1分け。チームは日本時間9日に帰国する。
試合は序盤から点の取り合い。日本は1回に河合(中京大中京)の内野安打で1点を先取。2回も下位打線の連打など打者10人の攻撃で4点をあげたが、その度に米国に追いつかれた。1点リードの4回、伊藤直(日本文理)が2本塁打を浴びて逆転を許すと、その後は米国の投手陣を打ち崩せなかった。
*** 以上、記事より ***
上記記事は写真が色々載っていますが、試合内容についてはあっさり。
メンバー一覧や、スコアなどの結果詳細については、この記事最初の「日米親善高校野球大会」@高野連参照のこと。
それにしても……エキシビションも3-1で勝ったし、勝てると思ったんですけどねー。結局五分かー。
参戦した彼らの多くは、今月末開催の国体にも出場予定です。
これの前に、関東選抜がAAAに出場したんですけど……結果は3位でした。変則的な試合の組み合わせもよく分からなかったので割愛。何で8チーム出ていて、最後の試合しか勝てなかった日本が3位?
2009.08/26 [Wed]
サマーウォーズ
ふつーに泣けた。同じ映画で1度に複数箇所泣けるのはとても珍しい気が。一瞬ティッシュ何処入れたっけ、と手がバッグの中を探しそうになるくらいでしたが、そこまで崩壊することもなく。(どちらかというと涙腺砂漠なので、これだけでも凄いんですけど) ここしばらく完全に私の上に居座っていた憂鬱と苛々の虫も何処かに流されていったようです。体調は散々だったけど、それ押してでも行ってよかった。大プッシュしてくれた友人の推薦がなければ、ここまで無理して行かなかったかも知れない、と思って、ありがとうメールを打ちつつ帰ってきました。DVD出たら買うぞー。
●作中かっこいいと思った人・出てきた順。
1、キング・カズマ。ウサなのに男前って!! こんなウサギだったらどきどきそわそわします。
2、栄おばあちゃん。特に薙刀振り回したあたりとか。花札に曾孫の未来を賭けるか、とか。しかも勝っちゃうあたりがかっこいい。それと、電話しまくりのところに惚れました……あああこんなかっこいいおばあちゃんになりたい。(孫が欲しいという意味ではなく、90になっても生きていたら、こんなかっこいい人になれるような生き方をしたいという願望で)
3、理一さん。自衛隊の駐屯地から借用って! しかもそんなもの持ち出せる権限持っているって! どんな仕事しているんですか!!……健二の質問には答えずにさらっと流してしまったあたりで持っていかれた気がします。今パンフ見てみました。夏希メモによると独身だそうな。(そこそわそわするところと違う!(笑))
……以上、3名でした。
●私的泣けたポイント。
1、カズマが「お母さんと妹を守れなかった!」って泣いたところ。つい思わず貰い泣きってあんまりしないんですけど……。
2、ドイツの男の子が「僕のアカウントを使ってください」(うろ覚え)って申し出てくれるところ。うわぁぁって。……火垂るの墓では泣けなかったけど、あれは今の私の琴線に触れることがなかっただけなんだ、って結論でいいですか。
あ、そうそう。世界の滅亡を賭けた戦いの横で、普通に高校野球の長野大会が行われていたのも、ちょっと脱力系でよかったです。準決勝が佐久長聖と延長15回サヨナラ、で、決勝が松商学園と、でこれまた延長で24年ぶりの甲子園出場〜! って出た時には、(核爆発をどうにか防げて)それどころじゃないけどおめでとー! と思いました。ほら、高校野球好きですから(笑)。
宣言してしまったので、「破」3度目を(多分タダ券使って)見て、まだやっていたら2度目行こうかなー。余裕あったらですが。それにしても、見ている間は忘れていられた頭痛、慣れないことした(=量的には少なくても泣いた)せいか、今更ぶり返してきました……今までは興奮状態だったってことか。まぁ、「まぁいっか」の心が戻ってきたので、色々お釣りがくると思いました。心にゆとりは大切です。
●作中かっこいいと思った人・出てきた順。
1、キング・カズマ。ウサなのに男前って!! こんなウサギだったらどきどきそわそわします。
2、栄おばあちゃん。特に薙刀振り回したあたりとか。花札に曾孫の未来を賭けるか、とか。しかも勝っちゃうあたりがかっこいい。それと、電話しまくりのところに惚れました……あああこんなかっこいいおばあちゃんになりたい。(孫が欲しいという意味ではなく、90になっても生きていたら、こんなかっこいい人になれるような生き方をしたいという願望で)
3、理一さん。自衛隊の駐屯地から借用って! しかもそんなもの持ち出せる権限持っているって! どんな仕事しているんですか!!……健二の質問には答えずにさらっと流してしまったあたりで持っていかれた気がします。今パンフ見てみました。夏希メモによると独身だそうな。(そこそわそわするところと違う!(笑))
……以上、3名でした。
●私的泣けたポイント。
1、カズマが「お母さんと妹を守れなかった!」って泣いたところ。つい思わず貰い泣きってあんまりしないんですけど……。
2、ドイツの男の子が「僕のアカウントを使ってください」(うろ覚え)って申し出てくれるところ。うわぁぁって。……火垂るの墓では泣けなかったけど、あれは今の私の琴線に触れることがなかっただけなんだ、って結論でいいですか。
あ、そうそう。世界の滅亡を賭けた戦いの横で、普通に高校野球の長野大会が行われていたのも、ちょっと脱力系でよかったです。準決勝が佐久長聖と延長15回サヨナラ、で、決勝が松商学園と、でこれまた延長で24年ぶりの甲子園出場〜! って出た時には、(核爆発をどうにか防げて)それどころじゃないけどおめでとー! と思いました。ほら、高校野球好きですから(笑)。
宣言してしまったので、「破」3度目を(多分タダ券使って)見て、まだやっていたら2度目行こうかなー。余裕あったらですが。それにしても、見ている間は忘れていられた頭痛、慣れないことした(=量的には少なくても泣いた)せいか、今更ぶり返してきました……今までは興奮状態だったってことか。まぁ、「まぁいっか」の心が戻ってきたので、色々お釣りがくると思いました。心にゆとりは大切です。
2009.08/25 [Tue]
09夏・決勝
第91回全国高校野球:中京大中京10−9日本文理(その1) 決勝7度、無敗守る
◇決勝(24日・阪神甲子園球場)
◇土壇場の6点差、劇的せめぎ合い
日本文理(新潟)
011000115=9
20000620×=10
中京大中京(愛知)
==============
中京大中京が毎回の17安打、日本文理も14安打と、互いに持ち前の打力を存分に発揮した好ゲームとなった。
中京大中京は一回、堂林の右中間2ランで先制。一度は同点とされたが、六回2死満塁から、堂林の左前打、柴田の左越え二塁打などで一挙6点。七回にも、1死二塁から河合の右翼線二塁打などで2点を加えた。
日本文理は6点差を追う九回、再登板した堂林を相手に驚異的な粘りを見せた。2死無走者から、切手の四球を皮切りに武石の右翼線三塁打など4長短打と3四死球で5点を返し、なお一、三塁としたが、最後は若林の痛烈な打球が三直となってゲームセット。中京大中京は再度救援した森本が最後を抑えた。
日本文理の伊藤は第80回(98年)準優勝の京都成章・古岡基紀以来11年ぶりに決勝まで全試合完投を達成したが、終盤は制球が甘くなった。
◇中京大中京・大藤敏行監督
打線がつながったが、九回は相手の気迫を感じた。あと1本で逆転される場面で、うちの選手たちがよく我慢してくれた。
◇中京大中京・堂林
(試合直後のインタビューで号泣して)最後まで投げられず、情けなくてすいません。
==============
■白球を追って
◇中京大中京、しのいだ
センバツの苦い経験から「この1球」を今夏のテーマに臨んだ中京大中京。九回の守りでは、それが逆に重しとなったが、打撃では集中力を発揮した。
粘り強く投げていた日本文理の伊藤に引導を渡したのは、投球では苦しんだ4番の堂林だ。同点の六回2死満塁から2点を勝ち越す左前打は「甘い変化球を狙っていた」。一回には先制2ランを右中間に運んだが、この打席は真ん中に入ったスライダーをとらえた。
直前に2番・国友がスクイズを外されて失敗、大会塁打記録を更新した3番・河合も空振り三振に打ち取られていた。ひと息ついていた相手バッテリーの緊張の糸を切らすには十分な一打。一挙6得点へとつながる。
打線は計17安打を放ったが、うちファーストストライクを見逃したケースは6度しかない。初球をとらえた安打も5本あり、積極性が際立つ。そこには「ストライクの球は最初が一番甘い確率が高い」(大藤監督)との冷静な戦略もあった。
それを支えてきたのは、7秒に1回の割合で2時間弱で終える1000本の素振りであり、いろいろな種類のカードのマークを記憶して集中力を高めるメンタルトレーニングであった。
力、技、知恵を兼ね備えた打線は、甲子園の頂点を極めるにふさわしかった。
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■夏・輝く
◇水際のスーパーキャッチ−−岩月宥磨(ゆうま)中堅手(中京大中京・2年)
ボールを見ずに後ろ向きに走り、フェンスの2メートル手前でジャンプ。同点の四回1死一塁。日本文理の伊藤が放った中堅フェンスに届きそうな大きな打球は、吸い込まれるようにグラブに収まり、勝ち越しを防いだ。
打たれた瞬間は打球に目をやった。見ながら走っていては追いつけないと即座に判断。予測した地点へ一直線に走った。「体が勝手に反応するんです」。普段からボールを見ずにフライを追いかける練習をして鍛えた自信のプレーだ。大藤監督は「打球の落下点に入るのが早い」と評する。飛び抜けて俊足というわけではないが、予測能力が高いという。
先制しながら追い付かれ、味方は走者を出しても還せない悪い流れを、水際で押しとどめたプレー。最後にもつれた試合は1点差で終わり、「守備の人」がしっかりと仕事を果たしたことが、ピリリと利いた。「期待通りのプレーができてうれしい」。職人技で優勝に貢献した2年生は、晴れ晴れとした笑顔をみせた。
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◇中京大中京
名古屋市内にある私立校。1923年に中京商業学校として創立し、同時に野球部も創部。67年に中京に改称し、95年から現在の校名。甲子園は春29回、夏25回出場。戦前には史上唯一の夏3連覇の偉業もあり、66年に春夏連覇。OBに日本ハムの稲葉篤紀、楽天の嶋基宏、元楽天の紀藤真琴ら。サッカーなど他のスポーツも盛んで、フィギュアスケートの安藤美姫、浅田真央はともに卒業生。
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◇中京大中京の夏の歴代決勝戦績◇
回 年 スコア 対戦相手
17 1931 ○4−0 ●嘉義農林
18 32 ○4(11)3●松山商
19 33 ○2−1 ●平安中
23 37 ○3−1 ●熊本工
36 54 ○3−0 ●静岡商
48 66 ※○3−1 ●松山商
91 2009 ○10−9 ●日本文理
※は春夏連覇。カッコ内数字は延長回数
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◇全国選手権優勝回数◇
7回 中京大中京(愛知)
6回 広島商(広島)
5回 松山商(愛媛)
4回 PL学園(大阪)
3回 龍谷大平安(京都)
第91回全国高校野球:中京大中京10−9日本文理(その2止) 悲願の大旗あと一歩
◇決勝(24日・阪神甲子園球場)
◇土壇場の6点差、劇的せめぎ合い
◇日本文理・大井道夫監督
最後にうちらしい攻撃。(50年前の準優勝投手)優勝旗が欲しくないと言えばうそになる。また、辞められなくなったね。
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■白球を追って
◇日本文理、逆転目前涙
これほどの喝采(かっさい)を浴びた敗者が、かつてあっただろうか。日本文理が九回2死から演じた怒濤(どとう)の反撃は、覇者にも劣らない強烈な残像を、見る者のまぶたに焼き付けた。
切手が四球を選び、打席は高橋隼。それまで3安打の2番打者に対して、中京大中京の堂林は力を振り絞って内角を攻めてきた。高橋隼も奮い立つ。「簡単には終わらせない。どんな球でも食らいついてやる」。際どい球はファウルでカット。そしてフルカウントからの9球目。甘く来た直球をたたいた打球が左中間を破り、切手を本塁に迎え入れた。
球を見極める意識は、後続につながった。武石もファウルで粘って7球目を右翼線へ。2四死球の後の伊藤は、最初のストライクを左前へ運んだ。
続く代打・石塚はブルペン捕手。地区大会では出番すらなかった背番号12にも意識は浸透していた。「自分がリードするなら、打ち気にはやる代打への初球は変化球」。読みは的中し、初球の遅いカーブを三遊間へ打ち返して9点目。絶望的な6点差から逆転目前に転じて、「もしや」の期待で沸騰した観客席も味方につけた。
日本文理は今春のセンバツ1回戦で、好機を生かせず完封負け。その後の打撃練習では、たった1球に対して最適の打ち方や見送り方をする努力を重ねて夏に挑んだ。大井監督の「どんどん行こう。うちの野球はそれしかないんだもん」という言葉に押された最後の攻撃は、悔いを残さない集大成となった。
会心の笑顔はない。だが誰もが誇らしげでもあった。新潟から頂点への扉を開いた、堂々の準優勝だ。
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■夏・輝く
◇気持ち込め5戦656球−−伊藤直輝投手(日本文理・3年)
球場から立ち去る間際、日本文理の伊藤は一人でマウンドに上がり、「甲子園の土」を袋につめた。656球を投げ切った右腕でプレート付近の土をかき集める伊藤を誰もが優しく見守った。
九回の反撃。「イトウ、イトウ」。伊藤の奮闘を知るスタンドが名前を連呼する特別な声援。応えるように2点差に迫る適時打。「声援を力に打てた」。三塁走者として敗戦を迎えたが、悔いはなかった。
投球にも悔いはない。同点の六回1死満塁、絶妙なチェンジアップで大会屈指の左の好打者・河合を空振り三振に仕留めた。しかし、続く堂林にはスライダーを左前に運ばれた。「甘かったけど、気持ちは込めていた球。堂林君の気持ちが上回った」。右打者への「宝刀」を粉砕された完敗に潔かった。
整列後に堂林と抱き合って互いに「ありがとう」と言葉を交わした。自分を成長させてくれた甲子園と好敵手へ感謝の言葉が続いた。
==============
◇新潟勢躍進に結実−−他地域と交流、中学生に指導
今大会前まで47都道府県最少の夏通算16勝だった新潟県勢は、日本文理が4勝し、17勝の山形県を抜いた。
躍進について、新潟県高野連の富樫信浩理事長(48)は「決勝に進んでもおかしくない下地はあった」と話す。その一つが他地域との交流。これまでは「交通の便が悪く、なかなか県内外のチームと練習試合が組めなかった」が、上信越自動車道や関越自動車道が整備され、徐々に交流が可能となっていた。
また、約10年前から技術指導を行う委員会を県高野連に設置し、中学3年生の軟式野球部員に、硬式球に慣れさせる取り組みを行ってきた。日本文理のベンチ入り選手18人のうち県内中学出身者は15人を占め、実を結んでいる。春夏通算は22勝でまだ全国最少だが、07年夏に新潟明訓が2勝するなど、日本文理以外も地力を付けている。
第91回全国高校野球:中京大中京、薄氷の快挙 43年ぶり(その1) /愛知
◇日本文理の反撃に耐え
夏の甲子園第15日の24日、県代表・中京大中京は決勝で日本文理(新潟)と対戦した。九回に1点差まで追い上げられたが逃げ切り、43年ぶり7回目の優勝を果たした。県勢としても夏の全国制覇は43年ぶり。応援スタンドに詰めかけた人たちは新しい歴史を刻んだ中京大中京ナインをたたえ「野球王国・愛知の復活だ」と喜び合った。
▽決勝
日本文理 011000115=9
中京大中京 20000620×=10
◇野球王国に新たな歴史
超満員のアルプススタンドが歓喜に沸いた。打ち鳴らされるメガホンの音、それをかき消すほどの大歓声と拍手。全員が立ち上がり「日本一」の喜びに酔いしれた。
グラウンドもスタンドも、あと1球に苦しみ抜いた。エース・堂林翔太投手(3年)をマウンドに迎え、6点差で迎えた九回表。四死球と連打で失点を重ね、なおピンチが続く。スタンドの「あと1球」コールはやみ、「頑張って」の必死の声援に。森本隼平投手(2年)が再登板し、1点差まで詰め寄られると悲鳴に変わった。
序盤は一進一退の攻防だった。初回、堂林投手の本塁打で2点を先制。だが三回に同点に追いつかれる。野球部OBの藤波優作さん(26)は「接戦に強いのが中京。大丈夫です」と話すが、嫌な流れは変わらなかった。
スタンドの祈りが届いたのは六回裏。ついに中京打線に火がついた。連打に四死球を絡めて6点を追加。汗だくになっていたチアリーダーの岡田結衣さん(3年)は「さすがは中京打線。甲子園は私たちチアリーダーにとっても最高の舞台なので、決勝まで連れてきてもらって幸せ」と跳び上がって喜んだ。
一時は7点差をつけたが、終わってみれば1点差。43年ぶりの優勝旗の重さのある1点だ。最後まで大声を張り上げた応援団の渡辺智也団長(3年)は「ヒヤヒヤしたが、優勝するにはこういう厳しい場面を通過するのが試練なんだと思った。みんな本当によく戦ってくれた」と誇らしげな笑顔を見せた。
◇選手たちほめたい−−大藤敏行・中京大中京監督
堂林が投げて勝ってきたチームだから、最後もマウンドに立たせてやりたかった。優勝旗が長い年月を経て、我が家に帰って来たかな。選手たちを「よくやった」とほめてやりたい。
◇素晴らしいチーム−−大井道夫・日本文理監督
選手たちが、私の想像以上に成長していた。九回は「意地を見せてみろ」と言ったが、素晴らしい粘りだった。自分が選手で準優勝した時より何倍もうれしい。本当に素晴らしいチームです。
◇後輩には優勝旗を−−中村大地・日本文理主将
高校球児として一番長い夏を過ごすことができて幸せ。最終回はまさに自分たちの野球ができた。最後は相手が一枚上手だった。後輩には優勝旗を目指して頑張ってもらいたい。
◇感動ありがとう−−神田真秋知事の話
最後までハラハラドキドキさせながら、大激戦を制されました。全国制覇は昨今の厳しい経済状況の中にある当県にとって久々の明るいニュースと言え、うれしい限りです。勇気と感動をありがとう。
◇マネジャーは涙
〇…優勝の瞬間、角谷貴恵マネジャー(2年)は「ありがとう、おめでとう、という言葉しか出てこない」とスタンドで涙。この日も朝、甲子園入り後の日課となっている大藤敏行監督との散歩に出かけた。河川敷を歩きながら大藤監督は「やっとここまで来た。勝っておいしい酒が飲みたいな」と漏らしたという。角谷さんは「最高にうれしい。早く宿舎に帰って全員で喜び合いたい」。
◇名古屋市長も応援
○…中京大中京の三塁側アルプス席には河村たかし名古屋市長も応援に駆けつけた。大学時代は野球部で投手、外野手を務めたという河村市長は「小学生のころは愛知は日本一だと思っていた。また日本一になって良い思いをさせてくれた。本当に良い試合だった」と高揚した様子。高尾和彦副知事らも観戦し、声援を送った。
◇名駅などで号外
夏の甲子園では実に43年ぶりの県勢の優勝に、人々は喜びに浸った。
名古屋駅周辺などでは、24日午後5時ごろから、中京大中京の優勝を伝える毎日新聞の号外約6500部が配られた。買い物途中の主婦、サラリーマン、学校帰りの中学生などが足を止め、次々と号外を求めた。
号外を手にした大府市の中学3年生、大村政人君(14)は「学校のオーケストラ部の部室で携帯電話のワンセグ中継を見ながら応援した。最終回のピンチは部員全員で叫んだ」と興奮気味。名古屋市中川区の無職、秦清さん(70)は「伝統校の復活を期待していた。危ない場面もあったが打ち勝った」。岐阜県各務原市の主婦、松井和美さん(40)は「本当は県岐阜商と中京大中京の決勝を期待していた。でも東海勢が優勝してうれしい」と喜んだ。
名古屋市昭和区広路町のジャスコ八事店でも号外が配られた。買い物客が「優勝したの。すごいね」などと言いながら号外に見入っていた。
一方、全校応援態勢をとった昭和区の中京大中京高校では、事務職員5人が留守番。職員の小田和利さん(51)によると、試合終了直後から約1時間に、野球部OBなどから「おめでとう。勇気づけられた」といった電話が約100本あり、対応に追われたという。
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■熱球譜
◇苦しさ乗り越え涙−−河合完治三塁手=中京大中京(3年)
ウイニングボールが収まったグラブを突き上げた。大歓声が鳴り響く。「勝った。ようやく終わったんだ」。笑顔の代わりに安堵(あんど)の涙がこみ上げた。
攻守に苦しんだ試合だった。
六回裏、1死満塁の好機に三振で倒れた。続く堂林翔太投手(3年)や柴田悠介選手(3年)の適時打で大量点を挙げたが、活躍できない悔しさが募った。「絶対につないでやる」と誓った七回裏には、二塁打を放って山中渉伍主将(3年)を還し、自身も決勝点となった本塁を踏んだ。それでも、もどかしさは消えなかった。
葛藤(かっとう)が焦りに変わったのが九回表だった。捕ればゲームセットという邪飛。ボールを見失った。あっという間に1点差に。九回2死から逆転された春のセンバツの悪夢が頭をよぎった。「僕のせいで負けるかもしれない」
九回10人目の相手打者が打席に入る。長打1本で逆転。鋭い打球は真っすぐ正面に飛んできた。「何があっても絶対につかんでみせる」との覚悟で構えたグラブに打球が収まり、試合終了。最高の形で、高校最後の夏が終わった。
試合後、目を真っ赤にして泣き続けた。「勝ててほっとした。神様が最後にもう一度だけ、僕にチャンスをくれた」。優勝盾を受け取って泣き、最大のライバルで親友の堂林投手と抱き合ってまた泣いた。
6試合で28塁打。大会個人最多塁打の新記録を樹立し、強烈な印象を残した。「最高の仲間、最高の監督と、最高のゲームができた。最高に幸せな高校生活だった」。涙はうれし涙に変わった。
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◆選手のひとこと
◇山中渉伍主将(3年)
1死が取れず苦しい終盤だったが、今後の野球人生の糧になると思う。
◇堂林翔太投手(3年)
最後まで気が抜けなかった。最後が情けなかったが、とにかく勝てて良かった。
◇磯村嘉孝捕手(2年)
最後に打たれた時は頭の中が真っ白になった。決勝は簡単に勝てないと知った。
◇柴田悠介一塁手(3年)
簡単に勝てないのが甲子園と思った。3打席目でやっと自分の野球ができた。
◇国友賢司二塁手(3年)
日本文理の粘りに苦しんだ。野球は何が起こるか分からないと改めて感じた。
◇河合完治三塁手(3年)
最後にチームに迷惑をかけて申し訳ない。優勝できてよかった。
◇伊藤隆比古左翼手(3年)
3年間の集大成でいい結果が出せた。このメンバーで戦えて良かった。
◇岩月宥磨中堅手(2年)
日本のどこの高校よりも長く、この先輩たちと試合ができてうれしい。
◇金山篤未右翼手(3年)
最後の一球まで集中した。「勝つ」という気持ちの強さの出た勝利だと思う。
◇山田貴大選手(3年)
最後はハラハラしたが、絶対に勝つと思い、堂林と森本を信じていた。
◇森本隼平選手(2年)
3年生に連れてきてもらった甲子園。気持ちでミットめがけて投げた。
◇久保田剛史選手(3年)
九回3死目が取れなくて生きた心地がしなかった。まだ実感がわかない。
◇宗雲克政選手(2年)
甲子園で日本一になるのは簡単ではなかったが、最高の仲間と戦えて良かった。
◇岡駿吾選手(3年)
最高の指導者と仲間、スタンドの応援に支えられて優勝できた。本当にうれしい。
◇宮沢拓巳選手(3年)
気持ちいい。最後にこんなに長い夏を過ごせて最高。親孝行ができた。
◇倉見徳人選手(3年)
最後はヒヤヒヤしたが、自分たちは優勝を信じて精いっぱい声を出した。
◇盛政仁至選手(3年)
今はまだ優勝した実感がない。これからじわじわとわいてくると思う。
◇竹内啓貴選手(2年)
最高の先輩と優勝できてうれしい半面、先輩との野球が最後だと思うと寂しい。
第91回全国高校野球:中京大中京、薄氷の快挙 43年ぶり(その2止) /愛知
◇30年の夢かなう
〇…「夢がかなった」と涙ぐんだのは背中に「中京」の文字が入った赤いアロハシャツがトレードマークの牧野雅金さん(61)。熱烈な中京ファンの牧野さんはこの30年間、すべての公式戦に足を運び、中京野球部の歴史に立ち会ってきた。甲子園優勝は初めての経験だ。「元気なうちに中京の全国優勝を見るのが30年来の夢だった。本当に幸せで言葉が出てこない」と喜びに浸っていた。
◇ドームでOB活躍
東京ドームで開催中の社会人野球・都市対抗野球大会には5チーム計7人の中京大中京OBが出場した。口々に母校の快挙を喜ぶ。
02年春に甲子園を経験した中根慎一郎投手(三菱重工名古屋)は豊田市・トヨタ自動車の補強として出場。「後輩から感動と力をもらった。それを糧に自分も頑張る」。トヨタにはバッテリーを組んだ1年後輩の渡辺哲郎捕手も在籍する。
東邦ガスの小椋健太投手は04年夏にベスト8入りした時のエース。準々決勝で済美(愛媛県)にサヨナラ負けを喫し、相手の校歌を聞いた悔しさを今も思い出す。「今度は母校の校歌を聞けて感動した」と小椋投手。「都市対抗で日本一を目指す」。後輩たちの活躍に刺激を受けた。
そのほか、浜松市・ヤマハに高橋孝典外野手、薄井康博内野手が在籍する。三菱自動車岡崎には加藤敦史、長谷川達也両選手がいるが初戦で敗退した。
第91回全国高校野球:日本文理、大健闘の準優勝(その1) /新潟
◇新潟の誇り/記憶に残る名勝負/最高の夏ありがとう
◇ナイン雄姿、みんな忘れない!
夏の甲子園で日本文理は大会第15日の24日、県勢初の優勝を目指して中京大中京(愛知)との決勝に臨んだ。6点を追う九回2死走者なしから5点を奪う驚異的な粘りをみせたが、9−10であと一歩及ばなかった。しかし、今大会を猛打とチームワークで勝ち上がり、3回戦と準々決勝で大会史上初の2試合連続毎回安打を記録。決勝では人々の記憶に残る名勝負を演じた。選手たちの大健闘と準優勝をたたえ、スタンドから惜しみない拍手が送られた。
▽決勝
日本文理 011000115=9
中京大中京 20000620×=10
あまりに重い6点差。九回表、最後の攻撃も三振と遊ゴロで2死走者なし。一塁アルプスでは約2000人の応援団が、祈るように「みんなでつなげ」と声を響かせる。もちろん、ナインの気持ちも折れていなかった。
「アルプスで応援する仲間がいるのにあきらめるわけにはいかない」。切手孝太選手(3年)が四球で出塁すると、すかさず盗塁。続く高橋隼之介選手(2年)が4球ファウルで粘った末に右中間を破る適時二塁打で1点を返す。これがドラマの始まりだった。
試合は序盤から動いた。一回裏、相手のエースで4番・堂林翔太選手(3年)の先制2点本塁打が右翼席に突き刺さる。一塁側アルプスは一瞬しんと静まった。しかし、二回に1点を返し、さらに三回。お返しとばかりに高橋隼選手が左翼席にソロ本塁打を放った。周りの保護者らから「隼之介は偉い」ともみくちゃにされる父・克己さん(47)。「よくぞ振り出しに戻した」と笑顔がはじけた。
しかし六回、連投の疲れが見えはじめた伊藤直輝投手(3年)が相手打線につかまる。四死球や暴投も絡み、一気に6失点。七回にも2点を失い3−10に。アルプスの元気も奪われかけ、伊藤投手の父・洋一さん(48)は「みんなで取り返す。きっと逆転できる」と拳を握りしめた。
その言葉通り、土壇場になってつなぐ野球が線を描き始めた。九回、1点を返し、アルプスは再び息を吹き返す。ベンチ入りできなかった3年生部員が目に涙を浮かべて声を張り上げた。「あいつらの分も絶対打とう」。武石光司選手(3年)が右翼線に三塁打を放って2点目。
「さー行きましょう」。四死球で走者が出るたびに「チャンスマーチ」のボルテージが上がり、大合唱に。満塁からの連続適時打で、ついに9−10の1点差に迫った。
この回打者一巡し、打席には若林尚希選手(3年)。一、三塁の一打逆転の好機で、打球は鋭く三塁へ。快音と同時に爆発音のような歓声が上がった。
しかし、無情にも打球は三塁手のグラブに。大歓声が三塁側から、そして一塁側からは拍手がわき起こった。
新たな歴史をつくった選手たちは、アルプス前で笑顔で一礼。そこにはやりきったという満足感が浮かんでいた。
◇大井道夫・日本文理監督
選手たちが、私の想像以上に成長していた。九回は「意地を見せてみろ」と言ったが、素晴らしい粘りだった。本当に素晴らしいチームです。
◇中村大地・日本文理主将
高校球児として一番長い夏を過ごすことができて幸せ。最終回は自分たちの野球ができた。最後は相手が一枚上だった。後輩には優勝旗を目指して頑張ってもらいたい。
◇歴史を切り開いた−−篠田昭・新潟市長
九回2死からの驚異の粘りは新潟の誇り。甲子園で新潟の新しい歴史を切り開き、最高の夏をプレゼントしてくれてありがとう。2試合連続の毎回安打や伊藤君の熱投を81万市民は忘れないでしょう。
◇胸を張って帰郷を−−泉田裕彦知事
本県高校野球に新たな歴史を刻んだ。決勝で見せた粘り強さは県民の心に深く刻み込まれたと思う。大きな感動をありがとう、胸を張って帰ってきてください。
◇レベルアップ期待−−坂上隆・県高野連会長
本県高校野球関係者の一人として誇りに思う。これからは甲子園準優勝校である日本文理を目標に、各高校が切磋琢磨(せっさたくま)することで、本県高校野球がさらにレベルアップすることを期待する。
◇親友の活躍に笑顔
○…一塁側アルプスで応援団を務めたのは、ベンチ入りを逃した野球部員約50人。団長の上村剛士君(3年)は切手孝太選手(同)の親友で、23日の準決勝後には、携帯電話で「明日はおまえを日本一の応援団長にするから」と連絡をもらった。上村君も「最高の応援をするから、おまえも頑張れ」と応えた。日本一には、あと一歩届かなかったが、「最高の夏でした」と笑顔で甲子園を後にした。
◇裏方も悔いはなし
○…今春のセンバツで登板した本間将太君(3年)は、決勝のグラウンドでボールボーイを務めた。春の県大会で右ひじを痛め、最後の夏に背番号はなかった。悔しいが、「自分にできるのは心を込めてボールを磨くこと。伊藤に『おまえだけじゃないぞ』とボール越しに伝えている」という。決勝は「最後に何かを起こしてくれると信じていた」が惜敗。それでも、粘りの文理打線をマウンドに一番近い場所で見ることができ、悔いはない。
◇祝福の垂れ幕、新潟市庁舎に
新潟市役所の庁舎には、日本文理の準優勝を祝う垂れ幕が掲げられた。また、同市は日本文理に市スポーツ大賞を、大井道夫監督に市感謝大賞を贈ることを決めた。
「準優勝おめでとう」と印字された垂れ幕は縦13・5メートル、幅約90センチ。庁舎屋上から掲げられるのを見守っていた篠田昭市長は「81万市民にとって最高の夏になった。(9月26日に開幕する新潟)国体にも最高の弾みをつけてくれた」と感激しきりだった。
◇柏崎出身の選手、被災地に元気を
中村大地主将(3年)や高橋隼之介選手(2年)、平野汰一選手(同)は中越沖地震で大きな被害を受けた柏崎市の出身。少年野球などで指導した関係者からは「被災地に元気をくれた」との声が上がった。
中学時代の中村主将に野球を指導したことがある同市復興支援室長の白川信彦さん(54)は「元気をもらった。柏崎の子がここまで頑張ってくれるとは」と目を細めた。
「柏崎から甲子園へ」を目標に、地元の中学で野球を続け、高校進学を控えた子どもたちに自主トレーニングの場を提供する有志グループ「柏刈(かしかり)第三野球部」の代表世話人。「市民にとっても、いい夏の思い出をもらった。復興へ向けて励みになる」と話した。
高橋隼、平野両選手が中学時代に所属した少年野球チーム「柏崎リトルシニアリーグ」で指導した吉野公浩さん(42)は夜行列車に飛び乗って甲子園入り。アルプス席から教え子に声援を送った。「頼もしくなった。自信に満ちあふれている」と成長ぶりに驚く。「『最後までよく頑張った』と声を掛けてやりたい」と興奮気味に話した。
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■熱球譜
◇つなぐ打撃で悔いなし−−日本文理・武石光司選手(3年)
「おまえは打ってないけど、どうするんだよ」。六回の守備を終えてベンチに帰ると、仲間に声を掛けられた。伊藤直輝投手(3年)の前で大きくはずんだ打球を深追いし、一塁ベースを空けてしまった。出塁を許し、大きな失点につなげてしまった。三回にも失策があった。「チームの足を引っ張ってしまった」と胸が痛かった。
「エラーはバッティングで返せ」。仲間のヤジは励ましだと分かる。だからこそ、最後の打席に向かう意気込みは違った。九回2死からチームでつなぎ巡ってきた打席。「悔いのないバッティングをしろよ」。中村大地主将(3年)に肩をたたかれ、「必ずつなぐ」と誓った。
ストライクもボールも厳しい球をファウルでしのぎ、甘く入ったスライダーを思いっきり引っ張った。右翼線で弾む打球を確認すると、二塁をけって三塁へ思い切り滑り込んだ。いつもはクールな3番打者が大きなガッツポーズをした。
優勝は逃した。しかし、試合後の表情は晴れやかだった。「最後にあのバッティングができたから、悔いはありません」。全国約4000校の頂点に手をかけた最後の夏。「甲子園は自分を成長させてくれた」と笑顔を見せた。
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◆ナインの一言
◇伊藤直輝投手(3)
最後まであきらめなかった。甲子園で1試合ずつ成長できた。最高の夏だった。
◇若林尚希捕手(3)
最後につなぐ文理の野球ができた。伊藤は最後まで自分に思い切り投げてくれた。
◇武石光司一塁手(3)
最後は球場すべてが味方してくれた。つなげる野球をやり切った。悔いはない。
◇切手孝太二塁手(3)
皆のあきらめない気持ちが一つになり、アルプスの仲間が応援してくれた。
◇高橋隼之介遊撃手(2)
最後まであきらめずに戦えて良かった。先輩たちに「ありがとう」と言いたい。
◇高橋義人左翼手(3)
大歓声が聞こえて、点差が開いてもあきらめなかった。準優勝できて良かった。
◇湯本翔太中堅手(1)
悩んだ打席もあったが、決勝は吹っ切れた。負けたが、気持ちいい試合だった。
◇吉田雅俊右翼手(3)
最後につないで自分たちの野球ができた。いい試合だったので悔いはない。
◇奥浜真隆選手(2)
決勝までこられるとは思わず、びっくりした。気持ちの強さが大切だと学んだ。
◇高橋洸選手(1)
入学して4カ月でこの場所に立たせてもらって幸せです。先輩たちに感謝したい。
◇石塚雅俊選手(3)
九回は球場全体が自分たちを応援してくれているようで、本当にうれしかった。
◇田辺和貴選手(3)
八回は初球から振ろうと思っていた。高校最後の打席で笑顔で生還できて良かった。
◇村山良太選手(3)
最後にいい試合ができて良かった。今まで自分たちがやってきた野球ができた。
◇笹川貴嗣選手(2)
決勝にふさわしい試合。あそこから1点差に追いついた先輩たちの精神力はすごい。
◇平野汰一選手(2)
最後は今までのつなぎの野球に徹し、大きいのは狙わなかった。来年戻って来ます。
◇朝妻翔選手(3)
昨晩、監督に「決勝まで来たんだから楽しもう」と言われた。みんな楽しめていた。
◇矢口正史選手(2)
惜しかった。最後はベンチから「まだ、いける」と応援していた。来年戻って来ます。
◇安達優花記録員(2)
選手に勇気をもらい、最後まで笑顔でいられた。また新チームで選手を支えたい。=カッコ内数字は学年
第91回全国高校野球:日本文理、大健闘の準優勝(その2止) /新潟
◇驚異の反撃、観客に感動
◇帽子メッセージ胸に スタンドの仲間からも力を−−中村主将
一回裏。三塁の守備に入った中村大地主将(3年)は、一瞬、ふっと空を見上げた後、帽子を胸の前に掲げて「お願いします」とつぶやいた。視線の先には、「全国制覇」「全力」などの言葉。夏の新潟大会前、ベンチ入りできないメンバーが帽子のツバに書いたメッセージが並ぶ。
「こいつらがいるから、こいつらの分まで頑張ろう」。ピンチでマウンドに集まる時、みんなで行う「儀式」だ。新潟大会決勝戦からピンチの時はスタンドで見守る仲間たちに力を借りてきた。
夢の舞台の決勝も、スタンドの仲間とともに戦った。2点を先取された一回と6点を奪われた六回、マウンド上で、真っ黒に汚れた帽子のツバを見た。
センバツ出場を控えた今年2月。チームの雰囲気が悪くなっていると感じた中村主将が呼びかけ、夜中まで寮の部屋でミーティングをした。練習や生活態度で気になることや不満を遠慮なく言い合った。最後に一人ずつ将来の夢を語った。「高校で終わりじゃない。野球を通じて将来役立つことを探しながら、目標に向かって頑張ろう」。チームのきずなが、より強くなった。
決勝前夜、選手たちは大井道夫監督と「笑顔で新潟に帰ろう」と約束した。試合後スタンドに向かって走ってくる選手たちは、全員が笑顔だった。大きくガッツポーズした田辺和貴選手(3年)は「今までで一番熱い試合だった。この友情は宝物」。仲間を信じ、「みんなでつなごう」という一人一人の気持ちが、最後に一つになった。
◇留守部隊「勇気もらった」
新潟市西区の日本文理高校では、生徒や職員、地元住民ら約120人が集まり、テレビの前で応援。九回表2死からの猛追の場面では、青いメガホンをたたきながら立ち上がり、何度も歓声を上げた。
同校2年の吉田実紗さん(17)は「点差が開いてもう駄目かと思ったのに、選手の粘り強さは想像を超えていた。取られたら取り返す姿勢に感動した。こんなに勇気をもらった試合は初めて」と感極まった様子。5年前の甲子園で初戦敗退に泣いたOBの冨岡雄太さん(23)は「最後まであきらめない文理野球の神髄を見た。準優勝でも気持ちは負けていなかった。後輩たちにありがとうと言いたい」とたたえた。
試合終了後、同校の校舎には「祝 準優勝」の懸垂幕が掲げられた。藤木国裕副校長は「一戦一戦強くなって、選手の顔つきがたくましくなっていくのが分かった。こんなに充実した夏はなかった」と語った。
25日午後4時から、選手たちをたたえる凱旋(がいせん)式を同校正面玄関で開く予定。
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◇決勝までの歩み
▽第91回全国高校野球選手権大会
決勝 ● 9−10〇中京大中京(愛知)
準決勝 〇 2−1 ●県岐阜商(岐阜)
準々決勝 〇11−3 ●立正大淞南(島根)
3回戦 〇12−5 ●日本航空石川(石川)
2回戦 〇 4−3 ●寒川(香川)
▽新潟大会
決勝 〇12−4●中越
準決勝 〇10−0●新潟県央工(五回コールド)
準々決勝 〇10−0●高田農(六回コールド)
4回戦 〇 8−1●佐渡総合(七回コールド)
3回戦 〇 7−0●長岡向陵(七回コールド)
2回戦 〇11−0●新潟東(五回コールド)
夏の高校野球:9回2死から猛攻であと一歩…日本文理に万雷の拍手
【日本文理(新潟)9−10中京大中京(愛知)】まるで勝者のようだった。アルプス席に向かう日本文理ナインに涙はなく、笑顔が光輝いた。そして4万7000人の大観衆からは惜しみない拍手が送られた。
「2死だからといってあきらめてるやつは、本当にいなかった。“次につなげ、次につなげ”とベンチは凄い盛り上がりだった」
中村主将がそう振り返った怒とうの攻撃は、6点差の9回2死から始まった。1番の切手が四球で出塁すると、ここから勝利の女神の心が揺れる。高橋隼、武石の連続長打で4点差。ここで4番・吉田は三塁ファウルゾーンに打ち上げ万事休すと思われたが、三塁手と捕手が“お見合い”する形で捕球できず命拾い。そして死球で出塁。一塁コーチャーの村上は「あそこで絶対にひっくり返せると思った」という。ここからも連打を重ねてついに1点差。2死一、三塁からこの回2度目の打席に立った若林の鋭いライナーは三塁手の正面へ。最後の打球が抜けていたら…。勝者にも敗者にもそう思わせる幕切れだった。
下馬評では劣勢が予想されながら、真っ向勝負で中京大中京を土俵際まで追いつめたナインは誇らしげだった。9回に代打で1点差に迫る適時打を放った石塚が「この攻撃は一生忘れない。自分でも最高の打席だったし、今までで最高の当たりだった」と胸を張る隣で、大井監督が「最後の5点は奇跡」と笑った。
これまで夏は4度出場して1度も勝てなかった。新潟県内では他校から“文理のバットを調べろ”と言われるほど打てるのに、全国大会では打てない。今センバツ1回戦で清峰の今村に零敗を喫して以来、選手は1日1000回の腹筋、背筋をこなした。打撃練習ではフライを禁じ、ひたすら強いゴロを打つことを徹底した。その結果がつなぎの意識を生み、大会史上初の2試合連続毎回安打を含む5試合連続2ケタ安打をマーク。5試合42イニング中、無安打に終わったのはわずかに4イニングだけという全国でも屈指の強力打線が出来上がった。
中村主将は「これまで“おまえらは火縄銃”だと言われてきたけど、少しはマシンガンに近づけたかな。胸を張って新潟に帰りたい」。全国で一番長い夏を過ごした文理ナインが甲子園にさわやかな風を吹かせた。
≪エース伊藤「幸せ」656球≫5試合656球を1人で投げ抜いたエースの伊藤は三塁走者でゲームセットの瞬間を迎え「負けたけれど最高の試合で終われて幸せ」と笑顔を浮かべた。三直に終わった最後の打者は、小学4年からバッテリーを組んだ若林だった。「あいつの打球が自分の目の前に来て、終わった。運命を感じる。9年間ありがとう」と感慨深げにつぶやいた。
▼水島新司氏(「ドカベン」など野球漫画の第一人者、新潟県出身)私にとって今年の決勝は試合前から日本文理の勝利でした。新潟代表が決勝まで勝ち残ったことが、既に勝利者でした。すさまじい9回の反撃。勝った気分にさせてくれた敗戦でした。ありがとう故郷の球児たち。
中京・堂林、日本一の悔し涙/夏の甲子園
<全国高校野球選手権:中京大中京10−9日本文理>◇24日◇決勝
中京大中京(愛知)が日本文理(新潟)を破り、43年ぶり7度目の優勝を飾った。エース兼4番のドラフト上位候補、堂林翔太投手(3年)が先制2ランを含む3安打4打点の活躍。6点差の9回に5点を返されたが、追い上げをかわして競り勝った。
ライトから堂林は祈っていた。6回に1度降板しながら、志願して上がった最終回のマウンド。6点差から2点返され2死一、三塁で再びKO。2年の森本も打たれた。ついにリードは1点。なお一、三塁で強烈なライナーが三塁へ…。打球は三塁・河合のグラブに消えた。「打球は見えなかったけど、完治(河合)が捕ってくれて終わったんだなと…」と言うと、涙が止まらなくなった。優勝インタビューは帽子で顔を隠してすすり上げ、ナインに謝った。「本当に最後は苦しくて…情けなくて、ホントすみませんでした」。敗者のように泣き、謝罪する異例のヒーローだった。
打たれはしたが、打った。1回、「勝手に体が反応した」と、高めの変化球を右中間に先制2ラン。2−2の6回2死満塁では、左前に弾丸ライナーの2点勝ち越し適時打を放った。伊藤を打ちあぐむ中、圧倒的な打撃を見せ、一挙6点の猛攻を呼んだ。
あきらめかけた夏だった。8強入りした今春センバツ直後の4月。練習試合で右ひざ靱帯(じんたい)を損傷し、2カ月離脱した。家では不安からふさぎ込んだ。5月。異変を察した大藤監督が「思ってることを抱えず、全部出せ」ときつく諭した。ケガより先に、へこんだ心が治ると「いい子」だったエースは変わった。大藤監督が「我(が)が出てきた」と認めるように、捕手のサインには首を振り、後輩の指導にも熱を入れた。
「エースで4番」を中心に、古豪が復活した。優勝を目指したセンバツ準々決勝では、報徳学園に9回あと1死のところで逆転されて負けた。それ以降、目先の1勝、1球にこだわった。終盤こそ乱れたが、大量リードでも犠打やスクイズを絡めて1点を取りにいった。「苦しくても勝てたことがチームの成長」と、エースは声を震わせた。
ユニホームは伝統の立ち襟から、大きくデザインチェンジされた。夏の決勝は7戦7勝。夏の3連覇、春夏連覇も達成した古豪が新しい、栄光の1ページを刻んだ。「日本一を目指してずっとやってきた。優勝からも遠ざかっていたけど、何とか自分たちで歴史を塗り替えようと思っていた。良かったです」と喜んだ堂林は、打者としてプロを目指す。打って、打たれて、泣いた。最後に、堂林のための舞台が用意されていた。
勝者も敗者もハッピーだった!? 中京大中京の優勝にみる“神の手”。
神の見えざる手。
「神」などという仰々しい言葉を安易に使いたくはないのだが、スポーツにおいて、こと甲子園において、そんなことをよく思う。
今年の決勝戦、中京大中京と日本文理の試合も、まさにそんな神の手の存在を感じずにはいられなかった。
とても勝者の顔とは思えなかった。
怖さと、安堵と、ちょっとの喜び、と。それらの感情がない交ぜになった涙に見えた。
不本意ながらも劇的な決勝戦を演出してしまったうちの1人、中京大中京のエース、堂林翔太は、お立ち台で絞り出すようにこう言った。
「すいませんでした……」
全国制覇を果たし、謝罪する選手を見たのは初めてのことだった。
■「風が吹いて」ボールを見失い……世紀の大逆転劇へ。
「あれがなければ……って、よくあるパターンだよね」
隣にいた記者が言った。その時点ではあくまで戯れ言だった。
ただ、その冗談が、現実になりかけていた。
日本文理は9回2死から、四球と2本の長打で2点を返し、6−10。4点差に詰め寄り、なおも2死三塁と攻め立てていた。この場面で次打者の4番吉田が打った打球は平凡な三塁へのファウルフライ。万事休すかと思われた。
が、どうしたことか、その打球は、中京大中京の三塁手、河合完治の数メートル後方にポトリと落ちる。その原因がいまひとつ要領を得ない。河合が話す。
「風が吹いてて……風に流されて、見失ってしまったんです。よくわからないんですけど」
打球を見失った原因として、観客の白い服に重なったとか、ナイターの照明に入ったという話ならよく聞くが、「風が吹いてて」という話は聞いたことがなかった。
結局、9回から再登板していた堂林は、その直後、吉田に対し死球を与えてしまい降板。二番手の森本隼平が、こちらも再度、マウンドに上がる。ところがその森本も、四球と2安打を献上し、ついに9−10と1点差まで詰め寄られる。なおも2死一、三塁。世紀の大逆転劇が、目の前に迫っていた。
■中京大中京・河合「神様がもう一度、チャンスをくれた」。
球場のボルテージが最高潮に達する中、8番・若林尚希の打球が快音を残した。だが、当たりはよかったものの、三塁手の正面をつくライナーに。
ライトに回っていた堂林が、「打球は見えなかったけど、(河合)完治が捕るカッコをしたので、終わったんだと思った」と話せば、ファウルフライを取り損ねていた河合はこうしみじみと振り返る。
「正直、やられるんじゃないかって思った。最後は、神様がもう一度、チャンスをくれたんだなって思いました」
■日本文理のエース・伊藤は笑顔で「幸せだった」を連発。
神の手の存在を本当の意味で実感したのは、試合後だった。
県勢として史上初めて決勝戦まで駒を進めた日本文理は、エースの伊藤直輝が「幸せだった」という言葉を何度も繰り返すなど、胸を張り、実に晴れ晴れとした表情で甲子園を去った。
9回表、河合がファウルフライを捕球し、6−10のまま終わっていたら、こうはいかなかったはずだ。7−10や、8−10というのも微妙なところだ。9−10と、限りなく勝利に近い敗戦だったからこそ、すっきりとした納得の仕方があるのだ。
また、もし中京大中京が逆転負けを許していたとしたら、日本文理は至福の境地だったろうが、逆に堂林や河合が受けるショックは計り知れない。ましてや、春夏合わせ全国最多10回の日本一を誇る名門中の名門、中京大中京だ。準優勝で喜べるはずもない。
■奇妙にも、勝者も敗者もハッピーだったという結末に。
近年の決勝戦で、ある意味、これほどまで勝者も敗者もハッピーだったという結末は見たことがない。
勝者と敗者の光と影。それがスポーツの魅力でもあるのだが、何年かに一度はこんな光景を見るのもいいものだ。
試合後、激闘を物語る甲子園の凸型の大きなスコアボードを見ながら、ふいにそれが埋められた巨大な十字架のように見えた。
勝つべくして勝った中京大中京。「一球一打」への異常な集中力。
ピンチの後にチャンスがあるように、チャンスの後にピンチがある。
そして得点の後に失点が、失点の後に得点があるのも、また事実である。
精神性が大きくモノをいう高校野球においては、ピンチを乗り切れば気持ちが盛り上がり、チャンスを潰されると気持ちが受けに回る。得点を奪われると、あっという間にお尻に火がつくものなのだ。
夏の甲子園にドラマが多いのは、メンタルの未成熟な高校生においては熱くなった感情のやりとりが一方通行で終わらないからだ。プロのように論理で冷静に抑えつけるということがなかなかできない。
だから、そうした勝利の行方がめまぐるしく動く中で、特に重要なポイントをどう抑えていくかに勝利は懸っている。
「ここ一番」で打てるか。
「ここ一番」で守れるか。
■中京大中京の「ここ一番」での勝負強さ。
中京大中京、43年ぶりの全国制覇には、彼らの「一球一打」への執念がものをいった。
僅少差が2試合のみで他は圧勝しているが、点差というよりもここ一番での勝負強さが際立つ。6試合すべてで先制点を奪い、リードを許したのは2回戦・関西学院相手の5回からの1イニングだけ。大会を通して奪った併殺が6試合で6個もあったのが、何より見事な成績に映る。
準々決勝の都城商戦では2点差に追い上げられたなかで、1死二塁から、二塁走者をタッチプレーで刺しての併殺という惚れ惚れするほど見事なプレーを成立させた。しかも準決勝の花巻東戦では、スクイズから併殺を導くなどして2併殺を記録。ここ一番をきっちり打って、守って、力強く勝利を手繰り寄せてきたのだ。
準決勝を終えた時に、山中渉伍主将(写真)がこんな話をしていた。
「この1球をしっかり守って、この1球でしっかり決められているところが、(ベスト8敗退の)春とは違うところ。決勝は全国2校しかない戦い。僕たちの代は二校しか残っていないわけですから、全国の高校球児の思いを乗せて、一球一打に懸けて、試合に臨む」
■ハイライトは9回ではない。6回表裏に結果は出ていた。
決勝戦の試合を分けたのも、「一球一打」である。
ハイライトは2−2の同点で迎えた6回表裏の攻防にあったといっていい。
顕著に差が出たのは両チームの守備。6回表、日本文理の攻撃は1死二、三塁から強烈な遊撃ゴロを打ったが中京大中京の遊撃手・山中が難なくさばき、本塁でアウトにした。直後、中京大中京が5安打を集めて6点を奪った中には、日本文理の内野手がはじいた末の安打が2つ、内野安打が1本あった。うちひとつは、高くバウンドしたやや一塁よりの投手ゴロで一塁ベースが空くという場面があり、その直後、走者一掃の3点適時打が出ている。得点直後の7回表、日本文理は無死からの3連打で反撃の1点を奪ったが、ここでも、中京大中京は併殺で反撃を食い止めている。
■「甲子園ドラマ」をねじ伏せた河合、執念のキャッチ。
日本文理は好機をつぶされ、中京大中京は6点をもぎ取った。そして、得点した直後の日本文理の反撃を1点に留めた。この6回表裏の攻防は、中京大中京の「一球一打」が如実にもの言う結果となったわけだ。
10―4でむかえた9回表、日本文理は2死から反撃に出る。四球が絡んだとはいえ、一気に1点差としたのは奇跡的とさえいえる。「これぞ甲子園ドラマ!」という猛反撃であった。大歓声に包まれるスタジアムの雰囲気に、今大会堅守が光った三塁手・河合完治でさえも、ファウルフライを見失ってしまったほどだ。
しかし、1点差の2死一、三塁。8番・若林の快音を響かせた鋭い打球は「飛んできそうな感じがしていた」という河合のグラブにノーバウンドでおさまった。2時間半の壮絶なドラマがエンドマークをつけた瞬間。
「一球一打」。
中京大中京の強さは、まさにその瞬間に極まった。
高野連:新潟国体の高校野球・硬式の部の出場校など決める
日本高校野球連盟は21日、阪神甲子園球場内で国体選考委員会を開き、新潟国体の高校野球・硬式の部に出場する12校と補欠2校を決めた。9月27日から4日間、新潟・HARD OFF ECOスタジアム新潟で行われる。
【出場校】札幌第一(北海道)花巻東(岩手)東北(宮城)帝京(東京)中京大中京(愛知)県岐阜商(岐阜)智弁和歌山(和歌山)立正大淞南(島根)西条(愛媛)明豊(大分)都城商(宮崎)日本文理(新潟・開催地)【補欠校】(1)東農大二(群馬)(2)横浜隼人(神奈川)
*** 以上、記事より ***
結果的に中京大中京の史上最多優勝で終わった決勝戦、色々な意味で今大会を象徴するような試合となりました。
そして国体の出場校も決まりました。
新潟が開催地で準優勝だったので、8強+4校です。……何で優勝した中京大中京に負けたチームが入っていないんだろうか。関西学院なんてサヨナラ負けだったのに。3回戦で花巻東に負けた東北、同じく3回戦で都城商に負けた智和、そして2回戦で智和に負けた札幌第一。同じく2回戦で明豊に負けた西条……あー、地区バランスかも? 上位に中部地方多かったし。
補欠としては、3回戦で立正大淞南に負けた東農大二と、2回戦で花巻東に負けた横浜隼人が入っています。
◇決勝(24日・阪神甲子園球場)
◇土壇場の6点差、劇的せめぎ合い
日本文理(新潟)
011000115=9
20000620×=10
中京大中京(愛知)
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中京大中京が毎回の17安打、日本文理も14安打と、互いに持ち前の打力を存分に発揮した好ゲームとなった。
中京大中京は一回、堂林の右中間2ランで先制。一度は同点とされたが、六回2死満塁から、堂林の左前打、柴田の左越え二塁打などで一挙6点。七回にも、1死二塁から河合の右翼線二塁打などで2点を加えた。
日本文理は6点差を追う九回、再登板した堂林を相手に驚異的な粘りを見せた。2死無走者から、切手の四球を皮切りに武石の右翼線三塁打など4長短打と3四死球で5点を返し、なお一、三塁としたが、最後は若林の痛烈な打球が三直となってゲームセット。中京大中京は再度救援した森本が最後を抑えた。
日本文理の伊藤は第80回(98年)準優勝の京都成章・古岡基紀以来11年ぶりに決勝まで全試合完投を達成したが、終盤は制球が甘くなった。
◇中京大中京・大藤敏行監督
打線がつながったが、九回は相手の気迫を感じた。あと1本で逆転される場面で、うちの選手たちがよく我慢してくれた。
◇中京大中京・堂林
(試合直後のインタビューで号泣して)最後まで投げられず、情けなくてすいません。
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■白球を追って
◇中京大中京、しのいだ
センバツの苦い経験から「この1球」を今夏のテーマに臨んだ中京大中京。九回の守りでは、それが逆に重しとなったが、打撃では集中力を発揮した。
粘り強く投げていた日本文理の伊藤に引導を渡したのは、投球では苦しんだ4番の堂林だ。同点の六回2死満塁から2点を勝ち越す左前打は「甘い変化球を狙っていた」。一回には先制2ランを右中間に運んだが、この打席は真ん中に入ったスライダーをとらえた。
直前に2番・国友がスクイズを外されて失敗、大会塁打記録を更新した3番・河合も空振り三振に打ち取られていた。ひと息ついていた相手バッテリーの緊張の糸を切らすには十分な一打。一挙6得点へとつながる。
打線は計17安打を放ったが、うちファーストストライクを見逃したケースは6度しかない。初球をとらえた安打も5本あり、積極性が際立つ。そこには「ストライクの球は最初が一番甘い確率が高い」(大藤監督)との冷静な戦略もあった。
それを支えてきたのは、7秒に1回の割合で2時間弱で終える1000本の素振りであり、いろいろな種類のカードのマークを記憶して集中力を高めるメンタルトレーニングであった。
力、技、知恵を兼ね備えた打線は、甲子園の頂点を極めるにふさわしかった。
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■夏・輝く
◇水際のスーパーキャッチ−−岩月宥磨(ゆうま)中堅手(中京大中京・2年)
ボールを見ずに後ろ向きに走り、フェンスの2メートル手前でジャンプ。同点の四回1死一塁。日本文理の伊藤が放った中堅フェンスに届きそうな大きな打球は、吸い込まれるようにグラブに収まり、勝ち越しを防いだ。
打たれた瞬間は打球に目をやった。見ながら走っていては追いつけないと即座に判断。予測した地点へ一直線に走った。「体が勝手に反応するんです」。普段からボールを見ずにフライを追いかける練習をして鍛えた自信のプレーだ。大藤監督は「打球の落下点に入るのが早い」と評する。飛び抜けて俊足というわけではないが、予測能力が高いという。
先制しながら追い付かれ、味方は走者を出しても還せない悪い流れを、水際で押しとどめたプレー。最後にもつれた試合は1点差で終わり、「守備の人」がしっかりと仕事を果たしたことが、ピリリと利いた。「期待通りのプレーができてうれしい」。職人技で優勝に貢献した2年生は、晴れ晴れとした笑顔をみせた。
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◇中京大中京
名古屋市内にある私立校。1923年に中京商業学校として創立し、同時に野球部も創部。67年に中京に改称し、95年から現在の校名。甲子園は春29回、夏25回出場。戦前には史上唯一の夏3連覇の偉業もあり、66年に春夏連覇。OBに日本ハムの稲葉篤紀、楽天の嶋基宏、元楽天の紀藤真琴ら。サッカーなど他のスポーツも盛んで、フィギュアスケートの安藤美姫、浅田真央はともに卒業生。
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◇中京大中京の夏の歴代決勝戦績◇
回 年 スコア 対戦相手
17 1931 ○4−0 ●嘉義農林
18 32 ○4(11)3●松山商
19 33 ○2−1 ●平安中
23 37 ○3−1 ●熊本工
36 54 ○3−0 ●静岡商
48 66 ※○3−1 ●松山商
91 2009 ○10−9 ●日本文理
※は春夏連覇。カッコ内数字は延長回数
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◇全国選手権優勝回数◇
7回 中京大中京(愛知)
6回 広島商(広島)
5回 松山商(愛媛)
4回 PL学園(大阪)
3回 龍谷大平安(京都)
第91回全国高校野球:中京大中京10−9日本文理(その2止) 悲願の大旗あと一歩
◇決勝(24日・阪神甲子園球場)
◇土壇場の6点差、劇的せめぎ合い
◇日本文理・大井道夫監督
最後にうちらしい攻撃。(50年前の準優勝投手)優勝旗が欲しくないと言えばうそになる。また、辞められなくなったね。
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■白球を追って
◇日本文理、逆転目前涙
これほどの喝采(かっさい)を浴びた敗者が、かつてあっただろうか。日本文理が九回2死から演じた怒濤(どとう)の反撃は、覇者にも劣らない強烈な残像を、見る者のまぶたに焼き付けた。
切手が四球を選び、打席は高橋隼。それまで3安打の2番打者に対して、中京大中京の堂林は力を振り絞って内角を攻めてきた。高橋隼も奮い立つ。「簡単には終わらせない。どんな球でも食らいついてやる」。際どい球はファウルでカット。そしてフルカウントからの9球目。甘く来た直球をたたいた打球が左中間を破り、切手を本塁に迎え入れた。
球を見極める意識は、後続につながった。武石もファウルで粘って7球目を右翼線へ。2四死球の後の伊藤は、最初のストライクを左前へ運んだ。
続く代打・石塚はブルペン捕手。地区大会では出番すらなかった背番号12にも意識は浸透していた。「自分がリードするなら、打ち気にはやる代打への初球は変化球」。読みは的中し、初球の遅いカーブを三遊間へ打ち返して9点目。絶望的な6点差から逆転目前に転じて、「もしや」の期待で沸騰した観客席も味方につけた。
日本文理は今春のセンバツ1回戦で、好機を生かせず完封負け。その後の打撃練習では、たった1球に対して最適の打ち方や見送り方をする努力を重ねて夏に挑んだ。大井監督の「どんどん行こう。うちの野球はそれしかないんだもん」という言葉に押された最後の攻撃は、悔いを残さない集大成となった。
会心の笑顔はない。だが誰もが誇らしげでもあった。新潟から頂点への扉を開いた、堂々の準優勝だ。
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■夏・輝く
◇気持ち込め5戦656球−−伊藤直輝投手(日本文理・3年)
球場から立ち去る間際、日本文理の伊藤は一人でマウンドに上がり、「甲子園の土」を袋につめた。656球を投げ切った右腕でプレート付近の土をかき集める伊藤を誰もが優しく見守った。
九回の反撃。「イトウ、イトウ」。伊藤の奮闘を知るスタンドが名前を連呼する特別な声援。応えるように2点差に迫る適時打。「声援を力に打てた」。三塁走者として敗戦を迎えたが、悔いはなかった。
投球にも悔いはない。同点の六回1死満塁、絶妙なチェンジアップで大会屈指の左の好打者・河合を空振り三振に仕留めた。しかし、続く堂林にはスライダーを左前に運ばれた。「甘かったけど、気持ちは込めていた球。堂林君の気持ちが上回った」。右打者への「宝刀」を粉砕された完敗に潔かった。
整列後に堂林と抱き合って互いに「ありがとう」と言葉を交わした。自分を成長させてくれた甲子園と好敵手へ感謝の言葉が続いた。
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◇新潟勢躍進に結実−−他地域と交流、中学生に指導
今大会前まで47都道府県最少の夏通算16勝だった新潟県勢は、日本文理が4勝し、17勝の山形県を抜いた。
躍進について、新潟県高野連の富樫信浩理事長(48)は「決勝に進んでもおかしくない下地はあった」と話す。その一つが他地域との交流。これまでは「交通の便が悪く、なかなか県内外のチームと練習試合が組めなかった」が、上信越自動車道や関越自動車道が整備され、徐々に交流が可能となっていた。
また、約10年前から技術指導を行う委員会を県高野連に設置し、中学3年生の軟式野球部員に、硬式球に慣れさせる取り組みを行ってきた。日本文理のベンチ入り選手18人のうち県内中学出身者は15人を占め、実を結んでいる。春夏通算は22勝でまだ全国最少だが、07年夏に新潟明訓が2勝するなど、日本文理以外も地力を付けている。
第91回全国高校野球:中京大中京、薄氷の快挙 43年ぶり(その1) /愛知
◇日本文理の反撃に耐え
夏の甲子園第15日の24日、県代表・中京大中京は決勝で日本文理(新潟)と対戦した。九回に1点差まで追い上げられたが逃げ切り、43年ぶり7回目の優勝を果たした。県勢としても夏の全国制覇は43年ぶり。応援スタンドに詰めかけた人たちは新しい歴史を刻んだ中京大中京ナインをたたえ「野球王国・愛知の復活だ」と喜び合った。
▽決勝
日本文理 011000115=9
中京大中京 20000620×=10
◇野球王国に新たな歴史
超満員のアルプススタンドが歓喜に沸いた。打ち鳴らされるメガホンの音、それをかき消すほどの大歓声と拍手。全員が立ち上がり「日本一」の喜びに酔いしれた。
グラウンドもスタンドも、あと1球に苦しみ抜いた。エース・堂林翔太投手(3年)をマウンドに迎え、6点差で迎えた九回表。四死球と連打で失点を重ね、なおピンチが続く。スタンドの「あと1球」コールはやみ、「頑張って」の必死の声援に。森本隼平投手(2年)が再登板し、1点差まで詰め寄られると悲鳴に変わった。
序盤は一進一退の攻防だった。初回、堂林投手の本塁打で2点を先制。だが三回に同点に追いつかれる。野球部OBの藤波優作さん(26)は「接戦に強いのが中京。大丈夫です」と話すが、嫌な流れは変わらなかった。
スタンドの祈りが届いたのは六回裏。ついに中京打線に火がついた。連打に四死球を絡めて6点を追加。汗だくになっていたチアリーダーの岡田結衣さん(3年)は「さすがは中京打線。甲子園は私たちチアリーダーにとっても最高の舞台なので、決勝まで連れてきてもらって幸せ」と跳び上がって喜んだ。
一時は7点差をつけたが、終わってみれば1点差。43年ぶりの優勝旗の重さのある1点だ。最後まで大声を張り上げた応援団の渡辺智也団長(3年)は「ヒヤヒヤしたが、優勝するにはこういう厳しい場面を通過するのが試練なんだと思った。みんな本当によく戦ってくれた」と誇らしげな笑顔を見せた。
◇選手たちほめたい−−大藤敏行・中京大中京監督
堂林が投げて勝ってきたチームだから、最後もマウンドに立たせてやりたかった。優勝旗が長い年月を経て、我が家に帰って来たかな。選手たちを「よくやった」とほめてやりたい。
◇素晴らしいチーム−−大井道夫・日本文理監督
選手たちが、私の想像以上に成長していた。九回は「意地を見せてみろ」と言ったが、素晴らしい粘りだった。自分が選手で準優勝した時より何倍もうれしい。本当に素晴らしいチームです。
◇後輩には優勝旗を−−中村大地・日本文理主将
高校球児として一番長い夏を過ごすことができて幸せ。最終回はまさに自分たちの野球ができた。最後は相手が一枚上手だった。後輩には優勝旗を目指して頑張ってもらいたい。
◇感動ありがとう−−神田真秋知事の話
最後までハラハラドキドキさせながら、大激戦を制されました。全国制覇は昨今の厳しい経済状況の中にある当県にとって久々の明るいニュースと言え、うれしい限りです。勇気と感動をありがとう。
◇マネジャーは涙
〇…優勝の瞬間、角谷貴恵マネジャー(2年)は「ありがとう、おめでとう、という言葉しか出てこない」とスタンドで涙。この日も朝、甲子園入り後の日課となっている大藤敏行監督との散歩に出かけた。河川敷を歩きながら大藤監督は「やっとここまで来た。勝っておいしい酒が飲みたいな」と漏らしたという。角谷さんは「最高にうれしい。早く宿舎に帰って全員で喜び合いたい」。
◇名古屋市長も応援
○…中京大中京の三塁側アルプス席には河村たかし名古屋市長も応援に駆けつけた。大学時代は野球部で投手、外野手を務めたという河村市長は「小学生のころは愛知は日本一だと思っていた。また日本一になって良い思いをさせてくれた。本当に良い試合だった」と高揚した様子。高尾和彦副知事らも観戦し、声援を送った。
◇名駅などで号外
夏の甲子園では実に43年ぶりの県勢の優勝に、人々は喜びに浸った。
名古屋駅周辺などでは、24日午後5時ごろから、中京大中京の優勝を伝える毎日新聞の号外約6500部が配られた。買い物途中の主婦、サラリーマン、学校帰りの中学生などが足を止め、次々と号外を求めた。
号外を手にした大府市の中学3年生、大村政人君(14)は「学校のオーケストラ部の部室で携帯電話のワンセグ中継を見ながら応援した。最終回のピンチは部員全員で叫んだ」と興奮気味。名古屋市中川区の無職、秦清さん(70)は「伝統校の復活を期待していた。危ない場面もあったが打ち勝った」。岐阜県各務原市の主婦、松井和美さん(40)は「本当は県岐阜商と中京大中京の決勝を期待していた。でも東海勢が優勝してうれしい」と喜んだ。
名古屋市昭和区広路町のジャスコ八事店でも号外が配られた。買い物客が「優勝したの。すごいね」などと言いながら号外に見入っていた。
一方、全校応援態勢をとった昭和区の中京大中京高校では、事務職員5人が留守番。職員の小田和利さん(51)によると、試合終了直後から約1時間に、野球部OBなどから「おめでとう。勇気づけられた」といった電話が約100本あり、対応に追われたという。
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■熱球譜
◇苦しさ乗り越え涙−−河合完治三塁手=中京大中京(3年)
ウイニングボールが収まったグラブを突き上げた。大歓声が鳴り響く。「勝った。ようやく終わったんだ」。笑顔の代わりに安堵(あんど)の涙がこみ上げた。
攻守に苦しんだ試合だった。
六回裏、1死満塁の好機に三振で倒れた。続く堂林翔太投手(3年)や柴田悠介選手(3年)の適時打で大量点を挙げたが、活躍できない悔しさが募った。「絶対につないでやる」と誓った七回裏には、二塁打を放って山中渉伍主将(3年)を還し、自身も決勝点となった本塁を踏んだ。それでも、もどかしさは消えなかった。
葛藤(かっとう)が焦りに変わったのが九回表だった。捕ればゲームセットという邪飛。ボールを見失った。あっという間に1点差に。九回2死から逆転された春のセンバツの悪夢が頭をよぎった。「僕のせいで負けるかもしれない」
九回10人目の相手打者が打席に入る。長打1本で逆転。鋭い打球は真っすぐ正面に飛んできた。「何があっても絶対につかんでみせる」との覚悟で構えたグラブに打球が収まり、試合終了。最高の形で、高校最後の夏が終わった。
試合後、目を真っ赤にして泣き続けた。「勝ててほっとした。神様が最後にもう一度だけ、僕にチャンスをくれた」。優勝盾を受け取って泣き、最大のライバルで親友の堂林投手と抱き合ってまた泣いた。
6試合で28塁打。大会個人最多塁打の新記録を樹立し、強烈な印象を残した。「最高の仲間、最高の監督と、最高のゲームができた。最高に幸せな高校生活だった」。涙はうれし涙に変わった。
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◆選手のひとこと
◇山中渉伍主将(3年)
1死が取れず苦しい終盤だったが、今後の野球人生の糧になると思う。
◇堂林翔太投手(3年)
最後まで気が抜けなかった。最後が情けなかったが、とにかく勝てて良かった。
◇磯村嘉孝捕手(2年)
最後に打たれた時は頭の中が真っ白になった。決勝は簡単に勝てないと知った。
◇柴田悠介一塁手(3年)
簡単に勝てないのが甲子園と思った。3打席目でやっと自分の野球ができた。
◇国友賢司二塁手(3年)
日本文理の粘りに苦しんだ。野球は何が起こるか分からないと改めて感じた。
◇河合完治三塁手(3年)
最後にチームに迷惑をかけて申し訳ない。優勝できてよかった。
◇伊藤隆比古左翼手(3年)
3年間の集大成でいい結果が出せた。このメンバーで戦えて良かった。
◇岩月宥磨中堅手(2年)
日本のどこの高校よりも長く、この先輩たちと試合ができてうれしい。
◇金山篤未右翼手(3年)
最後の一球まで集中した。「勝つ」という気持ちの強さの出た勝利だと思う。
◇山田貴大選手(3年)
最後はハラハラしたが、絶対に勝つと思い、堂林と森本を信じていた。
◇森本隼平選手(2年)
3年生に連れてきてもらった甲子園。気持ちでミットめがけて投げた。
◇久保田剛史選手(3年)
九回3死目が取れなくて生きた心地がしなかった。まだ実感がわかない。
◇宗雲克政選手(2年)
甲子園で日本一になるのは簡単ではなかったが、最高の仲間と戦えて良かった。
◇岡駿吾選手(3年)
最高の指導者と仲間、スタンドの応援に支えられて優勝できた。本当にうれしい。
◇宮沢拓巳選手(3年)
気持ちいい。最後にこんなに長い夏を過ごせて最高。親孝行ができた。
◇倉見徳人選手(3年)
最後はヒヤヒヤしたが、自分たちは優勝を信じて精いっぱい声を出した。
◇盛政仁至選手(3年)
今はまだ優勝した実感がない。これからじわじわとわいてくると思う。
◇竹内啓貴選手(2年)
最高の先輩と優勝できてうれしい半面、先輩との野球が最後だと思うと寂しい。
第91回全国高校野球:中京大中京、薄氷の快挙 43年ぶり(その2止) /愛知
◇30年の夢かなう
〇…「夢がかなった」と涙ぐんだのは背中に「中京」の文字が入った赤いアロハシャツがトレードマークの牧野雅金さん(61)。熱烈な中京ファンの牧野さんはこの30年間、すべての公式戦に足を運び、中京野球部の歴史に立ち会ってきた。甲子園優勝は初めての経験だ。「元気なうちに中京の全国優勝を見るのが30年来の夢だった。本当に幸せで言葉が出てこない」と喜びに浸っていた。
◇ドームでOB活躍
東京ドームで開催中の社会人野球・都市対抗野球大会には5チーム計7人の中京大中京OBが出場した。口々に母校の快挙を喜ぶ。
02年春に甲子園を経験した中根慎一郎投手(三菱重工名古屋)は豊田市・トヨタ自動車の補強として出場。「後輩から感動と力をもらった。それを糧に自分も頑張る」。トヨタにはバッテリーを組んだ1年後輩の渡辺哲郎捕手も在籍する。
東邦ガスの小椋健太投手は04年夏にベスト8入りした時のエース。準々決勝で済美(愛媛県)にサヨナラ負けを喫し、相手の校歌を聞いた悔しさを今も思い出す。「今度は母校の校歌を聞けて感動した」と小椋投手。「都市対抗で日本一を目指す」。後輩たちの活躍に刺激を受けた。
そのほか、浜松市・ヤマハに高橋孝典外野手、薄井康博内野手が在籍する。三菱自動車岡崎には加藤敦史、長谷川達也両選手がいるが初戦で敗退した。
第91回全国高校野球:日本文理、大健闘の準優勝(その1) /新潟
◇新潟の誇り/記憶に残る名勝負/最高の夏ありがとう
◇ナイン雄姿、みんな忘れない!
夏の甲子園で日本文理は大会第15日の24日、県勢初の優勝を目指して中京大中京(愛知)との決勝に臨んだ。6点を追う九回2死走者なしから5点を奪う驚異的な粘りをみせたが、9−10であと一歩及ばなかった。しかし、今大会を猛打とチームワークで勝ち上がり、3回戦と準々決勝で大会史上初の2試合連続毎回安打を記録。決勝では人々の記憶に残る名勝負を演じた。選手たちの大健闘と準優勝をたたえ、スタンドから惜しみない拍手が送られた。
▽決勝
日本文理 011000115=9
中京大中京 20000620×=10
あまりに重い6点差。九回表、最後の攻撃も三振と遊ゴロで2死走者なし。一塁アルプスでは約2000人の応援団が、祈るように「みんなでつなげ」と声を響かせる。もちろん、ナインの気持ちも折れていなかった。
「アルプスで応援する仲間がいるのにあきらめるわけにはいかない」。切手孝太選手(3年)が四球で出塁すると、すかさず盗塁。続く高橋隼之介選手(2年)が4球ファウルで粘った末に右中間を破る適時二塁打で1点を返す。これがドラマの始まりだった。
試合は序盤から動いた。一回裏、相手のエースで4番・堂林翔太選手(3年)の先制2点本塁打が右翼席に突き刺さる。一塁側アルプスは一瞬しんと静まった。しかし、二回に1点を返し、さらに三回。お返しとばかりに高橋隼選手が左翼席にソロ本塁打を放った。周りの保護者らから「隼之介は偉い」ともみくちゃにされる父・克己さん(47)。「よくぞ振り出しに戻した」と笑顔がはじけた。
しかし六回、連投の疲れが見えはじめた伊藤直輝投手(3年)が相手打線につかまる。四死球や暴投も絡み、一気に6失点。七回にも2点を失い3−10に。アルプスの元気も奪われかけ、伊藤投手の父・洋一さん(48)は「みんなで取り返す。きっと逆転できる」と拳を握りしめた。
その言葉通り、土壇場になってつなぐ野球が線を描き始めた。九回、1点を返し、アルプスは再び息を吹き返す。ベンチ入りできなかった3年生部員が目に涙を浮かべて声を張り上げた。「あいつらの分も絶対打とう」。武石光司選手(3年)が右翼線に三塁打を放って2点目。
「さー行きましょう」。四死球で走者が出るたびに「チャンスマーチ」のボルテージが上がり、大合唱に。満塁からの連続適時打で、ついに9−10の1点差に迫った。
この回打者一巡し、打席には若林尚希選手(3年)。一、三塁の一打逆転の好機で、打球は鋭く三塁へ。快音と同時に爆発音のような歓声が上がった。
しかし、無情にも打球は三塁手のグラブに。大歓声が三塁側から、そして一塁側からは拍手がわき起こった。
新たな歴史をつくった選手たちは、アルプス前で笑顔で一礼。そこにはやりきったという満足感が浮かんでいた。
◇大井道夫・日本文理監督
選手たちが、私の想像以上に成長していた。九回は「意地を見せてみろ」と言ったが、素晴らしい粘りだった。本当に素晴らしいチームです。
◇中村大地・日本文理主将
高校球児として一番長い夏を過ごすことができて幸せ。最終回は自分たちの野球ができた。最後は相手が一枚上だった。後輩には優勝旗を目指して頑張ってもらいたい。
◇歴史を切り開いた−−篠田昭・新潟市長
九回2死からの驚異の粘りは新潟の誇り。甲子園で新潟の新しい歴史を切り開き、最高の夏をプレゼントしてくれてありがとう。2試合連続の毎回安打や伊藤君の熱投を81万市民は忘れないでしょう。
◇胸を張って帰郷を−−泉田裕彦知事
本県高校野球に新たな歴史を刻んだ。決勝で見せた粘り強さは県民の心に深く刻み込まれたと思う。大きな感動をありがとう、胸を張って帰ってきてください。
◇レベルアップ期待−−坂上隆・県高野連会長
本県高校野球関係者の一人として誇りに思う。これからは甲子園準優勝校である日本文理を目標に、各高校が切磋琢磨(せっさたくま)することで、本県高校野球がさらにレベルアップすることを期待する。
◇親友の活躍に笑顔
○…一塁側アルプスで応援団を務めたのは、ベンチ入りを逃した野球部員約50人。団長の上村剛士君(3年)は切手孝太選手(同)の親友で、23日の準決勝後には、携帯電話で「明日はおまえを日本一の応援団長にするから」と連絡をもらった。上村君も「最高の応援をするから、おまえも頑張れ」と応えた。日本一には、あと一歩届かなかったが、「最高の夏でした」と笑顔で甲子園を後にした。
◇裏方も悔いはなし
○…今春のセンバツで登板した本間将太君(3年)は、決勝のグラウンドでボールボーイを務めた。春の県大会で右ひじを痛め、最後の夏に背番号はなかった。悔しいが、「自分にできるのは心を込めてボールを磨くこと。伊藤に『おまえだけじゃないぞ』とボール越しに伝えている」という。決勝は「最後に何かを起こしてくれると信じていた」が惜敗。それでも、粘りの文理打線をマウンドに一番近い場所で見ることができ、悔いはない。
◇祝福の垂れ幕、新潟市庁舎に
新潟市役所の庁舎には、日本文理の準優勝を祝う垂れ幕が掲げられた。また、同市は日本文理に市スポーツ大賞を、大井道夫監督に市感謝大賞を贈ることを決めた。
「準優勝おめでとう」と印字された垂れ幕は縦13・5メートル、幅約90センチ。庁舎屋上から掲げられるのを見守っていた篠田昭市長は「81万市民にとって最高の夏になった。(9月26日に開幕する新潟)国体にも最高の弾みをつけてくれた」と感激しきりだった。
◇柏崎出身の選手、被災地に元気を
中村大地主将(3年)や高橋隼之介選手(2年)、平野汰一選手(同)は中越沖地震で大きな被害を受けた柏崎市の出身。少年野球などで指導した関係者からは「被災地に元気をくれた」との声が上がった。
中学時代の中村主将に野球を指導したことがある同市復興支援室長の白川信彦さん(54)は「元気をもらった。柏崎の子がここまで頑張ってくれるとは」と目を細めた。
「柏崎から甲子園へ」を目標に、地元の中学で野球を続け、高校進学を控えた子どもたちに自主トレーニングの場を提供する有志グループ「柏刈(かしかり)第三野球部」の代表世話人。「市民にとっても、いい夏の思い出をもらった。復興へ向けて励みになる」と話した。
高橋隼、平野両選手が中学時代に所属した少年野球チーム「柏崎リトルシニアリーグ」で指導した吉野公浩さん(42)は夜行列車に飛び乗って甲子園入り。アルプス席から教え子に声援を送った。「頼もしくなった。自信に満ちあふれている」と成長ぶりに驚く。「『最後までよく頑張った』と声を掛けてやりたい」と興奮気味に話した。
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■熱球譜
◇つなぐ打撃で悔いなし−−日本文理・武石光司選手(3年)
「おまえは打ってないけど、どうするんだよ」。六回の守備を終えてベンチに帰ると、仲間に声を掛けられた。伊藤直輝投手(3年)の前で大きくはずんだ打球を深追いし、一塁ベースを空けてしまった。出塁を許し、大きな失点につなげてしまった。三回にも失策があった。「チームの足を引っ張ってしまった」と胸が痛かった。
「エラーはバッティングで返せ」。仲間のヤジは励ましだと分かる。だからこそ、最後の打席に向かう意気込みは違った。九回2死からチームでつなぎ巡ってきた打席。「悔いのないバッティングをしろよ」。中村大地主将(3年)に肩をたたかれ、「必ずつなぐ」と誓った。
ストライクもボールも厳しい球をファウルでしのぎ、甘く入ったスライダーを思いっきり引っ張った。右翼線で弾む打球を確認すると、二塁をけって三塁へ思い切り滑り込んだ。いつもはクールな3番打者が大きなガッツポーズをした。
優勝は逃した。しかし、試合後の表情は晴れやかだった。「最後にあのバッティングができたから、悔いはありません」。全国約4000校の頂点に手をかけた最後の夏。「甲子園は自分を成長させてくれた」と笑顔を見せた。
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◆ナインの一言
◇伊藤直輝投手(3)
最後まであきらめなかった。甲子園で1試合ずつ成長できた。最高の夏だった。
◇若林尚希捕手(3)
最後につなぐ文理の野球ができた。伊藤は最後まで自分に思い切り投げてくれた。
◇武石光司一塁手(3)
最後は球場すべてが味方してくれた。つなげる野球をやり切った。悔いはない。
◇切手孝太二塁手(3)
皆のあきらめない気持ちが一つになり、アルプスの仲間が応援してくれた。
◇高橋隼之介遊撃手(2)
最後まであきらめずに戦えて良かった。先輩たちに「ありがとう」と言いたい。
◇高橋義人左翼手(3)
大歓声が聞こえて、点差が開いてもあきらめなかった。準優勝できて良かった。
◇湯本翔太中堅手(1)
悩んだ打席もあったが、決勝は吹っ切れた。負けたが、気持ちいい試合だった。
◇吉田雅俊右翼手(3)
最後につないで自分たちの野球ができた。いい試合だったので悔いはない。
◇奥浜真隆選手(2)
決勝までこられるとは思わず、びっくりした。気持ちの強さが大切だと学んだ。
◇高橋洸選手(1)
入学して4カ月でこの場所に立たせてもらって幸せです。先輩たちに感謝したい。
◇石塚雅俊選手(3)
九回は球場全体が自分たちを応援してくれているようで、本当にうれしかった。
◇田辺和貴選手(3)
八回は初球から振ろうと思っていた。高校最後の打席で笑顔で生還できて良かった。
◇村山良太選手(3)
最後にいい試合ができて良かった。今まで自分たちがやってきた野球ができた。
◇笹川貴嗣選手(2)
決勝にふさわしい試合。あそこから1点差に追いついた先輩たちの精神力はすごい。
◇平野汰一選手(2)
最後は今までのつなぎの野球に徹し、大きいのは狙わなかった。来年戻って来ます。
◇朝妻翔選手(3)
昨晩、監督に「決勝まで来たんだから楽しもう」と言われた。みんな楽しめていた。
◇矢口正史選手(2)
惜しかった。最後はベンチから「まだ、いける」と応援していた。来年戻って来ます。
◇安達優花記録員(2)
選手に勇気をもらい、最後まで笑顔でいられた。また新チームで選手を支えたい。=カッコ内数字は学年
第91回全国高校野球:日本文理、大健闘の準優勝(その2止) /新潟
◇驚異の反撃、観客に感動
◇帽子メッセージ胸に スタンドの仲間からも力を−−中村主将
一回裏。三塁の守備に入った中村大地主将(3年)は、一瞬、ふっと空を見上げた後、帽子を胸の前に掲げて「お願いします」とつぶやいた。視線の先には、「全国制覇」「全力」などの言葉。夏の新潟大会前、ベンチ入りできないメンバーが帽子のツバに書いたメッセージが並ぶ。
「こいつらがいるから、こいつらの分まで頑張ろう」。ピンチでマウンドに集まる時、みんなで行う「儀式」だ。新潟大会決勝戦からピンチの時はスタンドで見守る仲間たちに力を借りてきた。
夢の舞台の決勝も、スタンドの仲間とともに戦った。2点を先取された一回と6点を奪われた六回、マウンド上で、真っ黒に汚れた帽子のツバを見た。
センバツ出場を控えた今年2月。チームの雰囲気が悪くなっていると感じた中村主将が呼びかけ、夜中まで寮の部屋でミーティングをした。練習や生活態度で気になることや不満を遠慮なく言い合った。最後に一人ずつ将来の夢を語った。「高校で終わりじゃない。野球を通じて将来役立つことを探しながら、目標に向かって頑張ろう」。チームのきずなが、より強くなった。
決勝前夜、選手たちは大井道夫監督と「笑顔で新潟に帰ろう」と約束した。試合後スタンドに向かって走ってくる選手たちは、全員が笑顔だった。大きくガッツポーズした田辺和貴選手(3年)は「今までで一番熱い試合だった。この友情は宝物」。仲間を信じ、「みんなでつなごう」という一人一人の気持ちが、最後に一つになった。
◇留守部隊「勇気もらった」
新潟市西区の日本文理高校では、生徒や職員、地元住民ら約120人が集まり、テレビの前で応援。九回表2死からの猛追の場面では、青いメガホンをたたきながら立ち上がり、何度も歓声を上げた。
同校2年の吉田実紗さん(17)は「点差が開いてもう駄目かと思ったのに、選手の粘り強さは想像を超えていた。取られたら取り返す姿勢に感動した。こんなに勇気をもらった試合は初めて」と感極まった様子。5年前の甲子園で初戦敗退に泣いたOBの冨岡雄太さん(23)は「最後まであきらめない文理野球の神髄を見た。準優勝でも気持ちは負けていなかった。後輩たちにありがとうと言いたい」とたたえた。
試合終了後、同校の校舎には「祝 準優勝」の懸垂幕が掲げられた。藤木国裕副校長は「一戦一戦強くなって、選手の顔つきがたくましくなっていくのが分かった。こんなに充実した夏はなかった」と語った。
25日午後4時から、選手たちをたたえる凱旋(がいせん)式を同校正面玄関で開く予定。
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◇決勝までの歩み
▽第91回全国高校野球選手権大会
決勝 ● 9−10〇中京大中京(愛知)
準決勝 〇 2−1 ●県岐阜商(岐阜)
準々決勝 〇11−3 ●立正大淞南(島根)
3回戦 〇12−5 ●日本航空石川(石川)
2回戦 〇 4−3 ●寒川(香川)
▽新潟大会
決勝 〇12−4●中越
準決勝 〇10−0●新潟県央工(五回コールド)
準々決勝 〇10−0●高田農(六回コールド)
4回戦 〇 8−1●佐渡総合(七回コールド)
3回戦 〇 7−0●長岡向陵(七回コールド)
2回戦 〇11−0●新潟東(五回コールド)
夏の高校野球:9回2死から猛攻であと一歩…日本文理に万雷の拍手
【日本文理(新潟)9−10中京大中京(愛知)】まるで勝者のようだった。アルプス席に向かう日本文理ナインに涙はなく、笑顔が光輝いた。そして4万7000人の大観衆からは惜しみない拍手が送られた。
「2死だからといってあきらめてるやつは、本当にいなかった。“次につなげ、次につなげ”とベンチは凄い盛り上がりだった」
中村主将がそう振り返った怒とうの攻撃は、6点差の9回2死から始まった。1番の切手が四球で出塁すると、ここから勝利の女神の心が揺れる。高橋隼、武石の連続長打で4点差。ここで4番・吉田は三塁ファウルゾーンに打ち上げ万事休すと思われたが、三塁手と捕手が“お見合い”する形で捕球できず命拾い。そして死球で出塁。一塁コーチャーの村上は「あそこで絶対にひっくり返せると思った」という。ここからも連打を重ねてついに1点差。2死一、三塁からこの回2度目の打席に立った若林の鋭いライナーは三塁手の正面へ。最後の打球が抜けていたら…。勝者にも敗者にもそう思わせる幕切れだった。
下馬評では劣勢が予想されながら、真っ向勝負で中京大中京を土俵際まで追いつめたナインは誇らしげだった。9回に代打で1点差に迫る適時打を放った石塚が「この攻撃は一生忘れない。自分でも最高の打席だったし、今までで最高の当たりだった」と胸を張る隣で、大井監督が「最後の5点は奇跡」と笑った。
これまで夏は4度出場して1度も勝てなかった。新潟県内では他校から“文理のバットを調べろ”と言われるほど打てるのに、全国大会では打てない。今センバツ1回戦で清峰の今村に零敗を喫して以来、選手は1日1000回の腹筋、背筋をこなした。打撃練習ではフライを禁じ、ひたすら強いゴロを打つことを徹底した。その結果がつなぎの意識を生み、大会史上初の2試合連続毎回安打を含む5試合連続2ケタ安打をマーク。5試合42イニング中、無安打に終わったのはわずかに4イニングだけという全国でも屈指の強力打線が出来上がった。
中村主将は「これまで“おまえらは火縄銃”だと言われてきたけど、少しはマシンガンに近づけたかな。胸を張って新潟に帰りたい」。全国で一番長い夏を過ごした文理ナインが甲子園にさわやかな風を吹かせた。
≪エース伊藤「幸せ」656球≫5試合656球を1人で投げ抜いたエースの伊藤は三塁走者でゲームセットの瞬間を迎え「負けたけれど最高の試合で終われて幸せ」と笑顔を浮かべた。三直に終わった最後の打者は、小学4年からバッテリーを組んだ若林だった。「あいつの打球が自分の目の前に来て、終わった。運命を感じる。9年間ありがとう」と感慨深げにつぶやいた。
▼水島新司氏(「ドカベン」など野球漫画の第一人者、新潟県出身)私にとって今年の決勝は試合前から日本文理の勝利でした。新潟代表が決勝まで勝ち残ったことが、既に勝利者でした。すさまじい9回の反撃。勝った気分にさせてくれた敗戦でした。ありがとう故郷の球児たち。
中京・堂林、日本一の悔し涙/夏の甲子園
<全国高校野球選手権:中京大中京10−9日本文理>◇24日◇決勝
中京大中京(愛知)が日本文理(新潟)を破り、43年ぶり7度目の優勝を飾った。エース兼4番のドラフト上位候補、堂林翔太投手(3年)が先制2ランを含む3安打4打点の活躍。6点差の9回に5点を返されたが、追い上げをかわして競り勝った。
ライトから堂林は祈っていた。6回に1度降板しながら、志願して上がった最終回のマウンド。6点差から2点返され2死一、三塁で再びKO。2年の森本も打たれた。ついにリードは1点。なお一、三塁で強烈なライナーが三塁へ…。打球は三塁・河合のグラブに消えた。「打球は見えなかったけど、完治(河合)が捕ってくれて終わったんだなと…」と言うと、涙が止まらなくなった。優勝インタビューは帽子で顔を隠してすすり上げ、ナインに謝った。「本当に最後は苦しくて…情けなくて、ホントすみませんでした」。敗者のように泣き、謝罪する異例のヒーローだった。
打たれはしたが、打った。1回、「勝手に体が反応した」と、高めの変化球を右中間に先制2ラン。2−2の6回2死満塁では、左前に弾丸ライナーの2点勝ち越し適時打を放った。伊藤を打ちあぐむ中、圧倒的な打撃を見せ、一挙6点の猛攻を呼んだ。
あきらめかけた夏だった。8強入りした今春センバツ直後の4月。練習試合で右ひざ靱帯(じんたい)を損傷し、2カ月離脱した。家では不安からふさぎ込んだ。5月。異変を察した大藤監督が「思ってることを抱えず、全部出せ」ときつく諭した。ケガより先に、へこんだ心が治ると「いい子」だったエースは変わった。大藤監督が「我(が)が出てきた」と認めるように、捕手のサインには首を振り、後輩の指導にも熱を入れた。
「エースで4番」を中心に、古豪が復活した。優勝を目指したセンバツ準々決勝では、報徳学園に9回あと1死のところで逆転されて負けた。それ以降、目先の1勝、1球にこだわった。終盤こそ乱れたが、大量リードでも犠打やスクイズを絡めて1点を取りにいった。「苦しくても勝てたことがチームの成長」と、エースは声を震わせた。
ユニホームは伝統の立ち襟から、大きくデザインチェンジされた。夏の決勝は7戦7勝。夏の3連覇、春夏連覇も達成した古豪が新しい、栄光の1ページを刻んだ。「日本一を目指してずっとやってきた。優勝からも遠ざかっていたけど、何とか自分たちで歴史を塗り替えようと思っていた。良かったです」と喜んだ堂林は、打者としてプロを目指す。打って、打たれて、泣いた。最後に、堂林のための舞台が用意されていた。
勝者も敗者もハッピーだった!? 中京大中京の優勝にみる“神の手”。
神の見えざる手。
「神」などという仰々しい言葉を安易に使いたくはないのだが、スポーツにおいて、こと甲子園において、そんなことをよく思う。
今年の決勝戦、中京大中京と日本文理の試合も、まさにそんな神の手の存在を感じずにはいられなかった。
とても勝者の顔とは思えなかった。
怖さと、安堵と、ちょっとの喜び、と。それらの感情がない交ぜになった涙に見えた。
不本意ながらも劇的な決勝戦を演出してしまったうちの1人、中京大中京のエース、堂林翔太は、お立ち台で絞り出すようにこう言った。
「すいませんでした……」
全国制覇を果たし、謝罪する選手を見たのは初めてのことだった。
■「風が吹いて」ボールを見失い……世紀の大逆転劇へ。
「あれがなければ……って、よくあるパターンだよね」
隣にいた記者が言った。その時点ではあくまで戯れ言だった。
ただ、その冗談が、現実になりかけていた。
日本文理は9回2死から、四球と2本の長打で2点を返し、6−10。4点差に詰め寄り、なおも2死三塁と攻め立てていた。この場面で次打者の4番吉田が打った打球は平凡な三塁へのファウルフライ。万事休すかと思われた。
が、どうしたことか、その打球は、中京大中京の三塁手、河合完治の数メートル後方にポトリと落ちる。その原因がいまひとつ要領を得ない。河合が話す。
「風が吹いてて……風に流されて、見失ってしまったんです。よくわからないんですけど」
打球を見失った原因として、観客の白い服に重なったとか、ナイターの照明に入ったという話ならよく聞くが、「風が吹いてて」という話は聞いたことがなかった。
結局、9回から再登板していた堂林は、その直後、吉田に対し死球を与えてしまい降板。二番手の森本隼平が、こちらも再度、マウンドに上がる。ところがその森本も、四球と2安打を献上し、ついに9−10と1点差まで詰め寄られる。なおも2死一、三塁。世紀の大逆転劇が、目の前に迫っていた。
■中京大中京・河合「神様がもう一度、チャンスをくれた」。
球場のボルテージが最高潮に達する中、8番・若林尚希の打球が快音を残した。だが、当たりはよかったものの、三塁手の正面をつくライナーに。
ライトに回っていた堂林が、「打球は見えなかったけど、(河合)完治が捕るカッコをしたので、終わったんだと思った」と話せば、ファウルフライを取り損ねていた河合はこうしみじみと振り返る。
「正直、やられるんじゃないかって思った。最後は、神様がもう一度、チャンスをくれたんだなって思いました」
■日本文理のエース・伊藤は笑顔で「幸せだった」を連発。
神の手の存在を本当の意味で実感したのは、試合後だった。
県勢として史上初めて決勝戦まで駒を進めた日本文理は、エースの伊藤直輝が「幸せだった」という言葉を何度も繰り返すなど、胸を張り、実に晴れ晴れとした表情で甲子園を去った。
9回表、河合がファウルフライを捕球し、6−10のまま終わっていたら、こうはいかなかったはずだ。7−10や、8−10というのも微妙なところだ。9−10と、限りなく勝利に近い敗戦だったからこそ、すっきりとした納得の仕方があるのだ。
また、もし中京大中京が逆転負けを許していたとしたら、日本文理は至福の境地だったろうが、逆に堂林や河合が受けるショックは計り知れない。ましてや、春夏合わせ全国最多10回の日本一を誇る名門中の名門、中京大中京だ。準優勝で喜べるはずもない。
■奇妙にも、勝者も敗者もハッピーだったという結末に。
近年の決勝戦で、ある意味、これほどまで勝者も敗者もハッピーだったという結末は見たことがない。
勝者と敗者の光と影。それがスポーツの魅力でもあるのだが、何年かに一度はこんな光景を見るのもいいものだ。
試合後、激闘を物語る甲子園の凸型の大きなスコアボードを見ながら、ふいにそれが埋められた巨大な十字架のように見えた。
勝つべくして勝った中京大中京。「一球一打」への異常な集中力。
ピンチの後にチャンスがあるように、チャンスの後にピンチがある。
そして得点の後に失点が、失点の後に得点があるのも、また事実である。
精神性が大きくモノをいう高校野球においては、ピンチを乗り切れば気持ちが盛り上がり、チャンスを潰されると気持ちが受けに回る。得点を奪われると、あっという間にお尻に火がつくものなのだ。
夏の甲子園にドラマが多いのは、メンタルの未成熟な高校生においては熱くなった感情のやりとりが一方通行で終わらないからだ。プロのように論理で冷静に抑えつけるということがなかなかできない。
だから、そうした勝利の行方がめまぐるしく動く中で、特に重要なポイントをどう抑えていくかに勝利は懸っている。
「ここ一番」で打てるか。
「ここ一番」で守れるか。
■中京大中京の「ここ一番」での勝負強さ。
中京大中京、43年ぶりの全国制覇には、彼らの「一球一打」への執念がものをいった。
僅少差が2試合のみで他は圧勝しているが、点差というよりもここ一番での勝負強さが際立つ。6試合すべてで先制点を奪い、リードを許したのは2回戦・関西学院相手の5回からの1イニングだけ。大会を通して奪った併殺が6試合で6個もあったのが、何より見事な成績に映る。
準々決勝の都城商戦では2点差に追い上げられたなかで、1死二塁から、二塁走者をタッチプレーで刺しての併殺という惚れ惚れするほど見事なプレーを成立させた。しかも準決勝の花巻東戦では、スクイズから併殺を導くなどして2併殺を記録。ここ一番をきっちり打って、守って、力強く勝利を手繰り寄せてきたのだ。
準決勝を終えた時に、山中渉伍主将(写真)がこんな話をしていた。
「この1球をしっかり守って、この1球でしっかり決められているところが、(ベスト8敗退の)春とは違うところ。決勝は全国2校しかない戦い。僕たちの代は二校しか残っていないわけですから、全国の高校球児の思いを乗せて、一球一打に懸けて、試合に臨む」
■ハイライトは9回ではない。6回表裏に結果は出ていた。
決勝戦の試合を分けたのも、「一球一打」である。
ハイライトは2−2の同点で迎えた6回表裏の攻防にあったといっていい。
顕著に差が出たのは両チームの守備。6回表、日本文理の攻撃は1死二、三塁から強烈な遊撃ゴロを打ったが中京大中京の遊撃手・山中が難なくさばき、本塁でアウトにした。直後、中京大中京が5安打を集めて6点を奪った中には、日本文理の内野手がはじいた末の安打が2つ、内野安打が1本あった。うちひとつは、高くバウンドしたやや一塁よりの投手ゴロで一塁ベースが空くという場面があり、その直後、走者一掃の3点適時打が出ている。得点直後の7回表、日本文理は無死からの3連打で反撃の1点を奪ったが、ここでも、中京大中京は併殺で反撃を食い止めている。
■「甲子園ドラマ」をねじ伏せた河合、執念のキャッチ。
日本文理は好機をつぶされ、中京大中京は6点をもぎ取った。そして、得点した直後の日本文理の反撃を1点に留めた。この6回表裏の攻防は、中京大中京の「一球一打」が如実にもの言う結果となったわけだ。
10―4でむかえた9回表、日本文理は2死から反撃に出る。四球が絡んだとはいえ、一気に1点差としたのは奇跡的とさえいえる。「これぞ甲子園ドラマ!」という猛反撃であった。大歓声に包まれるスタジアムの雰囲気に、今大会堅守が光った三塁手・河合完治でさえも、ファウルフライを見失ってしまったほどだ。
しかし、1点差の2死一、三塁。8番・若林の快音を響かせた鋭い打球は「飛んできそうな感じがしていた」という河合のグラブにノーバウンドでおさまった。2時間半の壮絶なドラマがエンドマークをつけた瞬間。
「一球一打」。
中京大中京の強さは、まさにその瞬間に極まった。
高野連:新潟国体の高校野球・硬式の部の出場校など決める
日本高校野球連盟は21日、阪神甲子園球場内で国体選考委員会を開き、新潟国体の高校野球・硬式の部に出場する12校と補欠2校を決めた。9月27日から4日間、新潟・HARD OFF ECOスタジアム新潟で行われる。
【出場校】札幌第一(北海道)花巻東(岩手)東北(宮城)帝京(東京)中京大中京(愛知)県岐阜商(岐阜)智弁和歌山(和歌山)立正大淞南(島根)西条(愛媛)明豊(大分)都城商(宮崎)日本文理(新潟・開催地)【補欠校】(1)東農大二(群馬)(2)横浜隼人(神奈川)
*** 以上、記事より ***
結果的に中京大中京の史上最多優勝で終わった決勝戦、色々な意味で今大会を象徴するような試合となりました。
そして国体の出場校も決まりました。
新潟が開催地で準優勝だったので、8強+4校です。……何で優勝した中京大中京に負けたチームが入っていないんだろうか。関西学院なんてサヨナラ負けだったのに。3回戦で花巻東に負けた東北、同じく3回戦で都城商に負けた智和、そして2回戦で智和に負けた札幌第一。同じく2回戦で明豊に負けた西条……あー、地区バランスかも? 上位に中部地方多かったし。
補欠としては、3回戦で立正大淞南に負けた東農大二と、2回戦で花巻東に負けた横浜隼人が入っています。
2009.08/25 [Tue]
09夏・準決勝
第91回全国高校野球:日本文理2−1県岐阜商 日本文理、巧み4戦完投
◇準決勝(23日・阪神甲子園球場)
▽第1試合準決勝(午前11時開始)
県岐阜商(岐阜)
000000001=1
00001100×=2
日本文理(新潟)
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日本文理が投手戦を制した。序盤は再三のチャンスに適時打が出なかったが、五回に先頭の切手が左中間三塁打で出ると、続く高橋隼の右前打で1点を先取。六回は先頭の伊藤が左翼線二塁打を放ち、2死から中村の右前打で1点を加えた。伊藤は要所でチェンジアップが効果的に決まり、11奪三振。好守にも支えられて4試合連続の完投勝利を収めた。
県岐阜商は九回2死一塁から代打・古川の左越え二塁打で1点を返したが、反撃もそこまで。山田は10安打を浴びながら粘り強い投球を見せたものの、一歩及ばなかった。
◇日本文理・大井道夫監督
三塁走者がいる時はスクイズも考えたが、今まで通りの(攻撃)野球をしようと思い、強攻した。決勝もうちの野球をしたい。
◇県岐阜商・藤田明宏監督
相手の守備でベース際などのいいプレーがあり、ちょっと運がなかった。打者がもっと積極的に手を出していくべきだった。
◇攻守で好判断
日本文理・切手が攻守で好判断を見せた。まずは三回、1死二塁の守備。県岐阜商・松田智の抜ければ先制打というゴロを、「事前にビデオで打球方向を見て、中堅寄りに守っていた」という頭脳的なプレーでさばいた。打っては五回、「中継のもたつきを見て勢いに任せて三塁を突いた」という左中間三塁打。続く高橋隼の適時打で先制のホームを踏んだ。東京出身の1番打者は、「ここまで来たら、勝って新潟の人に恩返ししたい」。
◇代打で意地見せ
県岐阜商に意地の1点をもたらしたのは、九回2死一塁で代打に出た古川。「初球は外角に来る」と読み、とらえた打球が左翼手の頭上を越える適時二塁打になった。脱臼を繰り返した右肩を昨年末に手術し、約3カ月のリハビリを経て復帰。しかしこの夏は岐阜大会から代打での凡退が続いていた。「負けたのは悔しいけれど、やっとつなぐことができた」
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■白球を追って
◇決め球、精度に差 県岐阜商・山田、伊藤に脱帽
両先発のスタイルはうり二つ。同じ右腕で、140キロ前後の直球を速くみせるべく低めの変化球を巧みに使う。軍配は日本文理・伊藤に上がった。勝敗を分けたのは、決め球の精度と、対戦の組み合わせの妙だった。
伊藤は一回、先頭打者を空振り三振に仕留めた。同点とされるピンチだった九回2死二塁では遊ゴロに打ち取った。いずれもチェンジアップが決まった。
一方の県岐阜商・山田。二回に死球の後、高橋義に2−2から落ちる球をとらえられ、三塁強襲安打。無失点で切り抜けたが、不安になった。五回無死三塁、打者・高橋隼。2−2からの低めの変化球が外れ、浮いた5球目の速球を右前にはじき返された。山田は「(伊藤のように)変化球を使いたい」と脱帽した。
県岐阜商には伊藤にチェンジアップのイメージがなかったかもしれない。日本文理は準々決勝で立正大淞南と対戦。相手打線のスタメンには左打者が1人。右打者には棒球になる恐れもあり、122球のうち2球しか使わなかった。
「疲れは少しはあった」という山田に対し、伊藤は試合後も「大丈夫です」と涼しい顔。試合中、ダッグアウトに戻るたびに市販の「梅肉エキス」をなめるなど、スタミナ対策もうまくいった。
昨年末には大井監督から野手転向さえ打診されたが、チェンジアップを習得してはい上がり、念願だった「一番長い夏」を手に入れた。
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■夏輝く
◇打率7割弱、脅威の9番−−中村大地三塁手=日本文理・3年
打率はほぼ7割。チームの「首位打者」だが打順は9番だ。六回の第3打席で真価を発揮した。初球。狙っていたスライダーが真ん中外寄りに甘く来たのを見逃さなかった。鋭いライナーが二塁手の頭上を越え、貴重な2点目をたたき出した。「たまたまです」と謙遜(けんそん)するが、主将としての役割だけでなく、つなぐ打撃が打線を活性化している。
センバツは左足の故障で先発出場できず、優勝した清峰(長崎)に、1回戦で0−4の完敗。1打席1三振の記録が残った。迷惑をかけたとの思いから、チームが重点的に取り組んでいる打撃練習に加え、他の打者の打撃練習中に守備に入って、守りを鍛えてきた。
七回の守備。1死二塁から三遊間を抜けそうな当たりをダイビングキャッチ。好守備にも、「攻守で一球一球に集中することができているから」と涼しい顔だ。春は不完全燃焼に終わった舞台に、最後まで立ち続けられる資格を得た。「やっと仕事をさせてもらえている」と表情は充実している。
第91回全国高校野球:日本文理、狙え頂点 県民待望、新たな球史を /新潟
頂点まであと一つ−−。日本文理は夏の甲子園大会第14日の23日、準決勝で県岐阜商(岐阜)に2−1で競り勝ち、初の決勝進出を決めた。この日も打線は好調で、4試合連続の2けた安打。エース伊藤直輝投手(3年)も11奪三振の完投で、粘る相手を振り切った。快挙を続けるナインに、アルプスからは地鳴りのような大歓声と拍手がわき起こった。日本文理は24日、県民悲願の優勝を目指し、中京大中京(愛知)との決勝戦に臨む。
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▽準決勝
県岐阜商 000000001=1
日本文理 00001100×=2
……………………………………………………
猛打の文理が、最後は守り勝った。二回以降、毎回安打を放ちながらも、相手の堅守とエース山田智弘投手(3年)の粘り強い投球の前に、なかなか得点に結びつけられない。
ようやく均衡を破ったのは五回裏だった。先頭の切手孝太選手(3年)が左中間を破る三塁打。沸き返るアルプス席が見つめる中、続く高橋隼之介選手(2年)はバントのサインが出ていないのを確認した。「絶対打って還す」。高めの直球を右前にはじき返し、待望の先制点をあげた。
六回裏には、伊藤投手が左翼線に二塁打。ここで準々決勝まで9打数7安打の9番・中村大地主将(3年)が、低めのスライダーをきれいに右前に運び、追加点をあげた。
しかし、この日の見せ場はここからの守備だった。七回表、1死二塁で三遊間を強いゴロが襲う。次の瞬間、三塁手の中村主将が「無我夢中だった」と倒れ込みながら捕球し、すかさず一塁へ送球。八回表にも1死二塁とされたが、今度は遊撃手の高橋隼選手が三遊間への強烈なライナーを好捕し、併殺にしとめた。バックの堅守でピンチをしのぎ、エースは「仲間のファインプレーが力になった」。
そして2点リードのまま九回表、最後の守りへ。クリーンアップから2三振を奪い、2死一塁。アルプス席に勝利を待つ歓声がこだまする。しかし、代打への初球、歓声は悲鳴に変わった。高橋義人左翼手(3年)の頭を越す適時二塁打で1点差。一打同点の場面となり、内野手がマウンドへ。「アウトはあと一つ」。そう確認しあった。「気持ちだけは負けない」。エースが投げたこん身の129球目。遊ゴロで1時間46分の熱戦に終止符が打たれた。
伊藤投手の母・真由美さん(42)は「もう感無量。ここまできたら最後まで投げきって勝ってほしい」と涙声。朝一番の飛行機で応援に駆けつけた篠田昭新潟市長も「ピッチングが素晴らしかった」と伊藤投手を絶賛。アルプス席には最後の大一番への期待を込めた拍手が鳴り響いた。
◇大勢の応援に感謝−−中村大地・日本文理主将
伊藤は低めに集めていて打たれる気がしなかった。大勢の人が応援に来てくれて、感謝の気持ちでプレーした。全国制覇は夢だけど目標。全員がここまで来たら歴史を作ろうと言っている。
◇エースは120点満点−−大井道夫・日本文理監督
何と言ったらいいのか。驚いた。伊藤は100点どころか120点満点。5点取られていいと言っていたのが1点に抑えてくれた。疲れなんて言ってられない。次もぶつかっていくだけ。
◇名演奏で活躍祈る
○…三塁側アルプス席では、日本文理の吹奏楽部が力のこもった演奏を披露した。同部は西関東吹奏楽コンクールで銀賞11回を誇る「強豪」で、休みの日も8〜9時間練習する。応援歌のレパートリーは16曲に及び、顧問の佐藤寛教諭(53)は「恐らく出場校中最多でしょう」と胸を張る。この日は部員30人にOB・OG10人が加わった40人で「狙いうち」などを演奏。部長の清水千晶さん(3年)は「優勝できるよう力になりたい」と汗をぬぐっていた。
◇喜びに沸く県内 応援ツアー30分で満員に
県勢初の決勝進出の快挙に県内でも喜びの輪が広がった。応援の動きも加速している。
知人からのメールで知った新潟市江南区の大学院生、加藤恵子さん(57)は「中越沖地震など暗いニュースが多かったのでとてもうれしい。決勝は、とにかく精いっぱい頑張ってほしい」とエールを送った。
同市西区の日本文理高校で留守番の藤木国裕副校長(62)は「すごいことをやってくれた」と大喜び。新たに応援バス3台を手配し、23日夜、109人の生徒らが甲子園へ向かった。既に現地入りしている約400人とともに決勝戦を応援する。
3年生の小山兼続さん(18)は「ここまできたのでぜひ優勝を」。1年生レギュラーの湯本翔太外野手と仲がいいという田辺明日佳さん(16)は「(湯本選手には)元気あるプレーを期待したいです」と話した。
JTB新潟支店が募集した決勝戦の応援ツアーは、80人の予定が募集開始30分で満員になる人気。急きょバスを追加手配し、最終的に約200人が応援に駆け付けるという。
一方、伊藤直輝投手と若林尚希捕手(ともに3年)の出身中学である関川村の関川中では24日、約200人の全校生徒と希望する住民がテレビ観戦で応援する予定だ。
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■熱球譜
◇最後の「仲間」と熱戦を−−日本文理(3年)切手孝太選手
「ここまでこられるとは正直思っていなかった。感無量です」。五回、「次へつなごう」と、3球目のど真ん中に入ってきたフォークを左中間三塁打。先制点に結びつく殊勲の一打に笑顔を見せた。
東京都新宿区育ち。両親が共働きで、小学校1〜3年は学校から児童館に直行した。迎えが来るまで野球やドッジボールをして遊んだ。そんな小学生時代、テレビの前で一塁にヘッドスライディングする球児の姿にくぎ付けになり、いつしか「甲子園に出る」が目標になった。
今春のセンバツに続き、この夏も夢をかなえた。だが、野球は高校までと決めている。両親は大学で続けることを勧めてくれるが、「楽しくて落ち着く場所だった」児童館の先生たちの世話になったことが忘れられない。「今度は自分が子どもたちに楽しい時間を過ごしてもらえるようにできたら」。小学校の教員免許も取りたいと思っている。
「勝っても負けても、一番長い夏に変わりはない」。気づけば、あっという間に決勝まで上り詰めていた。「野球に熱中するのは、この仲間が最後」。その思いを胸に、最高の仲間と夢の舞台の頂点に挑む。
第91回全国高校野球:準決勝 最後は熱い涙、大健闘の県岐阜商 /岐阜
夏の甲子園第14日の23日、県岐阜商は準決勝で日本文理(新潟)と対戦し、1−2で惜敗した。九回、代打古川隼也選手(3年)が1点差に詰め寄る二塁打を放つと、同点さらには逆転への期待も高まったが、あと一打が出なかった。53年ぶりの決勝進出はならなかったものの、一塁側アルプススタンドには健闘をたたえる大きな拍手が響いた。
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▽準決勝
県岐阜商 000000001=1
日本文理 00001100×=2
……………………………………………………
序盤からリードを奪い、相手の追撃を許さぬ試合をしてきた県岐阜商にとって、なかなか点が取れないジリジリした展開だった。
一回、三回と得点圏に走者を進めるものの、あと一本が出ない。
五回、走者を出しながらも粘りの投球を続けてきた山田智弘投手(3年)が、連打で先制点を許してしまう。父寛次さん(49)は「連投で疲れもあるだろうが心配していない。大会を通じて頼もしくなった」。その言葉通り、後続を三振、ダブルプレーで抑えた。
七回の攻撃、四球で出塁した井貝星良選手(2年)の盗塁で再び好機を作る。前日の帝京(東東京)戦で活躍した横山貴大選手(3年)が代打で登場。期待は高まったが、三振に倒れ、「あー」の声が漏れた。
八回1死から、松田智宏主将(3年)が左中間に二塁打を放つ。母三恵子さん(52)は「山田君のためにも1点を」とメガホンをたたく。しかし後続が倒れ、得点に至らない。
粘る県岐阜商は九回にも2死一塁の好機を作り、代打の古川選手が左翼手の頭上を越える適時二塁打を放つ。待ちに待った1点だ。「ギャー!」。スタンドには絶叫がこだまして、応援団は泣きながら抱き合った。
「同点だ!」と色めき立ったが、続く泉田純弥選手(2年)の打球は遊撃手の正面に。懸命のヘッドスライディングも「アウト!」。試合終了。
スタンドの前に選手たちが整列すると、応援団は「よくやった」「ありがとう」と大きな拍手を送った。
◇選手を誇りに思う−−藤田明宏・県岐阜商監督
非常に悔しい。山田は我慢強く投げたが、相手打線の振りが鋭かった。狙い球が絞れず、良い当たりが野手の正面を突き運もなかった。生徒というより後輩として頼もしく、選手を誇りに思う。
◇相手、一枚上だった−−松田智宏・県岐阜商主将
山田が疲れていたので打線で援護したかったが、相手投手が予想より良く、低めの球を振らされた。相手が一枚上だった。大舞台で楽しく元気よくプレーできた。優勝の夢は後輩に託したい。
◇横山のおかげかな
○…九回に代打で登場し、一矢報いる適時二塁打を放った古川隼也選手(3年)は、“代打の神様”と野球部内で呼ばれている横山貴大選手(同)と大の仲良し。横山選手のバットを借りて打席に立った。初球。狙い球とは違う直球だったが「体が勝手に反応した」。3年生の古川選手にとって、甲子園では最初で最後の安打。「横山が打たしてくれたのかな。気持ちよかったです」
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■熱球譜
◇野球が好きと実感−−県岐阜商・山田智弘投手(3年)
五回、先頭打者に三塁打を浴び、続く打者にも、高めの直球を打たれ先制点を許した。夏の連投は、岐阜大会を通じて初。「疲れはない」と言い切ったが、中盤は先頭打者の出塁を毎回許した。
自己最速を塗り替える147キロの直球。指にケガをしてフォークが投げられなくなり、岐阜大会前に覚えた直球と似た球速で縦に小さく落ちる変化球スプリット……。仲間の守備を信じて緩急巧みに打たせて取った。
甲子園で戦い抜くため、進化を続けた。球威を上げるため、セットポジションからの投球をやめた。当初は球がばらついたが、低めの制球を重視した投げ込みで克服した。
九回表、「絶対に追いついてくれる」と信じ、投球練習を続けた。しかし、あと一歩で優勝の夢は幻に消えた。PL学園(大阪)や帝京(東東京)の重量打線相手に完投し、旋風を巻き起こした。「本当に楽しかった。野球が好きだなと実感できた」。大学でも野球を続け、いずれはプロの扉をこじ開けるつもりだ。
第91回全国高校野球:中京大中京、43年ぶりV王手 猛攻で花巻東降す /愛知
◇きょう日本文理と決勝戦
春夏通算11度目の優勝まであと1勝−−。夏の甲子園第14日の23日、中京大中京は今春のセンバツ準優勝校、花巻東(岩手)と対戦。4本塁打を含む13安打11得点の猛攻で大勝し、決勝進出を果たした。中京大中京の夏の決勝進出は優勝した66年以来43年ぶりとなる。日本文理(新潟)との決勝は24日午後1時から。中京大中京は三塁側に陣取る。
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▽準決勝
花巻東 000000100=1
中京大中京 10051211×=11
……………………………………………………
四回、試合は中京大中京に大きく傾いた。先頭打者の磯村嘉孝選手(2年)が2試合連続の本塁打を放ち、攻撃の口火を切った。花巻東のセンバツ準優勝に貢献した菊池雄星投手(3年)がリリーフしたが、この日の中京大中京に怖いものはなかった。3番・河合完治選手(3年)の適時三塁打で一挙3点を加え、花巻東を突き放す。さらに五回には伊藤隆比古選手(3年)が右中間に本塁打を放ち、菊池投手をノックアウトした。
スタンドで応援するサッカー部員の星野快さん(3年)は「野球部のみんなは教室にいる時とは全然違う雰囲気。ぼくらより先に全国で活躍されて悔しいが、最後まで勝って帰って来てほしい」。
中京大中京打線の勢いは止まらない。六回には河合選手が2打席連続となる適時三塁打。さらに八回には、河合選手がこの試合チーム4本目となる本塁打を放った。四回以降、毎回得点の猛攻で花巻東を圧倒した。
「今年のチームはパワーも精神力も強く、総合力が違う」。野球部OBの岡本裕助さん(29)はそう話し、感嘆した様子だった。
最後の相手打者を併殺で打ち取ると、超満員の中京大中京スタンドの熱気は最高潮に達した。「次も絶対いけるぞ」「優勝だ」。校歌を熱唱する選手たちをたたえる拍手と大歓声が甲子園球場にこだました。
◇目標まであと一つ−−大藤敏行・中京大中京監督
菊池投手は春から注目していた選手だったので、万全の状態で対戦したかった。選手たちは全力でよく頑張った。目標まであと一つだが、決勝戦と気負わず、目先の1勝にこだわって戦いたい。
◇中京らしくプレー−−山中渉伍・中京大中京主将
力と力がぶつかった結果、たまたま安打がたくさん出た。菊池投手は本調子ではなかったが一生懸命投げていた。何とかここまで来られたので、決勝も今までと変わらず中京らしくプレーしたい。
◇最後の母校応援?
○…中京大中京初の女性マネジャーだった横山真以さん(26)も応援に駆けつけた。野球部の活躍にあこがれて98年に入部。当初は大藤敏行監督から「女が口を出すな」と言われたが、00年夏の甲子園では記録員としてベンチ入りした。チームは2回戦で敗れたが、当時の仲間との日々は最高の思い出だ。高校野球の強豪校監督と今年中に結婚する予定。横山さんは「夫の野球部の応援をするので、母校を目いっぱい応援できるのはこれが最後かも」と話し、後輩たちのプレーに声援を送った。
◇最高のリベンジ
○…中京大中京の伊藤隆比古選手(3年)と花巻東・菊池雄星投手(3年)は中学時代に親善大会で対戦した経験がある。当時、伊藤選手は菊池投手から本塁打を打ったが、チームは負けた。今春のセンバツで両校の試合はなく、伊藤選手は菊池投手との中学以来の対決を心待ちにしてきた。伊藤選手は五回に菊池投手から本塁打を放ち、試合にも勝利。「最高の形でリベンジできてうれしい」と喜んだが「ベストの状態で戦いたかった」とも。背中を痛めていた相手を気遣った。
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■熱球譜
◇流れを変えた攻守−−磯村嘉孝捕手=中京大中京(2年)
四回表1死一、三塁。三塁走者が走るのが見え、スクイズとわかった。目の前に落ちた花巻東の佐々木大樹選手(2年)の打球をキャッチすると、本塁に突入してきた走者をタッチアウトにし、すぐさま一塁へ投げてダブルプレー。ピンチを好守で救った。
直後の五回には自分のバットで試合の流れを引き寄せた。「とにかく初球から」という気持ちで内角のスライダーを振り抜くと、高々と上がった打球は左中間スタンドへ。都城商(宮崎)との試合に続く自身初の2試合連続本塁打。この回、5点を奪う攻撃の起点になった。
初戦では無安打と打撃が奮わなかったが、試合を重ねるごとに尻上がりに調子を上げてきた。178センチ、78キロの大柄な体だが小技もみせる。8点差で迎えた六回無死一、三塁からスクイズを決め、花巻東をさらに引き離した。「チャンスがあれば1点を取りに行く中京の野球ができた」。2年生ながら強気な面もあり「3番の河合さん、4番の堂林さんだけじゃない」と5番打者の意地も見せる。
いよいよ決勝の大舞台。「いつも通りにやるだけ」と気負いはない。
第91回全国高校野球:花巻東、決勝進出逃す スタンドから大きな拍手 /岩手
夏の甲子園大会第14日の23日、花巻東は準決勝で中京大中京(愛知)に1−11で敗れ、涙をのんだ。エース菊池雄星投手(3年)に代わって先発した吉田陵投手(2年)は、四回途中まで力投。中盤以降、投手陣が強力打線につかまったが、七回には1点を返し意地を見せた。センバツで逃した優勝旗を手にするという目標は果たせなかったが、最後まで全力を尽くした選手たちに、スタンドからは「よく頑張った」の声援と大きな拍手が送られた。
▽準決勝
花巻東 000000100=1
中京大中京 10051211×=11
九回表、併殺打で花巻東の夏が終わった。一瞬、静まりかえるアルプスで、中平蓮選手(2年)は、ぼうぜんとグラウンドを見つめた。甲子園入り後、練習中のけがでベンチを外れた。「絶対日本一になろう」。そう誓い合った仲間との日々が脳裏をよぎった。
この日の先発は同学年の吉田投手。「秋に頑張ろう」。ベンチを外れた中平選手に1番に声をかけてくれた親友だ。一回裏2死二塁のピンチ。初の甲子園のマウンドに硬くなったのか。中平選手が「落ち着いていけ」と声援を送る。4番に三遊間を破られ1点を失ったが、次の打者を三振に。盛り上がるアルプスで中平選手は「よっし」と声をあげた。
四回裏、2点を奪われ、なおも2死満塁。マウンドに菊池雄投手があがる。背中の痛みを押しての登板に、球場にどよめきと歓声が上がる。中平選手も「これで流れが変わるはず」。しかし、走者一掃の三塁打を浴びた。「切り替えていこう」。メガホンをたたいて声を枯らした。
得点圏に走者を進めながら遠い本塁。だが7回表、横倉怜武選手(3年)と千葉祐輔選手(同)の連打で無死一、三塁の好機をつくった。ここで、打席には佐々木大樹選手(2年)。今春のセンバツ決勝戦に代打で出たが、最後の打者となった。直後から室内練習場で夜遅くまでひたすら素振りを続けた。ある日、気づいた中平選手が感嘆した努力家だ。三塁正面への併殺打に倒れたが、この間に1点を返した。「よくやった大樹」と中平選手。しかし、反撃もそこまでだった。
「先輩たちのためにも、来年絶対戻って来ます」。試合後、一礼する仲間たちを見つめながら、中平選手は必死に涙をこらえた。
◇選手よく頑張った−−佐々木洋・花巻東監督
菊池雄はベストな状態ではなく、大変な時に登板させてしまい申し訳ない気持ち。もう少し粘り接戦で前半を終えたかった。岩手の選手だけで日本一を達成したかった。選手はよく頑張った。
◇打線の差感じた−−川村悠真・花巻東主将
日本一が唯一の目標だったので正直悔いは残る。どんなに点差がついてもあきらめないで勝つことをイメージしていたが、中京打線には自分たちとの差を感じた。甲子園の土は持って帰らない。
◇15人で懸命に演奏
○…一塁側アルプススタンドに駆け付けた花巻東の吹奏楽部員は助っ人を合わせても15人という小所帯。
15人で14種の楽器を演奏するため1人で複数の楽器を担当するパートも。人数は少ないが、約4カ月間特訓した14の応援曲を満員の甲子園に響かせた。
1人でクラリネットを担当する部長の菊池穂波さん(2年)は「みんな頑張っていつも以上に大きな音で応援しています」と、ナインと心を一つにして懸命な演奏を続けた。
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■熱球軌
◇背番号14の左腕、雪辱誓う−−花巻東・吉田陵投手(2年)
「よっしゃー」。試合前のミーティングで先発を告げられると、思わず雄たけびをあげた。今大会、2年生投手としては唯一ベンチ入りしたが、ここまで登板の機会はなし。エース菊池雄星投手(3年)が注目を集める中、「甲子園は僕にとってもあこがれの舞台。マウンドで活躍したい」と黙々と投球練習を続けてきた。
中学時代、シニアチームの1学年上に菊池雄投手がいた。速球でアウトを積み重ねるあこがれの存在。ひたむきに練習に打ち込んでいると、投球フォームや成長痛の対処法などを助言してくれた。高校進学を控え、複数の強豪校から誘いを受けたが、迷いはなかった。「雄星さんと一緒に野球がしたい」
この日、菊池雄投手から「打たれてもいい。おくすることなく、やれることをやれ」と送り出された。「けがをしている雄星さんのためにも何とかしたい」と強力打線を相手に力投したが、四回途中、62球で降板した。
試合後、菊池雄投手から「ナイスピッチング」と声をかけられると、涙があふれた。「勝って決勝のマウンドに雄星さんをあげたかった。来年必ず戻って来ます」。悔しさをかみしめ、背番号14の左腕は雪辱を誓った。
*** 以上、記事より ***
どちらも予想通り(ロースコア/大差)の展開となりましたが、とりあえず完封負けを免れた2チームの健闘をたたえたいと思いました。
◇準決勝(23日・阪神甲子園球場)
▽第1試合準決勝(午前11時開始)
県岐阜商(岐阜)
000000001=1
00001100×=2
日本文理(新潟)
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日本文理が投手戦を制した。序盤は再三のチャンスに適時打が出なかったが、五回に先頭の切手が左中間三塁打で出ると、続く高橋隼の右前打で1点を先取。六回は先頭の伊藤が左翼線二塁打を放ち、2死から中村の右前打で1点を加えた。伊藤は要所でチェンジアップが効果的に決まり、11奪三振。好守にも支えられて4試合連続の完投勝利を収めた。
県岐阜商は九回2死一塁から代打・古川の左越え二塁打で1点を返したが、反撃もそこまで。山田は10安打を浴びながら粘り強い投球を見せたものの、一歩及ばなかった。
◇日本文理・大井道夫監督
三塁走者がいる時はスクイズも考えたが、今まで通りの(攻撃)野球をしようと思い、強攻した。決勝もうちの野球をしたい。
◇県岐阜商・藤田明宏監督
相手の守備でベース際などのいいプレーがあり、ちょっと運がなかった。打者がもっと積極的に手を出していくべきだった。
◇攻守で好判断
日本文理・切手が攻守で好判断を見せた。まずは三回、1死二塁の守備。県岐阜商・松田智の抜ければ先制打というゴロを、「事前にビデオで打球方向を見て、中堅寄りに守っていた」という頭脳的なプレーでさばいた。打っては五回、「中継のもたつきを見て勢いに任せて三塁を突いた」という左中間三塁打。続く高橋隼の適時打で先制のホームを踏んだ。東京出身の1番打者は、「ここまで来たら、勝って新潟の人に恩返ししたい」。
◇代打で意地見せ
県岐阜商に意地の1点をもたらしたのは、九回2死一塁で代打に出た古川。「初球は外角に来る」と読み、とらえた打球が左翼手の頭上を越える適時二塁打になった。脱臼を繰り返した右肩を昨年末に手術し、約3カ月のリハビリを経て復帰。しかしこの夏は岐阜大会から代打での凡退が続いていた。「負けたのは悔しいけれど、やっとつなぐことができた」
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■白球を追って
◇決め球、精度に差 県岐阜商・山田、伊藤に脱帽
両先発のスタイルはうり二つ。同じ右腕で、140キロ前後の直球を速くみせるべく低めの変化球を巧みに使う。軍配は日本文理・伊藤に上がった。勝敗を分けたのは、決め球の精度と、対戦の組み合わせの妙だった。
伊藤は一回、先頭打者を空振り三振に仕留めた。同点とされるピンチだった九回2死二塁では遊ゴロに打ち取った。いずれもチェンジアップが決まった。
一方の県岐阜商・山田。二回に死球の後、高橋義に2−2から落ちる球をとらえられ、三塁強襲安打。無失点で切り抜けたが、不安になった。五回無死三塁、打者・高橋隼。2−2からの低めの変化球が外れ、浮いた5球目の速球を右前にはじき返された。山田は「(伊藤のように)変化球を使いたい」と脱帽した。
県岐阜商には伊藤にチェンジアップのイメージがなかったかもしれない。日本文理は準々決勝で立正大淞南と対戦。相手打線のスタメンには左打者が1人。右打者には棒球になる恐れもあり、122球のうち2球しか使わなかった。
「疲れは少しはあった」という山田に対し、伊藤は試合後も「大丈夫です」と涼しい顔。試合中、ダッグアウトに戻るたびに市販の「梅肉エキス」をなめるなど、スタミナ対策もうまくいった。
昨年末には大井監督から野手転向さえ打診されたが、チェンジアップを習得してはい上がり、念願だった「一番長い夏」を手に入れた。
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■夏輝く
◇打率7割弱、脅威の9番−−中村大地三塁手=日本文理・3年
打率はほぼ7割。チームの「首位打者」だが打順は9番だ。六回の第3打席で真価を発揮した。初球。狙っていたスライダーが真ん中外寄りに甘く来たのを見逃さなかった。鋭いライナーが二塁手の頭上を越え、貴重な2点目をたたき出した。「たまたまです」と謙遜(けんそん)するが、主将としての役割だけでなく、つなぐ打撃が打線を活性化している。
センバツは左足の故障で先発出場できず、優勝した清峰(長崎)に、1回戦で0−4の完敗。1打席1三振の記録が残った。迷惑をかけたとの思いから、チームが重点的に取り組んでいる打撃練習に加え、他の打者の打撃練習中に守備に入って、守りを鍛えてきた。
七回の守備。1死二塁から三遊間を抜けそうな当たりをダイビングキャッチ。好守備にも、「攻守で一球一球に集中することができているから」と涼しい顔だ。春は不完全燃焼に終わった舞台に、最後まで立ち続けられる資格を得た。「やっと仕事をさせてもらえている」と表情は充実している。
第91回全国高校野球:日本文理、狙え頂点 県民待望、新たな球史を /新潟
頂点まであと一つ−−。日本文理は夏の甲子園大会第14日の23日、準決勝で県岐阜商(岐阜)に2−1で競り勝ち、初の決勝進出を決めた。この日も打線は好調で、4試合連続の2けた安打。エース伊藤直輝投手(3年)も11奪三振の完投で、粘る相手を振り切った。快挙を続けるナインに、アルプスからは地鳴りのような大歓声と拍手がわき起こった。日本文理は24日、県民悲願の優勝を目指し、中京大中京(愛知)との決勝戦に臨む。
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▽準決勝
県岐阜商 000000001=1
日本文理 00001100×=2
……………………………………………………
猛打の文理が、最後は守り勝った。二回以降、毎回安打を放ちながらも、相手の堅守とエース山田智弘投手(3年)の粘り強い投球の前に、なかなか得点に結びつけられない。
ようやく均衡を破ったのは五回裏だった。先頭の切手孝太選手(3年)が左中間を破る三塁打。沸き返るアルプス席が見つめる中、続く高橋隼之介選手(2年)はバントのサインが出ていないのを確認した。「絶対打って還す」。高めの直球を右前にはじき返し、待望の先制点をあげた。
六回裏には、伊藤投手が左翼線に二塁打。ここで準々決勝まで9打数7安打の9番・中村大地主将(3年)が、低めのスライダーをきれいに右前に運び、追加点をあげた。
しかし、この日の見せ場はここからの守備だった。七回表、1死二塁で三遊間を強いゴロが襲う。次の瞬間、三塁手の中村主将が「無我夢中だった」と倒れ込みながら捕球し、すかさず一塁へ送球。八回表にも1死二塁とされたが、今度は遊撃手の高橋隼選手が三遊間への強烈なライナーを好捕し、併殺にしとめた。バックの堅守でピンチをしのぎ、エースは「仲間のファインプレーが力になった」。
そして2点リードのまま九回表、最後の守りへ。クリーンアップから2三振を奪い、2死一塁。アルプス席に勝利を待つ歓声がこだまする。しかし、代打への初球、歓声は悲鳴に変わった。高橋義人左翼手(3年)の頭を越す適時二塁打で1点差。一打同点の場面となり、内野手がマウンドへ。「アウトはあと一つ」。そう確認しあった。「気持ちだけは負けない」。エースが投げたこん身の129球目。遊ゴロで1時間46分の熱戦に終止符が打たれた。
伊藤投手の母・真由美さん(42)は「もう感無量。ここまできたら最後まで投げきって勝ってほしい」と涙声。朝一番の飛行機で応援に駆けつけた篠田昭新潟市長も「ピッチングが素晴らしかった」と伊藤投手を絶賛。アルプス席には最後の大一番への期待を込めた拍手が鳴り響いた。
◇大勢の応援に感謝−−中村大地・日本文理主将
伊藤は低めに集めていて打たれる気がしなかった。大勢の人が応援に来てくれて、感謝の気持ちでプレーした。全国制覇は夢だけど目標。全員がここまで来たら歴史を作ろうと言っている。
◇エースは120点満点−−大井道夫・日本文理監督
何と言ったらいいのか。驚いた。伊藤は100点どころか120点満点。5点取られていいと言っていたのが1点に抑えてくれた。疲れなんて言ってられない。次もぶつかっていくだけ。
◇名演奏で活躍祈る
○…三塁側アルプス席では、日本文理の吹奏楽部が力のこもった演奏を披露した。同部は西関東吹奏楽コンクールで銀賞11回を誇る「強豪」で、休みの日も8〜9時間練習する。応援歌のレパートリーは16曲に及び、顧問の佐藤寛教諭(53)は「恐らく出場校中最多でしょう」と胸を張る。この日は部員30人にOB・OG10人が加わった40人で「狙いうち」などを演奏。部長の清水千晶さん(3年)は「優勝できるよう力になりたい」と汗をぬぐっていた。
◇喜びに沸く県内 応援ツアー30分で満員に
県勢初の決勝進出の快挙に県内でも喜びの輪が広がった。応援の動きも加速している。
知人からのメールで知った新潟市江南区の大学院生、加藤恵子さん(57)は「中越沖地震など暗いニュースが多かったのでとてもうれしい。決勝は、とにかく精いっぱい頑張ってほしい」とエールを送った。
同市西区の日本文理高校で留守番の藤木国裕副校長(62)は「すごいことをやってくれた」と大喜び。新たに応援バス3台を手配し、23日夜、109人の生徒らが甲子園へ向かった。既に現地入りしている約400人とともに決勝戦を応援する。
3年生の小山兼続さん(18)は「ここまできたのでぜひ優勝を」。1年生レギュラーの湯本翔太外野手と仲がいいという田辺明日佳さん(16)は「(湯本選手には)元気あるプレーを期待したいです」と話した。
JTB新潟支店が募集した決勝戦の応援ツアーは、80人の予定が募集開始30分で満員になる人気。急きょバスを追加手配し、最終的に約200人が応援に駆け付けるという。
一方、伊藤直輝投手と若林尚希捕手(ともに3年)の出身中学である関川村の関川中では24日、約200人の全校生徒と希望する住民がテレビ観戦で応援する予定だ。
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■熱球譜
◇最後の「仲間」と熱戦を−−日本文理(3年)切手孝太選手
「ここまでこられるとは正直思っていなかった。感無量です」。五回、「次へつなごう」と、3球目のど真ん中に入ってきたフォークを左中間三塁打。先制点に結びつく殊勲の一打に笑顔を見せた。
東京都新宿区育ち。両親が共働きで、小学校1〜3年は学校から児童館に直行した。迎えが来るまで野球やドッジボールをして遊んだ。そんな小学生時代、テレビの前で一塁にヘッドスライディングする球児の姿にくぎ付けになり、いつしか「甲子園に出る」が目標になった。
今春のセンバツに続き、この夏も夢をかなえた。だが、野球は高校までと決めている。両親は大学で続けることを勧めてくれるが、「楽しくて落ち着く場所だった」児童館の先生たちの世話になったことが忘れられない。「今度は自分が子どもたちに楽しい時間を過ごしてもらえるようにできたら」。小学校の教員免許も取りたいと思っている。
「勝っても負けても、一番長い夏に変わりはない」。気づけば、あっという間に決勝まで上り詰めていた。「野球に熱中するのは、この仲間が最後」。その思いを胸に、最高の仲間と夢の舞台の頂点に挑む。
第91回全国高校野球:準決勝 最後は熱い涙、大健闘の県岐阜商 /岐阜
夏の甲子園第14日の23日、県岐阜商は準決勝で日本文理(新潟)と対戦し、1−2で惜敗した。九回、代打古川隼也選手(3年)が1点差に詰め寄る二塁打を放つと、同点さらには逆転への期待も高まったが、あと一打が出なかった。53年ぶりの決勝進出はならなかったものの、一塁側アルプススタンドには健闘をたたえる大きな拍手が響いた。
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▽準決勝
県岐阜商 000000001=1
日本文理 00001100×=2
……………………………………………………
序盤からリードを奪い、相手の追撃を許さぬ試合をしてきた県岐阜商にとって、なかなか点が取れないジリジリした展開だった。
一回、三回と得点圏に走者を進めるものの、あと一本が出ない。
五回、走者を出しながらも粘りの投球を続けてきた山田智弘投手(3年)が、連打で先制点を許してしまう。父寛次さん(49)は「連投で疲れもあるだろうが心配していない。大会を通じて頼もしくなった」。その言葉通り、後続を三振、ダブルプレーで抑えた。
七回の攻撃、四球で出塁した井貝星良選手(2年)の盗塁で再び好機を作る。前日の帝京(東東京)戦で活躍した横山貴大選手(3年)が代打で登場。期待は高まったが、三振に倒れ、「あー」の声が漏れた。
八回1死から、松田智宏主将(3年)が左中間に二塁打を放つ。母三恵子さん(52)は「山田君のためにも1点を」とメガホンをたたく。しかし後続が倒れ、得点に至らない。
粘る県岐阜商は九回にも2死一塁の好機を作り、代打の古川選手が左翼手の頭上を越える適時二塁打を放つ。待ちに待った1点だ。「ギャー!」。スタンドには絶叫がこだまして、応援団は泣きながら抱き合った。
「同点だ!」と色めき立ったが、続く泉田純弥選手(2年)の打球は遊撃手の正面に。懸命のヘッドスライディングも「アウト!」。試合終了。
スタンドの前に選手たちが整列すると、応援団は「よくやった」「ありがとう」と大きな拍手を送った。
◇選手を誇りに思う−−藤田明宏・県岐阜商監督
非常に悔しい。山田は我慢強く投げたが、相手打線の振りが鋭かった。狙い球が絞れず、良い当たりが野手の正面を突き運もなかった。生徒というより後輩として頼もしく、選手を誇りに思う。
◇相手、一枚上だった−−松田智宏・県岐阜商主将
山田が疲れていたので打線で援護したかったが、相手投手が予想より良く、低めの球を振らされた。相手が一枚上だった。大舞台で楽しく元気よくプレーできた。優勝の夢は後輩に託したい。
◇横山のおかげかな
○…九回に代打で登場し、一矢報いる適時二塁打を放った古川隼也選手(3年)は、“代打の神様”と野球部内で呼ばれている横山貴大選手(同)と大の仲良し。横山選手のバットを借りて打席に立った。初球。狙い球とは違う直球だったが「体が勝手に反応した」。3年生の古川選手にとって、甲子園では最初で最後の安打。「横山が打たしてくれたのかな。気持ちよかったです」
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■熱球譜
◇野球が好きと実感−−県岐阜商・山田智弘投手(3年)
五回、先頭打者に三塁打を浴び、続く打者にも、高めの直球を打たれ先制点を許した。夏の連投は、岐阜大会を通じて初。「疲れはない」と言い切ったが、中盤は先頭打者の出塁を毎回許した。
自己最速を塗り替える147キロの直球。指にケガをしてフォークが投げられなくなり、岐阜大会前に覚えた直球と似た球速で縦に小さく落ちる変化球スプリット……。仲間の守備を信じて緩急巧みに打たせて取った。
甲子園で戦い抜くため、進化を続けた。球威を上げるため、セットポジションからの投球をやめた。当初は球がばらついたが、低めの制球を重視した投げ込みで克服した。
九回表、「絶対に追いついてくれる」と信じ、投球練習を続けた。しかし、あと一歩で優勝の夢は幻に消えた。PL学園(大阪)や帝京(東東京)の重量打線相手に完投し、旋風を巻き起こした。「本当に楽しかった。野球が好きだなと実感できた」。大学でも野球を続け、いずれはプロの扉をこじ開けるつもりだ。
第91回全国高校野球:中京大中京、43年ぶりV王手 猛攻で花巻東降す /愛知
◇きょう日本文理と決勝戦
春夏通算11度目の優勝まであと1勝−−。夏の甲子園第14日の23日、中京大中京は今春のセンバツ準優勝校、花巻東(岩手)と対戦。4本塁打を含む13安打11得点の猛攻で大勝し、決勝進出を果たした。中京大中京の夏の決勝進出は優勝した66年以来43年ぶりとなる。日本文理(新潟)との決勝は24日午後1時から。中京大中京は三塁側に陣取る。
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▽準決勝
花巻東 000000100=1
中京大中京 10051211×=11
……………………………………………………
四回、試合は中京大中京に大きく傾いた。先頭打者の磯村嘉孝選手(2年)が2試合連続の本塁打を放ち、攻撃の口火を切った。花巻東のセンバツ準優勝に貢献した菊池雄星投手(3年)がリリーフしたが、この日の中京大中京に怖いものはなかった。3番・河合完治選手(3年)の適時三塁打で一挙3点を加え、花巻東を突き放す。さらに五回には伊藤隆比古選手(3年)が右中間に本塁打を放ち、菊池投手をノックアウトした。
スタンドで応援するサッカー部員の星野快さん(3年)は「野球部のみんなは教室にいる時とは全然違う雰囲気。ぼくらより先に全国で活躍されて悔しいが、最後まで勝って帰って来てほしい」。
中京大中京打線の勢いは止まらない。六回には河合選手が2打席連続となる適時三塁打。さらに八回には、河合選手がこの試合チーム4本目となる本塁打を放った。四回以降、毎回得点の猛攻で花巻東を圧倒した。
「今年のチームはパワーも精神力も強く、総合力が違う」。野球部OBの岡本裕助さん(29)はそう話し、感嘆した様子だった。
最後の相手打者を併殺で打ち取ると、超満員の中京大中京スタンドの熱気は最高潮に達した。「次も絶対いけるぞ」「優勝だ」。校歌を熱唱する選手たちをたたえる拍手と大歓声が甲子園球場にこだました。
◇目標まであと一つ−−大藤敏行・中京大中京監督
菊池投手は春から注目していた選手だったので、万全の状態で対戦したかった。選手たちは全力でよく頑張った。目標まであと一つだが、決勝戦と気負わず、目先の1勝にこだわって戦いたい。
◇中京らしくプレー−−山中渉伍・中京大中京主将
力と力がぶつかった結果、たまたま安打がたくさん出た。菊池投手は本調子ではなかったが一生懸命投げていた。何とかここまで来られたので、決勝も今までと変わらず中京らしくプレーしたい。
◇最後の母校応援?
○…中京大中京初の女性マネジャーだった横山真以さん(26)も応援に駆けつけた。野球部の活躍にあこがれて98年に入部。当初は大藤敏行監督から「女が口を出すな」と言われたが、00年夏の甲子園では記録員としてベンチ入りした。チームは2回戦で敗れたが、当時の仲間との日々は最高の思い出だ。高校野球の強豪校監督と今年中に結婚する予定。横山さんは「夫の野球部の応援をするので、母校を目いっぱい応援できるのはこれが最後かも」と話し、後輩たちのプレーに声援を送った。
◇最高のリベンジ
○…中京大中京の伊藤隆比古選手(3年)と花巻東・菊池雄星投手(3年)は中学時代に親善大会で対戦した経験がある。当時、伊藤選手は菊池投手から本塁打を打ったが、チームは負けた。今春のセンバツで両校の試合はなく、伊藤選手は菊池投手との中学以来の対決を心待ちにしてきた。伊藤選手は五回に菊池投手から本塁打を放ち、試合にも勝利。「最高の形でリベンジできてうれしい」と喜んだが「ベストの状態で戦いたかった」とも。背中を痛めていた相手を気遣った。
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■熱球譜
◇流れを変えた攻守−−磯村嘉孝捕手=中京大中京(2年)
四回表1死一、三塁。三塁走者が走るのが見え、スクイズとわかった。目の前に落ちた花巻東の佐々木大樹選手(2年)の打球をキャッチすると、本塁に突入してきた走者をタッチアウトにし、すぐさま一塁へ投げてダブルプレー。ピンチを好守で救った。
直後の五回には自分のバットで試合の流れを引き寄せた。「とにかく初球から」という気持ちで内角のスライダーを振り抜くと、高々と上がった打球は左中間スタンドへ。都城商(宮崎)との試合に続く自身初の2試合連続本塁打。この回、5点を奪う攻撃の起点になった。
初戦では無安打と打撃が奮わなかったが、試合を重ねるごとに尻上がりに調子を上げてきた。178センチ、78キロの大柄な体だが小技もみせる。8点差で迎えた六回無死一、三塁からスクイズを決め、花巻東をさらに引き離した。「チャンスがあれば1点を取りに行く中京の野球ができた」。2年生ながら強気な面もあり「3番の河合さん、4番の堂林さんだけじゃない」と5番打者の意地も見せる。
いよいよ決勝の大舞台。「いつも通りにやるだけ」と気負いはない。
第91回全国高校野球:花巻東、決勝進出逃す スタンドから大きな拍手 /岩手
夏の甲子園大会第14日の23日、花巻東は準決勝で中京大中京(愛知)に1−11で敗れ、涙をのんだ。エース菊池雄星投手(3年)に代わって先発した吉田陵投手(2年)は、四回途中まで力投。中盤以降、投手陣が強力打線につかまったが、七回には1点を返し意地を見せた。センバツで逃した優勝旗を手にするという目標は果たせなかったが、最後まで全力を尽くした選手たちに、スタンドからは「よく頑張った」の声援と大きな拍手が送られた。
▽準決勝
花巻東 000000100=1
中京大中京 10051211×=11
九回表、併殺打で花巻東の夏が終わった。一瞬、静まりかえるアルプスで、中平蓮選手(2年)は、ぼうぜんとグラウンドを見つめた。甲子園入り後、練習中のけがでベンチを外れた。「絶対日本一になろう」。そう誓い合った仲間との日々が脳裏をよぎった。
この日の先発は同学年の吉田投手。「秋に頑張ろう」。ベンチを外れた中平選手に1番に声をかけてくれた親友だ。一回裏2死二塁のピンチ。初の甲子園のマウンドに硬くなったのか。中平選手が「落ち着いていけ」と声援を送る。4番に三遊間を破られ1点を失ったが、次の打者を三振に。盛り上がるアルプスで中平選手は「よっし」と声をあげた。
四回裏、2点を奪われ、なおも2死満塁。マウンドに菊池雄投手があがる。背中の痛みを押しての登板に、球場にどよめきと歓声が上がる。中平選手も「これで流れが変わるはず」。しかし、走者一掃の三塁打を浴びた。「切り替えていこう」。メガホンをたたいて声を枯らした。
得点圏に走者を進めながら遠い本塁。だが7回表、横倉怜武選手(3年)と千葉祐輔選手(同)の連打で無死一、三塁の好機をつくった。ここで、打席には佐々木大樹選手(2年)。今春のセンバツ決勝戦に代打で出たが、最後の打者となった。直後から室内練習場で夜遅くまでひたすら素振りを続けた。ある日、気づいた中平選手が感嘆した努力家だ。三塁正面への併殺打に倒れたが、この間に1点を返した。「よくやった大樹」と中平選手。しかし、反撃もそこまでだった。
「先輩たちのためにも、来年絶対戻って来ます」。試合後、一礼する仲間たちを見つめながら、中平選手は必死に涙をこらえた。
◇選手よく頑張った−−佐々木洋・花巻東監督
菊池雄はベストな状態ではなく、大変な時に登板させてしまい申し訳ない気持ち。もう少し粘り接戦で前半を終えたかった。岩手の選手だけで日本一を達成したかった。選手はよく頑張った。
◇打線の差感じた−−川村悠真・花巻東主将
日本一が唯一の目標だったので正直悔いは残る。どんなに点差がついてもあきらめないで勝つことをイメージしていたが、中京打線には自分たちとの差を感じた。甲子園の土は持って帰らない。
◇15人で懸命に演奏
○…一塁側アルプススタンドに駆け付けた花巻東の吹奏楽部員は助っ人を合わせても15人という小所帯。
15人で14種の楽器を演奏するため1人で複数の楽器を担当するパートも。人数は少ないが、約4カ月間特訓した14の応援曲を満員の甲子園に響かせた。
1人でクラリネットを担当する部長の菊池穂波さん(2年)は「みんな頑張っていつも以上に大きな音で応援しています」と、ナインと心を一つにして懸命な演奏を続けた。
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■熱球軌
◇背番号14の左腕、雪辱誓う−−花巻東・吉田陵投手(2年)
「よっしゃー」。試合前のミーティングで先発を告げられると、思わず雄たけびをあげた。今大会、2年生投手としては唯一ベンチ入りしたが、ここまで登板の機会はなし。エース菊池雄星投手(3年)が注目を集める中、「甲子園は僕にとってもあこがれの舞台。マウンドで活躍したい」と黙々と投球練習を続けてきた。
中学時代、シニアチームの1学年上に菊池雄投手がいた。速球でアウトを積み重ねるあこがれの存在。ひたむきに練習に打ち込んでいると、投球フォームや成長痛の対処法などを助言してくれた。高校進学を控え、複数の強豪校から誘いを受けたが、迷いはなかった。「雄星さんと一緒に野球がしたい」
この日、菊池雄投手から「打たれてもいい。おくすることなく、やれることをやれ」と送り出された。「けがをしている雄星さんのためにも何とかしたい」と強力打線を相手に力投したが、四回途中、62球で降板した。
試合後、菊池雄投手から「ナイスピッチング」と声をかけられると、涙があふれた。「勝って決勝のマウンドに雄星さんをあげたかった。来年必ず戻って来ます」。悔しさをかみしめ、背番号14の左腕は雪辱を誓った。
*** 以上、記事より ***
どちらも予想通り(ロースコア/大差)の展開となりましたが、とりあえず完封負けを免れた2チームの健闘をたたえたいと思いました。
2009.08/22 [Sat]
09夏・準々決勝
第91回全国高校野球:花巻東7−6明豊 花巻東、岩手勢90年ぶり4強
◇準々決勝(21日・阪神甲子園球場)
▽第1試合準々決勝(午前11時開始)
花巻東(岩手)
0103000021=7
0000120300=6
明豊(大分)
(延長十回)
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花巻東が土壇場の驚異的な粘りで逆転勝ちした。2点を追う九回、川村と猿川の連打などで無死二、三塁とし、横倉の適時打で同点。延長十回2死二塁、川村の適時打で勝ち越した。先発・菊池雄は、緩急をつけて内外角を丁寧に突き、四回まで走者を許さなかったが、五回途中に背中の痛みで降板。継投した猿川が逆転されたものの、打線が助けた。
明豊は1点を追う八回、河野、木森の連続適時二塁打で3点を挙げて逆転。しかし九回、好救援を続けた山野が打ち込まれ、再び登板した先発・今宮も150キロを超える直球で押したが、力尽きた。
◇花巻東・佐々木洋監督
菊池雄は左翼に残したかったが、ダメそうだった。1日空くので回復してくれるとは思う。
◇明豊・大悟法久志監督
互いに全員が死力を尽くした総力戦だった。敗因は特にないし、選手たちには感謝している。
◇「おまえなら」
「あの言葉で打つことができた」。九回に同点の2点適時打を放った花巻東の横倉は、仲間に感謝した。無死一、三塁で初球、スクイズを空振り。三塁走者が戻り、一塁走者の二盗を助ける形になって“結果オーライ”ではあったが、硬くなっていた。次の球をファウルして、カウント2−0と追い込まれる。ここで伝令に来たのが菊池雄。監督の指示に一言付け足し、「おまえなら打てる」。肩の力が抜け、逆らわずにセンター返しができた。
◇「力出し切った」
「力は出し切った」。明豊の主将で捕手の阿部に後悔はなかった。守備では2点リードの九回、勝利を目前に3番手投手・山野がつかまって追いつかれ「きちんと声をかけておけばよかった」と振り返り、直後の打席は1死一、二塁でサヨナラの好機だったが「ボール球だった」という低めの直球を詰まらせ、右飛に打ち取られた。反省点は多々ある。それでも「全員が気持ちを込めてプレーできた」。涙は見せず、表情は最後まですがすがしかった。
◇五回、背筋痛で降板
花巻東の菊池雄星投手(3年)が、準々決勝の明豊戦の五回途中、背中の痛みのため降板した。試合後に兵庫県尼崎市内の病院でレントゲン検査を受けたが異常はなく、背筋痛と診断された。
菊池雄は試合後、「(決勝まで)あと2試合しかないので壊れても投げるしかない」と話したが、検査後に改めて「22日は投げずに体のケアに専念。準決勝(23日)については監督と相談します」とのコメントを出した。
背中の痛みは大会開幕時からあり、2回戦の横浜隼人(神奈川)戦で完投した翌日の18日には痛み止めの注射も打ったという。明豊戦の五回、先頭打者に四球を出した時に、つったような強い痛みが走り、その後1点を返されて2死一塁となった場面で交代を申し出た。
交代後はしばらくベンチ裏でアイシングの処置を受けたが、七回にはダッグアウトに戻り、伝令の役も担った。仲間の奮闘による勝利に、「勝った瞬間はうれしかった。チームが一つになったのを感じた」と喜んだ。
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■白球を追って
◇雄星だけじゃない 花巻東、野手の見せ場
念願の勝ち越し打を放った主将・川村が突き上げた拳に、花巻東の執念がこもった。エースの途中降板という不測の事態を乗り越えて、険しくも大きな階段を上った。
菊池雄に代わって三塁からマウンドへ上がった猿川は、「打たれたら負け。気持ちの勝負」と意気込んだ。だが岩手大会準決勝以来1カ月ぶりの公式戦登板で、変化球の制球がままならない。八回、ついに逆転を許す。いつもなら観客席にも聞こえるほどの大きなかけ声が、ダッグアウトから消えた。
だが、誰もの胸に意地は残っていた。「(菊池)雄星だけのチームじゃない。ここからが本当の野手の腕の見せどころ」と川村。九回は川村からの中軸が、鈍い打球ながら外野へ運び同点に追いついた。
そして十回。1死一塁から佐藤涼が、ベースカバーの二塁手と交錯して転倒、頭を強打するほどの迫力で送りバントを決めた。次打者の川村は初球をセンターへはじき返し、リードを奪い返す。「うれしかったし、ほっとした」と川村。その裏は猿川が「これでもう一回野球ができる」と喜びを球に乗せて抑えた。
菊池雄も最後まで戦いに加わった。守りのピンチでは自ら伝令に。猿川の右肩に手をかけて「思い切って投げろ」と励まし、野手には「(自分を)準決勝と決勝で投げさせてくれ」と鼓舞。まさに総力での戦いだった。
佐々木監督は「雄星がいなくても勝つ、こういう試合がやりたかった」とほおを緩めた。エースの存在に頼らずとも見せた力は心強い。目標の優勝に向けて、価値ある勝利だ。
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■夏・輝く
◇171センチ、154km/h 150キロ台連発、延長への10球−−今宮健太遊撃手=明豊・3年
九回に同点打を浴びた山野が泣きそうな顔になっているのが見え、思わず三塁から駆け寄った。「タイムを取ったと勘違いした」。この間に花巻東の二塁走者・横倉は抜け目なく三塁へ。1死三塁とピンチは広がった。
ここで再登板する。「ごめん」と球を渡した2年の山野は、小学2年生からのチームメート。後輩のためにも負けられない。自身のミスは意に介さず、「二塁だろうと三塁だろうと、1本打たれたら終わり」。171センチの小柄な体を支えるのは、この勝負度胸だ。
2者連続空振り三振に打ち取り、勝利へののぞみをつなげた。「一番いい球はストレート」と力でねじ伏せ、10球のうち7球で時速150キロ台を計測。前日の花巻東・菊池雄の最速に並ぶ154キロも2回出し、潜在能力の高さを発揮した。
十回に許した勝ち越し打も直球だったが、「狙っているのは分かっていたが、悔いを残したくなかった。相手の力が上だった」と素直に負けを認めた。
バットを持たせても高校通算62本塁打。今春のセンバツは2回戦で花巻東に敗れ、菊池雄には4打数1安打だった。この日は菊池雄の負傷から、2打数無安打と中途半端な形で「対決」を終えた。
1打席目の中飛は「いい感じでとらえられたのに……」。その手の感触とともに「忘れられない夏」は、過ぎ行きた。
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◇九回今宮の10球◇
【7番・佐々木大】
○149キロ 見送り
○152キロ 見送り
●154キロ 見送り
◇133キロ 空振り
【8番・佐藤隆】
●153キロ 見送り
○151キロ 見送り
○153キロ ファウル
○154キロ ファウル
●152キロ 見送り
◇129キロ 空振り
○は直球、◇はスライダー、●は直球のボール。球速は球場内の表示による
第91回全国高校野球:日本文理11−3立正大淞南 日本文理、新潟勢初の準決勝へ
◇準々決勝(21日・阪神甲子園球場)
▽第2試合準々決勝(午後2時23分開始)
立正大淞南(島根)
000201000=3
01010315×=11
日本文理(新潟)
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日本文理は1点を追う六回に切手の適時三塁打と2暴投で逆転。その後も八回に高橋義が大会2本目の2ランを右翼席に運ぶなどして突き放した。下位打者もしっかりと振り切り、先発全員の19安打。八回には2死一、三塁からの右前打で一塁から中村が生還し、相手守備のすきを突く好走塁も見せた。中盤に不安定な投球だった伊藤も立ち直り、3試合連続で完投した。立正大淞南はエース崎田が六回に自らのソロで勝ち越すなど奮闘したが、控え投手不在による疲労の蓄積は顕著。高めに浮いた球がことごとく長打を浴び、終盤に失点を重ねた。
◇日本文理・大井道夫監督
出来過ぎだね。2試合続けてこんなに打つなんて想像もしなかった。後はぶつかっていくだけ。
◇立正大淞南・太田充監督
ストレスや疲労がある中、選手はよくやった。初出場でベスト8なのだから出来過ぎです。十分に力は出せた。
◇自分のプレーできた
発熱から回復しスタメンで出場した立正大淞南の山脇。「全員が戻るまで勝ち続ける」という思いで臨み、最初の打席の三ゴロでも一塁にヘッドスライディング。欠場した主将の林田からは「おまえらしいプレーを楽しみにしている」と伝えられていただけに、「それはできた」。しかし、前の試合で仲間が自分にしてくれたように、戻る舞台を作ることはできなかった。「申し訳ない」と謝るばかりだった。
◇攻め貫き完投
日本文理の右腕・伊藤が3試合連続で完投した。持ち味のスライダーがやや切れを欠いたが、その分は直球をしっかり投げ込んでカバー。初戦で自身のしぶとい投球が逆転勝ちを呼んだ経験から、「接戦ほど失点を少なくしよう」と攻めの気持ちを貫いたのが生きた。終盤に大井監督が控え投手への交代をにおわせたが、チームメートに声をそろえて「最後まで伊藤で」と推され完投。「すごくうれしかった。次のも受け身にならずに投げたい」と、意欲を燃やす。
◇欠場の仲間のために 立正大淞南「速球勝負」
「ストレートで勝負をさせてくれ」。八回の日本文理の攻撃。先頭の武石から3連続長打を浴びてリードを6点に広げられた立正大淞南のエース・崎田は天を仰ぎ、捕手の成田に伝えた。
インフルエンザ禍で「だんだんと仲間がいなくなり不安はあった」という崎田。それだけに「出られない仲間にいい野球を見せたかった」という。一度は自身の本塁打でリードを奪う。しかし、体が限界だった。
中盤から速球、変化球ともに高めに浮いた。捕手の成田も打ち損じを期待するしか無くなっていた。それでも後ろに投げる投手はおらず、マウンドを守り続けるしかない。苦しい状況で、出られない仲間に何を見せるべきか考えた。その結論が「自分らしい速球勝負」だった。
「自分のわがまま」というが、チームメートは誰も不満に思わなかった。さらに2点を失うことになったが、成田も「おまえ一人じゃないからな」と励まし続けた。「優勝旗は持って帰れなかったけど、もっと強いチームワークを得ることができた」と崎田。試合は完敗だったが、白星以上のものを確認できたようだった。【鈴木英世】
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■白球を追って
◇日本文理、破壊力披露 凍える冬に素振り、21イニング連続安打
「夜ちょっと(酒のさかなが)足りないと、学校近くのスーパーに行くんです。ついでに室内練習場をのぞくと、いつもバットを振っている」。日本文理の大井監督は笑いながら、でも少し誇らしげに選手たちをほめた。
初戦の五回から21イニング連続安打と止まらない日本文理打線。圧倒的な攻撃力は愚直にスイングを繰り返して身に着けた。
新チーム結成時に単発を意味する「火縄銃打線」と大井監督に名付けられた選手たちは、朝5時半集合の打撃練習を日本海側の凍えるような冬の間も続けた。放課後の練習では、打撃投手がマウンドより手前の距離から投げ込んだ。攻撃野球が好きな大井監督の理想に近づき、センバツに出場したが、優勝した清峰(長崎)の今村に完封され、全国レベルを痛感。打撃投手と同距離の投球マシンは150キロに設定された。
この試合の八回に高橋義が放ったライナー性の右越え2ランがチームの打球を象徴している。白球が糸を引くように内野や外野の間を抜けた。チームの三振は一つ。手に入れたスイングスピードは速球だけでなく、タイミングを外された変化球への対応力も上げた。
1大会通算安打の大会記録は00年の82回大会を制した智弁和歌山(和歌山)の100本(6試合)で1試合平均16・7本。日本文理は今大会3試合で50安打と、1試合平均は同じだ。歴史的攻撃力で、新潟県勢未踏の地を突き進む。【
第91回全国高校野球:準々決勝 淞南、最後まで一丸 /島根
◇大健闘13人に「ありがとう」
夏の甲子園大会第12日の21日、立正大淞南は準々決勝で日本文理(新潟)と対戦した。新型インフルエンザで新たに2人がチームを離れ13人でのプレー。エースで4番の崎田聖羅投手(3年)が最後まで力投し打線も一丸となり奮起したが3−11で惜敗した。初出場で県勢6年ぶりのベスト8入りを果たした立正大淞南ナインに対し、スタンドからは大きな拍手が送られた。
◇準々決勝
立正大淞南 000201000=3
日本文理 01010315×=11
「キャプテンという存在を失い動揺はある。でもみんなが主将のつもりで一人一人がチームを引っ張ろう」
試合前、副主将の崎田投手はナインに呼びかけた。新型インフルエンザで林田真央主将(3年)と控えの投手が新たに離脱。ぎりぎりの状態で迎えた準々決勝だった。
二回に奪われた1点を追いかける四回、成田渉捕手(3年)の適時打で同点に。父清さん(47)は「出場できない子のためにも、負けるわけにはいかない」とほっとした表情。さらに押し出しで1点を追加し勝ち越すと、新型インフルエンザでチームを離れた選手の親も一丸となって応援を続けるスタンドは大歓声に包まれた。
再び同点に並ばれ迎えた六回、1死から崎田投手が本塁打を放ち再び勝ち越す。父悦史さん(36)は「最高ですよ。まさか自分で打つとはね」と涙ぐんだ。
「単打は(打たれても)いい」。試合前、強力な相手打線に対して崎田投手は、そう話していた。しかし終盤、捕まってしまう。八回、投球数は150球を超えていた。先頭打者から3連続長打を浴びると、満員のアルプスから「崎田!」「崎田!」のコールがわき起こった。
センターから崎田投手を見つめていた小野友輔選手(3年)は、監督の指示で数日前から投球練習を始めた。しかし、「どれだけ打たれても聖羅が投げてほしい。あいつのマウンドだから」と、踏ん張りに期待していた。
スタンドからの声援に応え三振を一つ奪ったものの、この回5点を奪われてしまった。
試合が終了し、選手たちはアルプス席に向かい深々と一礼した。「ありがとう!」。「よくやった!」応援団からは大健闘した13人をたたえる声が尽きなかった。
◇8強達成に感謝−−太田充・立正大淞南監督
力は十分発揮できた。これが本当に限界。ストレスや疲労があるのを感じていたがよく乗り切った。崎田にはすべてを任せていた。初めてこの場に連れてきてくれてベスト8の結果を残した子供たちに本当に感謝。
◇試合3回、悔いなし−−崎田聖羅・立正大淞南副主将
エースとしてチームの柱になろうとしたが、力が足りなかった。13人で力を合わせ立正大淞南の野球ができた。甲子園で野球をすることを目指してきたので、3回も試合ができ悔いはない。
◇古里の川風感じて
四回、成田渉選手が適時打を放つと、アルプス席に応援曲「意宇(いう)の川風」が流れた。得点の場面でだけ、ブラスバンドが演奏するこの曲は同校のオリジナル応援曲。学校の近くを流れ、出雲風土記にも登場する意宇川にちなんだもので、代々引き継がれている。
点を取られては取り返す展開に、打楽器を担当する石川温子さん(3年)は「もっともっと意宇の川風を演奏したい」と力いっぱい演奏した。
◇欠場の苦しみ闘志に−−山脇直也選手
一回、先頭打者・山脇直也選手(3年)は、サードゴロで一塁にヘッドスライディング。結果はアウトだったが、この一戦にかける思いが伝わるプレーだった。
「みんなのおかげで戻ってこれた」。前の試合は発熱で欠場。自分のポジジョンを守ってくれた林田真央主将が今度は新型インフルエンザでチームを離れた。ずっと1番打者だった林田主将の打順を任された山脇選手は「林田は出塁にこだわった。あいつほど良い打者ではないかもしれないが気持ちは同じ」と闘志をみなぎらせて試合に臨んだ。
試合に出られない苦しさは自分が一番よく知っている。朝、林田主将とホテルの内線電話で話した。林田選手は「悪かったな。お前はお前らしくやれよ」と励ましてくれた。山脇選手は「任しておけ。テレビで見ていろよ」と声をかけた。
八回の先頭の打席、山脇選手は初球を思い切りたたいた。打球は低い弧を描き左翼手の頭を越え二塁打に。「一人で投げ続ける聖羅を助けたかった」と意地を見せた。
どんなに点を取られても声を出し続け、笑顔を絶やさなかった。それは立正大淞南のチームカラーだった。
試合後、泥まみれの山脇選手は「みんなが全力で取り組んだ。チームワークは日本一だった」と胸を張り、甲子園をあとにした。
夏の高校野球:県岐阜商・山田は2戦連続完投、帝京を降す
第91回全国高校野球選手権大会第13日の22日は準々決勝残り2試合。第1試合は、3回戦まで1試合平均10点と打線好調の県岐阜商(岐阜)が強豪・帝京(東東京)に打ち勝った。
○県岐阜商(岐阜)6−3帝京(東東京)●
県岐阜商の先発・山田は緩い球を大胆に使い、制球された速球を生かす粘りの投球。一回に逆転してからのリードを守りきり、2戦連続で完投した。
県岐阜商は一回、2死二塁から江崎の右前打と敵失で追い付き、続く山田の左前打で勝ち越し。三回には1死満塁から、横山が前進守備の一塁手の頭をゴロで越す2点二塁打を放ち、続く児玉が初球スクイズを決めるなど一挙に4得点した。
帝京は一回、原口の左前打で先制。五回に吉岡の適時内野安打などで2点を返して詰め寄ったが、投手陣が速球を打ち返され、継投にも失敗した。
▽県岐阜商・藤田明宏監督 一人一人が役割を果たし、楽しんでやった結果。練習でよくバットを振れ、いい目をしていた横山、福田の起用も当たった。
▽帝京・前田三夫監督 三回の攻防がすべて。攻めきれず、守りでは不運な適時打があった。要所を変化球でかわされ、あと1本が出なかった。
○…県岐阜商の勢いを決定づけたのは、初スタメンの横山だった。初戦での代打に続く起用は、右投手が得意なため。「チャンスをもらって感謝でいっぱい」と気合が入った。1点リードの三回1死満塁、高いバウンドで一塁手の頭を越える右翼線への2点適時二塁打。たたき付ける意図はなく「思い切り振った結果」という。五回、二塁手のワンバウンド送球が顔に当たって途中交代し、「体を使って止めた」と照れ笑い。交代後もダッグアウトで声を張り上げた。
○…「打ち損じた」という三邪飛で帝京の最後の打者になった原口。一回に、変化球を巧みに使う県岐阜商・山田の落ちる球をたたいて先制打を放つなど2安打したが、チームは県岐阜商と同じ安打数ながらつながりを欠いた。原口は、盗塁死など拙攻が目立った自分たちに比べ、「小技が効いていた」とスクイズを成功させ、絶妙の犠打も決めた相手打線をたたえるしかなかった。
夏の高校野球:中京大中京、序盤にリードし都城商に快勝
第91回全国高校野球選手権大会第13日の22日は準々決勝残り2試合。第2試合は、中京大中京(愛知)が堂林の投打にわたる活躍と主軸の長打で都城商(宮崎)を降し、準決勝進出。これでベスト4が出そろった。
○中京大中京(愛知)6−2都城商(宮崎)●
中京大中京のクリーンアップがチームの全打点を挙げ、快勝した。一回は簡単に2死を取られたが、河合、堂林の連打で一、二塁とすると磯村が左中間へ3ランを放ち先制。三回には堂林の右中間適時二塁打で1点を追加し、七回は河合、堂林の連続適時打で2点を加えて突き放した。都城商は四回、松原、冨永、米良の3連打で2点を返した1死二塁で新西が三ゴロ。二塁送球で走者がタッチアウト、打者も一塁封殺される変則的な併殺を奪われて反撃ムードを断たれ、五回以降は立ち直った堂林の丁寧な投球の前に無安打に終わった。
▽中京大中京・大藤敏行監督 投げるべき人が投げ、打つべき人が打ってくれた。堂林は本来のリズムで、やっとエースらしい投球を見せてくれた。
▽都城商・河野真一監督 勝負どころでの1本が大きかった。堂林君は低めの制球が良かった。手を出さないよう指示したが、それを上回る内容だった。
◇中京大中京・磯村が一発「やっと自分示せた」
甘く入った初球のスライダーを逃さなかった。一回、中京大中京の5番・磯村が無心で振り抜いた打球は高々と上がり、左中間席に飛び込んだ。内野ゴロで簡単に2死を取られた後、3、4番が連打でつなぎ、5番の一発。一、二塁間で、磯村は、人さし指を掲げる。「やっと自分を示すことができた」
2年生の磯村には、ひそかに抱えている悩みがあった。大藤監督がインタビューなどで「(得点圏で)3、4番に回せば点が取れるチーム」と言ってきたことだ。年明けから5番に定着した自分の名前がなかなか出てこない。奮起して打撃練習に励み、愛知大会は打率5割の好成績を残した。が、甲子園で過去3試合、2けた安打を続けたチームの中にあって10打数2安打。「こんなに調子が悪いのは高校に入って初めて」と言うほど不調にあえいでいた。
転機となったのは、前日の練習で構え方を変えたことだった。「調子が悪い時は、体が突っ込んでしまっている」。やや開き気味に構え、しっかりとボールを見られるようにした。これが奏功し、三回の2打席目も、逆方向にはじき返す技ありの右越え二塁打を放った。
中軸だけで全6打点を挙げ、これまでも切れ目なく得点を稼いできた打線に、力強さが加わった。試合後、大藤監督に磯村の「悩み」について聞くと、笑いながら「3、4番は全国レベルの強打者。まだまだ10年早いと言っておいてください」。言葉は厳しかったが、誰よりも5番の復活を喜んでいるような、満面の笑みだった。
◇都城商・新西、初回の失投悔やむ
思わず「しまった」という表情を浮かべた。一回、都城商の新西が左中間席まで運ばれたのは、あまりに甘い変化球。3回戦で智弁和歌山を5安打に抑えた制球力と球威は消えていた。「しっかり腕が振れず、小手先で投げてしまった」と右腕エースは悔やんだ。
新西は2、3回戦で連続完投。それは本来の形ではなかった。宮崎大会の準々決勝から甲子園の初戦まで、すべて継投で制したチーム。だが左腕の藤本が2回戦で左ふくらはぎに死球を受けた影響で、一人でマウンドを守らねばならなかったのだ。「疲れが残り、肩に張りがあった」と新西。力強い投球の再現は難しかった。
やむなき事態とはいえ、藤本の心にも重しがあった。一回の攻撃、先制点で支えたいという思いが強すぎて1死二塁の先制機に空振り三振。四回からは新西をリリーフし、緩急をつけて粘りの投球を見せたが、勝利は呼べなかった。「自分が(前の試合でも)投げられていたら、新西も楽だったろう。助けられなかった自分が悔しい」とうつむいた。
負けて喜べるはずはない。だが、この苦い思いも、勝ち上がったからこそ。投打に力強さがあふれた3回戦までの都城商は、強い印象を残した。「夏の最後が甲子園で良かった」と藤本。痛快なチームが、惜しくも去った。
○…迫力のある打撃だけでなく洗練された守備も披露した中京大中京。四回に3連打で2点差に迫られた直後だった。1死二塁から遊撃寄りのゴロをさばいた三塁・河合は迷わず二塁に送球。塁を離れていた走者をタッチアウトとすると、一塁にも転送されて併殺を奪い、相手の反撃の芽を摘んだ。「仮に二塁がセーフになっても一塁はアウトにできる。練習通りのプレーができた」と河合。二回に悪送球で守りのリズムを狂わせかけたミスを、挽回(ばんかい)してみせた。
○…追い込まれてから低めの変化球を拾うように左翼線に運んだ。2年生でただ一人先発出場した都城商・米良の四回の一打。「とにかくバットに当てようと考えた」という打撃は崩れたスイングだったが、チーム唯一の得点打となった。宮崎大会は打率1割8分8厘だったが甲子園では12打数6安打、打率5割と大当たり。「最後の夏という強い気持ちの先輩に引っ張られて出た結果」。しゃくり上げながら先輩への感謝の言葉を繰り返した。
*** 以上、記事より ***
意外と競ったり、予想外の展開になったり、と準々決勝になってもそわそわな展開でした。
◇準々決勝(21日・阪神甲子園球場)
▽第1試合準々決勝(午前11時開始)
花巻東(岩手)
0103000021=7
0000120300=6
明豊(大分)
(延長十回)
==============
花巻東が土壇場の驚異的な粘りで逆転勝ちした。2点を追う九回、川村と猿川の連打などで無死二、三塁とし、横倉の適時打で同点。延長十回2死二塁、川村の適時打で勝ち越した。先発・菊池雄は、緩急をつけて内外角を丁寧に突き、四回まで走者を許さなかったが、五回途中に背中の痛みで降板。継投した猿川が逆転されたものの、打線が助けた。
明豊は1点を追う八回、河野、木森の連続適時二塁打で3点を挙げて逆転。しかし九回、好救援を続けた山野が打ち込まれ、再び登板した先発・今宮も150キロを超える直球で押したが、力尽きた。
◇花巻東・佐々木洋監督
菊池雄は左翼に残したかったが、ダメそうだった。1日空くので回復してくれるとは思う。
◇明豊・大悟法久志監督
互いに全員が死力を尽くした総力戦だった。敗因は特にないし、選手たちには感謝している。
◇「おまえなら」
「あの言葉で打つことができた」。九回に同点の2点適時打を放った花巻東の横倉は、仲間に感謝した。無死一、三塁で初球、スクイズを空振り。三塁走者が戻り、一塁走者の二盗を助ける形になって“結果オーライ”ではあったが、硬くなっていた。次の球をファウルして、カウント2−0と追い込まれる。ここで伝令に来たのが菊池雄。監督の指示に一言付け足し、「おまえなら打てる」。肩の力が抜け、逆らわずにセンター返しができた。
◇「力出し切った」
「力は出し切った」。明豊の主将で捕手の阿部に後悔はなかった。守備では2点リードの九回、勝利を目前に3番手投手・山野がつかまって追いつかれ「きちんと声をかけておけばよかった」と振り返り、直後の打席は1死一、二塁でサヨナラの好機だったが「ボール球だった」という低めの直球を詰まらせ、右飛に打ち取られた。反省点は多々ある。それでも「全員が気持ちを込めてプレーできた」。涙は見せず、表情は最後まですがすがしかった。
◇五回、背筋痛で降板
花巻東の菊池雄星投手(3年)が、準々決勝の明豊戦の五回途中、背中の痛みのため降板した。試合後に兵庫県尼崎市内の病院でレントゲン検査を受けたが異常はなく、背筋痛と診断された。
菊池雄は試合後、「(決勝まで)あと2試合しかないので壊れても投げるしかない」と話したが、検査後に改めて「22日は投げずに体のケアに専念。準決勝(23日)については監督と相談します」とのコメントを出した。
背中の痛みは大会開幕時からあり、2回戦の横浜隼人(神奈川)戦で完投した翌日の18日には痛み止めの注射も打ったという。明豊戦の五回、先頭打者に四球を出した時に、つったような強い痛みが走り、その後1点を返されて2死一塁となった場面で交代を申し出た。
交代後はしばらくベンチ裏でアイシングの処置を受けたが、七回にはダッグアウトに戻り、伝令の役も担った。仲間の奮闘による勝利に、「勝った瞬間はうれしかった。チームが一つになったのを感じた」と喜んだ。
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■白球を追って
◇雄星だけじゃない 花巻東、野手の見せ場
念願の勝ち越し打を放った主将・川村が突き上げた拳に、花巻東の執念がこもった。エースの途中降板という不測の事態を乗り越えて、険しくも大きな階段を上った。
菊池雄に代わって三塁からマウンドへ上がった猿川は、「打たれたら負け。気持ちの勝負」と意気込んだ。だが岩手大会準決勝以来1カ月ぶりの公式戦登板で、変化球の制球がままならない。八回、ついに逆転を許す。いつもなら観客席にも聞こえるほどの大きなかけ声が、ダッグアウトから消えた。
だが、誰もの胸に意地は残っていた。「(菊池)雄星だけのチームじゃない。ここからが本当の野手の腕の見せどころ」と川村。九回は川村からの中軸が、鈍い打球ながら外野へ運び同点に追いついた。
そして十回。1死一塁から佐藤涼が、ベースカバーの二塁手と交錯して転倒、頭を強打するほどの迫力で送りバントを決めた。次打者の川村は初球をセンターへはじき返し、リードを奪い返す。「うれしかったし、ほっとした」と川村。その裏は猿川が「これでもう一回野球ができる」と喜びを球に乗せて抑えた。
菊池雄も最後まで戦いに加わった。守りのピンチでは自ら伝令に。猿川の右肩に手をかけて「思い切って投げろ」と励まし、野手には「(自分を)準決勝と決勝で投げさせてくれ」と鼓舞。まさに総力での戦いだった。
佐々木監督は「雄星がいなくても勝つ、こういう試合がやりたかった」とほおを緩めた。エースの存在に頼らずとも見せた力は心強い。目標の優勝に向けて、価値ある勝利だ。
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■夏・輝く
◇171センチ、154km/h 150キロ台連発、延長への10球−−今宮健太遊撃手=明豊・3年
九回に同点打を浴びた山野が泣きそうな顔になっているのが見え、思わず三塁から駆け寄った。「タイムを取ったと勘違いした」。この間に花巻東の二塁走者・横倉は抜け目なく三塁へ。1死三塁とピンチは広がった。
ここで再登板する。「ごめん」と球を渡した2年の山野は、小学2年生からのチームメート。後輩のためにも負けられない。自身のミスは意に介さず、「二塁だろうと三塁だろうと、1本打たれたら終わり」。171センチの小柄な体を支えるのは、この勝負度胸だ。
2者連続空振り三振に打ち取り、勝利へののぞみをつなげた。「一番いい球はストレート」と力でねじ伏せ、10球のうち7球で時速150キロ台を計測。前日の花巻東・菊池雄の最速に並ぶ154キロも2回出し、潜在能力の高さを発揮した。
十回に許した勝ち越し打も直球だったが、「狙っているのは分かっていたが、悔いを残したくなかった。相手の力が上だった」と素直に負けを認めた。
バットを持たせても高校通算62本塁打。今春のセンバツは2回戦で花巻東に敗れ、菊池雄には4打数1安打だった。この日は菊池雄の負傷から、2打数無安打と中途半端な形で「対決」を終えた。
1打席目の中飛は「いい感じでとらえられたのに……」。その手の感触とともに「忘れられない夏」は、過ぎ行きた。
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◇九回今宮の10球◇
【7番・佐々木大】
○149キロ 見送り
○152キロ 見送り
●154キロ 見送り
◇133キロ 空振り
【8番・佐藤隆】
●153キロ 見送り
○151キロ 見送り
○153キロ ファウル
○154キロ ファウル
●152キロ 見送り
◇129キロ 空振り
○は直球、◇はスライダー、●は直球のボール。球速は球場内の表示による
第91回全国高校野球:日本文理11−3立正大淞南 日本文理、新潟勢初の準決勝へ
◇準々決勝(21日・阪神甲子園球場)
▽第2試合準々決勝(午後2時23分開始)
立正大淞南(島根)
000201000=3
01010315×=11
日本文理(新潟)
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日本文理は1点を追う六回に切手の適時三塁打と2暴投で逆転。その後も八回に高橋義が大会2本目の2ランを右翼席に運ぶなどして突き放した。下位打者もしっかりと振り切り、先発全員の19安打。八回には2死一、三塁からの右前打で一塁から中村が生還し、相手守備のすきを突く好走塁も見せた。中盤に不安定な投球だった伊藤も立ち直り、3試合連続で完投した。立正大淞南はエース崎田が六回に自らのソロで勝ち越すなど奮闘したが、控え投手不在による疲労の蓄積は顕著。高めに浮いた球がことごとく長打を浴び、終盤に失点を重ねた。
◇日本文理・大井道夫監督
出来過ぎだね。2試合続けてこんなに打つなんて想像もしなかった。後はぶつかっていくだけ。
◇立正大淞南・太田充監督
ストレスや疲労がある中、選手はよくやった。初出場でベスト8なのだから出来過ぎです。十分に力は出せた。
◇自分のプレーできた
発熱から回復しスタメンで出場した立正大淞南の山脇。「全員が戻るまで勝ち続ける」という思いで臨み、最初の打席の三ゴロでも一塁にヘッドスライディング。欠場した主将の林田からは「おまえらしいプレーを楽しみにしている」と伝えられていただけに、「それはできた」。しかし、前の試合で仲間が自分にしてくれたように、戻る舞台を作ることはできなかった。「申し訳ない」と謝るばかりだった。
◇攻め貫き完投
日本文理の右腕・伊藤が3試合連続で完投した。持ち味のスライダーがやや切れを欠いたが、その分は直球をしっかり投げ込んでカバー。初戦で自身のしぶとい投球が逆転勝ちを呼んだ経験から、「接戦ほど失点を少なくしよう」と攻めの気持ちを貫いたのが生きた。終盤に大井監督が控え投手への交代をにおわせたが、チームメートに声をそろえて「最後まで伊藤で」と推され完投。「すごくうれしかった。次のも受け身にならずに投げたい」と、意欲を燃やす。
◇欠場の仲間のために 立正大淞南「速球勝負」
「ストレートで勝負をさせてくれ」。八回の日本文理の攻撃。先頭の武石から3連続長打を浴びてリードを6点に広げられた立正大淞南のエース・崎田は天を仰ぎ、捕手の成田に伝えた。
インフルエンザ禍で「だんだんと仲間がいなくなり不安はあった」という崎田。それだけに「出られない仲間にいい野球を見せたかった」という。一度は自身の本塁打でリードを奪う。しかし、体が限界だった。
中盤から速球、変化球ともに高めに浮いた。捕手の成田も打ち損じを期待するしか無くなっていた。それでも後ろに投げる投手はおらず、マウンドを守り続けるしかない。苦しい状況で、出られない仲間に何を見せるべきか考えた。その結論が「自分らしい速球勝負」だった。
「自分のわがまま」というが、チームメートは誰も不満に思わなかった。さらに2点を失うことになったが、成田も「おまえ一人じゃないからな」と励まし続けた。「優勝旗は持って帰れなかったけど、もっと強いチームワークを得ることができた」と崎田。試合は完敗だったが、白星以上のものを確認できたようだった。【鈴木英世】
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■白球を追って
◇日本文理、破壊力披露 凍える冬に素振り、21イニング連続安打
「夜ちょっと(酒のさかなが)足りないと、学校近くのスーパーに行くんです。ついでに室内練習場をのぞくと、いつもバットを振っている」。日本文理の大井監督は笑いながら、でも少し誇らしげに選手たちをほめた。
初戦の五回から21イニング連続安打と止まらない日本文理打線。圧倒的な攻撃力は愚直にスイングを繰り返して身に着けた。
新チーム結成時に単発を意味する「火縄銃打線」と大井監督に名付けられた選手たちは、朝5時半集合の打撃練習を日本海側の凍えるような冬の間も続けた。放課後の練習では、打撃投手がマウンドより手前の距離から投げ込んだ。攻撃野球が好きな大井監督の理想に近づき、センバツに出場したが、優勝した清峰(長崎)の今村に完封され、全国レベルを痛感。打撃投手と同距離の投球マシンは150キロに設定された。
この試合の八回に高橋義が放ったライナー性の右越え2ランがチームの打球を象徴している。白球が糸を引くように内野や外野の間を抜けた。チームの三振は一つ。手に入れたスイングスピードは速球だけでなく、タイミングを外された変化球への対応力も上げた。
1大会通算安打の大会記録は00年の82回大会を制した智弁和歌山(和歌山)の100本(6試合)で1試合平均16・7本。日本文理は今大会3試合で50安打と、1試合平均は同じだ。歴史的攻撃力で、新潟県勢未踏の地を突き進む。【
第91回全国高校野球:準々決勝 淞南、最後まで一丸 /島根
◇大健闘13人に「ありがとう」
夏の甲子園大会第12日の21日、立正大淞南は準々決勝で日本文理(新潟)と対戦した。新型インフルエンザで新たに2人がチームを離れ13人でのプレー。エースで4番の崎田聖羅投手(3年)が最後まで力投し打線も一丸となり奮起したが3−11で惜敗した。初出場で県勢6年ぶりのベスト8入りを果たした立正大淞南ナインに対し、スタンドからは大きな拍手が送られた。
◇準々決勝
立正大淞南 000201000=3
日本文理 01010315×=11
「キャプテンという存在を失い動揺はある。でもみんなが主将のつもりで一人一人がチームを引っ張ろう」
試合前、副主将の崎田投手はナインに呼びかけた。新型インフルエンザで林田真央主将(3年)と控えの投手が新たに離脱。ぎりぎりの状態で迎えた準々決勝だった。
二回に奪われた1点を追いかける四回、成田渉捕手(3年)の適時打で同点に。父清さん(47)は「出場できない子のためにも、負けるわけにはいかない」とほっとした表情。さらに押し出しで1点を追加し勝ち越すと、新型インフルエンザでチームを離れた選手の親も一丸となって応援を続けるスタンドは大歓声に包まれた。
再び同点に並ばれ迎えた六回、1死から崎田投手が本塁打を放ち再び勝ち越す。父悦史さん(36)は「最高ですよ。まさか自分で打つとはね」と涙ぐんだ。
「単打は(打たれても)いい」。試合前、強力な相手打線に対して崎田投手は、そう話していた。しかし終盤、捕まってしまう。八回、投球数は150球を超えていた。先頭打者から3連続長打を浴びると、満員のアルプスから「崎田!」「崎田!」のコールがわき起こった。
センターから崎田投手を見つめていた小野友輔選手(3年)は、監督の指示で数日前から投球練習を始めた。しかし、「どれだけ打たれても聖羅が投げてほしい。あいつのマウンドだから」と、踏ん張りに期待していた。
スタンドからの声援に応え三振を一つ奪ったものの、この回5点を奪われてしまった。
試合が終了し、選手たちはアルプス席に向かい深々と一礼した。「ありがとう!」。「よくやった!」応援団からは大健闘した13人をたたえる声が尽きなかった。
◇8強達成に感謝−−太田充・立正大淞南監督
力は十分発揮できた。これが本当に限界。ストレスや疲労があるのを感じていたがよく乗り切った。崎田にはすべてを任せていた。初めてこの場に連れてきてくれてベスト8の結果を残した子供たちに本当に感謝。
◇試合3回、悔いなし−−崎田聖羅・立正大淞南副主将
エースとしてチームの柱になろうとしたが、力が足りなかった。13人で力を合わせ立正大淞南の野球ができた。甲子園で野球をすることを目指してきたので、3回も試合ができ悔いはない。
◇古里の川風感じて
四回、成田渉選手が適時打を放つと、アルプス席に応援曲「意宇(いう)の川風」が流れた。得点の場面でだけ、ブラスバンドが演奏するこの曲は同校のオリジナル応援曲。学校の近くを流れ、出雲風土記にも登場する意宇川にちなんだもので、代々引き継がれている。
点を取られては取り返す展開に、打楽器を担当する石川温子さん(3年)は「もっともっと意宇の川風を演奏したい」と力いっぱい演奏した。
◇欠場の苦しみ闘志に−−山脇直也選手
一回、先頭打者・山脇直也選手(3年)は、サードゴロで一塁にヘッドスライディング。結果はアウトだったが、この一戦にかける思いが伝わるプレーだった。
「みんなのおかげで戻ってこれた」。前の試合は発熱で欠場。自分のポジジョンを守ってくれた林田真央主将が今度は新型インフルエンザでチームを離れた。ずっと1番打者だった林田主将の打順を任された山脇選手は「林田は出塁にこだわった。あいつほど良い打者ではないかもしれないが気持ちは同じ」と闘志をみなぎらせて試合に臨んだ。
試合に出られない苦しさは自分が一番よく知っている。朝、林田主将とホテルの内線電話で話した。林田選手は「悪かったな。お前はお前らしくやれよ」と励ましてくれた。山脇選手は「任しておけ。テレビで見ていろよ」と声をかけた。
八回の先頭の打席、山脇選手は初球を思い切りたたいた。打球は低い弧を描き左翼手の頭を越え二塁打に。「一人で投げ続ける聖羅を助けたかった」と意地を見せた。
どんなに点を取られても声を出し続け、笑顔を絶やさなかった。それは立正大淞南のチームカラーだった。
試合後、泥まみれの山脇選手は「みんなが全力で取り組んだ。チームワークは日本一だった」と胸を張り、甲子園をあとにした。
夏の高校野球:県岐阜商・山田は2戦連続完投、帝京を降す
第91回全国高校野球選手権大会第13日の22日は準々決勝残り2試合。第1試合は、3回戦まで1試合平均10点と打線好調の県岐阜商(岐阜)が強豪・帝京(東東京)に打ち勝った。
○県岐阜商(岐阜)6−3帝京(東東京)●
県岐阜商の先発・山田は緩い球を大胆に使い、制球された速球を生かす粘りの投球。一回に逆転してからのリードを守りきり、2戦連続で完投した。
県岐阜商は一回、2死二塁から江崎の右前打と敵失で追い付き、続く山田の左前打で勝ち越し。三回には1死満塁から、横山が前進守備の一塁手の頭をゴロで越す2点二塁打を放ち、続く児玉が初球スクイズを決めるなど一挙に4得点した。
帝京は一回、原口の左前打で先制。五回に吉岡の適時内野安打などで2点を返して詰め寄ったが、投手陣が速球を打ち返され、継投にも失敗した。
▽県岐阜商・藤田明宏監督 一人一人が役割を果たし、楽しんでやった結果。練習でよくバットを振れ、いい目をしていた横山、福田の起用も当たった。
▽帝京・前田三夫監督 三回の攻防がすべて。攻めきれず、守りでは不運な適時打があった。要所を変化球でかわされ、あと1本が出なかった。
○…県岐阜商の勢いを決定づけたのは、初スタメンの横山だった。初戦での代打に続く起用は、右投手が得意なため。「チャンスをもらって感謝でいっぱい」と気合が入った。1点リードの三回1死満塁、高いバウンドで一塁手の頭を越える右翼線への2点適時二塁打。たたき付ける意図はなく「思い切り振った結果」という。五回、二塁手のワンバウンド送球が顔に当たって途中交代し、「体を使って止めた」と照れ笑い。交代後もダッグアウトで声を張り上げた。
○…「打ち損じた」という三邪飛で帝京の最後の打者になった原口。一回に、変化球を巧みに使う県岐阜商・山田の落ちる球をたたいて先制打を放つなど2安打したが、チームは県岐阜商と同じ安打数ながらつながりを欠いた。原口は、盗塁死など拙攻が目立った自分たちに比べ、「小技が効いていた」とスクイズを成功させ、絶妙の犠打も決めた相手打線をたたえるしかなかった。
夏の高校野球:中京大中京、序盤にリードし都城商に快勝
第91回全国高校野球選手権大会第13日の22日は準々決勝残り2試合。第2試合は、中京大中京(愛知)が堂林の投打にわたる活躍と主軸の長打で都城商(宮崎)を降し、準決勝進出。これでベスト4が出そろった。
○中京大中京(愛知)6−2都城商(宮崎)●
中京大中京のクリーンアップがチームの全打点を挙げ、快勝した。一回は簡単に2死を取られたが、河合、堂林の連打で一、二塁とすると磯村が左中間へ3ランを放ち先制。三回には堂林の右中間適時二塁打で1点を追加し、七回は河合、堂林の連続適時打で2点を加えて突き放した。都城商は四回、松原、冨永、米良の3連打で2点を返した1死二塁で新西が三ゴロ。二塁送球で走者がタッチアウト、打者も一塁封殺される変則的な併殺を奪われて反撃ムードを断たれ、五回以降は立ち直った堂林の丁寧な投球の前に無安打に終わった。
▽中京大中京・大藤敏行監督 投げるべき人が投げ、打つべき人が打ってくれた。堂林は本来のリズムで、やっとエースらしい投球を見せてくれた。
▽都城商・河野真一監督 勝負どころでの1本が大きかった。堂林君は低めの制球が良かった。手を出さないよう指示したが、それを上回る内容だった。
◇中京大中京・磯村が一発「やっと自分示せた」
甘く入った初球のスライダーを逃さなかった。一回、中京大中京の5番・磯村が無心で振り抜いた打球は高々と上がり、左中間席に飛び込んだ。内野ゴロで簡単に2死を取られた後、3、4番が連打でつなぎ、5番の一発。一、二塁間で、磯村は、人さし指を掲げる。「やっと自分を示すことができた」
2年生の磯村には、ひそかに抱えている悩みがあった。大藤監督がインタビューなどで「(得点圏で)3、4番に回せば点が取れるチーム」と言ってきたことだ。年明けから5番に定着した自分の名前がなかなか出てこない。奮起して打撃練習に励み、愛知大会は打率5割の好成績を残した。が、甲子園で過去3試合、2けた安打を続けたチームの中にあって10打数2安打。「こんなに調子が悪いのは高校に入って初めて」と言うほど不調にあえいでいた。
転機となったのは、前日の練習で構え方を変えたことだった。「調子が悪い時は、体が突っ込んでしまっている」。やや開き気味に構え、しっかりとボールを見られるようにした。これが奏功し、三回の2打席目も、逆方向にはじき返す技ありの右越え二塁打を放った。
中軸だけで全6打点を挙げ、これまでも切れ目なく得点を稼いできた打線に、力強さが加わった。試合後、大藤監督に磯村の「悩み」について聞くと、笑いながら「3、4番は全国レベルの強打者。まだまだ10年早いと言っておいてください」。言葉は厳しかったが、誰よりも5番の復活を喜んでいるような、満面の笑みだった。
◇都城商・新西、初回の失投悔やむ
思わず「しまった」という表情を浮かべた。一回、都城商の新西が左中間席まで運ばれたのは、あまりに甘い変化球。3回戦で智弁和歌山を5安打に抑えた制球力と球威は消えていた。「しっかり腕が振れず、小手先で投げてしまった」と右腕エースは悔やんだ。
新西は2、3回戦で連続完投。それは本来の形ではなかった。宮崎大会の準々決勝から甲子園の初戦まで、すべて継投で制したチーム。だが左腕の藤本が2回戦で左ふくらはぎに死球を受けた影響で、一人でマウンドを守らねばならなかったのだ。「疲れが残り、肩に張りがあった」と新西。力強い投球の再現は難しかった。
やむなき事態とはいえ、藤本の心にも重しがあった。一回の攻撃、先制点で支えたいという思いが強すぎて1死二塁の先制機に空振り三振。四回からは新西をリリーフし、緩急をつけて粘りの投球を見せたが、勝利は呼べなかった。「自分が(前の試合でも)投げられていたら、新西も楽だったろう。助けられなかった自分が悔しい」とうつむいた。
負けて喜べるはずはない。だが、この苦い思いも、勝ち上がったからこそ。投打に力強さがあふれた3回戦までの都城商は、強い印象を残した。「夏の最後が甲子園で良かった」と藤本。痛快なチームが、惜しくも去った。
○…迫力のある打撃だけでなく洗練された守備も披露した中京大中京。四回に3連打で2点差に迫られた直後だった。1死二塁から遊撃寄りのゴロをさばいた三塁・河合は迷わず二塁に送球。塁を離れていた走者をタッチアウトとすると、一塁にも転送されて併殺を奪い、相手の反撃の芽を摘んだ。「仮に二塁がセーフになっても一塁はアウトにできる。練習通りのプレーができた」と河合。二回に悪送球で守りのリズムを狂わせかけたミスを、挽回(ばんかい)してみせた。
○…追い込まれてから低めの変化球を拾うように左翼線に運んだ。2年生でただ一人先発出場した都城商・米良の四回の一打。「とにかくバットに当てようと考えた」という打撃は崩れたスイングだったが、チーム唯一の得点打となった。宮崎大会は打率1割8分8厘だったが甲子園では12打数6安打、打率5割と大当たり。「最後の夏という強い気持ちの先輩に引っ張られて出た結果」。しゃくり上げながら先輩への感謝の言葉を繰り返した。
*** 以上、記事より ***
意外と競ったり、予想外の展開になったり、と準々決勝になってもそわそわな展開でした。
2009.08/21 [Fri]
09夏・3回戦
第91回全国高校野球:県岐阜商6−3PL学園 県岐阜商、思い通り
◇第10日(19日・阪神甲子園球場)
▽第1試合3回戦(午前8時30分開始)
PL学園(大阪)
000110100=3
10211010×=6
県岐阜商(岐阜)
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県岐阜商が逃げ切った。一回、江崎の適時二塁打で先制。3失点完投の山田は三回に2点適時二塁打、五回もソロを放って投打で活躍した。PL学園は七回、吉川のソロなどで追い上げたが、守備の乱れも絡んで得点の直後に失点を重ね、流れをつかめなかった。
◇県岐阜商・藤田明宏監督
期待以上の打撃で、山田も変化球が決まって90点以上の出来。守りのミスもなく、すごくいい野球ができた。
◇PL学園・河野有道監督
心配していた投手力で、差が出てしまった。(春のエース)中野のけがは仕方ないこと。失策もあり、流れに乗れなかった。
◇雪辱誓う一発
PL学園の1番・吉川が、七回にバックスクリーン左へ大きなソロ本塁打。大阪大会5本塁打の強打を発揮した。それまで3打席は凡退。「初球からフルスイングするしかない」と、攻めの気持ちを胸に直球をたたいた。それでもチームを勢いづけられず涙を流した。秋以降は中軸を担うとみられる2年生は、「来年は絶対に全国優勝したい」と雪辱を誓った。
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■白球を追って
◇打順変更、初回に点を取れ PLを振り切り8強
ほとんど打ったことがない左翼に、2試合連続となる本塁打を放った県岐阜商の山田。それでもダイヤモンドを回る間、表情に変化はなかった。「喜んだら満足してしまう」。投げても安定した投球で完投勝利を収めた。
14得点した2回戦から4人の打順を入れ替えた。藤田監督は「相手投手、初戦の結果、選手の調子を見て決めた」という。5番から3番に上がった江崎は「初回に点を取れ」という監督の意図を感じ取っていた。自ら先制二塁打を放ち、「思い通りになった」。いきなりの先制攻撃は、チームの勢いが変わっていないことを選手たちに確信させた。
7番から5番になった山田は三回にも、貴重な追加点となる二塁打を放って計3打点。3番から8番に下がった泉田も、失点直後の四回に二塁打を放って追加点のホームを踏むなど、オーダーが変わったとは思えないつながりのある攻撃だった。「いつも通り、思い切り振っていけた」と山田。どの選手も打順にかかわらず、普段通りの力を発揮した。
「目標は全国制覇」とチームで言い合っている。岐阜大会は足を絡めたうまさで接戦を勝ち抜いてきたが、甲子園で力強さが加わった。「まだ通過点」。山田の言葉は、31年ぶりの8強にも満足していないように聞こえた。
夏の高校野球:PLの1選手が欠場 インフルエンザA型
第91回全国高校野球選手権大会に出場しているPL学園(大阪)の渡辺大地外野手(3年)がインフルエンザA型を発症したことが19日朝、分かった。渡辺選手はチームを離れ、同日第1試合の県岐阜商(岐阜)戦は欠場した。同校の監督、部長、選手、記録員、練習補助員ら26人が検診を受け、ほかに発症者はいなかった。
夏の高校野球:日本文理が快勝 日本航空石川は投手陣変調
第91回全国高校野球選手権大会第10日の19日は3回戦4試合。第2試合は日本文理(新潟)が二回に一挙5点を挙げるなど、日本航空石川(石川)を12−5で快勝し、初の準々決勝進出を決めた。新潟県勢の準々決勝進出は25年ぶり。
○日本文理(新潟)12−5日本航空石川(石川)●
日本文理が新潟県勢では大会史上最多の12得点で快勝した。同点の二回、打者9人の攻撃で5得点。六回には伊藤の左越え3ランで加点した。先発・伊藤は2試合連続完投。日本航空石川は二回に泉と岡本の適時打で一度は追い付いたが、投手陣がつかまった。
▽日本文理・大井道夫監督 100点満点の試合。20安打は驚いた。伊藤の本塁打が大きかった。(県勢25年ぶり8強は)子供たちに感謝。
▽日本航空石川・今久留主祐成監督 選手は力を出したが完敗。逃げずに向かっていけばチャンスが来ると話したが、相手に中途半端な打撃がなかった。
◇吉田雅俊右翼手=日本文理・3年
◆力み消え甲子園初安打で4番復活
左へ、右へ、面白いように打球が伸びていった。一回、左中間を深々と破る先制適時二塁打を放つと、二回は高めのカーブを逆らわずにはじき返し、右中間を抜ける適時二塁打。「左右に打ち分けられるのが自分の強み」。初戦、11安打を放ったチームの中で無安打に終わった4番が、復活ののろしを上げた。
初戦の後、大井監督に「硬い。いつもの柔らかさがない」と言われた。センバツも4番に座ったが、優勝した清峰(長崎)のエース・今村に無安打。「甲子園でヒットを打ちたいという気持ちが強すぎたのかもしれない」。力みが消え、甲子園初安打につながった。
試合後、喜びを最初に伝えたい人を聞かれ「母」と答えた。母孝(こう)さんは08年1月に子宮がんのため46歳で亡くなった。以来、打席に入る前は必ず、「力を貸してくれ」と祈る。3打席目以降は無安打で「今日は40点ぐらい」と表情は厳しかったが、母の話題では「やっと打ってくれたねって喜んでいると思う」とほおを緩めた。
○…4連打を浴び同点にされた二回の投球がうそのように立ち直った。日本文理の伊藤は13奪三振で完投勝利。三回からは、投球テンポを1球ごとに変えるなどして、相手打者を手玉に取った。打っても六回に3ランを放ち、「気持ちよかった」という。しかし、九回にコントロールミスが出た。打ち込まれたことが気になるようで、「このままじゃ次は勝てない。しっかりやらないと」と反省材料の方が多いようだった。 ○…日本航空石川の浜田は二回途中から救援。横手からの120キロ台半ばの速球と緩い変化球で、三、四、五回と無得点に抑えた。六回1死二塁では球速100キロ以下のスローカーブを3球続け、4番・吉田を右飛に。「思い切り腕を振って、遅く投げる。一番自信のある球です」。しかしその後の2死二、三塁で、伊藤に球速98キロのスライダーを左翼席に運ばれた。「あの1球だけ、すっぽ抜けて……」。2年生右腕は悔し涙に声が途切れた。
夏の高校野球:立正大淞南は九回に勝ち越し東農大二降す
第91回全国高校野球選手権大会第10日の19日は3回戦4試合。第3試合は1点を争う好勝負になったが、立正大淞南(島根)が東農大二(群馬)に競り勝った。立正大淞南は新型インフルエンザ感染者が出て、通常より4人少ない14人のベンチ入りとなったが、逆境に負けぬ奮戦で甲子園を沸かせた。
○立正大淞南(島根)4−2東農大二(群馬)●
立正大淞南の打線が終盤につながった。八回に3四死球で無死満塁とし、崎田の犠飛で同点。九回は2死から林田、小野、後藤の3連続長打で2点を勝ち越した。先発・崎田が要所を締めて勝機を呼んだ。東農大二は加藤が終盤制球を乱し、球を見極められた。
▽立正大淞南・太田充監督 (インフルエンザで)動揺はあったと思うが、明るさと笑顔がチームの持ち味。それに我慢強さが加わり、また強くなった。
▽東農大二・加藤秀隆監督 加藤はずっと粘り強く投げていたので、最後も任せた。スターのいないチームだが、普通の高校生ががんばってくれた。
◇立正大淞南、インフル禍を跳ね返す
試合終了後の整列。勝利した立正大淞南の列が向かい合った東農大二よりずいぶんと短かった。「もう一度全員で試合をしたい」。ベンチ入りできた立正大淞南メンバーのそんな思いは、序盤の力みにつながったが、最後の最後にインフルエンザ禍をはね返した。
3番・遊撃手の代役はサードの林田。一回1死から遊ゴロをはじく。2死二塁で、この夏公式戦初出場の猪股が三ゴロを悪送球。ワンバウンドを甲子園初登場の大蔵がさばけない。これが適時打につながった。
六回表の攻撃に備えるダッグアウト。試合前に「今日を乗り切れば、彼らは戻って来られる」と気合を入れていた太田監督が、選手たちをベンチに座らせ諭した。「おまえたちバラバラだぞ」
「勝ちたい」「打ちたい」「エラーしたくない」。自分のことでいっぱいだったメンバーに、県外から集まり、寮生活を送ることで培った一体感が戻ってきた。孤立気味だった大黒柱の崎田にも野手が声を掛けるようになった。
九回2死走者なし。打席には林田。頭にあったのは「塁に出ることだけ」。来た球を無心でたたくと右中間を抜く三塁打となった。そして、小野が殊勲の勝ち越し二塁打。やはり甲子園を18人で戦いたい。林田は「4人に早く戻ってきてほしい」と笑顔で言った。それまで負けられない。
○…七回までに2けたの安打を打たれても、立正大淞南の崎田は「単打ならいい」と我慢を重ねた。完投した初戦の疲れから球は走らない。それでも制球重視で、2失策と乱れた一回も最少失点にとどめ、その後も「逆転の機会は必ず来る」と雌伏の投球を続けた。2点を追う六回の打席で中前適時打。八回にも同点の右犠飛と、自ら勝利の道筋をつけた。「エースで4番」の活躍だが、慣れない守備位置で支えてくれた仲間をたたえ、「全員野球。だから勝てた」と感謝した。
○…ベスト8が頭にちらついた瞬間、別人の投球になってしまった。1点リードの八回に、3連続四死球から同点とされた東農大二の左腕・加藤。七回までは制球良く打たせて取っていたが、「あと2回と勝ちを意識して、かわす投球になった」と言う。続く九回は2死からの3連打で2点を勝ち越され、「今度は逆にストライクを取りにいき過ぎた」。微妙な心理の変化が、勝敗の行方を決めた。
新型インフル:立正大淞南部員、5人の感染確認 甲子園
第91回全国高校野球選手権の大会本部は19日、5人のインフルエンザA型感染者が出ていた立正大淞南(島根)について、感染者全員が新型インフルエンザであることがわかったと発表した。感染者は登録選手3人と練習補助員2人。ほかに19日朝に発熱のあった1人を含む6人が大会第10日の東農大二(群馬)戦を欠場した。
宿舎がある大阪市のガイドラインに従い、このうち1人の検体について遺伝子検査(PCR検査)を行って判明した。ガイドラインでは検査対象者が新型の場合、同様の感染者はすべて新型とみなすという。この5人以外は18日に行った簡易検査で陰性だった。
第91回全国高校野球:帝京4−3九州国際大付 帝京、誤解から幸運
◇第10日(19日・阪神甲子園球場)
▽第4試合3回戦(午後4時30分開始)
九州国際大付(福岡)
000001200=3
001000021=4
帝京(東東京)
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ともにミスが失点に絡んでもつれたが、帝京の金子が九回1死満塁から右越えにサヨナラ打を放った。七回途中から1年生右腕・伊藤が好救援した投手層の厚さも勝因。九州国際大付も納富が好投したが、八回に悪送球、捕逸の続出で同点とされたのが悔やまれる。
◇帝京・前田三夫監督
金子にはチェンジアップを右方向へ打てと指示していた。相手は力があり、大きなヤマと思っていた。よくひっくり返した。
◇九州国際大付・若生正広監督
守備の乱れが悔やまれる。鍛えてきたつもりだったが。打撃は自信があったが、投手が何人もいるチームはいいね。
◇自信の直球失投
九回1死満塁。右翼手の頭上を越えていく打球を見た九州国際大付のエース納富は、マウンドに崩れ、涙を隠すようにグラブで顔を覆った。「失投だった」。終盤、決め球の一つのチェンジアップが決まらず、苦しい投球が続いた。最後は、「一番、自信があった球」と投げた直球が高く浮いた。昨秋の九州大会で敗れてから、課題のスタミナを鍛えてきた。あと一歩で8強を逃した大会を、「この夏は一生の宝物になる」と何度も声を詰まらせながら振り返った。
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■白球を追って
◇帝京、誤解から幸運−−苦しんでサヨナラ
鮮やかな逆転サヨナラ勝ち。その流れは、帝京の小柄な2番打者の機転から生まれた。
八回、1点差に詰めた後の1死二、三塁。打席の伊藤が2球目にスクイズを空振りした。だが、飛び出した三塁走者の田口が帰塁するところへ、相手捕手からの送球が当たってファウルグラウンドを転々。きびすを返した田口が本塁へ突っ込み、同点に追いついた。
実は田口は、「スクイズの構えからバットを引け」というサインだと解釈していた。「ならば、塁に戻れる範囲で最大限のリードをして、相手へ重圧をかけよう」。できれば捕手に送球させ、肩の強さも知ろうとも計算していた。サインの読み違いが生んだ巧妙な判断。それが思いがけない幸運を呼んだ。
そこまでは帝京は打線が攻めあぐみ、エースの平原も七回に痛打されて、沈んだ空気が漂った。だが同点になりムードは一変。九回表、マウンドの伊藤が先頭打者に二塁打を許しても、野手がけん制で刺した。九回裏のサヨナラ機には、金子がきっちりと直球をバットの芯でとらえた。
試合後に金子が体調不良を訴えて手当てを受けるほど(診断は軽い熱中症)追い込まれた試合。それを見事に乗り切り、1年生の伊藤も「さすが先輩たち。感動した」と笑った。全国制覇を狙うチームにとって、試練も乗り越えれば勢いになる。
夏の高校野球:明豊、常葉橘との延長戦制し8強入り
第91回全国高校野球選手権大会第11日の20日は3回戦の残り4試合。第一試合は延長十二回、明豊(大分)が常葉橘(静岡)を降して8強入りを決めた。
○明豊(大分) 8−6 常葉橘(静岡)●
明豊が終盤に勝負強さをみせた。九回無死三塁、今宮の右前打で同点。延長十二回1死満塁、遊ゴロ併殺崩れで二塁走者も生還し、2点を勝ち越した。十一回から山野が好救援した。常葉橘は庄司が211球を力投したが、打線が五回以降追加点を奪えなかった。
▽明豊・大悟法久志監督 乗っているので野口を先発にしたがよく研究されていた。今宮は少し疲れていたから代えた。山野は練習から良かった。
▽常葉橘・黒沢学監督 中盤から打ちあぐねて、7点目を取る野球ができなかった。庄司を代えるつもりはなかった。うちらしい試合はやれたと思う。
◇勝敗分けた「準備」…明豊・今宮
土壇場でエースの意地と大会屈指の強打者の技が、激しくぶつかり合う。勝敗を分けたのは、明豊の3番・今宮が積み重ねてきた「準備」だった。
明豊が1点を追う九回無死三塁。常葉橘の右腕・庄司は、ダイナミックに140キロ台中盤の速球を投げ込み、今宮をカウント2−1に追い込む。直球勝負しか考えなかった。七回、変化球を左中間にはじき返される二塁打を打たれ、「ああいう悔しい思いはしたくない」と考えたからだ。
が、今宮は速球を打ち返す練習を重点的に行ってきていた。2回戦で、140キロ台後半の直球を誇る西条(愛媛)の右腕・秋山に無安打に抑え込まれた。その悔しさから「大きく振ってしまうと速球に対応できない」と考え、指2本分ほどバットを短く持ち、コンパクトに振り抜くフォームに変えた。誰よりも遅くまで残って打撃練習をし、この日のために仕上げてきた。
6球目。高めに来た146キロの直球を、しっかりと引きつけ、前進守備の一、二塁間を鋭く破る。起死回生の同点打で、その後の延長戦での勝利につなげた。
試合後、今宮は、はつらつとした表情で「直球勝負は楽しかった。今までで一番、はらはらどきどきした」と話した。大舞台で成長してゆく自分が、うれしくて仕方ないように見えた。
○…勝利の瞬間にマウンドにいたのは、明豊の2年生右腕・山野。1点も譲れない延長十一回から救援。「緊迫した試合の方が好き。絶対に負けない」と140キロ台の直球やフォークを低めへ投げ込み、2回を1安打、3奪三振の好投を見せた。野口、今宮の2本柱の控えだけに出番は少ないが、今春のセンバツでも敗れた花巻東戦で4回を経験。「春と違って落ち着いて投げられた。もっと投げて一日でも長く夏を楽しみたい」と、次の出番も心待ちにしている。
○…常葉橘の主将・小泉は涙を流しながらも「3年間やってきて、一番楽しい試合だった」と話した。制球に苦しみ、何度もピンチを招いた庄司の元に駆け寄って「守ってやるから打たせていい」と声をかけ続けた。三回に同点の二塁打を放つなど3安打し、「自分らしいフルスイングはできた」と言う。しかし、リードを許した延長十二回の打席は空振り三振。「庄司のために何かしてやりたかった」と悔やんだ。
夏の高校野球:中京大中京、中盤から猛打爆発で8強入り
第91回全国高校野球選手権大会第11日の20日は3回戦の残り4試合。第二試合は中京大中京(愛知)が、中盤から猛打が爆発し、長野日大(長野)を突き放し、8強入りを決めた。
○中京大中京(愛知)15−5 長野日大(長野)●
中京大中京が好機に甘い球を逃さず、たたみかけた。一回に3連打などで5点。同点とされた後の六回はスクイズで勝ち越し、河合、堂林、磯村の3連続適時打で加点した。救援の森本も好投で流れを変えた。長野日大は先発・加藤が打線の援護に応えられなかった。
▽中京大中京・大藤敏行監督 先制したが、抑えられている間に追いつかれ苦しい展開だった。それでも六回以降はうち本来の野球ができたと思う。
▽長野日大・中原英孝監督 加藤の立ち上がりは3試合で一番だったのに、(守備が)ドタバタした。打力は見せたが、加藤と他の投手に差があり過ぎた。
◇森本隼平(じゅんぺい)投手=中京大中京・2年
◆甲子園で自己最高145キロ 成長著しく
大会注目右腕の堂林がKO降板する緊急事態。だが、エースに「ごめん」と声を掛けられた2番手投手は堂々の投球だった。
4点を勝ち越した後の七回。140キロ台の速球をビシビシ決め、精度の高いチェンジアップを勝負球に、長野日大の2番からを3者連続三振に仕留めた。5点差を追いつかれて漂っていた暗雲を完全に振り払った。
関西学院との2回戦に先発したが、五回途中3失点で堂林の救援を仰いだ。「どんな場面でもいつでもいけるように」との反省を生かした早めの準備が奏功した。リラックスした投球で3回3分の2を無得点に抑えた。
「力で押せる」と堂林も一目置く。甲子園球児だった父親の影響で、球の回転にこだわる投球フォームは小学4年の時、野球教室で、メジャーリーガーの長谷川滋利さん(当時マリナーズ)にほめられ自信になった。
甲子園で自己最速145キロの表示が出るなど成長著しく、信頼感も急上昇。堂林との「二枚看板」になりつつある。
○…連打が目立った中京大中京だが、六回の勝ち越し点は国友のスクイズで挙げた。今大会はそれまで12打席連続無安打で焦りもあった。だが1死一、三塁の場面でスクイズのサインが出ると「2番打者の役割を果たそう」と、しっかり一塁方向へ転がした。中京打線は二回から五回まで淡泊だったが、国友のつなぐ仕事が一気にムードを高め、続く中軸の3連続適時打を呼んだ。国友自身も「吹っ切れました」と続く2打席で安打。すっかり調子を取り戻した。
○…長野日大・加藤のほおに涙が伝った。一回、守備の乱れをきっかけに集中打を浴びて5失点。二回以後は立ち直り、打線の奮起で一度は試合を振り出しに戻したが、六回に勝ち越しスクイズを決められると、再び集中打を浴びた。今大会の3試合、18回3分の2を投げて18四死球と制球に課題を残した。「心の弱さが出た。秋、春へ向けて何かを感じてほしい」と指摘する中原監督の隣で、2年生エースは「しっかりコースに投げた時は抑えられた。コントロールをつけて、大舞台でチームを引っ張れる投手になりたい」。
夏の高校野球:花巻東・菊池 東北に完投勝利
第91回全国高校野球選手権大会第11日の20日は3回戦の残り4試合。第3試合は花巻東(岩手)の菊池が、東北(宮城)打線を1失点に抑えて完投勝利。8強入りを決めた。岩手県勢のベスト8は盛岡一以来41年ぶり。大会第12日の第1試合で明豊(大分)と対戦する。
○花巻東(岩手)4−1 東北(宮城)●
効果的に小技を使った花巻東が逃げ切った。三回は犠打で二塁に走者を送り、山田の左前打で先制。四、五回は盗塁を絡めて好機を生かした。東北は走者が出ても菊池雄に後続を断たれ、六回に伊藤航、桐生のこの試合唯一の連打で1点を返すのみに終わった。
▽花巻東・佐々木洋監督 東北はこれまで目標にしてきたチーム。東北大会で勝てず、練習試合でもこてんぱんにやられた。甲子園で勝ててうれしい。
▽東北・我妻敏監督 守りのミスで先制点を与えたのが敗因。(不祥事で対外試合禁止6カ月という)長いトンネルを越えてよくここまで来た。
◇エース支える野手たち カバーリングの速さ特筆もの
花巻東の攻守にわたるすきの無さは、群れで獲物を追い詰める獣のようなすごみさえ帯びてきた。
攻撃は佐藤涼の「嫌らしさ」が際立つ。東北のエース佐藤が気分良く先頭の柏葉を抑えた直後。「肩を開かないこと」と語る得意のファウル打ちを披露した。三振に倒れたものの、計10球を投げさせてリズムを狂わせた。
1打席で投手に費やさせた最高記録は「15球」という。「アウトになっても相手に傷跡を残す」が身上の2番打者は、死球で出た四回は足でかき回す。1死二塁から4番・猿川が三振を喫する間に三盗。「打者に集中して二塁を見ていない」との判断は、次打者の内野安打での貴重な追加点へと結び付いた。
マウンドの菊池雄に目を奪われがちな守りでも、野手のカバーリングの速さは特筆ものだ。四回に東北が無死一塁からバントで送った場面。右翼が一塁のカバーに走るのは当然だが、左翼までもが確実に三塁のバックアップに入っている。
悪送球などで走者が次塁を狙う「万が一の事態」を想定したものだ。左翼の佐々木大は「余計な進塁を許さないために徹底して練習している」と言う。3日の甲子園練習でも、野手がわざと送球をそらし、動きを確認するのを怠らなかった。
菊池雄が高校屈指の左腕であることに異論はないが、エースを支える脇役たちも心憎い。
○…1回戦から連続完投の菊池雄は「3試合の中で一番良かった」と喜んだ。上げた右足をしっかりためてから投げることを意識し、軸足が早く曲がっていたのを修正。疲労で背中に張りがありながら、「その方が丁寧に投げられるし、力も抜ける」と意に介さなかった。
五回と九回には154キロの球速も表示。甲子園球場内の表示では07年に佐藤由規(宮城・仙台育英、現ヤクルト)が出した155キロに次ぐ数字だが、「内野ゴロを打たせようと力を入れた結果。130キロでも勝てばいい」と淡々。2日連投が予想される準々決勝に向けても「挑戦者の気持ちで辛抱強く投げたい」と、気持ちを引き締めた。
○…東北のエース佐藤の表情は、試合後も穏やかだった。打たれた8安打のうち、3本が内野安打で長打はなく、「低めを突けた」。悔やんだのは、サインプレーのミスだ。三回1死二塁、捕手・薗部の「二塁に送球するからボールに外せ」という要求を見落とし、ぽっかりと開いた三遊間に先制適時打を打たれた。「自分たちがやりたかったミスを突く野球を相手にやられた」。
花巻東の菊池雄は中学3年の時、東北選抜チームで一緒に練習した仲。「上を目指して頑張れ」とエールを送った。
夏の高校野球:智弁和歌山敗れ、高嶋監督新記録ならず
第91回全国高校野球選手権大会第11日の20日は3回戦の残り4試合。第4試合は都城商(宮崎)の新西が、強打の智弁和歌山(和歌山)相手に5安打完投勝ち。智弁和歌山の高嶋仁監督は、甲子園通算勝利新記録はならなかった。
○都城商(宮崎)4−1 智弁和歌山(和歌山)●
都城商・新西が力のある球を内外角に投げ分け5安打、10奪三振で完投。打線も球を見極めて力強くとらえ、一回に松原、冨永の連続適時打で3点。四回は藤本の適時打で加点した。智弁和歌山は打線が三振と飛球を重ね、後半調子を上げた岡田を援護できなかった。
▽都城商・河野真一監督 出来過ぎ。12残塁は課題だが、強豪に勝ったから120点。自分のグラウンドのように、甲子園で伸び伸びプレーできている。
▽智弁和歌山・高嶋仁監督 (相手は)安打数のわりに点が入っていなかったので、チャンスはあると思っていた。負ける時は、こんなものでしょう。
◇自信持って投げ続けたストレート…新西
「悔いを残したくない」。都城商の新西が、最後の山場で選んだのは、最も自信を持っていた速球だった。
智弁和歌山打線に初めて連打を浴びて招いた八回1死一、二塁のピンチ。相手はそれまでの打席で「一番打球が速くて、怖いバッター」と思っていた3番・西川だ。2ストライクと追い込んでからの選択肢は、速球しか思いつかなかった。3球勝負で外角高めへ135キロ。序盤に記録した140キロ台には届かなかったが、切れ、伸びともに衰えておらず、西川のバットは空を切った。続く山本も速球で押し続けて右飛。新西から自然と笑みがこぼれた。
序盤からストレートが走り、捕手の米良が「今日の球なら打たれても外野フライですむ」と感じていたほど力があった。五回には北畠、三宅、喜多から3者連続三振。「勝てるかもしれない」。新西は自信を持ってストレートを投げ続けた。
1回戦は藤本との継投だったが、2回戦で3失点完投。今度は強豪相手に自責点ゼロで完投勝利。「自分の投球は甲子園で通用することが分かった」と確信は深まる。28年前に初出場した先輩に並ぶ8強。「ここまで来たらもっと行きます」。伸びやかな速球と同様に、勢いのある言い方だった。【鈴木英世】
○…一回の波状攻撃を生んだのは、つなぐ意識の徹底だった。連続適時打で3点を挙げた都城商の松原と冨永は、口をそろえて「何とかつなごうと、転がすことだけ考えた」と打席での心境を語った。よく聞く言葉ではあるが、都城商は徹底している。この試合で、犠打失敗の小飛球とライナー性の打球を除けば、フライでのアウトはわずか1。「ゴロならエラーしてくれるかもしれない。練習の時から意識して全員が転がしている」と主将の冨永。3試合連続の2けた安打は決して偶然ではない。
○…「二つ勝てたんだから、いいプレゼントをもらった」と、智弁和歌山の高嶋監督。歴代単独1位となる春夏通算59勝目は来春以降に持ち越しとなったが、淡々と敗戦を振り返った。「この試合だけは落とせない」と臨んだ左腕・岡田は12三振を奪いながらも一回に3失点。高嶋監督は「立ち上がりがすべてだった」と言う。ただ、エースの交代は全く頭になかった。「このチームは岡田(を軸)でやってきた。交代は彼のプライドを傷つける」。納得しての甲子園通算25敗目だった。
*** 以上、記事より ***
8強が出揃ったので、改めて8強予想との差を確認。PL、明桜、青森山田、帝京、興南、中京大中京、日大三、智和……ええと、そのうち帝京、中京大中京が8強。正解率25%って。orz 青森山田、明桜、興南は初戦(2回戦含む)敗退。日大三は2回戦敗退。PL、智和は3回戦敗退。ついでに8強のうち3チームが中部地方。東北1、関東1、中国1、九州2。16強で見てみると、東北2、関東2、中部6、近畿2、中国1、九州3。中部強すぎ。
以下、雑談。
何年ぶりかで熱闘甲子園を見たら、常葉橘の庄司君が、明豊の今宮君にバッティンググローブ? を渡していたようで。「次の試合で使います」とか言っていましたよ今宮君。
あと、今年も智和バッテリーはらぶっていました。(……)
一旦投手に返したボールがイマイチだったらしく、捕手の子が新しいボールを主審に貰って、息を吹きかけて(湿り気を与える為か汚れを吹き散らしたのかはよくわからなかったけど)何度も何度も握り直して、それから投手に投げたんですよ。投手の子も何かもう、信頼してますーみたいな顔向けていて、今年もらぶっ子か! とか……あと、暴投をプロテクターつけていたとはいえ、お腹で受け止めてしっかり送球してから倒れた捕手に、大丈夫か、って感じで歩み寄って心配そうにしている投手が……可愛すぎました。はい、すみませんフィルターかかりすぎかも知れません。岡田君(智和エース)可愛いなぁ。負けちゃったけど。
※野球ユニフォームフィルターが強力すぎる為、帽子を脱いでユニフォームではなく普段着になったら「誰これ?」だと思います……いつもそんな感じ。←オイ
◇第10日(19日・阪神甲子園球場)
▽第1試合3回戦(午前8時30分開始)
PL学園(大阪)
000110100=3
10211010×=6
県岐阜商(岐阜)
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県岐阜商が逃げ切った。一回、江崎の適時二塁打で先制。3失点完投の山田は三回に2点適時二塁打、五回もソロを放って投打で活躍した。PL学園は七回、吉川のソロなどで追い上げたが、守備の乱れも絡んで得点の直後に失点を重ね、流れをつかめなかった。
◇県岐阜商・藤田明宏監督
期待以上の打撃で、山田も変化球が決まって90点以上の出来。守りのミスもなく、すごくいい野球ができた。
◇PL学園・河野有道監督
心配していた投手力で、差が出てしまった。(春のエース)中野のけがは仕方ないこと。失策もあり、流れに乗れなかった。
◇雪辱誓う一発
PL学園の1番・吉川が、七回にバックスクリーン左へ大きなソロ本塁打。大阪大会5本塁打の強打を発揮した。それまで3打席は凡退。「初球からフルスイングするしかない」と、攻めの気持ちを胸に直球をたたいた。それでもチームを勢いづけられず涙を流した。秋以降は中軸を担うとみられる2年生は、「来年は絶対に全国優勝したい」と雪辱を誓った。
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■白球を追って
◇打順変更、初回に点を取れ PLを振り切り8強
ほとんど打ったことがない左翼に、2試合連続となる本塁打を放った県岐阜商の山田。それでもダイヤモンドを回る間、表情に変化はなかった。「喜んだら満足してしまう」。投げても安定した投球で完投勝利を収めた。
14得点した2回戦から4人の打順を入れ替えた。藤田監督は「相手投手、初戦の結果、選手の調子を見て決めた」という。5番から3番に上がった江崎は「初回に点を取れ」という監督の意図を感じ取っていた。自ら先制二塁打を放ち、「思い通りになった」。いきなりの先制攻撃は、チームの勢いが変わっていないことを選手たちに確信させた。
7番から5番になった山田は三回にも、貴重な追加点となる二塁打を放って計3打点。3番から8番に下がった泉田も、失点直後の四回に二塁打を放って追加点のホームを踏むなど、オーダーが変わったとは思えないつながりのある攻撃だった。「いつも通り、思い切り振っていけた」と山田。どの選手も打順にかかわらず、普段通りの力を発揮した。
「目標は全国制覇」とチームで言い合っている。岐阜大会は足を絡めたうまさで接戦を勝ち抜いてきたが、甲子園で力強さが加わった。「まだ通過点」。山田の言葉は、31年ぶりの8強にも満足していないように聞こえた。
夏の高校野球:PLの1選手が欠場 インフルエンザA型
第91回全国高校野球選手権大会に出場しているPL学園(大阪)の渡辺大地外野手(3年)がインフルエンザA型を発症したことが19日朝、分かった。渡辺選手はチームを離れ、同日第1試合の県岐阜商(岐阜)戦は欠場した。同校の監督、部長、選手、記録員、練習補助員ら26人が検診を受け、ほかに発症者はいなかった。
夏の高校野球:日本文理が快勝 日本航空石川は投手陣変調
第91回全国高校野球選手権大会第10日の19日は3回戦4試合。第2試合は日本文理(新潟)が二回に一挙5点を挙げるなど、日本航空石川(石川)を12−5で快勝し、初の準々決勝進出を決めた。新潟県勢の準々決勝進出は25年ぶり。
○日本文理(新潟)12−5日本航空石川(石川)●
日本文理が新潟県勢では大会史上最多の12得点で快勝した。同点の二回、打者9人の攻撃で5得点。六回には伊藤の左越え3ランで加点した。先発・伊藤は2試合連続完投。日本航空石川は二回に泉と岡本の適時打で一度は追い付いたが、投手陣がつかまった。
▽日本文理・大井道夫監督 100点満点の試合。20安打は驚いた。伊藤の本塁打が大きかった。(県勢25年ぶり8強は)子供たちに感謝。
▽日本航空石川・今久留主祐成監督 選手は力を出したが完敗。逃げずに向かっていけばチャンスが来ると話したが、相手に中途半端な打撃がなかった。
◇吉田雅俊右翼手=日本文理・3年
◆力み消え甲子園初安打で4番復活
左へ、右へ、面白いように打球が伸びていった。一回、左中間を深々と破る先制適時二塁打を放つと、二回は高めのカーブを逆らわずにはじき返し、右中間を抜ける適時二塁打。「左右に打ち分けられるのが自分の強み」。初戦、11安打を放ったチームの中で無安打に終わった4番が、復活ののろしを上げた。
初戦の後、大井監督に「硬い。いつもの柔らかさがない」と言われた。センバツも4番に座ったが、優勝した清峰(長崎)のエース・今村に無安打。「甲子園でヒットを打ちたいという気持ちが強すぎたのかもしれない」。力みが消え、甲子園初安打につながった。
試合後、喜びを最初に伝えたい人を聞かれ「母」と答えた。母孝(こう)さんは08年1月に子宮がんのため46歳で亡くなった。以来、打席に入る前は必ず、「力を貸してくれ」と祈る。3打席目以降は無安打で「今日は40点ぐらい」と表情は厳しかったが、母の話題では「やっと打ってくれたねって喜んでいると思う」とほおを緩めた。
○…4連打を浴び同点にされた二回の投球がうそのように立ち直った。日本文理の伊藤は13奪三振で完投勝利。三回からは、投球テンポを1球ごとに変えるなどして、相手打者を手玉に取った。打っても六回に3ランを放ち、「気持ちよかった」という。しかし、九回にコントロールミスが出た。打ち込まれたことが気になるようで、「このままじゃ次は勝てない。しっかりやらないと」と反省材料の方が多いようだった。 ○…日本航空石川の浜田は二回途中から救援。横手からの120キロ台半ばの速球と緩い変化球で、三、四、五回と無得点に抑えた。六回1死二塁では球速100キロ以下のスローカーブを3球続け、4番・吉田を右飛に。「思い切り腕を振って、遅く投げる。一番自信のある球です」。しかしその後の2死二、三塁で、伊藤に球速98キロのスライダーを左翼席に運ばれた。「あの1球だけ、すっぽ抜けて……」。2年生右腕は悔し涙に声が途切れた。
夏の高校野球:立正大淞南は九回に勝ち越し東農大二降す
第91回全国高校野球選手権大会第10日の19日は3回戦4試合。第3試合は1点を争う好勝負になったが、立正大淞南(島根)が東農大二(群馬)に競り勝った。立正大淞南は新型インフルエンザ感染者が出て、通常より4人少ない14人のベンチ入りとなったが、逆境に負けぬ奮戦で甲子園を沸かせた。
○立正大淞南(島根)4−2東農大二(群馬)●
立正大淞南の打線が終盤につながった。八回に3四死球で無死満塁とし、崎田の犠飛で同点。九回は2死から林田、小野、後藤の3連続長打で2点を勝ち越した。先発・崎田が要所を締めて勝機を呼んだ。東農大二は加藤が終盤制球を乱し、球を見極められた。
▽立正大淞南・太田充監督 (インフルエンザで)動揺はあったと思うが、明るさと笑顔がチームの持ち味。それに我慢強さが加わり、また強くなった。
▽東農大二・加藤秀隆監督 加藤はずっと粘り強く投げていたので、最後も任せた。スターのいないチームだが、普通の高校生ががんばってくれた。
◇立正大淞南、インフル禍を跳ね返す
試合終了後の整列。勝利した立正大淞南の列が向かい合った東農大二よりずいぶんと短かった。「もう一度全員で試合をしたい」。ベンチ入りできた立正大淞南メンバーのそんな思いは、序盤の力みにつながったが、最後の最後にインフルエンザ禍をはね返した。
3番・遊撃手の代役はサードの林田。一回1死から遊ゴロをはじく。2死二塁で、この夏公式戦初出場の猪股が三ゴロを悪送球。ワンバウンドを甲子園初登場の大蔵がさばけない。これが適時打につながった。
六回表の攻撃に備えるダッグアウト。試合前に「今日を乗り切れば、彼らは戻って来られる」と気合を入れていた太田監督が、選手たちをベンチに座らせ諭した。「おまえたちバラバラだぞ」
「勝ちたい」「打ちたい」「エラーしたくない」。自分のことでいっぱいだったメンバーに、県外から集まり、寮生活を送ることで培った一体感が戻ってきた。孤立気味だった大黒柱の崎田にも野手が声を掛けるようになった。
九回2死走者なし。打席には林田。頭にあったのは「塁に出ることだけ」。来た球を無心でたたくと右中間を抜く三塁打となった。そして、小野が殊勲の勝ち越し二塁打。やはり甲子園を18人で戦いたい。林田は「4人に早く戻ってきてほしい」と笑顔で言った。それまで負けられない。
○…七回までに2けたの安打を打たれても、立正大淞南の崎田は「単打ならいい」と我慢を重ねた。完投した初戦の疲れから球は走らない。それでも制球重視で、2失策と乱れた一回も最少失点にとどめ、その後も「逆転の機会は必ず来る」と雌伏の投球を続けた。2点を追う六回の打席で中前適時打。八回にも同点の右犠飛と、自ら勝利の道筋をつけた。「エースで4番」の活躍だが、慣れない守備位置で支えてくれた仲間をたたえ、「全員野球。だから勝てた」と感謝した。
○…ベスト8が頭にちらついた瞬間、別人の投球になってしまった。1点リードの八回に、3連続四死球から同点とされた東農大二の左腕・加藤。七回までは制球良く打たせて取っていたが、「あと2回と勝ちを意識して、かわす投球になった」と言う。続く九回は2死からの3連打で2点を勝ち越され、「今度は逆にストライクを取りにいき過ぎた」。微妙な心理の変化が、勝敗の行方を決めた。
新型インフル:立正大淞南部員、5人の感染確認 甲子園
第91回全国高校野球選手権の大会本部は19日、5人のインフルエンザA型感染者が出ていた立正大淞南(島根)について、感染者全員が新型インフルエンザであることがわかったと発表した。感染者は登録選手3人と練習補助員2人。ほかに19日朝に発熱のあった1人を含む6人が大会第10日の東農大二(群馬)戦を欠場した。
宿舎がある大阪市のガイドラインに従い、このうち1人の検体について遺伝子検査(PCR検査)を行って判明した。ガイドラインでは検査対象者が新型の場合、同様の感染者はすべて新型とみなすという。この5人以外は18日に行った簡易検査で陰性だった。
第91回全国高校野球:帝京4−3九州国際大付 帝京、誤解から幸運
◇第10日(19日・阪神甲子園球場)
▽第4試合3回戦(午後4時30分開始)
九州国際大付(福岡)
000001200=3
001000021=4
帝京(東東京)
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ともにミスが失点に絡んでもつれたが、帝京の金子が九回1死満塁から右越えにサヨナラ打を放った。七回途中から1年生右腕・伊藤が好救援した投手層の厚さも勝因。九州国際大付も納富が好投したが、八回に悪送球、捕逸の続出で同点とされたのが悔やまれる。
◇帝京・前田三夫監督
金子にはチェンジアップを右方向へ打てと指示していた。相手は力があり、大きなヤマと思っていた。よくひっくり返した。
◇九州国際大付・若生正広監督
守備の乱れが悔やまれる。鍛えてきたつもりだったが。打撃は自信があったが、投手が何人もいるチームはいいね。
◇自信の直球失投
九回1死満塁。右翼手の頭上を越えていく打球を見た九州国際大付のエース納富は、マウンドに崩れ、涙を隠すようにグラブで顔を覆った。「失投だった」。終盤、決め球の一つのチェンジアップが決まらず、苦しい投球が続いた。最後は、「一番、自信があった球」と投げた直球が高く浮いた。昨秋の九州大会で敗れてから、課題のスタミナを鍛えてきた。あと一歩で8強を逃した大会を、「この夏は一生の宝物になる」と何度も声を詰まらせながら振り返った。
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■白球を追って
◇帝京、誤解から幸運−−苦しんでサヨナラ
鮮やかな逆転サヨナラ勝ち。その流れは、帝京の小柄な2番打者の機転から生まれた。
八回、1点差に詰めた後の1死二、三塁。打席の伊藤が2球目にスクイズを空振りした。だが、飛び出した三塁走者の田口が帰塁するところへ、相手捕手からの送球が当たってファウルグラウンドを転々。きびすを返した田口が本塁へ突っ込み、同点に追いついた。
実は田口は、「スクイズの構えからバットを引け」というサインだと解釈していた。「ならば、塁に戻れる範囲で最大限のリードをして、相手へ重圧をかけよう」。できれば捕手に送球させ、肩の強さも知ろうとも計算していた。サインの読み違いが生んだ巧妙な判断。それが思いがけない幸運を呼んだ。
そこまでは帝京は打線が攻めあぐみ、エースの平原も七回に痛打されて、沈んだ空気が漂った。だが同点になりムードは一変。九回表、マウンドの伊藤が先頭打者に二塁打を許しても、野手がけん制で刺した。九回裏のサヨナラ機には、金子がきっちりと直球をバットの芯でとらえた。
試合後に金子が体調不良を訴えて手当てを受けるほど(診断は軽い熱中症)追い込まれた試合。それを見事に乗り切り、1年生の伊藤も「さすが先輩たち。感動した」と笑った。全国制覇を狙うチームにとって、試練も乗り越えれば勢いになる。
夏の高校野球:明豊、常葉橘との延長戦制し8強入り
第91回全国高校野球選手権大会第11日の20日は3回戦の残り4試合。第一試合は延長十二回、明豊(大分)が常葉橘(静岡)を降して8強入りを決めた。
○明豊(大分) 8−6 常葉橘(静岡)●
明豊が終盤に勝負強さをみせた。九回無死三塁、今宮の右前打で同点。延長十二回1死満塁、遊ゴロ併殺崩れで二塁走者も生還し、2点を勝ち越した。十一回から山野が好救援した。常葉橘は庄司が211球を力投したが、打線が五回以降追加点を奪えなかった。
▽明豊・大悟法久志監督 乗っているので野口を先発にしたがよく研究されていた。今宮は少し疲れていたから代えた。山野は練習から良かった。
▽常葉橘・黒沢学監督 中盤から打ちあぐねて、7点目を取る野球ができなかった。庄司を代えるつもりはなかった。うちらしい試合はやれたと思う。
◇勝敗分けた「準備」…明豊・今宮
土壇場でエースの意地と大会屈指の強打者の技が、激しくぶつかり合う。勝敗を分けたのは、明豊の3番・今宮が積み重ねてきた「準備」だった。
明豊が1点を追う九回無死三塁。常葉橘の右腕・庄司は、ダイナミックに140キロ台中盤の速球を投げ込み、今宮をカウント2−1に追い込む。直球勝負しか考えなかった。七回、変化球を左中間にはじき返される二塁打を打たれ、「ああいう悔しい思いはしたくない」と考えたからだ。
が、今宮は速球を打ち返す練習を重点的に行ってきていた。2回戦で、140キロ台後半の直球を誇る西条(愛媛)の右腕・秋山に無安打に抑え込まれた。その悔しさから「大きく振ってしまうと速球に対応できない」と考え、指2本分ほどバットを短く持ち、コンパクトに振り抜くフォームに変えた。誰よりも遅くまで残って打撃練習をし、この日のために仕上げてきた。
6球目。高めに来た146キロの直球を、しっかりと引きつけ、前進守備の一、二塁間を鋭く破る。起死回生の同点打で、その後の延長戦での勝利につなげた。
試合後、今宮は、はつらつとした表情で「直球勝負は楽しかった。今までで一番、はらはらどきどきした」と話した。大舞台で成長してゆく自分が、うれしくて仕方ないように見えた。
○…勝利の瞬間にマウンドにいたのは、明豊の2年生右腕・山野。1点も譲れない延長十一回から救援。「緊迫した試合の方が好き。絶対に負けない」と140キロ台の直球やフォークを低めへ投げ込み、2回を1安打、3奪三振の好投を見せた。野口、今宮の2本柱の控えだけに出番は少ないが、今春のセンバツでも敗れた花巻東戦で4回を経験。「春と違って落ち着いて投げられた。もっと投げて一日でも長く夏を楽しみたい」と、次の出番も心待ちにしている。
○…常葉橘の主将・小泉は涙を流しながらも「3年間やってきて、一番楽しい試合だった」と話した。制球に苦しみ、何度もピンチを招いた庄司の元に駆け寄って「守ってやるから打たせていい」と声をかけ続けた。三回に同点の二塁打を放つなど3安打し、「自分らしいフルスイングはできた」と言う。しかし、リードを許した延長十二回の打席は空振り三振。「庄司のために何かしてやりたかった」と悔やんだ。
夏の高校野球:中京大中京、中盤から猛打爆発で8強入り
第91回全国高校野球選手権大会第11日の20日は3回戦の残り4試合。第二試合は中京大中京(愛知)が、中盤から猛打が爆発し、長野日大(長野)を突き放し、8強入りを決めた。
○中京大中京(愛知)15−5 長野日大(長野)●
中京大中京が好機に甘い球を逃さず、たたみかけた。一回に3連打などで5点。同点とされた後の六回はスクイズで勝ち越し、河合、堂林、磯村の3連続適時打で加点した。救援の森本も好投で流れを変えた。長野日大は先発・加藤が打線の援護に応えられなかった。
▽中京大中京・大藤敏行監督 先制したが、抑えられている間に追いつかれ苦しい展開だった。それでも六回以降はうち本来の野球ができたと思う。
▽長野日大・中原英孝監督 加藤の立ち上がりは3試合で一番だったのに、(守備が)ドタバタした。打力は見せたが、加藤と他の投手に差があり過ぎた。
◇森本隼平(じゅんぺい)投手=中京大中京・2年
◆甲子園で自己最高145キロ 成長著しく
大会注目右腕の堂林がKO降板する緊急事態。だが、エースに「ごめん」と声を掛けられた2番手投手は堂々の投球だった。
4点を勝ち越した後の七回。140キロ台の速球をビシビシ決め、精度の高いチェンジアップを勝負球に、長野日大の2番からを3者連続三振に仕留めた。5点差を追いつかれて漂っていた暗雲を完全に振り払った。
関西学院との2回戦に先発したが、五回途中3失点で堂林の救援を仰いだ。「どんな場面でもいつでもいけるように」との反省を生かした早めの準備が奏功した。リラックスした投球で3回3分の2を無得点に抑えた。
「力で押せる」と堂林も一目置く。甲子園球児だった父親の影響で、球の回転にこだわる投球フォームは小学4年の時、野球教室で、メジャーリーガーの長谷川滋利さん(当時マリナーズ)にほめられ自信になった。
甲子園で自己最速145キロの表示が出るなど成長著しく、信頼感も急上昇。堂林との「二枚看板」になりつつある。
○…連打が目立った中京大中京だが、六回の勝ち越し点は国友のスクイズで挙げた。今大会はそれまで12打席連続無安打で焦りもあった。だが1死一、三塁の場面でスクイズのサインが出ると「2番打者の役割を果たそう」と、しっかり一塁方向へ転がした。中京打線は二回から五回まで淡泊だったが、国友のつなぐ仕事が一気にムードを高め、続く中軸の3連続適時打を呼んだ。国友自身も「吹っ切れました」と続く2打席で安打。すっかり調子を取り戻した。
○…長野日大・加藤のほおに涙が伝った。一回、守備の乱れをきっかけに集中打を浴びて5失点。二回以後は立ち直り、打線の奮起で一度は試合を振り出しに戻したが、六回に勝ち越しスクイズを決められると、再び集中打を浴びた。今大会の3試合、18回3分の2を投げて18四死球と制球に課題を残した。「心の弱さが出た。秋、春へ向けて何かを感じてほしい」と指摘する中原監督の隣で、2年生エースは「しっかりコースに投げた時は抑えられた。コントロールをつけて、大舞台でチームを引っ張れる投手になりたい」。
夏の高校野球:花巻東・菊池 東北に完投勝利
第91回全国高校野球選手権大会第11日の20日は3回戦の残り4試合。第3試合は花巻東(岩手)の菊池が、東北(宮城)打線を1失点に抑えて完投勝利。8強入りを決めた。岩手県勢のベスト8は盛岡一以来41年ぶり。大会第12日の第1試合で明豊(大分)と対戦する。
○花巻東(岩手)4−1 東北(宮城)●
効果的に小技を使った花巻東が逃げ切った。三回は犠打で二塁に走者を送り、山田の左前打で先制。四、五回は盗塁を絡めて好機を生かした。東北は走者が出ても菊池雄に後続を断たれ、六回に伊藤航、桐生のこの試合唯一の連打で1点を返すのみに終わった。
▽花巻東・佐々木洋監督 東北はこれまで目標にしてきたチーム。東北大会で勝てず、練習試合でもこてんぱんにやられた。甲子園で勝ててうれしい。
▽東北・我妻敏監督 守りのミスで先制点を与えたのが敗因。(不祥事で対外試合禁止6カ月という)長いトンネルを越えてよくここまで来た。
◇エース支える野手たち カバーリングの速さ特筆もの
花巻東の攻守にわたるすきの無さは、群れで獲物を追い詰める獣のようなすごみさえ帯びてきた。
攻撃は佐藤涼の「嫌らしさ」が際立つ。東北のエース佐藤が気分良く先頭の柏葉を抑えた直後。「肩を開かないこと」と語る得意のファウル打ちを披露した。三振に倒れたものの、計10球を投げさせてリズムを狂わせた。
1打席で投手に費やさせた最高記録は「15球」という。「アウトになっても相手に傷跡を残す」が身上の2番打者は、死球で出た四回は足でかき回す。1死二塁から4番・猿川が三振を喫する間に三盗。「打者に集中して二塁を見ていない」との判断は、次打者の内野安打での貴重な追加点へと結び付いた。
マウンドの菊池雄に目を奪われがちな守りでも、野手のカバーリングの速さは特筆ものだ。四回に東北が無死一塁からバントで送った場面。右翼が一塁のカバーに走るのは当然だが、左翼までもが確実に三塁のバックアップに入っている。
悪送球などで走者が次塁を狙う「万が一の事態」を想定したものだ。左翼の佐々木大は「余計な進塁を許さないために徹底して練習している」と言う。3日の甲子園練習でも、野手がわざと送球をそらし、動きを確認するのを怠らなかった。
菊池雄が高校屈指の左腕であることに異論はないが、エースを支える脇役たちも心憎い。
○…1回戦から連続完投の菊池雄は「3試合の中で一番良かった」と喜んだ。上げた右足をしっかりためてから投げることを意識し、軸足が早く曲がっていたのを修正。疲労で背中に張りがありながら、「その方が丁寧に投げられるし、力も抜ける」と意に介さなかった。
五回と九回には154キロの球速も表示。甲子園球場内の表示では07年に佐藤由規(宮城・仙台育英、現ヤクルト)が出した155キロに次ぐ数字だが、「内野ゴロを打たせようと力を入れた結果。130キロでも勝てばいい」と淡々。2日連投が予想される準々決勝に向けても「挑戦者の気持ちで辛抱強く投げたい」と、気持ちを引き締めた。
○…東北のエース佐藤の表情は、試合後も穏やかだった。打たれた8安打のうち、3本が内野安打で長打はなく、「低めを突けた」。悔やんだのは、サインプレーのミスだ。三回1死二塁、捕手・薗部の「二塁に送球するからボールに外せ」という要求を見落とし、ぽっかりと開いた三遊間に先制適時打を打たれた。「自分たちがやりたかったミスを突く野球を相手にやられた」。
花巻東の菊池雄は中学3年の時、東北選抜チームで一緒に練習した仲。「上を目指して頑張れ」とエールを送った。
夏の高校野球:智弁和歌山敗れ、高嶋監督新記録ならず
第91回全国高校野球選手権大会第11日の20日は3回戦の残り4試合。第4試合は都城商(宮崎)の新西が、強打の智弁和歌山(和歌山)相手に5安打完投勝ち。智弁和歌山の高嶋仁監督は、甲子園通算勝利新記録はならなかった。
○都城商(宮崎)4−1 智弁和歌山(和歌山)●
都城商・新西が力のある球を内外角に投げ分け5安打、10奪三振で完投。打線も球を見極めて力強くとらえ、一回に松原、冨永の連続適時打で3点。四回は藤本の適時打で加点した。智弁和歌山は打線が三振と飛球を重ね、後半調子を上げた岡田を援護できなかった。
▽都城商・河野真一監督 出来過ぎ。12残塁は課題だが、強豪に勝ったから120点。自分のグラウンドのように、甲子園で伸び伸びプレーできている。
▽智弁和歌山・高嶋仁監督 (相手は)安打数のわりに点が入っていなかったので、チャンスはあると思っていた。負ける時は、こんなものでしょう。
◇自信持って投げ続けたストレート…新西
「悔いを残したくない」。都城商の新西が、最後の山場で選んだのは、最も自信を持っていた速球だった。
智弁和歌山打線に初めて連打を浴びて招いた八回1死一、二塁のピンチ。相手はそれまでの打席で「一番打球が速くて、怖いバッター」と思っていた3番・西川だ。2ストライクと追い込んでからの選択肢は、速球しか思いつかなかった。3球勝負で外角高めへ135キロ。序盤に記録した140キロ台には届かなかったが、切れ、伸びともに衰えておらず、西川のバットは空を切った。続く山本も速球で押し続けて右飛。新西から自然と笑みがこぼれた。
序盤からストレートが走り、捕手の米良が「今日の球なら打たれても外野フライですむ」と感じていたほど力があった。五回には北畠、三宅、喜多から3者連続三振。「勝てるかもしれない」。新西は自信を持ってストレートを投げ続けた。
1回戦は藤本との継投だったが、2回戦で3失点完投。今度は強豪相手に自責点ゼロで完投勝利。「自分の投球は甲子園で通用することが分かった」と確信は深まる。28年前に初出場した先輩に並ぶ8強。「ここまで来たらもっと行きます」。伸びやかな速球と同様に、勢いのある言い方だった。【鈴木英世】
○…一回の波状攻撃を生んだのは、つなぐ意識の徹底だった。連続適時打で3点を挙げた都城商の松原と冨永は、口をそろえて「何とかつなごうと、転がすことだけ考えた」と打席での心境を語った。よく聞く言葉ではあるが、都城商は徹底している。この試合で、犠打失敗の小飛球とライナー性の打球を除けば、フライでのアウトはわずか1。「ゴロならエラーしてくれるかもしれない。練習の時から意識して全員が転がしている」と主将の冨永。3試合連続の2けた安打は決して偶然ではない。
○…「二つ勝てたんだから、いいプレゼントをもらった」と、智弁和歌山の高嶋監督。歴代単独1位となる春夏通算59勝目は来春以降に持ち越しとなったが、淡々と敗戦を振り返った。「この試合だけは落とせない」と臨んだ左腕・岡田は12三振を奪いながらも一回に3失点。高嶋監督は「立ち上がりがすべてだった」と言う。ただ、エースの交代は全く頭になかった。「このチームは岡田(を軸)でやってきた。交代は彼のプライドを傷つける」。納得しての甲子園通算25敗目だった。
*** 以上、記事より ***
8強が出揃ったので、改めて8強予想との差を確認。PL、明桜、青森山田、帝京、興南、中京大中京、日大三、智和……ええと、そのうち帝京、中京大中京が8強。正解率25%って。orz 青森山田、明桜、興南は初戦(2回戦含む)敗退。日大三は2回戦敗退。PL、智和は3回戦敗退。ついでに8強のうち3チームが中部地方。東北1、関東1、中国1、九州2。16強で見てみると、東北2、関東2、中部6、近畿2、中国1、九州3。中部強すぎ。
以下、雑談。
何年ぶりかで熱闘甲子園を見たら、常葉橘の庄司君が、明豊の今宮君にバッティンググローブ? を渡していたようで。「次の試合で使います」とか言っていましたよ今宮君。
あと、今年も智和バッテリーはらぶっていました。(……)
一旦投手に返したボールがイマイチだったらしく、捕手の子が新しいボールを主審に貰って、息を吹きかけて(湿り気を与える為か汚れを吹き散らしたのかはよくわからなかったけど)何度も何度も握り直して、それから投手に投げたんですよ。投手の子も何かもう、信頼してますーみたいな顔向けていて、今年もらぶっ子か! とか……あと、暴投をプロテクターつけていたとはいえ、お腹で受け止めてしっかり送球してから倒れた捕手に、大丈夫か、って感じで歩み寄って心配そうにしている投手が……可愛すぎました。はい、すみませんフィルターかかりすぎかも知れません。岡田君(智和エース)可愛いなぁ。負けちゃったけど。
※野球ユニフォームフィルターが強力すぎる為、帽子を脱いでユニフォームではなく普段着になったら「誰これ?」だと思います……いつもそんな感じ。←オイ
2009.08/19 [Wed]
09夏・序盤戦
第91回全国高校野球:明豊4−3興南 明豊、サヨナラ呼ぶ機転
◇第1日(8日・阪神甲子園球場)
▽第2試合1回戦(午後0時50分開始)
興南(沖縄)
010110000=3
000002011=4
明豊(大分)
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明豊がサヨナラ勝ち。八回、今宮、阿部の連続長短打で追いつき、九回は四球と連続送りバント失敗で2死一塁。二盗した稲垣を、野口が左越え適時打で還した。興南は前半3点リードしたが、六回から登板した野口のテンポのいい緩急に、1安打に抑えられた。
◇明豊・大悟法久志監督
野口が追加点を与えず、勝つ可能性をつないでくれた。
◇興南・我喜屋優監督
理想的な展開だったが、ミスで流れを持っていかれた。
◇今宮、巧打で雪辱
明豊の投打の要が不振の投球を巧打で晴らした。先発・今宮は五回までに3失点。四回には本塁打も浴び、「自分で取り返すしかないと思った」。マウンドを左腕・野口に譲り、迎えた六回1死一、三塁の打席。外角球に食らいつき右前へ、八回は泳がされながらも左翼線を破った。春の九州大会では興南に敗れただけに「負けたくない気持ちが勝った」と雪辱に満足そうだった。
◇悔し涙の1号
興南の5番・真栄平(まえひら)が四回、大会1号ソロ本塁打。「速球を狙っていた」ところに抜いた球が低めに来たが、うまくすくいあげた。一時は3点をリードしたが、試合はサヨナラ負け。2年生の真栄平は「もっと3年生と一緒に野球をしたかった」と涙が止まらなかった。
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■この一瞬
◇わざと空振り、好機拡大
瞬時の空振りが劇的なサヨナラ勝ちを呼び込んだ。好救援の末に自らのバットで試合を決着させた明豊の野口。その1球前が大きなポイントだった。
先頭打者が四球で出塁しながら、2者連続でバントを二封される。ここで野口が打席に入り、3球目に一塁走者の稲垣が走った。サインはランエンドヒット。しかし、野口は「『ストライクは打て』だったけれど、稲垣のスタートが良かったのが見えた。わざと空振りした」と言う。
稲垣は二塁を奪い、カウント1−2。野口の読みは、さらにさえる。「高い確率で外角直球が来る」。思い切って踏み込むと、137球目に達した島袋の直球は真ん中高めに。指2本分短く持って振り抜いた打球は、左翼手の頭上を越えていった。
守りのリズムを変えたのも野口だった。先発・今宮の制球が乱れたうえ、失策、野選も絡んで五回までに3点のリードを許した。六回から登板した野口は「とにかく低めに投げよう」と徹底。4回を1安打に抑え、興南の勢いを止めた。
「先発で投げたい」と大悟法監督に訴えていたが、前夜に「リリーフで」と伝えられた。気持ちを切り替えて臨んだ一戦。エースナンバーにふさわしい働きだった。
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■夏・輝く
◇島袋、狙われた137球目
◇興南また初戦敗退 「来春、借り返す」−−島袋洋奨(ようすけ)投手(興南・2年)
同点の九回2死二塁。延長十回で競り負けたセンバツ1回戦を思い出し、気合を入れ直した。「今度は勝てるゲームを落とさない」
しかし、137球目。外角低めを狙った直球は高く浮き、打球は左翼・我如古(がねこ)の頭上を越えた。サヨナラ負けが決まると、うなだれたまま、名残惜しそうにゆっくりとマウンドを降りた。
19奪三振の末に敗れたセンバツを反省し、球数を増やさないため、打たせて取ることを心がけた。序盤は走者を許しても緩急を自在に使い、2併殺。一方で「打たれて勢いに乗せたくなかった」という明豊の今宮には一回、自己最速の145キロの直球を外角低めいっぱいに決めるなど2打席連続三振を奪い、要所を締めた。
しかし、真夏の日差しに体力を奪い取られていた。「湿気が多く、疲れで思うように腕が振れなくなった」。六回、警戒していた今宮に右前適時打を許すと、制球がばらつき、力尽きた。
春の雪辱はならなかったが、「来年のセンバツで借りを返したい」。涙は見せず、三度目の正直を固く誓った。
第91回全国高校野球:西条3−2八千代東 西条、後逸呼ぶ突入指示
◇第1日(8日・阪神甲子園球場)
▽第3試合1回戦(午後3時29分開始)
八千代東(千葉)
001000100=2
00200001×=3
西条(愛媛)
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西条が同点の八回2死一、二塁から日野の左前適時打で決勝点。三回に3安打で2点を挙げて主導権を握り、秋山が散発3安打、無四球で完投した。八千代東は七回に上條の右犠飛で追いつき、村上が緩急をつけ好投したが、八回の勝負どころを守り切れなかった。
◇西条・田辺行雄監督
守備の乱れ(2失策)やけん制死などミスもあったが修正できる範囲。初戦に満点は期待していないし、勝てば良し。ホッとしている。
◇八千代東・片岡祐司監督
思った通りの展開には持っていけた。できれば、逆に3−2で勝ちたかったけど、選手はよくがんばってくれた。
◇完投☆でも反省
西条のエース秋山が粘りの投球で無四球、被安打3の完投勝ち。ピンチでもひるむことなく140キロ台の直球で押し、内野ゴロの山を築いた。センバツは1回戦で1失点完投しながら敗れただけに、「甲子園での1勝は本当にうれしい」と満面の笑み。しかし、自分の内容に話が及ぶと打って変わって「制球も悪かったし、(4番だが)無安打だった」と反省しきり。秋山は「59年の夏以来、半世紀ぶりの全国制覇をする」と目標を口にし、投打の柱としてさらなる活躍を誓っていた。
◇敗戦でも満喫
八千代東の先発・村上の目に涙はなかった。先制した直後の三回、2死二塁から連続二塁打を浴びて逆転を許した。いずれも直球を狙われた。「思ったより球速が出て、自分に酔ってしまった」。四回以降はカーブ主体に切り替え、西条打線を2安打に抑えただけに「カーブを使うのが遅かった」と悔やんだ。だが、敗戦よりも「ここに来られるとは思っていなかったし、この炎天下で野球できたことがうれしかった」。初めての甲子園を満喫し、笑みがこぼれた。
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■この一瞬
◇「一本出たら腕回す」
ためらう一瞬さえ惜しんだ。八回2死一、二塁、西条の日野がファーストストライクの速球を左前にはじき返すや、三塁コーチスボックスの三浦は腕を大きく振り回した。
「翼、回れ」。日野が心で呼び掛けた二塁走者の徳永は、俊足というわけではない。打球はバックホームに備えた八千代東・高橋の正面に落ちた。生還を果たすには、際どい状況だった。
無謀にも見えた本塁突入の指示が、次の場面を導いたのかもしれない。「ホームで刺せる」という高橋の確信が、わずかな焦りを呼んだ。捕らえかけた打球をはじいて後逸。徳永は難なく、決勝のホームを踏んだ(日野には打点)。
丁寧に緩急をつける村上に、西条打線は七回までわずか3安打。八回に徳永が二塁に進んだ時、三浦は「一本出たら(腕を)回す」と思い極めたという。一方では、村上の二塁けん制が少ないと冷静に判断。ベンチに「リードを大きめに取れる」と伝えていた。さらには徳永に、「ヒットなら本塁突入」と念押しした。
PL学園に0−1で敗れたセンバツでも、三浦はコーチスボックスに立ち、1点を取る難しさを痛感した。その経験を生かした万端の準備と果敢な判断が、勝敗を分けた。
如水館−高知は2日連続で降雨ノーゲームに
第91回全国高校野球選手権大会・2日目(10日、甲子園)第1試合は夏6回目の出場となる広島・如水館と3年連続13回目の高知が対戦。昨日、三回終了時点で降雨ノーゲームとなった2日の第1試合は10日、予定通り試合が始まったが、五回途中で降雨のため中断し、結局そのまま2日連続のノーゲームとなった。
如水館・迫田監督
「2日連続というのは経験がない。序盤、0−3で負けてたときは嫌だったが、何とか勝ち越したので(試合が成立する)七回までやりたかった」
高知・島田監督
「勝ってもいないのに3試合をやらせてもらえると思うしかない。雨、照明といろいろな甲子園を経験させてもらっていると選手には話したい」
高知は二回表、先頭の4番木下が右中間へソロ本塁打。この回はさらに2点を追加し3点のリードを奪った。前日は如水館が2−0と先手を取ったが、まったく逆の形となった。
3点を追う展開となった如水館は三回裏、絹川が左前打で出塁。その後、バント失敗などで二死となったが、四球、暴投などで二死二、三塁のチャンスを作ると、3番有山が三塁打を放ち2人の走者が生還。2点を返し1点差とした。
如水館は続く四回裏、二死走者なしから7番金尾、8番絹川が連打。9番森兼が左翼線に二塁打を放ち同点。さらに、山田が四球で二死満塁とし、2番白岩が右中間を破る走者一掃の3点三塁打。この回、二死から集中打をみせ、一挙4点を奪い試合をひっくり返した。
逆転された高知は五回表、四球の池知を一塁に置いて3番西岡がレフトスタンドへ飛び込む大会第3号となる2点本塁打。1点差としたが、雨がひどくなり、五回表一死一塁の場面で中断となった。
試合は約30分後、結局そのまま2日連続のノーゲームとなり、11日に順延となった。11日は第1試合が常葉橘(静岡)−旭川大高(北北海道)、第2試合が長野日大(長野)−作新学院(栃木)、第3試合が天理(奈良)−南砺総合高福野(富山)となり、如水館−高知は第4試合に組まれることとなった。
如水館は前日は2−0、この日は6−5と2日連続でリードしていたが、雨には勝てず、またノーゲームとなってしまった。
如水館まさかの大敗“3連戦”最後で負けた…夏の甲子園第2日
◆第91回全国高校野球選手権大会第2日 ▽1回戦 如水館3─9高知 (11日、甲子園球場)
史上初めて2試合連続で降雨ノーゲームとなった如水館(広島)・高知(高知)戦は高知が制した。9、10日の2試合ともリードしていた如水館は、先発右腕・幸野宜途(よしと、3年)が3連投の疲労が影響したのか、2回4安打3失点でKO。対照的に、ぬかるんだマウンドが苦手な高知の左腕・公文克彦(3年)は160球で完投。天候に振り回された“3連戦”は、何とも皮肉な結末となった。
野球の神様は、どこまで無情なのか。2日連続降雨ノーゲームで迎えた3度目の“1回戦”。2戦をいずれもリードして終えていた如水館が、まさかの大敗だ。「終わった実感があまりないです」。エース・幸野が大粒の涙をこぼせば、金尾元樹は「もう一度試合がやりたいぐらい」と肩を落とした。
気まぐれな空模様に泣かされ続けた。9日は2―0、10日は6―5。だが、晴天となったこの日は、第1試合から第4試合に変更されたことで、球場の気温も上昇。幸野は暑さに体力を奪われた。2回で4安打を浴びて3失点。いったんマウンドを降りるしかなかった。「(幸野は)3連投で気温も高くなっていて、しんどかったんだと思う。1日目の勝っていた試合をやってほしかったです」と、捕手の宮本浩平は唇をかんだ。
名将も天候だけはどうしようもなかった。のべ5人を投入した継投策も実らなかった迫田穆成(よしあき)監督(70)は「敗因はすべて私。選手はよくやってくれました」と責任を背負い込んだ。緊張状態のまま過ごした3日間。この日、無安打に終わった白岩稔真は「(精神的な)疲れは感じてなかったけど、どこかにあったのかも」とポツリ。さらに2戦とも有利な展開で終えたことで「少し気の緩みがあったのかもしれません」と有山卓主将は声を震わせた。
ただ、甲子園の歴史に刻まれた死闘に後悔は残していない。「満足できる結果ではなかったけど、3回もマウンドに立たせてもらってうれしかった」と涙をぬぐった幸野。マスクをかぶり続けた宮本も「3度も戦った高知には優勝してほしい」と、気力をぶつけ合った宿敵にエールを送った。前代未聞の珍事の末、無念の初戦敗退。それでも如水館ナインは、勝者より誇らしげに胸を張った。
第91回全国高校野球:花巻東、初戦を突破 八回、一挙4点の逆転劇 /岩手
夏の甲子園大会第3日の12日、花巻東は第4試合で長崎日大(長崎)を相手に8−5の接戦を制した。雨天で2日順延された初戦は、七回に同点に追いつき、再び勝ち越されながらも八回に一挙4点を挙げての逆転劇。夏の甲子園では45年ぶり2度目の初戦突破を果たした。試合後、選手たちがアルプス前で一礼すると、割れんばかりの拍手が送られた。花巻東は大会第8日の第4試合で横浜隼人(神奈川)との2回戦に臨む。
▽1回戦
長崎日大 010002110=5
花巻東 00000224×=8
暑さが峠を越した午後4時の阪神甲子園球場。一塁側アルプスは、応援団約550人の熱気に包まれた。
中盤まで先行を許した花巻東ナイン。3点を追う六回裏、先頭の柏葉康貴選手(3年)が四球を選ぶと、佐藤涼平選手(同)が内野安打で続く。犠打で送り、1死二、三塁の好機に打者は4番・猿川拓朗選手(同)。スタンドで見守る父毅さん(49)は「4番らしい仕事をしてくれるはず」。内野ゴロの間に1点を返すと、「まずは1点」とホッとした表情を見せた。
さらに横倉怜武選手(3年)が右中間に適時二塁打を放ち1点差。二塁上で両手をたたき喜ぶ息子に、母の和江さん(55)は「よくやった。よくやった。今日までよく頑張った」と声援を送った。
1点を追加され2−4となった直後の七回裏、再び打線が盛り返す。2連打と犠打で1死二、三塁と攻め、岩手大会で打率5割の柏葉選手が打席に。祈るように両手を合わせた母の妙子さん(45)は、1点差に迫る中前適時打に「よかった」と一言。なおも1死一、三塁で、一塁走者がスタートをきると、相手捕手が二塁に送球。そのすきに三塁走者の菊池雄星投手(3年)が本塁に滑り込み、同点に追いついた。
その直後の八回表、チームメートが守備についても菊池投手がマウンドに姿を現さない。ハンカチを口に当て心配そうにうつむく母の加寿子さん(49)。父雄治さん(49)は「大丈夫」とつぶやいた。しかし、間もなく姿を見せると、球場全体から大きな拍手がわき起こった。
そして、1点を勝ち越された直後の八回裏、無死満塁の好機にこの日2安打の佐々木大樹選手(2年)が初球を強打。フェンスを直撃する走者一掃の中越え二塁打が飛び出し、ついに逆転。スタンドの熱気は最高潮に達し、父健一さん(48)は立ち上がり「うおー」と叫んだ。
3点リードで迎えた九回、菊池投手が最後の打者を三振に切って試合終了。スタンドは「よく頑張った」の大歓声に包まれた。
◇苦しいゲーム−−佐々木洋・花巻東監督
苦しいゲームだったが、(菊池)雄星は点を取られながらもしぶとく投げてくれた。野手陣もエラーもなく頑張った。皆成長した。終盤は「逆転の花巻」と言われる、うちの野球をしてくれた。
◇アルプス席は紫色
○…花巻東の生徒約350人は前日夕、バス10台で同校を出発。一塁アルプス席をスクールカラーの紫で染めた。この大会で応援するため、ポロシャツを白から紫に新調し、帽子も同じ色に。伊藤新也硬式野球部副部長は「甲子園は苦しい場面も出てくる。選手とスタンドの一体感を出したかった」と話す。スタンドもあきらめずに声援を送り続け、八回に逆転。1年生の浪岡小薫さんは「春の忘れ物を取りに行ってほしい」と期待を寄せた。
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■熱球軌
◇「挑戦者の気持ち忘れず」−−花巻東・川村悠真主将(3年)
九回2死1塁、菊池投手が最後の打者を三振に切ると、遊撃の川村悠真主将(3年)は握りしめた拳を胸の前に突き出した。
今春のセンバツで準優勝した後、選手の間に「自分たちは強いという慢心」や「圧勝しなければという重圧」が芽生えた。練習試合で気の抜けたプレーやミスが続出、格下にも負けや辛勝が続いた。
「センバツ後の3カ月間は悩み続けた。もう甲子園に行けないのではないかと思った」と川村主将は振り返る。7月の岩手大会決勝戦。春夏連続の甲子園出場を決めると、人目をはばからず泣いた。
重圧を乗り越えて迎えた夏の甲子園初戦。試合直前のミーティングで「相手は(センバツ優勝校の)清峰を破ったチーム。自分たちよりも強い。挑戦者の気持ちを忘れずに戦おう」と鼓舞した。
終盤でようやく逆転する厳しい試合展開に見えたが、「先行されても逆境を楽しむ余裕があった」という。その目からは、センバツ以降の苦悩は消えていた。
第91回全国高校野球:日大三2−0徳島北 足攻 日大三、無安打の1点
◇第4日(13日・阪神甲子園球場)
▽第2試合1回戦(午前11時5分開始)
徳島北(徳島)
000000000=0
00011000×=2
日大三(西東京)
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日大三が少ない好機を確実に得点に結び付けた。四回に敵失から無死二塁とするとバントで送り、日下の二ゴロの間に先制。五回は下位がつなぎ、籾山の適時打で1点を追加した。徳島北の左腕・阪本は落差のあるカーブを軸に好投したが、打線が零封された。
◇日大三・小倉全由監督
2ストライクになる前にもっと振るよう言ったが、阪本君がいいコースへ投げてきた。関谷は低めに集めてよく投げた。
◇徳島北・島一輝監督
阪本は素晴らしい立ち上がりだった。采配(さいはい)ミスで点を取れなかったのが悔しい。生徒は、できることをやってくれた。
◇スクイズ阻止
徳島北打線を完封した日大三の先発・関谷にとって、最大のピンチは四回1死三塁の場面。3球目のモーションに入ると、関谷は「打者がスクイズの構えに入るのが分かった」。慌てずにウエストし、三塁走者を挟殺でアウトにして切り抜けた。「とっさの判断がうまくいった」と関谷。その後はスライダーを主体に低めを突き、反撃機を与えなかった。だが、「まだ喜ぶ所ではない」とも。その目は、第83回大会以来、8年ぶりの全国制覇を見据えているようだ。
◇野球楽しむ
両チーム無得点の四回、徳島北の堀井が三塁まで進むと、ベンチから出たサインはスクイズ。打者・阪本は空振りし、挟まれてアウトになった。しかし、堀井は「すぐ点を取ってやる」とスクイズを失敗したエースの阪本を励ましたという。六回の次打席では右翼線二塁打を放って好機を作ったものの、得点には結びつかず零封負け。それでも、「楽しく野球をさせてもらった」と悔いはないようだった。
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■この一瞬
◇リードで投手に圧力
内外自在に投げ分けた徳島北の左腕エース阪本を打ちあぐねた日大三打線。勝利につながる一瞬のほころびを作ったのは、練習試合から徹底してきたある習慣だった。
四回、先頭の内山が敵失でチーム初出塁。ここで「普段通り」の行動に出る。「最初に塁に出た走者は、相手投手がどんなけん制球をするのかを仲間に見せなければいけないんです」。これまでの試合でも、最初の走者は塁に戻ることだけを考えながら大きめにリードを取り、けん制球を誘ってきた。内山もいつもより一歩分、余分に一塁から離れた。
この行動が阪本の心に小さな波を生む。三回まで走者を許さない完ぺきな投球だったが、この場面は「リードを狭くさせようと思って、球を置きにいってしまった」。けん制球は悪送球となり、内山が二進した。
続く角の犠打で1死三塁。「外野フライでも良かったから、楽な気持ちで打席に立った」という日下は、引っかけながらも二塁手の失策を誘い、無安打で先制の1点。これが決勝点となった。試合後、日下はつぶやいた。「悪送球をきっかけに内山が三塁に行ったのが大きかった」
「打てなくても、何とか崩したかった」と内山。わずか3安打での勝利。西東京大会で4割8分台のチーム打率を残した打撃力を発揮できない中、「足」で底力を見せつけた。
第91回全国高校野球:三重5−4熊本工 執念 三重、再三窮地しのぐ
◇第4日(13日・阪神甲子園球場)
▽第4試合1回戦(午後3時51分開始)
熊本工(熊本)
2001000010=4
3000000011=5
三重(三重)
(延長十回)
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三重は1点を追う九回、2死一塁から橋本の右中間を破る適時二塁打で追いつくと、延長十回、松田の左前打と送りバントで1死二塁とし、土井の左前適時打でサヨナラ勝ちした。熊本工は十回、2死三塁の好機をつかんだが、三重の遊撃・土井の好守に阻まれた。
◇三重・沖田展男監督
選手がそれぞれの役割を果たしてくれて、普段以上の力が出せた。三重県勢は10年連続初戦敗退だったので、勝ててうれしい。
◇熊本工・林幸義監督
序盤に野手が足を引っ張ったのに、月田はよく投げた。結果は仕方ない。選手が甲子園に連れて来てくれたことがうれしい。
◇「絶対に抑える」
同点に追いつかれた四回2死から登板し、粘り強い投球を見せた三重の牧田。九回に1点を失い、リードを許したが、周りは「絶対に点を取ってやる」と奮起。その言葉通りになり、「絶対にこれから抑えようと思った」。十回を無失点で切り抜けると、直後にサヨナラ。牧田はベンチの後ろで水分を取っていて見ておらず、「次は勝つ瞬間を見たい」と笑いながら悔やんでいた。
◇あと1死「限界」
九回、勝利まであと1死としながら、熊本工の2年生左腕、月田が力尽きた。2死一塁、橋本への3球目。外角狙いの速球が真ん中に入り、右中間に運ばれ追いつかれた。一回に2失策絡みで3点を失ったが、「皆、緊張しているのだから仕方ない」と気持ちを切り替え、八回まできっちり抑えてきた。九回の攻撃で勝ち越しの生還を果たしたその裏、「軸足に疲れが出てしまった」という。同点とされた直後、ベンチに「限界」と伝えて降板した。「体力不足で……。申し訳ない」と、これが最後となる3年生たちにわびた。
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■白球を追って
◇美技、延長サヨナラ打
小柄な土井が力いっぱい振り抜いた打球が、ナイター照明で光る左翼の芝に跳ねた。緊迫した接戦に決着をつけるサヨナラ打。駆け寄った三重の選手たちが土井の頭をポコポコたたき、手荒く勝利を祝った。
打席に入った時、土井の気持ちは高ぶっていた。直前の十回表の守り、2死三塁のピンチで、遊撃手の土井は熊本工・栗崎の痛烈な打球をダイビングキャッチ。一回に失点につながる失策を犯し、打撃でもそれまで4打席凡退していたが、その借りを返す好捕で重圧も取れた。「次の打席は思い切り振ってやる」。その意気込みが、腰をうまく回転させた好打を生んだ。
三重は九回にも窮地を脱していた。表に1死二、三塁から熊本工・後藤に右翼フェンス際へ大きな飛球を打たれたが、松田が懸命に追いついて犠飛にとどめ、最少失点でしのいだ。裏の攻撃では、主将の中村から「フルスイングしろよ」と送り出された橋本が、2死から延長戦へ持ち込む右中間適時二塁打。守備からリズムを作り、沖田監督が「いい球は(打ちに)行け。見ていても仕方ない」と指示した通りの攻撃を、土壇場で見事に体現した。
三重は前回出場の3年前、1回戦で熊本工に4−6で屈した。その時に出場したOBも宿舎を訪れて、甲子園での風向きや打球の見え方などを助言してくれたという。雪辱の思いにも後押しされ、三重県勢の長かったトンネルを晴れ晴れと抜けた。
第91回全国高校野球:智弁和歌山、初戦突破 エース快投、投手戦制す /和歌山
夏の甲子園第5日の14日、智弁和歌山は第1試合で滋賀代表・滋賀学園と対戦した。エース岡田俊哉投手(3年)が13奪三振、散発2安打に相手打線を抑えて完封、初出場の滋賀学園を2−0で降した。一塁側アルプススタンドに詰めかけた大応援団からは、初戦突破を祝う大きな拍手がわき起こった。2回戦は大会第9日の第3試合で南北海道代表の札幌第一と対戦する。
▽1回戦
智弁和歌山
001001000=2
000000000=0
滋賀学園
◇応援席も歓喜
ロースコアの投手戦だった。
智弁和歌山はまず三回に先制点を挙げた。1死で打席に入った大畑勇選手(3年)は、父充也さん(60)が「出塁してくれるか緊張する」と見守るなか、左前打で出塁。大声援に応えるように、盗塁を決めて二塁へ進んだ。次の岩佐戸龍選手(2年)も左越え二塁打を放ち、まず1点。息子の適時打に父隆寿さん(46)は「先制出来て良かった」と満面の笑顔。岩佐戸選手と吉元裕選手(2年)が在籍していた少年野球チームの直圭一郎君(12)らは「すごかった」と先輩の活躍に感激していた。
2点目は六回だった。先頭の西川遥輝選手(2年)は、6月の練習試合で左手を骨折、まだ痛みがとれていない。「塁に出ることだけを考えて打席に立った」。振り抜いたバットの感触は「完ぺき」。打球はセンターフェンスを直撃し、二塁に進んだ。西川選手が在籍していた少年野球チーム「西貴志ドリームズ」の選手らはメガホンを打ち鳴らし、吉田知城君(12)は「今日2本目のツーベースヒットですごい」と喜んだ。続く山本定寛選手(2年)の打球は大きな弧を描いてセンターへ。応援席からは「いったー」の声もあがったが、フェンス手前で打球は中堅手のグラブに。「惜しいー」のため息が漏れたものの、西川選手は三塁へ。続く岡田投手の左犠飛で、2点目が入った。岡田投手の父一起さん(41)は「これでだいぶ楽に投げられる」とほっとした表情。
2点のリードを守って迎えた九回、岡田投手は、連続三振で2死とした。相手4番打者を中前安打と失策で二塁に出したが、次の打者からこの試合13個目となる三振を奪い、試合終了。応援席は歓喜の声に包まれた。
◇自分たちの野球−−高嶋仁・智弁和歌山監督
相手も良かったが、自分たちらしい野球ができた。岡田(投手)は三振にこだわらず、チームを考えて投球したので、安心して見ることができた。選手は甲子園で成長してくれればと思う。
◇思い通りの戦い−−左向勇登・智弁和歌山主将
先制点を取って岡田で逃げ切る、というこのチームの戦いが出来て良かった。岡田は球が少し浮いていたし、打撃も力みがあったので、この試合で気持ちが慣れてくれればいい。
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◇監督最多勝利へ目標一歩−−左向勇登主将(3年)
三回に適時打を放った岩佐戸龍選手は次の打席、「もう一本打ったろ」と力んでいた。結果は三振。「気にすんな。次も頼むでー」と声をかけた。常に仲間に気を配る。
1年の時から「おまえしかおらん」と、将来主将になるように監督から言われていた。
2年の秋に新チーム発足と同時に主将になった。しかし、まもなく問題が発生した。
高嶋仁監督が体罰で3カ月の謹慎になったのだ。監督不在の練習を「なあなあにしやんとこ」と決意した。だが監督は、「いるだけで空気が違う」とチームメートが口をそろえる存在。「いる時と同じ状態に保つのは無理だった」。おまけに、選手としても調子がふるわない……。
監督がこだわっていた「07年夏からの5季連続の甲子園」。昨秋の近畿大会には、監督不在で出場した。士気を上げようと心がけたが、初戦敗退。「勝てなかったのはチームがまとまっていなかったから」。主将の責任を痛感した。
センバツに出られなかった分、今夏の甲子園に向けチームは一つになった。必要なのは共通の目標と気づいた。今の目標は、高嶋監督が春夏通算で甲子園最多勝利監督となる59勝までの「3勝」だ。この日、打席に立つことはなかったが、ベンチや三塁コーチスボックスでともに戦い、まずは1勝を達成した。
第91回全国高校野球:明桜、健闘「全力出した」 二木投手が完投166球 /秋田
◇延長劇的幕切れ、絶叫から大拍手へ
夏の甲子園に出場している明桜は、大会第6日の15日、初出場の日本航空石川(石川)との初戦に臨んだが、延長十二回、2−3でサヨナラ負けした。初回に2点を先制して流れを引き寄せ、エースの二木健投手(3年)も166球を完投。最後まで健闘した選手たちに、アルプス席から温かい拍手が送られた。
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▽2回戦
明桜
200000000000=2
000110000001=3
日本航空石川
(延長十二回)
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約1000人の応援団で埋まったアルプス席は初回から大歓声に包まれた。1死から加賀竜太主将(3年)が敵失で出塁すると、大塚湧輔選手(同)の右中間二塁打で二、三塁。ここで小番大輝選手(同)が左中間三塁打を放って2点を先制した。小番選手の母みゆきさん(45)はメガホンを鳴らして大喜び。「4番の役割をしっかりと果たしてほしい」という母の願いが通じた一打だった。
四、五回と暴投や失策が重なり同点にされたものの、アルプスは「かまへん、かまへん」。二木投手は六、八回を3者凡退に抑える力投。ストライクの度に「たける〜」「ナイスピッチング!」の声が飛び交った。
九回裏には1死三塁のピンチもしのぎ、延長に突入。ベンチでは加賀主将が「今までしっかり練習をしてきた。自分たちはできる」と仲間を鼓舞した。
そして十一回、1死二塁のチャンスが巡ってきた。打席には公式戦初出場の須田佑太朗選手(1年)。「いつでも出られるように準備していた。絶対に塁に出ようと思った」。アルプス席が総立ちで見守る中、中前打を放った。母あや子さん(49)は「1年生で打てると思わなかった。見ていてホッとした」とうれし涙。しかし、二、三塁の好機に後続が倒れ、勝ち越せない。
そしてチャンスの後にまさかの結末が待っていた。十二回裏、安打と失策で無死一、三塁。捕手の加賀主将のけん制球が大門丈太三塁手(3年)の頭上を越え、芝生を転がった。「あーっ」。スタンドに絶叫が響き、ため息に変わった。本間潤選手(3年)の父利貞さん(50)は「最高の親孝行をしてもらった」と声を詰まらせた。
最後の打者となった小番選手は「予想通りの接戦。みんなで全力でやったので悔いはない」。二木投手は「しっかり自分のピッチングができた。昨年は(秋田大会準決勝で)負けて泣いてしまった。今年は負けても最後まで堂々としていたい」と力強く話し、甲子園を後にした。
◇狙い球が絞れず−−田中亮・明桜監督
選手たちはよく頑張った。勝てる采配(さいはい)ができなかった私の責任だ。八回の好機は強攻策が裏目に出た。先発の二木は後半も球速が落ちず、良いピッチングだった。相手の継投策に狙い球が絞れなかった。
◇守備乱れ動揺した−−加賀竜太・明桜主将
点を取るチャンスはあったが、つぶしてしまった。今までエラーがなかったので、守備が乱れて動揺した。最後は焦りがあった。後輩には来年この場所に戻り、秋田県勢の連敗を止めてほしい。
◇埼玉から応援団
○…一塁側アルプスには、明桜ナインで唯一の県外出身者、高橋渉選手(2年)の父浩二さん(44)ら約20人の「応援団」が埼玉県から駆けつけた。明桜野球部OBの若林秀樹さん(40)もその一人。少年野球チームのコーチとして中学時代の高橋選手を指導し、明桜への進学を助言した。7番二塁手で夢の舞台に立った高橋選手のバットから快音は響かなかったが、若林さんは「大舞台で落ち着いてよく頑張った」。高橋選手は「来年もこの場に戻ってきます」と誓った。
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■熱球録
◇母の支えに「ありがとう」−−明桜(3年)大塚湧輔選手
初回に先制に絡む二塁打を放った大塚湧輔(ゆうすけ)選手(3年)が試合後に一礼した一塁側のアルプス席には母・加賀谷美紀さん(41)の姿があった。
大塚選手が2歳の時、両親が離婚し、東京を離れて母の故郷・秋田で暮らし始めた。かつて球児だった父毅人さん(44)からの遺伝か、80歳近くになった今も草野球を続ける祖父忠さんの影響か、小学4年で野球を始めた。夢はいつしか甲子園になった。
美紀さんは、大塚選手の名を冠したパン屋「WAKU」を実家の秋田市と自宅がある男鹿市で営む。定休日の日曜には、余ったパンやケーキを寮まで届けた。「(息子は)全然食べてくれなかったようだけど」と笑う。
初めての甲子園で先制点に絡む二塁打など2安打を放った大塚選手。延長十二回の第6打席では「力んでしまった」と遊ゴロに倒れ、出塁できなかった。「一生懸命やってきたので、勝ちたかったが」と言葉を濁したが、「母親にはここまで育ててきてくれてありがとうと言いたい」と、はにかんだ。
夢舞台を後にする息子に、美紀さんは「まずはよく頑張ったねと言いたい。今後もパンは寮に運ぶ予定です」。
第91回全国高校野球:寒川、逆転され1点差に涙 観客からは大きな拍手 /香川
夏の甲子園大会第6日の15日、春夏通じて甲子園初出場の寒川は日本文理(新潟)と第3試合で対戦。終盤に逆転され3−4と1点差に泣いた。初の夢舞台での健闘に、アルプススタンドの観客は総立ちになり、「ようやった」「ナイスゲーム」の声とともに大きな拍手を送り続けた。
日本文理
000001120=4
001002000=3
寒川
アルプススタンドで大応援団約2000人が見守る中、ゲームは始まった。先発の斉真輝投手(3年)は順調な立ち上がりを見せ、緊張した表情だった母恵美子さん(44)も「一安心」と笑顔になった。
試合が動いたのは三回。寒川は1死三塁で、打席に藤原大宜主将(3年)が入る。「いけー」と主将に期待が集まる。声援に応えるように左前打を放ち先制。甲子園での初得点にスタンドでは「よーし」と歓声が上がり、抱き合って喜ぶ姿も。昨年秋に亡くなった祖母の遺影を持って見守っていた藤原主将の父昭夫さん(49)は「自分の役割を果たしてくれた」と満足そうに話した。
五回の守備では本塁打かと思われた大きな当たりを岩田修治中堅手(2年)がフェンスにぶつかりながら好捕。大勢の人から「ナイスプレー」と称賛する声が飛び交った。
同点に追いつかれた六回、大城戸匠理選手(3年)の中越え適時二塁打で勝ち越し。母純子さん(50)は「そろそろ打ってくれると思っていた。まだまだ物足りない」と更なる得点を期待。続く高橋卓也選手(3年)の中前打で1点を追加すると、スタンドの野球部員らは駆け寄り、頭上にかかげたメガホンをたたき合って喜んだ。
しかし、八回に逆転され好機を作れずに九回の攻撃を迎えた。応援団長の木村美優嗣君(3年)も「逆転してくれる」と信じ、声援を送ったが、得点することができず試合終了。アルプススタンドの前に整列しあいさつする選手たちを惜しみない拍手が包んだ。
◇藤井高吹奏楽部のOBら32人も応援−−寒川
○…応援を盛り上げようと、寒川の系列校藤井高の吹奏楽部からOBを含む32人が助っ人に。寒川の吹奏楽部員は21人。大きな甲子園には人数が足りないと「応援の応援」を依頼した。10日前からの合同練習のかいがあり、呼吸はばっちり。軽快なリズムが球場に響いた。藤井の吹奏楽部の大城沙貴部長(17)は「藤井は地方大会の初戦で負けたけど、寒川が甲子園に連れてきてくれた。『一音入魂』で演奏します」と話していた。
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◇甲子園最高に良かった−−秋山選手
三回、犠打を決めたが、この日は途中交代。「もっと甲子園でみんなとプレーしたかった」。チームが負けた悔しさに、涙を見せた。
2年の春、宮武学監督の指示で内野手から外野手に。「内野はクビか」とレギュラーをあきらめかけた。夏の大会前、1学年上の先輩も内野から外野に変わり、控え選手に。その先輩は昨夏の香川大会で最後の打者になった。「お前はあきらめんと頑張れ」と励まされた。「レギュラーになる」と心に誓った。
外野では、当初、飛球の落下地点が分からず、苦労した。「打球判断が悪い」。練習後も自主的にノックを受けた。出場していない試合でも、「後ろか、前か」と打球を見つめた。
2年の秋季大会は控え。先輩は「レギュラーになれそうか」と心配してくれた。「頑張らんといかん」。奮起した。自由時間のほとんどを打撃練習に費やした。春季大会でレギュラーをつかんだ。
「負けたけど、甲子園のグラウンドは、最高に気持ちよかった」と泣きながら笑った。
第91回全国高校野球:立正大淞南1−0華陵 立正大淞南、夢中の劇弾
◇第6日(15日・阪神甲子園球場)
▽第4試合2回戦(午後4時20分開始)
華陵(山口)
000000000=0
000000001=1
立正大淞南(島根)
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両チーム無得点の九回1死、立正大淞南の後藤が左越えのサヨナラソロを放って投手戦に決着を付けた。先発・崎田は140キロ台の直球を内外角に投げ分け、5安打完封。華陵は得点圏に走者を送った四回と九回の好機を生かせず、安達を援護できなかった。
◇立正大淞南・太田充監督
子供たちの力に驚かされるばかり。(初出場だが)彼らはあまり緊張していなかった。練習で磨いた堅い守りが勝因。
◇華陵・大浪定之監督
こんな幕切れは、このチームでは初めて。悔いの残る1球だろうが、(捕手の)森川の配球で打たれたのならば仕方ない。
◇二盗阻止で援護
立正大淞南の捕手・成田は、三回と七回の2度、相手が試みた二塁盗塁を鋭い送球で刺し、マウンドの崎田をもり立てた。島根大会では投げ急ぎ、1度しか盗塁を刺せない不調。甲子園に入って「ノックやキャッチボールでもしっかり球を握ろう」と意識したのが生きた。
◇「入るな」
九回表にファインプレーをした立正大淞南の後藤を打席に迎え、華陵の安達は「守備で活躍した選手が直後に打つことが多い」と気を付けたという。しかし、2球目の速球が甘く浮いた。後藤が振り抜いた打球はレフトへ。「入るな」と願ったがサヨナラ本塁打。「申し訳ない」と話したが、そのうつろな表情はまだ実感がわいていないようだった。
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■この一瞬
◇サヨナラに手応え 九回美技「気持ち乗った」
手応えは十分だったが、そこからは夢中でよく覚えていない。九回1死。打球が、低い弾道で左翼フェンスを越えても、立正大淞南の後藤は、「サヨナラには気付かなかった」という。ただ、心地いい感触が試合後もしっかりとその手に残っていた。
序盤から、先発の崎田が140キロ超の速球と緩いカーブを織り交ぜて、スコアボードにゼロを並べた。だが、打線も打ちあぐねた。後藤も、四、六回といずれも得点圏に走者を置きながら華陵・安達のスライダーにやられていた。無得点のまま九回を迎え、後藤は「正直、重苦しい雰囲気だった」と明かす。
その停滞ムードを、一つの判断が払しょくした。九回表、1死二塁。華陵・末冨の打球が左翼ライン際を襲った。崎田は「(捕球は)無理だろうと思った」という。だが、後藤が芝生に倒れこむように飛び込むと、しっかりと打球をつかんでいた。「(崎田)聖羅(みら)は球が速いし、相手は左打者。打球は切れると思った」と後藤。独断で、定位置よりも1メートルほどライン際を守っていたのだ。守備で崎田を援護し、「あれで気持ちが乗った」。その裏の打席、「とにかくフルスイングする」ことだけに集中できた結果が、試合を決める一発だった。
「うちはゼロにこだわっている。10−9の勝利よりも、1−0が理想」と太田監督。緊迫した試合。理想とする「守りの野球」を貫いた初出場校が、最後の最後に笑った。
第91回全国高校野球:東農大二2−1青森山田 東農大二「17番」決勝打
◇第7日(16日・阪神甲子園球場)
▽第1試合2回戦(午前8時30分開始)
東農大二(群馬)
0100000001=2
0010000000=1
青森山田(青森)
(延長十回)
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東農大二が延長戦を制した。十回に先頭の青木が右前打。バントで送り、緋田が左前へうまく運んで決勝点を奪った。左腕・加藤は中盤から緩急を使った配球に切り替えて的を絞らせず、1失点で完投。青森山田は継投へ持ち込む時機を逸したのが痛かった。
◇東農大二・加藤秀隆監督
群馬大会から接戦が多く、延長に入った時も負けないと思っていた。加藤は相手のタイミングをうまくそらしていた。
◇青森山田・渋谷良弥監督
井上は粘り強く投げた。2失点は責められない。狙い球などの指示が徹底できず、1点しか取らせてやれなかった私の責任。
◇押すタイプ改め奏功
延長十回を投げ抜いた東農大二の加藤は「後ろを信じて投げ抜くことができた」と満足そうな表情。120キロ台の直球に100キロ台の変化球を織り交ぜ、青森山田打線を手玉に取った。もともとは最速135キロの直球で押すタイプ。昨秋に背番号1を背負ってから、「力を抜いて投げれば、一人で投げ抜くことができる」と、エースの責任を果たすためにスタイルを変更した。甲子園での好投で「このスタイルを崩さずにいける」と自信をつかんだようだった。
◇悔やみきれぬ失投
接戦の重圧が、延長に入り青森山田の先発・井上にのしかかった。十回に勝ち越し打を許した球を、「アウトコースを狙ったが甘く入った。ストライクが欲しくて力が入った」と悔やんだ。先制された後の三回以降はテンポが良くなって四死球を許さず、八回は1死二塁のピンチを背負ってから球威が増して後続を断った。「中盤からは普段の投げ方ができた。だからこそ最後まで抑えたかった」と、わずかな乱れで逃した勝利に、あきらめきれない様子だった。
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■白球を追って
◇東農大二「17番」決勝打 遼と一緒のラウンド経験生かす?
背番号17の3番打者が試合を決めた。
1−1の延長十回1死二塁、東農大二の緋田(あけだ)は「町田さんにつなぐだけ」と左打席に向かった。4番に回そうと集中したことですべて内野ゴロだった前の4打席は忘れ、右肩が早く開く悪い癖の修正もできた。真ん中高めの直球を左翼にはじき返し、一塁塁上で控えめなガッツポーズをみせた。
背番号が17なのは「緋田は来年もある」と1けたの番号を3年生に与えた加藤監督の温情だ。今春の県大会、関東大会は右肩のけがでベンチ入りできなかった本人は「試合に出られれば」と背中の数字を気にしていない。
故障が癒え、夏に入ると3番打者に定着。加藤監督は「当てるのがうまい」と話し、緋田が野球と並行して小学2年から中学まで取り組んだゴルフの好影響があるとみる。あの石川遼とのラウンド経験もあるという。
「甲子園に来てまた一皮むけた」とは町田主将の評。次戦の「17番」にも期待がもてそうだ。
第91回全国高校野球:常葉橘7−6高知 常葉橘、土壇場の強肩
◇第8日(17日・阪神甲子園球場)
▽第1試合2回戦(午前8時30分開始)
高知(高知)
000100320=6
03000400×=7
常葉橘(静岡)
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終盤に追い上げられた常葉橘が好守で逃げ切った。八回は捕手・牛場、九回は外野からの中継プレーで打者走者の進塁を阻み、エース庄司のピンチを救った。打順組み替えは奏功し、中盤までに大量リード。高知は打線が粘りを発揮したが、先発・公文の不調が響いた。
◇常葉橘・黒沢学監督
バントをあまり選択しなかったのは、前半に各打者の球の見送り方がいい、と感じたから。打線がつながり、攻撃的にいけた。
◇高知・島田達二監督
後半勝負と思った通りの展開にはなったが、取られた点が大き過ぎた。二回に9番に打たれ、2点を追加されたのが痛かった。
◇「後悔はない」
左中間へ放った打球の行方を二塁手前で見た高知の池知に迷いはなかった。1点を追う九回1死、「(常葉橘の庄司は)暴投が多かったので、三塁まで行けば、厳しいコースを攻められなくなる」。制止する三塁コーチも見えたが、ヘッドスライディング。判定はアウト。倒れ込んだまま地面をたたき、ベンチで泣き崩れた。試合後、「後悔はない」と話した2年生の池知を、主将・木下は「気持ちで攻める野球を目指してきたから仕方ない。相手がうまかった」とねぎらった。
◇打順入れ替え奏功
常葉橘は、中軸の打順を1回戦と入れ替えたのも奏功。得点した二回と六回はいずれも、先頭の4番・牛場、続く5番・川口の連打から好機を築いた。5番から静岡大会と同じ4番に戻った牛場が「役割はあまり変わらない」と冷静に甘い球を見極めて打てば、初戦は4番で無安打だった川口は「打ってやろうという気持ちでなく、つなぐ意識で打席に立てた」と平常心に。黒沢監督の「この1週間の練習を見て決めた」という判断が、選手の力を引き出した。
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■白球を追って
◇高知、三塁狙い逸機
打球が転がった左中間から三塁に向けて形成された一本のラインが、終盤に打ち込まれた常葉橘のエース・庄司を救った。
九回1死、高知の1番・池知の打球が左中間を破った。ボールを追った中堅の山岸、遊撃の稲角はともに「普通なら二塁打」と思ったが、池知は俊足を飛ばし、二塁をけった。セーフなら流れが大きく傾く。
打たれた庄司は「頭が真っ白だった」が、2人は慌てなかった。山岸は「強肩の稲角まで投げれば大丈夫」。素早い動作で返球すると、「甲子園は左中間が広いから、深めに追いかけていた」という稲角が三塁へ遠投。ストライク返球で池知を刺し、「1死三塁の危機」を「2死走者なし」に変えた。
二回、同じように左翼を襲う打球を放った高知・公文を、中継プレーで三塁で刺した。だが、この時は外野から稲角への返球が大きくそれ、カバーに入った二塁手・小泉が助けた。稲角はベンチに戻ると、「抜かれたらカットまで正確に」と外野手にもう一度確認した。その意思統一が、土壇場で生きた。
学校のグラウンドは手狭で、普段の練習では「中継ラインの作り方の確認くらいしかできなかった」と黒沢監督は話す。甲子園入りしてからは、近隣の球場で中継の練習に時間を割いてきた。「この1週間の練習の成果で勝てた」と振り返った小泉。甲子園2勝目は、選手が日々成長を遂げている証しでもある。
第91回全国高校野球:長野日大、3年生が頑張った 逆転勝ちに歓喜 /長野
◇校歌歌う生徒ら笑顔
夏の甲子園に出場している長野日大は大会第8日の17日、天理(奈良)との2回戦に臨み、7−6で競り勝った。3年ぶり24回目出場の強豪を相手に、先発の加藤幸宏投手(2年)が四回で降板する苦しい展開となったが、1点を追う七回に逆転し、逃げ切った。次は20日予定の大会第11日第2試合で中京大中京(愛知)と対戦する。
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▽2回戦第2試合
長野日大 000202201=7
天理 101300001=6
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九回裏2死一、三塁。同点、そして逆転の走者を抱えた佐藤丞投手(3年)が相手打者を左飛に打ち取ると、アルプスの野球部員たちは重なるように抱き合った。飯島奨吾君(3年)が「本当に3年生が頑張った」とかれた声で語る通りの展開だった。
先発は加藤幸宏投手(2年)。作新学院(栃木)戦で本来の投球ができず、「前の分も取り返す投球をしたい」と試合前に話したが、この日も苦しい立ち上がりとなった。初回、2番から4者連続四死球で押し出し、1点を先制される。「初戦でも四死球が多かった。緊張しているのかな」と母の貴久江さん(45)は不安そう。三回にも長短打で1点を失った。
反撃は四回。北沢哲選手(3年)のスクイズと小林聡選手(同)の右翼線への適時二塁打で同点に。しかしその裏、3本の適時打を浴び、加藤投手はこの回で降板。「エースとしての役割を果たせなかった」と試合後に涙を見せた。
五回から登板した西山尊徳投手(同)は、いきなり2死満塁のピンチ。遊ゴロで切り抜けると、六回にチャンスが待っていた。2死から伊藤剛主将(同)が四球で出塁。甲子園に来て調子を上げてきた北沢選手が右中間にフェンス直撃の適時三塁打を、本藤昇吾選手(同)が中前適時打を放って1点差に迫り、アルプス席は追い上げムードに。
そして七回、代打の赤羽武紘選手(2年)が「とにかく塁に出よう」とカーブを右前にはじき返した。四死球などで2死満塁と攻めると、打席には北沢選手。右前に逆転の2点適時打を放ち、アルプス席で「祈る気持ち」で見守っていた姉の麻紗子さん(22)は目を潤ませ、周囲と喜びを分かち合った。
七回から3番手の佐藤丞投手が登板すると、母公恵さん(44)は「もうどきどき」。九回に1点を失ったが、後続を断って接戦をものにすると、アルプス席は校歌を歌う生徒や保護者らの笑顔で満ちあふれた。
◇よく攻めてくれた−−中原英孝・長野日大監督
3点差で負けていた時も我慢比べだと言い聞かせ、強気で攻めろと言い続けた。生徒たちはよく攻めてくれた。北沢は長野大会で不振だったが、この大舞台で打ってくれて本当にうれしい。
◇粘り強く戦えた−−伊藤剛・長野日大主将
後半は粘り強く戦えた。五回終了後、監督から「こんな野球を3年間やってきたのか」と怒られ、変われた。けがで欠場した選手をカバーしようという天理の強い気持ちに負けないようにと思った。
◇兄「不敗神話」続く
○…一塁側アルプスでは、安富穂澄選手(3年)の兄で長野日大OBの郁勇さん(27)が声援を送った。郁勇さんは「不敗神話」の持ち主。安富選手が小学4年で野球を始めて以来、応援に駆けつけた試合はすべて勝っているという。甲子園でも神話は健在で、11日の作新学院(栃木)戦も見事に勝利した。この日午前4時に地元を出発した郁勇さんは「きょうも負けないだろう。悔いの残らないプレーをしてほしい」とエールを送った。
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■球音
◇勝負強い陰の大スター−−本藤昇吾一塁手(3年)
「あいつは本当に勝負強い。陰の大スターだよ」。中原英孝監督は、こう評する。
昨春のセンバツで2年生ながら登録変更最終日にメンバー入りした。試合には出なかったが、「うれしかったし、自分たちの代にも甲子園を経験しようと思った」と話す。
しかし、その年の夏は不調が続いた。「打てないし、スタミナが無かった」。スタンドで見守る父久義さん(47)も「相当苦しんでいた」と話す。その一方、自分で何とか打開しようという気持ちは忘れなかった。
冬から筋力強化に取り組み、1日1000スイングの素振りなどを自らに課した。次第に体の軸がしっかりし、3月の関西遠征では初めて本塁打を放った。チームの首位打者にもなり、自信を持つきっかけになった。
「6番の仕事は2死で走者を還すこと」と考えている。天理戦も九回2死からチームを勝利に導く7点目をたたき出すなど3安打2打点。「仕事ができた。3回戦も粘り強い野球をして勝ちたい」と笑顔を見せた。
天理あと1点 不運に勝てず…夏の甲子園第8日
◆第91回全国高校野球選手権大会第8日 ▽2回戦 天理6―7長野日大(17日・甲子園) 優勝候補の一角、天理(奈良)は、開幕直前に部員が新型インフルエンザに感染し、2回戦の前には正捕手・大西康太(3年)が顔面骨折で入院するなど、度重なるあアクシデントを乗り越えられず、長野日大(長野)に1点差で敗れた。
不運ばかりの夏が終わった。9回の反撃は1点止まり。負傷離脱した大西に白星を贈れなかった。「穴を感じさせないようにしたけど、大西の必要性を感じた」。徳山靖主将らナインが泣き崩れた。
正捕手の大西が、15日の練習中に送球を左目付近に受け、左ほおを骨折。3時間10分の手術を受けた。7月末には主力2人を含むベンチ入り選手5人が、新型インフルエンザに感染した。
「ベスト8に進んで、国体で大西ともう一度、野球をやろう」が合言葉になった。背番号2のユニホームとミットをベンチに入れた。代役の波多野優はマネジャーが作った大西のお守りを、首にかけて試合に出た。
度重なるアクシデントで、むしろチームは結束したが、県大会で3本の満塁弾を放った5番打者の不在は大きかった。「康太のおかげで甲子園に連れてきてもらった。申しわけない」。3安打のリードオフマン、原田拓実はナインの気持ちを代弁した。不完全燃焼のまま、優勝候補が姿を消した。
第91回全国高校野球:中京大中京、関学に競り勝つ 九回裏、河合が本塁打 /愛知
夏の甲子園第8日の17日、中京大中京(愛知)は第3試合で関西学院(兵庫)と対戦した。1点を追うシーソーゲームだったが、河合完治三塁手(3年)が九回裏にサヨナラ本塁打を放ち、3回戦進出を決めた。中京大中京は大会第11日の20日、第2試合で、ベスト8をかけて長野日大(長野)と対戦する。
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▽2回戦第3試合
関西学院 002010001=4
中京大中京 200001101=5
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最終回にドラマは待っていた。九回裏。河合完治選手の鋭い打球は、外野席へ勢い良く飛び込んだ。「よしっ」「やったー」。アルプス席は総立ちで喜びを爆発させた。
初回、この日18回目の誕生日を迎えた堂林翔太投手(3年)が2点適時2塁打を放って先制。応援団長の渡辺智也君(3年)は「さすが4番。勝利とともに誕生日を祝います」。だが、この後、なかなか波に乗れない。先発の森本隼平投手(2年)からエース・堂林投手につないだが、地元・関西学院を応援する大歓声にのみ込まれるかのように押し出しの四球で勝ち越しを許した。吹奏楽部の稲川祥子部長(2年)は「関西学院より大きな応援をしないと」と気合を入れ直した。
七回2死二塁から磯村嘉孝選手(2年)が勝ち越しの適時打。母淳子さん(48)は「1回戦は無安打。チームの役に立てて本当に良かった。まだまだここでは負けられない」。
試合後、「苦しい試合をものにしないと日本一にはなれないとわかった」と河合選手。スタンドで声援を送った元マネジャーの榊原裕菜さん(20)は「愛知大会は楽な試合ばかりだったので、厳しさを経験できるいい試合だった。次の試合も頼んだよ」とエールを送った。
◇河合がよく打った−−大藤敏行・中京大中京監督
投手の交代が遅れるなど下手な采配(さいはい)で選手にプレッシャーを与えた。最後は河合がよく打ってくれた。入ったのか分からなかったが、相手の選手がしゃがみ込んだので終わったと思った。
◇後半食らいついた−−山中渉伍・中京大中京主将
最後は河合がよく決めてくれた。前半はミスがあり、空回りしていた。後半は修正して何とか食らいついていけた。
◇じゃんけん8連勝
○…先攻・後攻を決める試合前のじゃんけんで山中渉伍主将(3年)は愛知大会の初戦から負けなしだ。この日も勝って驚異の8連勝。コツは「その日の気分で出すこと」とか。「守備からリズムを作る持ち味が出せる」と基本的に後攻を選んできた。この試合も堅守で失点を最少限に食い止め、サヨナラ勝利に結びつけた。
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■熱球譜
◇同点打で流れ呼び込む−−岩月宥磨選手=中京大中京(2年)
六回2死一、二塁。2ストライクからの低めの変化球をたたいた。「抜けろ」。バットの先に当たった打球は左翼前へ抜ける同点打に。関西学院に傾く流れを、ワンプレーで引き戻した。
「何とかなる」との思いはあった。打席に入ると、四球で出塁していた同じ2年生の磯村嘉孝捕手と目が合った。「絶対還るからな」という強い思いが伝わってきた。
愛知大会では背番号17だったが、50メートル6秒の俊足を生かした守備範囲の広さを買われ、背番号8をもらった。初戦ではその俊足を生かして、一回2死三塁のピンチの場面でファインプレー。悪い流れを断ち切った。この日の守備でも、九回2死満塁の一打逆転のピンチで、飛んできた打球を冷静にキャッチ。大藤敏行監督は「あいつは春のセンバツでも決勝打を打った。今回もよくやっている」。
苦しい試合の後、岩月選手は「大会の中では苦しい試合がある、と大藤監督に言われてきたが、今日がまさにその日だった。これを乗り越えて、チームにも勢いがつくと思う」。2度目の甲子園で、さらなる進化を誓った。
第91回全国高校野球:東北3−2日大三 東北、もぎ取った決勝点
◇第9日(18日・阪神甲子園球場)
▽第1試合2回戦(午前9時30分開始)
東北(宮城)
200000001=3
001100000=2
日大三(西東京)
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九回にようやく1点を勝ち越した東北が接戦を制した。九回1死から大庭の三塁打と続く篠塚の中犠飛で決勝点。佐藤は12奪三振の好投を見せた。日大三は四回に吉沢の中前適時打で3点目のホームを狙った内山が刺されるなど、好機を生かし切れなかった。
◇東北・我妻敏監督
負ける時は大差、勝つ時は接戦と、選手には言っていた。日大三は威圧感があり、勝ったことが信じられない。佐藤が粘った。
◇日大三・小倉全由監督
関谷はよく立ち直ったと思う。打者にはとにかく振れと言っていたが、追い込まれてからの変化球が、低めに決まっていた。
◇強肩
1点を追う日大三の四回1死二、三塁。吉沢の打球が二遊間を破り、逆転の二塁走者も三塁を回った時、東北の捕手・薗部は「ラッキー」と思った。中堅の佐野は遠投約110メートルでチーム一の強肩。あえて二遊間を少し空けて佐野に本塁で刺すことを狙わせていたからだ。返球がノーバウンドで届き、アウト。九回も右中間後方の飛球を好捕した佐野は「守りでリズムを作れた」。しかし、3失策した内野陣を「思い切って守らないと」と叱咤(しった)することも忘れなかった。
◇自分のせいで…
「みんなに申し訳ない」。日大三の主戦・関谷は悔しがった。一回、不安定な立ち上がりを攻められ2失点。その後は立ち直ったものの、九回1死三塁から「ゴロを打たそうと思った」というシンカーが甘く浮いて、決勝の犠飛を許した。投球とともに悔やんだのが、八回1死一、三塁の勝ち越し機に失敗したスリーバントスクイズ。「転がせる球だった。自分のせいで負けました」と肩を落とした。
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■この一瞬
◇思い切り振ってこい 土壇場、ミス吹っ切る
今度はスクイズではなかった。試合を決めた東北の篠塚。九回1死三塁の状況で、スクイズも頭をよぎったが、我妻監督には「思い切り振ってこい」と送り出された。高めに浮いた無回転の変化球をフルスイングして、犠牲フライで勝ち越し点をもぎ取った。二回に2度セーフティースクイズを失敗したぎこちなさは、東北ナインから消えていた。
両チームとも序盤はらしからぬプレーが続いた。日大三は一回、東北・菊地の送りバントを捕手がお手玉。無死一、三塁から国島がスクイズを決めると、二塁手の一塁ベースカバーが遅れ、安打にしてしまう。菊地の足を警戒しすぎたのだ。一方の東北は2点を先取した一回に続き、二回も先頭の大庭が三塁打を放ったが無得点。1回戦完封の日大三・関谷から連打は望めないという意識が強すぎた。「どっしりとやれ」。我妻監督の声がダッグアウトに響いた。
「相手をみてやってしまった」(小倉監督)という呪縛から中盤以降は徐々に解かれた両チーム。東北は右腕・佐藤が調子を上げ、中堅・佐野らの好守備も出て、最後の勝ち越しを呼び込んだ。
東北は宮城大会6試合で、2度のコールド試合以外は最高でも4得点。点を欲しがるあまり、機動力偏重に陥っていたが、土壇場で思い切りの良さを取り戻した。攻撃の形が整ったところで、注目左腕・菊池雄を擁する花巻東との3回戦に挑む。
第91回全国高校野球:智弁和歌山8−5札幌第一 智弁和歌山、意地の逆転
◇第9日(18日・阪神甲子園球場)
▽第3試合2回戦(午後2時40分開始)
智弁和歌山(和歌山)
002000204=8
021200000=5
札幌第一(南北海道)
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智弁和歌山が逆転勝ち。1点を追う九回、喜多の二塁打で追いつき、西川の右翼線2点二塁打で勝ち越した。岡田は五回以降は1安打無失点で完投。札幌第一は三回に富田、四回は畑の適時打が出て、一時は3点をリードしたが、終盤に投手陣がつかまった。
◇智弁和歌山・高嶋仁監督
(勝ち越し打の)西川はやってくれると思った。岡田は序盤、体が軽くて球が浮いたようだ。修正できたのは彼の進歩。
◇札幌第一・菊池雄人監督
負けたという事実が本当に悔しい。公式戦で出るミスは受け止めないといけない。(敗因は)誰がどうというのはない。
◇岡田ミス「混乱させた」
和歌山大会から4試合連続で完封していた智弁和歌山・岡田が、自らのミスをきっかけに失点した。二回無死一塁、札幌第一・富田の投前バントを二塁へ送球したが高くそれ、犠打野選に。「一番経験がある僕のミスで、みんなを混乱させた」。守備の乱れが伝染し、この回2失点。その後も失策が相次ぎ、四回までに計5点を失った。しかし五回以降、打ち気をそらす投球でチームにリズムを呼び込んだ。「負けるとは思っていなかった。打って勝つ、本来の智弁和歌山らしくなってきたのでは……」
◇ノーバウンド補殺
札幌第一の中堅・矢田のバックホームはノーバウンドで捕手・松浦が投球のように捕球してタッチアウト。後続も倒れ、七回の智弁和歌山の反撃を2点にとどめた。遠投100メートルの強肩を生かしてダイレクト送球を練習してきた成果だ。ただ、7年前の初出場で敗れた相手にまたも苦杯。「相手の勝ちたい気持ちが上だった」とうつむいた。
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■この一瞬
◇監督を男にしたい 智弁和歌山、意地の逆転−−九回、選手に懸けた
ダッグアウト前に立ったまま、じっと戦況を見つめていた。九回1死満塁、智弁和歌山・西川の打球が右翼線に落ち、選手もスタンドも逆転に沸いた。喧騒(けんそう)の中でも、高嶋監督は姿勢を変えなかった。
3点を追う七回に犯した一つの采配(さいはい)ミスが、結果的に「吉」と出た。1死一、三塁の場面から2人続けて3年生を代打に送った。三宅が敵失を誘って反撃の口火を切り、左向が中前適時打で続いて1点差に迫った。だが、「本当は三宅の次に喜多を送るつもりだったが、忘れていた」と高嶋監督。仕方なく、その裏の守備から三塁に入った喜多も3年生。「(代打の)準備はしていた。監督にはよくあること」。九回、その喜多が同点の適時二塁打を左中間に運び、勝ち越しのホームも踏んだ。
序盤から、「負けパターンだった」と高嶋監督。先発・岡田の制球が甘く、守備も乱れて四回までに5失点を喫した。「監督の(通算勝利の)こともあるし、大事にいこうとし過ぎてしまった」と捕手の平野。目に見えない重圧が硬さを生んでいた。だからこそ、「(終盤は)3年生の意地に懸けようと思った」。その判断に狂いはなかった。
試合中、平野が「監督を男にしようと声を上げると、ベンチが熱くなった」と言う。「(記録は)僕がどうこうできることではない。選手たちに感謝しないとね」と高嶋監督。築いてきた栄光は、選手との信頼関係の上に成り立っている。
*** 以上、記事より ***
序盤から接戦続きで、ハラハラどきどきびっくりの連続でした。
一応接戦、大逆転の記事は拾えたはず……。あ、あと2日連続ノーゲームの試合とかも。
インフルの影響も微妙に影を落としていて、ちょっと心配です。
◇第1日(8日・阪神甲子園球場)
▽第2試合1回戦(午後0時50分開始)
興南(沖縄)
010110000=3
000002011=4
明豊(大分)
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明豊がサヨナラ勝ち。八回、今宮、阿部の連続長短打で追いつき、九回は四球と連続送りバント失敗で2死一塁。二盗した稲垣を、野口が左越え適時打で還した。興南は前半3点リードしたが、六回から登板した野口のテンポのいい緩急に、1安打に抑えられた。
◇明豊・大悟法久志監督
野口が追加点を与えず、勝つ可能性をつないでくれた。
◇興南・我喜屋優監督
理想的な展開だったが、ミスで流れを持っていかれた。
◇今宮、巧打で雪辱
明豊の投打の要が不振の投球を巧打で晴らした。先発・今宮は五回までに3失点。四回には本塁打も浴び、「自分で取り返すしかないと思った」。マウンドを左腕・野口に譲り、迎えた六回1死一、三塁の打席。外角球に食らいつき右前へ、八回は泳がされながらも左翼線を破った。春の九州大会では興南に敗れただけに「負けたくない気持ちが勝った」と雪辱に満足そうだった。
◇悔し涙の1号
興南の5番・真栄平(まえひら)が四回、大会1号ソロ本塁打。「速球を狙っていた」ところに抜いた球が低めに来たが、うまくすくいあげた。一時は3点をリードしたが、試合はサヨナラ負け。2年生の真栄平は「もっと3年生と一緒に野球をしたかった」と涙が止まらなかった。
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■この一瞬
◇わざと空振り、好機拡大
瞬時の空振りが劇的なサヨナラ勝ちを呼び込んだ。好救援の末に自らのバットで試合を決着させた明豊の野口。その1球前が大きなポイントだった。
先頭打者が四球で出塁しながら、2者連続でバントを二封される。ここで野口が打席に入り、3球目に一塁走者の稲垣が走った。サインはランエンドヒット。しかし、野口は「『ストライクは打て』だったけれど、稲垣のスタートが良かったのが見えた。わざと空振りした」と言う。
稲垣は二塁を奪い、カウント1−2。野口の読みは、さらにさえる。「高い確率で外角直球が来る」。思い切って踏み込むと、137球目に達した島袋の直球は真ん中高めに。指2本分短く持って振り抜いた打球は、左翼手の頭上を越えていった。
守りのリズムを変えたのも野口だった。先発・今宮の制球が乱れたうえ、失策、野選も絡んで五回までに3点のリードを許した。六回から登板した野口は「とにかく低めに投げよう」と徹底。4回を1安打に抑え、興南の勢いを止めた。
「先発で投げたい」と大悟法監督に訴えていたが、前夜に「リリーフで」と伝えられた。気持ちを切り替えて臨んだ一戦。エースナンバーにふさわしい働きだった。
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■夏・輝く
◇島袋、狙われた137球目
◇興南また初戦敗退 「来春、借り返す」−−島袋洋奨(ようすけ)投手(興南・2年)
同点の九回2死二塁。延長十回で競り負けたセンバツ1回戦を思い出し、気合を入れ直した。「今度は勝てるゲームを落とさない」
しかし、137球目。外角低めを狙った直球は高く浮き、打球は左翼・我如古(がねこ)の頭上を越えた。サヨナラ負けが決まると、うなだれたまま、名残惜しそうにゆっくりとマウンドを降りた。
19奪三振の末に敗れたセンバツを反省し、球数を増やさないため、打たせて取ることを心がけた。序盤は走者を許しても緩急を自在に使い、2併殺。一方で「打たれて勢いに乗せたくなかった」という明豊の今宮には一回、自己最速の145キロの直球を外角低めいっぱいに決めるなど2打席連続三振を奪い、要所を締めた。
しかし、真夏の日差しに体力を奪い取られていた。「湿気が多く、疲れで思うように腕が振れなくなった」。六回、警戒していた今宮に右前適時打を許すと、制球がばらつき、力尽きた。
春の雪辱はならなかったが、「来年のセンバツで借りを返したい」。涙は見せず、三度目の正直を固く誓った。
第91回全国高校野球:西条3−2八千代東 西条、後逸呼ぶ突入指示
◇第1日(8日・阪神甲子園球場)
▽第3試合1回戦(午後3時29分開始)
八千代東(千葉)
001000100=2
00200001×=3
西条(愛媛)
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西条が同点の八回2死一、二塁から日野の左前適時打で決勝点。三回に3安打で2点を挙げて主導権を握り、秋山が散発3安打、無四球で完投した。八千代東は七回に上條の右犠飛で追いつき、村上が緩急をつけ好投したが、八回の勝負どころを守り切れなかった。
◇西条・田辺行雄監督
守備の乱れ(2失策)やけん制死などミスもあったが修正できる範囲。初戦に満点は期待していないし、勝てば良し。ホッとしている。
◇八千代東・片岡祐司監督
思った通りの展開には持っていけた。できれば、逆に3−2で勝ちたかったけど、選手はよくがんばってくれた。
◇完投☆でも反省
西条のエース秋山が粘りの投球で無四球、被安打3の完投勝ち。ピンチでもひるむことなく140キロ台の直球で押し、内野ゴロの山を築いた。センバツは1回戦で1失点完投しながら敗れただけに、「甲子園での1勝は本当にうれしい」と満面の笑み。しかし、自分の内容に話が及ぶと打って変わって「制球も悪かったし、(4番だが)無安打だった」と反省しきり。秋山は「59年の夏以来、半世紀ぶりの全国制覇をする」と目標を口にし、投打の柱としてさらなる活躍を誓っていた。
◇敗戦でも満喫
八千代東の先発・村上の目に涙はなかった。先制した直後の三回、2死二塁から連続二塁打を浴びて逆転を許した。いずれも直球を狙われた。「思ったより球速が出て、自分に酔ってしまった」。四回以降はカーブ主体に切り替え、西条打線を2安打に抑えただけに「カーブを使うのが遅かった」と悔やんだ。だが、敗戦よりも「ここに来られるとは思っていなかったし、この炎天下で野球できたことがうれしかった」。初めての甲子園を満喫し、笑みがこぼれた。
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■この一瞬
◇「一本出たら腕回す」
ためらう一瞬さえ惜しんだ。八回2死一、二塁、西条の日野がファーストストライクの速球を左前にはじき返すや、三塁コーチスボックスの三浦は腕を大きく振り回した。
「翼、回れ」。日野が心で呼び掛けた二塁走者の徳永は、俊足というわけではない。打球はバックホームに備えた八千代東・高橋の正面に落ちた。生還を果たすには、際どい状況だった。
無謀にも見えた本塁突入の指示が、次の場面を導いたのかもしれない。「ホームで刺せる」という高橋の確信が、わずかな焦りを呼んだ。捕らえかけた打球をはじいて後逸。徳永は難なく、決勝のホームを踏んだ(日野には打点)。
丁寧に緩急をつける村上に、西条打線は七回までわずか3安打。八回に徳永が二塁に進んだ時、三浦は「一本出たら(腕を)回す」と思い極めたという。一方では、村上の二塁けん制が少ないと冷静に判断。ベンチに「リードを大きめに取れる」と伝えていた。さらには徳永に、「ヒットなら本塁突入」と念押しした。
PL学園に0−1で敗れたセンバツでも、三浦はコーチスボックスに立ち、1点を取る難しさを痛感した。その経験を生かした万端の準備と果敢な判断が、勝敗を分けた。
如水館−高知は2日連続で降雨ノーゲームに
第91回全国高校野球選手権大会・2日目(10日、甲子園)第1試合は夏6回目の出場となる広島・如水館と3年連続13回目の高知が対戦。昨日、三回終了時点で降雨ノーゲームとなった2日の第1試合は10日、予定通り試合が始まったが、五回途中で降雨のため中断し、結局そのまま2日連続のノーゲームとなった。
如水館・迫田監督
「2日連続というのは経験がない。序盤、0−3で負けてたときは嫌だったが、何とか勝ち越したので(試合が成立する)七回までやりたかった」
高知・島田監督
「勝ってもいないのに3試合をやらせてもらえると思うしかない。雨、照明といろいろな甲子園を経験させてもらっていると選手には話したい」
高知は二回表、先頭の4番木下が右中間へソロ本塁打。この回はさらに2点を追加し3点のリードを奪った。前日は如水館が2−0と先手を取ったが、まったく逆の形となった。
3点を追う展開となった如水館は三回裏、絹川が左前打で出塁。その後、バント失敗などで二死となったが、四球、暴投などで二死二、三塁のチャンスを作ると、3番有山が三塁打を放ち2人の走者が生還。2点を返し1点差とした。
如水館は続く四回裏、二死走者なしから7番金尾、8番絹川が連打。9番森兼が左翼線に二塁打を放ち同点。さらに、山田が四球で二死満塁とし、2番白岩が右中間を破る走者一掃の3点三塁打。この回、二死から集中打をみせ、一挙4点を奪い試合をひっくり返した。
逆転された高知は五回表、四球の池知を一塁に置いて3番西岡がレフトスタンドへ飛び込む大会第3号となる2点本塁打。1点差としたが、雨がひどくなり、五回表一死一塁の場面で中断となった。
試合は約30分後、結局そのまま2日連続のノーゲームとなり、11日に順延となった。11日は第1試合が常葉橘(静岡)−旭川大高(北北海道)、第2試合が長野日大(長野)−作新学院(栃木)、第3試合が天理(奈良)−南砺総合高福野(富山)となり、如水館−高知は第4試合に組まれることとなった。
如水館は前日は2−0、この日は6−5と2日連続でリードしていたが、雨には勝てず、またノーゲームとなってしまった。
如水館まさかの大敗“3連戦”最後で負けた…夏の甲子園第2日
◆第91回全国高校野球選手権大会第2日 ▽1回戦 如水館3─9高知 (11日、甲子園球場)
史上初めて2試合連続で降雨ノーゲームとなった如水館(広島)・高知(高知)戦は高知が制した。9、10日の2試合ともリードしていた如水館は、先発右腕・幸野宜途(よしと、3年)が3連投の疲労が影響したのか、2回4安打3失点でKO。対照的に、ぬかるんだマウンドが苦手な高知の左腕・公文克彦(3年)は160球で完投。天候に振り回された“3連戦”は、何とも皮肉な結末となった。
野球の神様は、どこまで無情なのか。2日連続降雨ノーゲームで迎えた3度目の“1回戦”。2戦をいずれもリードして終えていた如水館が、まさかの大敗だ。「終わった実感があまりないです」。エース・幸野が大粒の涙をこぼせば、金尾元樹は「もう一度試合がやりたいぐらい」と肩を落とした。
気まぐれな空模様に泣かされ続けた。9日は2―0、10日は6―5。だが、晴天となったこの日は、第1試合から第4試合に変更されたことで、球場の気温も上昇。幸野は暑さに体力を奪われた。2回で4安打を浴びて3失点。いったんマウンドを降りるしかなかった。「(幸野は)3連投で気温も高くなっていて、しんどかったんだと思う。1日目の勝っていた試合をやってほしかったです」と、捕手の宮本浩平は唇をかんだ。
名将も天候だけはどうしようもなかった。のべ5人を投入した継投策も実らなかった迫田穆成(よしあき)監督(70)は「敗因はすべて私。選手はよくやってくれました」と責任を背負い込んだ。緊張状態のまま過ごした3日間。この日、無安打に終わった白岩稔真は「(精神的な)疲れは感じてなかったけど、どこかにあったのかも」とポツリ。さらに2戦とも有利な展開で終えたことで「少し気の緩みがあったのかもしれません」と有山卓主将は声を震わせた。
ただ、甲子園の歴史に刻まれた死闘に後悔は残していない。「満足できる結果ではなかったけど、3回もマウンドに立たせてもらってうれしかった」と涙をぬぐった幸野。マスクをかぶり続けた宮本も「3度も戦った高知には優勝してほしい」と、気力をぶつけ合った宿敵にエールを送った。前代未聞の珍事の末、無念の初戦敗退。それでも如水館ナインは、勝者より誇らしげに胸を張った。
第91回全国高校野球:花巻東、初戦を突破 八回、一挙4点の逆転劇 /岩手
夏の甲子園大会第3日の12日、花巻東は第4試合で長崎日大(長崎)を相手に8−5の接戦を制した。雨天で2日順延された初戦は、七回に同点に追いつき、再び勝ち越されながらも八回に一挙4点を挙げての逆転劇。夏の甲子園では45年ぶり2度目の初戦突破を果たした。試合後、選手たちがアルプス前で一礼すると、割れんばかりの拍手が送られた。花巻東は大会第8日の第4試合で横浜隼人(神奈川)との2回戦に臨む。
▽1回戦
長崎日大 010002110=5
花巻東 00000224×=8
暑さが峠を越した午後4時の阪神甲子園球場。一塁側アルプスは、応援団約550人の熱気に包まれた。
中盤まで先行を許した花巻東ナイン。3点を追う六回裏、先頭の柏葉康貴選手(3年)が四球を選ぶと、佐藤涼平選手(同)が内野安打で続く。犠打で送り、1死二、三塁の好機に打者は4番・猿川拓朗選手(同)。スタンドで見守る父毅さん(49)は「4番らしい仕事をしてくれるはず」。内野ゴロの間に1点を返すと、「まずは1点」とホッとした表情を見せた。
さらに横倉怜武選手(3年)が右中間に適時二塁打を放ち1点差。二塁上で両手をたたき喜ぶ息子に、母の和江さん(55)は「よくやった。よくやった。今日までよく頑張った」と声援を送った。
1点を追加され2−4となった直後の七回裏、再び打線が盛り返す。2連打と犠打で1死二、三塁と攻め、岩手大会で打率5割の柏葉選手が打席に。祈るように両手を合わせた母の妙子さん(45)は、1点差に迫る中前適時打に「よかった」と一言。なおも1死一、三塁で、一塁走者がスタートをきると、相手捕手が二塁に送球。そのすきに三塁走者の菊池雄星投手(3年)が本塁に滑り込み、同点に追いついた。
その直後の八回表、チームメートが守備についても菊池投手がマウンドに姿を現さない。ハンカチを口に当て心配そうにうつむく母の加寿子さん(49)。父雄治さん(49)は「大丈夫」とつぶやいた。しかし、間もなく姿を見せると、球場全体から大きな拍手がわき起こった。
そして、1点を勝ち越された直後の八回裏、無死満塁の好機にこの日2安打の佐々木大樹選手(2年)が初球を強打。フェンスを直撃する走者一掃の中越え二塁打が飛び出し、ついに逆転。スタンドの熱気は最高潮に達し、父健一さん(48)は立ち上がり「うおー」と叫んだ。
3点リードで迎えた九回、菊池投手が最後の打者を三振に切って試合終了。スタンドは「よく頑張った」の大歓声に包まれた。
◇苦しいゲーム−−佐々木洋・花巻東監督
苦しいゲームだったが、(菊池)雄星は点を取られながらもしぶとく投げてくれた。野手陣もエラーもなく頑張った。皆成長した。終盤は「逆転の花巻」と言われる、うちの野球をしてくれた。
◇アルプス席は紫色
○…花巻東の生徒約350人は前日夕、バス10台で同校を出発。一塁アルプス席をスクールカラーの紫で染めた。この大会で応援するため、ポロシャツを白から紫に新調し、帽子も同じ色に。伊藤新也硬式野球部副部長は「甲子園は苦しい場面も出てくる。選手とスタンドの一体感を出したかった」と話す。スタンドもあきらめずに声援を送り続け、八回に逆転。1年生の浪岡小薫さんは「春の忘れ物を取りに行ってほしい」と期待を寄せた。
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■熱球軌
◇「挑戦者の気持ち忘れず」−−花巻東・川村悠真主将(3年)
九回2死1塁、菊池投手が最後の打者を三振に切ると、遊撃の川村悠真主将(3年)は握りしめた拳を胸の前に突き出した。
今春のセンバツで準優勝した後、選手の間に「自分たちは強いという慢心」や「圧勝しなければという重圧」が芽生えた。練習試合で気の抜けたプレーやミスが続出、格下にも負けや辛勝が続いた。
「センバツ後の3カ月間は悩み続けた。もう甲子園に行けないのではないかと思った」と川村主将は振り返る。7月の岩手大会決勝戦。春夏連続の甲子園出場を決めると、人目をはばからず泣いた。
重圧を乗り越えて迎えた夏の甲子園初戦。試合直前のミーティングで「相手は(センバツ優勝校の)清峰を破ったチーム。自分たちよりも強い。挑戦者の気持ちを忘れずに戦おう」と鼓舞した。
終盤でようやく逆転する厳しい試合展開に見えたが、「先行されても逆境を楽しむ余裕があった」という。その目からは、センバツ以降の苦悩は消えていた。
第91回全国高校野球:日大三2−0徳島北 足攻 日大三、無安打の1点
◇第4日(13日・阪神甲子園球場)
▽第2試合1回戦(午前11時5分開始)
徳島北(徳島)
000000000=0
00011000×=2
日大三(西東京)
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日大三が少ない好機を確実に得点に結び付けた。四回に敵失から無死二塁とするとバントで送り、日下の二ゴロの間に先制。五回は下位がつなぎ、籾山の適時打で1点を追加した。徳島北の左腕・阪本は落差のあるカーブを軸に好投したが、打線が零封された。
◇日大三・小倉全由監督
2ストライクになる前にもっと振るよう言ったが、阪本君がいいコースへ投げてきた。関谷は低めに集めてよく投げた。
◇徳島北・島一輝監督
阪本は素晴らしい立ち上がりだった。采配(さいはい)ミスで点を取れなかったのが悔しい。生徒は、できることをやってくれた。
◇スクイズ阻止
徳島北打線を完封した日大三の先発・関谷にとって、最大のピンチは四回1死三塁の場面。3球目のモーションに入ると、関谷は「打者がスクイズの構えに入るのが分かった」。慌てずにウエストし、三塁走者を挟殺でアウトにして切り抜けた。「とっさの判断がうまくいった」と関谷。その後はスライダーを主体に低めを突き、反撃機を与えなかった。だが、「まだ喜ぶ所ではない」とも。その目は、第83回大会以来、8年ぶりの全国制覇を見据えているようだ。
◇野球楽しむ
両チーム無得点の四回、徳島北の堀井が三塁まで進むと、ベンチから出たサインはスクイズ。打者・阪本は空振りし、挟まれてアウトになった。しかし、堀井は「すぐ点を取ってやる」とスクイズを失敗したエースの阪本を励ましたという。六回の次打席では右翼線二塁打を放って好機を作ったものの、得点には結びつかず零封負け。それでも、「楽しく野球をさせてもらった」と悔いはないようだった。
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■この一瞬
◇リードで投手に圧力
内外自在に投げ分けた徳島北の左腕エース阪本を打ちあぐねた日大三打線。勝利につながる一瞬のほころびを作ったのは、練習試合から徹底してきたある習慣だった。
四回、先頭の内山が敵失でチーム初出塁。ここで「普段通り」の行動に出る。「最初に塁に出た走者は、相手投手がどんなけん制球をするのかを仲間に見せなければいけないんです」。これまでの試合でも、最初の走者は塁に戻ることだけを考えながら大きめにリードを取り、けん制球を誘ってきた。内山もいつもより一歩分、余分に一塁から離れた。
この行動が阪本の心に小さな波を生む。三回まで走者を許さない完ぺきな投球だったが、この場面は「リードを狭くさせようと思って、球を置きにいってしまった」。けん制球は悪送球となり、内山が二進した。
続く角の犠打で1死三塁。「外野フライでも良かったから、楽な気持ちで打席に立った」という日下は、引っかけながらも二塁手の失策を誘い、無安打で先制の1点。これが決勝点となった。試合後、日下はつぶやいた。「悪送球をきっかけに内山が三塁に行ったのが大きかった」
「打てなくても、何とか崩したかった」と内山。わずか3安打での勝利。西東京大会で4割8分台のチーム打率を残した打撃力を発揮できない中、「足」で底力を見せつけた。
第91回全国高校野球:三重5−4熊本工 執念 三重、再三窮地しのぐ
◇第4日(13日・阪神甲子園球場)
▽第4試合1回戦(午後3時51分開始)
熊本工(熊本)
2001000010=4
3000000011=5
三重(三重)
(延長十回)
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三重は1点を追う九回、2死一塁から橋本の右中間を破る適時二塁打で追いつくと、延長十回、松田の左前打と送りバントで1死二塁とし、土井の左前適時打でサヨナラ勝ちした。熊本工は十回、2死三塁の好機をつかんだが、三重の遊撃・土井の好守に阻まれた。
◇三重・沖田展男監督
選手がそれぞれの役割を果たしてくれて、普段以上の力が出せた。三重県勢は10年連続初戦敗退だったので、勝ててうれしい。
◇熊本工・林幸義監督
序盤に野手が足を引っ張ったのに、月田はよく投げた。結果は仕方ない。選手が甲子園に連れて来てくれたことがうれしい。
◇「絶対に抑える」
同点に追いつかれた四回2死から登板し、粘り強い投球を見せた三重の牧田。九回に1点を失い、リードを許したが、周りは「絶対に点を取ってやる」と奮起。その言葉通りになり、「絶対にこれから抑えようと思った」。十回を無失点で切り抜けると、直後にサヨナラ。牧田はベンチの後ろで水分を取っていて見ておらず、「次は勝つ瞬間を見たい」と笑いながら悔やんでいた。
◇あと1死「限界」
九回、勝利まであと1死としながら、熊本工の2年生左腕、月田が力尽きた。2死一塁、橋本への3球目。外角狙いの速球が真ん中に入り、右中間に運ばれ追いつかれた。一回に2失策絡みで3点を失ったが、「皆、緊張しているのだから仕方ない」と気持ちを切り替え、八回まできっちり抑えてきた。九回の攻撃で勝ち越しの生還を果たしたその裏、「軸足に疲れが出てしまった」という。同点とされた直後、ベンチに「限界」と伝えて降板した。「体力不足で……。申し訳ない」と、これが最後となる3年生たちにわびた。
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■白球を追って
◇美技、延長サヨナラ打
小柄な土井が力いっぱい振り抜いた打球が、ナイター照明で光る左翼の芝に跳ねた。緊迫した接戦に決着をつけるサヨナラ打。駆け寄った三重の選手たちが土井の頭をポコポコたたき、手荒く勝利を祝った。
打席に入った時、土井の気持ちは高ぶっていた。直前の十回表の守り、2死三塁のピンチで、遊撃手の土井は熊本工・栗崎の痛烈な打球をダイビングキャッチ。一回に失点につながる失策を犯し、打撃でもそれまで4打席凡退していたが、その借りを返す好捕で重圧も取れた。「次の打席は思い切り振ってやる」。その意気込みが、腰をうまく回転させた好打を生んだ。
三重は九回にも窮地を脱していた。表に1死二、三塁から熊本工・後藤に右翼フェンス際へ大きな飛球を打たれたが、松田が懸命に追いついて犠飛にとどめ、最少失点でしのいだ。裏の攻撃では、主将の中村から「フルスイングしろよ」と送り出された橋本が、2死から延長戦へ持ち込む右中間適時二塁打。守備からリズムを作り、沖田監督が「いい球は(打ちに)行け。見ていても仕方ない」と指示した通りの攻撃を、土壇場で見事に体現した。
三重は前回出場の3年前、1回戦で熊本工に4−6で屈した。その時に出場したOBも宿舎を訪れて、甲子園での風向きや打球の見え方などを助言してくれたという。雪辱の思いにも後押しされ、三重県勢の長かったトンネルを晴れ晴れと抜けた。
第91回全国高校野球:智弁和歌山、初戦突破 エース快投、投手戦制す /和歌山
夏の甲子園第5日の14日、智弁和歌山は第1試合で滋賀代表・滋賀学園と対戦した。エース岡田俊哉投手(3年)が13奪三振、散発2安打に相手打線を抑えて完封、初出場の滋賀学園を2−0で降した。一塁側アルプススタンドに詰めかけた大応援団からは、初戦突破を祝う大きな拍手がわき起こった。2回戦は大会第9日の第3試合で南北海道代表の札幌第一と対戦する。
▽1回戦
智弁和歌山
001001000=2
000000000=0
滋賀学園
◇応援席も歓喜
ロースコアの投手戦だった。
智弁和歌山はまず三回に先制点を挙げた。1死で打席に入った大畑勇選手(3年)は、父充也さん(60)が「出塁してくれるか緊張する」と見守るなか、左前打で出塁。大声援に応えるように、盗塁を決めて二塁へ進んだ。次の岩佐戸龍選手(2年)も左越え二塁打を放ち、まず1点。息子の適時打に父隆寿さん(46)は「先制出来て良かった」と満面の笑顔。岩佐戸選手と吉元裕選手(2年)が在籍していた少年野球チームの直圭一郎君(12)らは「すごかった」と先輩の活躍に感激していた。
2点目は六回だった。先頭の西川遥輝選手(2年)は、6月の練習試合で左手を骨折、まだ痛みがとれていない。「塁に出ることだけを考えて打席に立った」。振り抜いたバットの感触は「完ぺき」。打球はセンターフェンスを直撃し、二塁に進んだ。西川選手が在籍していた少年野球チーム「西貴志ドリームズ」の選手らはメガホンを打ち鳴らし、吉田知城君(12)は「今日2本目のツーベースヒットですごい」と喜んだ。続く山本定寛選手(2年)の打球は大きな弧を描いてセンターへ。応援席からは「いったー」の声もあがったが、フェンス手前で打球は中堅手のグラブに。「惜しいー」のため息が漏れたものの、西川選手は三塁へ。続く岡田投手の左犠飛で、2点目が入った。岡田投手の父一起さん(41)は「これでだいぶ楽に投げられる」とほっとした表情。
2点のリードを守って迎えた九回、岡田投手は、連続三振で2死とした。相手4番打者を中前安打と失策で二塁に出したが、次の打者からこの試合13個目となる三振を奪い、試合終了。応援席は歓喜の声に包まれた。
◇自分たちの野球−−高嶋仁・智弁和歌山監督
相手も良かったが、自分たちらしい野球ができた。岡田(投手)は三振にこだわらず、チームを考えて投球したので、安心して見ることができた。選手は甲子園で成長してくれればと思う。
◇思い通りの戦い−−左向勇登・智弁和歌山主将
先制点を取って岡田で逃げ切る、というこのチームの戦いが出来て良かった。岡田は球が少し浮いていたし、打撃も力みがあったので、この試合で気持ちが慣れてくれればいい。
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◇監督最多勝利へ目標一歩−−左向勇登主将(3年)
三回に適時打を放った岩佐戸龍選手は次の打席、「もう一本打ったろ」と力んでいた。結果は三振。「気にすんな。次も頼むでー」と声をかけた。常に仲間に気を配る。
1年の時から「おまえしかおらん」と、将来主将になるように監督から言われていた。
2年の秋に新チーム発足と同時に主将になった。しかし、まもなく問題が発生した。
高嶋仁監督が体罰で3カ月の謹慎になったのだ。監督不在の練習を「なあなあにしやんとこ」と決意した。だが監督は、「いるだけで空気が違う」とチームメートが口をそろえる存在。「いる時と同じ状態に保つのは無理だった」。おまけに、選手としても調子がふるわない……。
監督がこだわっていた「07年夏からの5季連続の甲子園」。昨秋の近畿大会には、監督不在で出場した。士気を上げようと心がけたが、初戦敗退。「勝てなかったのはチームがまとまっていなかったから」。主将の責任を痛感した。
センバツに出られなかった分、今夏の甲子園に向けチームは一つになった。必要なのは共通の目標と気づいた。今の目標は、高嶋監督が春夏通算で甲子園最多勝利監督となる59勝までの「3勝」だ。この日、打席に立つことはなかったが、ベンチや三塁コーチスボックスでともに戦い、まずは1勝を達成した。
第91回全国高校野球:明桜、健闘「全力出した」 二木投手が完投166球 /秋田
◇延長劇的幕切れ、絶叫から大拍手へ
夏の甲子園に出場している明桜は、大会第6日の15日、初出場の日本航空石川(石川)との初戦に臨んだが、延長十二回、2−3でサヨナラ負けした。初回に2点を先制して流れを引き寄せ、エースの二木健投手(3年)も166球を完投。最後まで健闘した選手たちに、アルプス席から温かい拍手が送られた。
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▽2回戦
明桜
200000000000=2
000110000001=3
日本航空石川
(延長十二回)
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約1000人の応援団で埋まったアルプス席は初回から大歓声に包まれた。1死から加賀竜太主将(3年)が敵失で出塁すると、大塚湧輔選手(同)の右中間二塁打で二、三塁。ここで小番大輝選手(同)が左中間三塁打を放って2点を先制した。小番選手の母みゆきさん(45)はメガホンを鳴らして大喜び。「4番の役割をしっかりと果たしてほしい」という母の願いが通じた一打だった。
四、五回と暴投や失策が重なり同点にされたものの、アルプスは「かまへん、かまへん」。二木投手は六、八回を3者凡退に抑える力投。ストライクの度に「たける〜」「ナイスピッチング!」の声が飛び交った。
九回裏には1死三塁のピンチもしのぎ、延長に突入。ベンチでは加賀主将が「今までしっかり練習をしてきた。自分たちはできる」と仲間を鼓舞した。
そして十一回、1死二塁のチャンスが巡ってきた。打席には公式戦初出場の須田佑太朗選手(1年)。「いつでも出られるように準備していた。絶対に塁に出ようと思った」。アルプス席が総立ちで見守る中、中前打を放った。母あや子さん(49)は「1年生で打てると思わなかった。見ていてホッとした」とうれし涙。しかし、二、三塁の好機に後続が倒れ、勝ち越せない。
そしてチャンスの後にまさかの結末が待っていた。十二回裏、安打と失策で無死一、三塁。捕手の加賀主将のけん制球が大門丈太三塁手(3年)の頭上を越え、芝生を転がった。「あーっ」。スタンドに絶叫が響き、ため息に変わった。本間潤選手(3年)の父利貞さん(50)は「最高の親孝行をしてもらった」と声を詰まらせた。
最後の打者となった小番選手は「予想通りの接戦。みんなで全力でやったので悔いはない」。二木投手は「しっかり自分のピッチングができた。昨年は(秋田大会準決勝で)負けて泣いてしまった。今年は負けても最後まで堂々としていたい」と力強く話し、甲子園を後にした。
◇狙い球が絞れず−−田中亮・明桜監督
選手たちはよく頑張った。勝てる采配(さいはい)ができなかった私の責任だ。八回の好機は強攻策が裏目に出た。先発の二木は後半も球速が落ちず、良いピッチングだった。相手の継投策に狙い球が絞れなかった。
◇守備乱れ動揺した−−加賀竜太・明桜主将
点を取るチャンスはあったが、つぶしてしまった。今までエラーがなかったので、守備が乱れて動揺した。最後は焦りがあった。後輩には来年この場所に戻り、秋田県勢の連敗を止めてほしい。
◇埼玉から応援団
○…一塁側アルプスには、明桜ナインで唯一の県外出身者、高橋渉選手(2年)の父浩二さん(44)ら約20人の「応援団」が埼玉県から駆けつけた。明桜野球部OBの若林秀樹さん(40)もその一人。少年野球チームのコーチとして中学時代の高橋選手を指導し、明桜への進学を助言した。7番二塁手で夢の舞台に立った高橋選手のバットから快音は響かなかったが、若林さんは「大舞台で落ち着いてよく頑張った」。高橋選手は「来年もこの場に戻ってきます」と誓った。
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■熱球録
◇母の支えに「ありがとう」−−明桜(3年)大塚湧輔選手
初回に先制に絡む二塁打を放った大塚湧輔(ゆうすけ)選手(3年)が試合後に一礼した一塁側のアルプス席には母・加賀谷美紀さん(41)の姿があった。
大塚選手が2歳の時、両親が離婚し、東京を離れて母の故郷・秋田で暮らし始めた。かつて球児だった父毅人さん(44)からの遺伝か、80歳近くになった今も草野球を続ける祖父忠さんの影響か、小学4年で野球を始めた。夢はいつしか甲子園になった。
美紀さんは、大塚選手の名を冠したパン屋「WAKU」を実家の秋田市と自宅がある男鹿市で営む。定休日の日曜には、余ったパンやケーキを寮まで届けた。「(息子は)全然食べてくれなかったようだけど」と笑う。
初めての甲子園で先制点に絡む二塁打など2安打を放った大塚選手。延長十二回の第6打席では「力んでしまった」と遊ゴロに倒れ、出塁できなかった。「一生懸命やってきたので、勝ちたかったが」と言葉を濁したが、「母親にはここまで育ててきてくれてありがとうと言いたい」と、はにかんだ。
夢舞台を後にする息子に、美紀さんは「まずはよく頑張ったねと言いたい。今後もパンは寮に運ぶ予定です」。
第91回全国高校野球:寒川、逆転され1点差に涙 観客からは大きな拍手 /香川
夏の甲子園大会第6日の15日、春夏通じて甲子園初出場の寒川は日本文理(新潟)と第3試合で対戦。終盤に逆転され3−4と1点差に泣いた。初の夢舞台での健闘に、アルプススタンドの観客は総立ちになり、「ようやった」「ナイスゲーム」の声とともに大きな拍手を送り続けた。
日本文理
000001120=4
001002000=3
寒川
アルプススタンドで大応援団約2000人が見守る中、ゲームは始まった。先発の斉真輝投手(3年)は順調な立ち上がりを見せ、緊張した表情だった母恵美子さん(44)も「一安心」と笑顔になった。
試合が動いたのは三回。寒川は1死三塁で、打席に藤原大宜主将(3年)が入る。「いけー」と主将に期待が集まる。声援に応えるように左前打を放ち先制。甲子園での初得点にスタンドでは「よーし」と歓声が上がり、抱き合って喜ぶ姿も。昨年秋に亡くなった祖母の遺影を持って見守っていた藤原主将の父昭夫さん(49)は「自分の役割を果たしてくれた」と満足そうに話した。
五回の守備では本塁打かと思われた大きな当たりを岩田修治中堅手(2年)がフェンスにぶつかりながら好捕。大勢の人から「ナイスプレー」と称賛する声が飛び交った。
同点に追いつかれた六回、大城戸匠理選手(3年)の中越え適時二塁打で勝ち越し。母純子さん(50)は「そろそろ打ってくれると思っていた。まだまだ物足りない」と更なる得点を期待。続く高橋卓也選手(3年)の中前打で1点を追加すると、スタンドの野球部員らは駆け寄り、頭上にかかげたメガホンをたたき合って喜んだ。
しかし、八回に逆転され好機を作れずに九回の攻撃を迎えた。応援団長の木村美優嗣君(3年)も「逆転してくれる」と信じ、声援を送ったが、得点することができず試合終了。アルプススタンドの前に整列しあいさつする選手たちを惜しみない拍手が包んだ。
◇藤井高吹奏楽部のOBら32人も応援−−寒川
○…応援を盛り上げようと、寒川の系列校藤井高の吹奏楽部からOBを含む32人が助っ人に。寒川の吹奏楽部員は21人。大きな甲子園には人数が足りないと「応援の応援」を依頼した。10日前からの合同練習のかいがあり、呼吸はばっちり。軽快なリズムが球場に響いた。藤井の吹奏楽部の大城沙貴部長(17)は「藤井は地方大会の初戦で負けたけど、寒川が甲子園に連れてきてくれた。『一音入魂』で演奏します」と話していた。
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◇甲子園最高に良かった−−秋山選手
三回、犠打を決めたが、この日は途中交代。「もっと甲子園でみんなとプレーしたかった」。チームが負けた悔しさに、涙を見せた。
2年の春、宮武学監督の指示で内野手から外野手に。「内野はクビか」とレギュラーをあきらめかけた。夏の大会前、1学年上の先輩も内野から外野に変わり、控え選手に。その先輩は昨夏の香川大会で最後の打者になった。「お前はあきらめんと頑張れ」と励まされた。「レギュラーになる」と心に誓った。
外野では、当初、飛球の落下地点が分からず、苦労した。「打球判断が悪い」。練習後も自主的にノックを受けた。出場していない試合でも、「後ろか、前か」と打球を見つめた。
2年の秋季大会は控え。先輩は「レギュラーになれそうか」と心配してくれた。「頑張らんといかん」。奮起した。自由時間のほとんどを打撃練習に費やした。春季大会でレギュラーをつかんだ。
「負けたけど、甲子園のグラウンドは、最高に気持ちよかった」と泣きながら笑った。
第91回全国高校野球:立正大淞南1−0華陵 立正大淞南、夢中の劇弾
◇第6日(15日・阪神甲子園球場)
▽第4試合2回戦(午後4時20分開始)
華陵(山口)
000000000=0
000000001=1
立正大淞南(島根)
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両チーム無得点の九回1死、立正大淞南の後藤が左越えのサヨナラソロを放って投手戦に決着を付けた。先発・崎田は140キロ台の直球を内外角に投げ分け、5安打完封。華陵は得点圏に走者を送った四回と九回の好機を生かせず、安達を援護できなかった。
◇立正大淞南・太田充監督
子供たちの力に驚かされるばかり。(初出場だが)彼らはあまり緊張していなかった。練習で磨いた堅い守りが勝因。
◇華陵・大浪定之監督
こんな幕切れは、このチームでは初めて。悔いの残る1球だろうが、(捕手の)森川の配球で打たれたのならば仕方ない。
◇二盗阻止で援護
立正大淞南の捕手・成田は、三回と七回の2度、相手が試みた二塁盗塁を鋭い送球で刺し、マウンドの崎田をもり立てた。島根大会では投げ急ぎ、1度しか盗塁を刺せない不調。甲子園に入って「ノックやキャッチボールでもしっかり球を握ろう」と意識したのが生きた。
◇「入るな」
九回表にファインプレーをした立正大淞南の後藤を打席に迎え、華陵の安達は「守備で活躍した選手が直後に打つことが多い」と気を付けたという。しかし、2球目の速球が甘く浮いた。後藤が振り抜いた打球はレフトへ。「入るな」と願ったがサヨナラ本塁打。「申し訳ない」と話したが、そのうつろな表情はまだ実感がわいていないようだった。
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■この一瞬
◇サヨナラに手応え 九回美技「気持ち乗った」
手応えは十分だったが、そこからは夢中でよく覚えていない。九回1死。打球が、低い弾道で左翼フェンスを越えても、立正大淞南の後藤は、「サヨナラには気付かなかった」という。ただ、心地いい感触が試合後もしっかりとその手に残っていた。
序盤から、先発の崎田が140キロ超の速球と緩いカーブを織り交ぜて、スコアボードにゼロを並べた。だが、打線も打ちあぐねた。後藤も、四、六回といずれも得点圏に走者を置きながら華陵・安達のスライダーにやられていた。無得点のまま九回を迎え、後藤は「正直、重苦しい雰囲気だった」と明かす。
その停滞ムードを、一つの判断が払しょくした。九回表、1死二塁。華陵・末冨の打球が左翼ライン際を襲った。崎田は「(捕球は)無理だろうと思った」という。だが、後藤が芝生に倒れこむように飛び込むと、しっかりと打球をつかんでいた。「(崎田)聖羅(みら)は球が速いし、相手は左打者。打球は切れると思った」と後藤。独断で、定位置よりも1メートルほどライン際を守っていたのだ。守備で崎田を援護し、「あれで気持ちが乗った」。その裏の打席、「とにかくフルスイングする」ことだけに集中できた結果が、試合を決める一発だった。
「うちはゼロにこだわっている。10−9の勝利よりも、1−0が理想」と太田監督。緊迫した試合。理想とする「守りの野球」を貫いた初出場校が、最後の最後に笑った。
第91回全国高校野球:東農大二2−1青森山田 東農大二「17番」決勝打
◇第7日(16日・阪神甲子園球場)
▽第1試合2回戦(午前8時30分開始)
東農大二(群馬)
0100000001=2
0010000000=1
青森山田(青森)
(延長十回)
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東農大二が延長戦を制した。十回に先頭の青木が右前打。バントで送り、緋田が左前へうまく運んで決勝点を奪った。左腕・加藤は中盤から緩急を使った配球に切り替えて的を絞らせず、1失点で完投。青森山田は継投へ持ち込む時機を逸したのが痛かった。
◇東農大二・加藤秀隆監督
群馬大会から接戦が多く、延長に入った時も負けないと思っていた。加藤は相手のタイミングをうまくそらしていた。
◇青森山田・渋谷良弥監督
井上は粘り強く投げた。2失点は責められない。狙い球などの指示が徹底できず、1点しか取らせてやれなかった私の責任。
◇押すタイプ改め奏功
延長十回を投げ抜いた東農大二の加藤は「後ろを信じて投げ抜くことができた」と満足そうな表情。120キロ台の直球に100キロ台の変化球を織り交ぜ、青森山田打線を手玉に取った。もともとは最速135キロの直球で押すタイプ。昨秋に背番号1を背負ってから、「力を抜いて投げれば、一人で投げ抜くことができる」と、エースの責任を果たすためにスタイルを変更した。甲子園での好投で「このスタイルを崩さずにいける」と自信をつかんだようだった。
◇悔やみきれぬ失投
接戦の重圧が、延長に入り青森山田の先発・井上にのしかかった。十回に勝ち越し打を許した球を、「アウトコースを狙ったが甘く入った。ストライクが欲しくて力が入った」と悔やんだ。先制された後の三回以降はテンポが良くなって四死球を許さず、八回は1死二塁のピンチを背負ってから球威が増して後続を断った。「中盤からは普段の投げ方ができた。だからこそ最後まで抑えたかった」と、わずかな乱れで逃した勝利に、あきらめきれない様子だった。
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■白球を追って
◇東農大二「17番」決勝打 遼と一緒のラウンド経験生かす?
背番号17の3番打者が試合を決めた。
1−1の延長十回1死二塁、東農大二の緋田(あけだ)は「町田さんにつなぐだけ」と左打席に向かった。4番に回そうと集中したことですべて内野ゴロだった前の4打席は忘れ、右肩が早く開く悪い癖の修正もできた。真ん中高めの直球を左翼にはじき返し、一塁塁上で控えめなガッツポーズをみせた。
背番号が17なのは「緋田は来年もある」と1けたの番号を3年生に与えた加藤監督の温情だ。今春の県大会、関東大会は右肩のけがでベンチ入りできなかった本人は「試合に出られれば」と背中の数字を気にしていない。
故障が癒え、夏に入ると3番打者に定着。加藤監督は「当てるのがうまい」と話し、緋田が野球と並行して小学2年から中学まで取り組んだゴルフの好影響があるとみる。あの石川遼とのラウンド経験もあるという。
「甲子園に来てまた一皮むけた」とは町田主将の評。次戦の「17番」にも期待がもてそうだ。
第91回全国高校野球:常葉橘7−6高知 常葉橘、土壇場の強肩
◇第8日(17日・阪神甲子園球場)
▽第1試合2回戦(午前8時30分開始)
高知(高知)
000100320=6
03000400×=7
常葉橘(静岡)
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終盤に追い上げられた常葉橘が好守で逃げ切った。八回は捕手・牛場、九回は外野からの中継プレーで打者走者の進塁を阻み、エース庄司のピンチを救った。打順組み替えは奏功し、中盤までに大量リード。高知は打線が粘りを発揮したが、先発・公文の不調が響いた。
◇常葉橘・黒沢学監督
バントをあまり選択しなかったのは、前半に各打者の球の見送り方がいい、と感じたから。打線がつながり、攻撃的にいけた。
◇高知・島田達二監督
後半勝負と思った通りの展開にはなったが、取られた点が大き過ぎた。二回に9番に打たれ、2点を追加されたのが痛かった。
◇「後悔はない」
左中間へ放った打球の行方を二塁手前で見た高知の池知に迷いはなかった。1点を追う九回1死、「(常葉橘の庄司は)暴投が多かったので、三塁まで行けば、厳しいコースを攻められなくなる」。制止する三塁コーチも見えたが、ヘッドスライディング。判定はアウト。倒れ込んだまま地面をたたき、ベンチで泣き崩れた。試合後、「後悔はない」と話した2年生の池知を、主将・木下は「気持ちで攻める野球を目指してきたから仕方ない。相手がうまかった」とねぎらった。
◇打順入れ替え奏功
常葉橘は、中軸の打順を1回戦と入れ替えたのも奏功。得点した二回と六回はいずれも、先頭の4番・牛場、続く5番・川口の連打から好機を築いた。5番から静岡大会と同じ4番に戻った牛場が「役割はあまり変わらない」と冷静に甘い球を見極めて打てば、初戦は4番で無安打だった川口は「打ってやろうという気持ちでなく、つなぐ意識で打席に立てた」と平常心に。黒沢監督の「この1週間の練習を見て決めた」という判断が、選手の力を引き出した。
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■白球を追って
◇高知、三塁狙い逸機
打球が転がった左中間から三塁に向けて形成された一本のラインが、終盤に打ち込まれた常葉橘のエース・庄司を救った。
九回1死、高知の1番・池知の打球が左中間を破った。ボールを追った中堅の山岸、遊撃の稲角はともに「普通なら二塁打」と思ったが、池知は俊足を飛ばし、二塁をけった。セーフなら流れが大きく傾く。
打たれた庄司は「頭が真っ白だった」が、2人は慌てなかった。山岸は「強肩の稲角まで投げれば大丈夫」。素早い動作で返球すると、「甲子園は左中間が広いから、深めに追いかけていた」という稲角が三塁へ遠投。ストライク返球で池知を刺し、「1死三塁の危機」を「2死走者なし」に変えた。
二回、同じように左翼を襲う打球を放った高知・公文を、中継プレーで三塁で刺した。だが、この時は外野から稲角への返球が大きくそれ、カバーに入った二塁手・小泉が助けた。稲角はベンチに戻ると、「抜かれたらカットまで正確に」と外野手にもう一度確認した。その意思統一が、土壇場で生きた。
学校のグラウンドは手狭で、普段の練習では「中継ラインの作り方の確認くらいしかできなかった」と黒沢監督は話す。甲子園入りしてからは、近隣の球場で中継の練習に時間を割いてきた。「この1週間の練習の成果で勝てた」と振り返った小泉。甲子園2勝目は、選手が日々成長を遂げている証しでもある。
第91回全国高校野球:長野日大、3年生が頑張った 逆転勝ちに歓喜 /長野
◇校歌歌う生徒ら笑顔
夏の甲子園に出場している長野日大は大会第8日の17日、天理(奈良)との2回戦に臨み、7−6で競り勝った。3年ぶり24回目出場の強豪を相手に、先発の加藤幸宏投手(2年)が四回で降板する苦しい展開となったが、1点を追う七回に逆転し、逃げ切った。次は20日予定の大会第11日第2試合で中京大中京(愛知)と対戦する。
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▽2回戦第2試合
長野日大 000202201=7
天理 101300001=6
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九回裏2死一、三塁。同点、そして逆転の走者を抱えた佐藤丞投手(3年)が相手打者を左飛に打ち取ると、アルプスの野球部員たちは重なるように抱き合った。飯島奨吾君(3年)が「本当に3年生が頑張った」とかれた声で語る通りの展開だった。
先発は加藤幸宏投手(2年)。作新学院(栃木)戦で本来の投球ができず、「前の分も取り返す投球をしたい」と試合前に話したが、この日も苦しい立ち上がりとなった。初回、2番から4者連続四死球で押し出し、1点を先制される。「初戦でも四死球が多かった。緊張しているのかな」と母の貴久江さん(45)は不安そう。三回にも長短打で1点を失った。
反撃は四回。北沢哲選手(3年)のスクイズと小林聡選手(同)の右翼線への適時二塁打で同点に。しかしその裏、3本の適時打を浴び、加藤投手はこの回で降板。「エースとしての役割を果たせなかった」と試合後に涙を見せた。
五回から登板した西山尊徳投手(同)は、いきなり2死満塁のピンチ。遊ゴロで切り抜けると、六回にチャンスが待っていた。2死から伊藤剛主将(同)が四球で出塁。甲子園に来て調子を上げてきた北沢選手が右中間にフェンス直撃の適時三塁打を、本藤昇吾選手(同)が中前適時打を放って1点差に迫り、アルプス席は追い上げムードに。
そして七回、代打の赤羽武紘選手(2年)が「とにかく塁に出よう」とカーブを右前にはじき返した。四死球などで2死満塁と攻めると、打席には北沢選手。右前に逆転の2点適時打を放ち、アルプス席で「祈る気持ち」で見守っていた姉の麻紗子さん(22)は目を潤ませ、周囲と喜びを分かち合った。
七回から3番手の佐藤丞投手が登板すると、母公恵さん(44)は「もうどきどき」。九回に1点を失ったが、後続を断って接戦をものにすると、アルプス席は校歌を歌う生徒や保護者らの笑顔で満ちあふれた。
◇よく攻めてくれた−−中原英孝・長野日大監督
3点差で負けていた時も我慢比べだと言い聞かせ、強気で攻めろと言い続けた。生徒たちはよく攻めてくれた。北沢は長野大会で不振だったが、この大舞台で打ってくれて本当にうれしい。
◇粘り強く戦えた−−伊藤剛・長野日大主将
後半は粘り強く戦えた。五回終了後、監督から「こんな野球を3年間やってきたのか」と怒られ、変われた。けがで欠場した選手をカバーしようという天理の強い気持ちに負けないようにと思った。
◇兄「不敗神話」続く
○…一塁側アルプスでは、安富穂澄選手(3年)の兄で長野日大OBの郁勇さん(27)が声援を送った。郁勇さんは「不敗神話」の持ち主。安富選手が小学4年で野球を始めて以来、応援に駆けつけた試合はすべて勝っているという。甲子園でも神話は健在で、11日の作新学院(栃木)戦も見事に勝利した。この日午前4時に地元を出発した郁勇さんは「きょうも負けないだろう。悔いの残らないプレーをしてほしい」とエールを送った。
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■球音
◇勝負強い陰の大スター−−本藤昇吾一塁手(3年)
「あいつは本当に勝負強い。陰の大スターだよ」。中原英孝監督は、こう評する。
昨春のセンバツで2年生ながら登録変更最終日にメンバー入りした。試合には出なかったが、「うれしかったし、自分たちの代にも甲子園を経験しようと思った」と話す。
しかし、その年の夏は不調が続いた。「打てないし、スタミナが無かった」。スタンドで見守る父久義さん(47)も「相当苦しんでいた」と話す。その一方、自分で何とか打開しようという気持ちは忘れなかった。
冬から筋力強化に取り組み、1日1000スイングの素振りなどを自らに課した。次第に体の軸がしっかりし、3月の関西遠征では初めて本塁打を放った。チームの首位打者にもなり、自信を持つきっかけになった。
「6番の仕事は2死で走者を還すこと」と考えている。天理戦も九回2死からチームを勝利に導く7点目をたたき出すなど3安打2打点。「仕事ができた。3回戦も粘り強い野球をして勝ちたい」と笑顔を見せた。
天理あと1点 不運に勝てず…夏の甲子園第8日
◆第91回全国高校野球選手権大会第8日 ▽2回戦 天理6―7長野日大(17日・甲子園) 優勝候補の一角、天理(奈良)は、開幕直前に部員が新型インフルエンザに感染し、2回戦の前には正捕手・大西康太(3年)が顔面骨折で入院するなど、度重なるあアクシデントを乗り越えられず、長野日大(長野)に1点差で敗れた。
不運ばかりの夏が終わった。9回の反撃は1点止まり。負傷離脱した大西に白星を贈れなかった。「穴を感じさせないようにしたけど、大西の必要性を感じた」。徳山靖主将らナインが泣き崩れた。
正捕手の大西が、15日の練習中に送球を左目付近に受け、左ほおを骨折。3時間10分の手術を受けた。7月末には主力2人を含むベンチ入り選手5人が、新型インフルエンザに感染した。
「ベスト8に進んで、国体で大西ともう一度、野球をやろう」が合言葉になった。背番号2のユニホームとミットをベンチに入れた。代役の波多野優はマネジャーが作った大西のお守りを、首にかけて試合に出た。
度重なるアクシデントで、むしろチームは結束したが、県大会で3本の満塁弾を放った5番打者の不在は大きかった。「康太のおかげで甲子園に連れてきてもらった。申しわけない」。3安打のリードオフマン、原田拓実はナインの気持ちを代弁した。不完全燃焼のまま、優勝候補が姿を消した。
第91回全国高校野球:中京大中京、関学に競り勝つ 九回裏、河合が本塁打 /愛知
夏の甲子園第8日の17日、中京大中京(愛知)は第3試合で関西学院(兵庫)と対戦した。1点を追うシーソーゲームだったが、河合完治三塁手(3年)が九回裏にサヨナラ本塁打を放ち、3回戦進出を決めた。中京大中京は大会第11日の20日、第2試合で、ベスト8をかけて長野日大(長野)と対戦する。
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▽2回戦第3試合
関西学院 002010001=4
中京大中京 200001101=5
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最終回にドラマは待っていた。九回裏。河合完治選手の鋭い打球は、外野席へ勢い良く飛び込んだ。「よしっ」「やったー」。アルプス席は総立ちで喜びを爆発させた。
初回、この日18回目の誕生日を迎えた堂林翔太投手(3年)が2点適時2塁打を放って先制。応援団長の渡辺智也君(3年)は「さすが4番。勝利とともに誕生日を祝います」。だが、この後、なかなか波に乗れない。先発の森本隼平投手(2年)からエース・堂林投手につないだが、地元・関西学院を応援する大歓声にのみ込まれるかのように押し出しの四球で勝ち越しを許した。吹奏楽部の稲川祥子部長(2年)は「関西学院より大きな応援をしないと」と気合を入れ直した。
七回2死二塁から磯村嘉孝選手(2年)が勝ち越しの適時打。母淳子さん(48)は「1回戦は無安打。チームの役に立てて本当に良かった。まだまだここでは負けられない」。
試合後、「苦しい試合をものにしないと日本一にはなれないとわかった」と河合選手。スタンドで声援を送った元マネジャーの榊原裕菜さん(20)は「愛知大会は楽な試合ばかりだったので、厳しさを経験できるいい試合だった。次の試合も頼んだよ」とエールを送った。
◇河合がよく打った−−大藤敏行・中京大中京監督
投手の交代が遅れるなど下手な采配(さいはい)で選手にプレッシャーを与えた。最後は河合がよく打ってくれた。入ったのか分からなかったが、相手の選手がしゃがみ込んだので終わったと思った。
◇後半食らいついた−−山中渉伍・中京大中京主将
最後は河合がよく決めてくれた。前半はミスがあり、空回りしていた。後半は修正して何とか食らいついていけた。
◇じゃんけん8連勝
○…先攻・後攻を決める試合前のじゃんけんで山中渉伍主将(3年)は愛知大会の初戦から負けなしだ。この日も勝って驚異の8連勝。コツは「その日の気分で出すこと」とか。「守備からリズムを作る持ち味が出せる」と基本的に後攻を選んできた。この試合も堅守で失点を最少限に食い止め、サヨナラ勝利に結びつけた。
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■熱球譜
◇同点打で流れ呼び込む−−岩月宥磨選手=中京大中京(2年)
六回2死一、二塁。2ストライクからの低めの変化球をたたいた。「抜けろ」。バットの先に当たった打球は左翼前へ抜ける同点打に。関西学院に傾く流れを、ワンプレーで引き戻した。
「何とかなる」との思いはあった。打席に入ると、四球で出塁していた同じ2年生の磯村嘉孝捕手と目が合った。「絶対還るからな」という強い思いが伝わってきた。
愛知大会では背番号17だったが、50メートル6秒の俊足を生かした守備範囲の広さを買われ、背番号8をもらった。初戦ではその俊足を生かして、一回2死三塁のピンチの場面でファインプレー。悪い流れを断ち切った。この日の守備でも、九回2死満塁の一打逆転のピンチで、飛んできた打球を冷静にキャッチ。大藤敏行監督は「あいつは春のセンバツでも決勝打を打った。今回もよくやっている」。
苦しい試合の後、岩月選手は「大会の中では苦しい試合がある、と大藤監督に言われてきたが、今日がまさにその日だった。これを乗り越えて、チームにも勢いがつくと思う」。2度目の甲子園で、さらなる進化を誓った。
第91回全国高校野球:東北3−2日大三 東北、もぎ取った決勝点
◇第9日(18日・阪神甲子園球場)
▽第1試合2回戦(午前9時30分開始)
東北(宮城)
200000001=3
001100000=2
日大三(西東京)
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九回にようやく1点を勝ち越した東北が接戦を制した。九回1死から大庭の三塁打と続く篠塚の中犠飛で決勝点。佐藤は12奪三振の好投を見せた。日大三は四回に吉沢の中前適時打で3点目のホームを狙った内山が刺されるなど、好機を生かし切れなかった。
◇東北・我妻敏監督
負ける時は大差、勝つ時は接戦と、選手には言っていた。日大三は威圧感があり、勝ったことが信じられない。佐藤が粘った。
◇日大三・小倉全由監督
関谷はよく立ち直ったと思う。打者にはとにかく振れと言っていたが、追い込まれてからの変化球が、低めに決まっていた。
◇強肩
1点を追う日大三の四回1死二、三塁。吉沢の打球が二遊間を破り、逆転の二塁走者も三塁を回った時、東北の捕手・薗部は「ラッキー」と思った。中堅の佐野は遠投約110メートルでチーム一の強肩。あえて二遊間を少し空けて佐野に本塁で刺すことを狙わせていたからだ。返球がノーバウンドで届き、アウト。九回も右中間後方の飛球を好捕した佐野は「守りでリズムを作れた」。しかし、3失策した内野陣を「思い切って守らないと」と叱咤(しった)することも忘れなかった。
◇自分のせいで…
「みんなに申し訳ない」。日大三の主戦・関谷は悔しがった。一回、不安定な立ち上がりを攻められ2失点。その後は立ち直ったものの、九回1死三塁から「ゴロを打たそうと思った」というシンカーが甘く浮いて、決勝の犠飛を許した。投球とともに悔やんだのが、八回1死一、三塁の勝ち越し機に失敗したスリーバントスクイズ。「転がせる球だった。自分のせいで負けました」と肩を落とした。
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■この一瞬
◇思い切り振ってこい 土壇場、ミス吹っ切る
今度はスクイズではなかった。試合を決めた東北の篠塚。九回1死三塁の状況で、スクイズも頭をよぎったが、我妻監督には「思い切り振ってこい」と送り出された。高めに浮いた無回転の変化球をフルスイングして、犠牲フライで勝ち越し点をもぎ取った。二回に2度セーフティースクイズを失敗したぎこちなさは、東北ナインから消えていた。
両チームとも序盤はらしからぬプレーが続いた。日大三は一回、東北・菊地の送りバントを捕手がお手玉。無死一、三塁から国島がスクイズを決めると、二塁手の一塁ベースカバーが遅れ、安打にしてしまう。菊地の足を警戒しすぎたのだ。一方の東北は2点を先取した一回に続き、二回も先頭の大庭が三塁打を放ったが無得点。1回戦完封の日大三・関谷から連打は望めないという意識が強すぎた。「どっしりとやれ」。我妻監督の声がダッグアウトに響いた。
「相手をみてやってしまった」(小倉監督)という呪縛から中盤以降は徐々に解かれた両チーム。東北は右腕・佐藤が調子を上げ、中堅・佐野らの好守備も出て、最後の勝ち越しを呼び込んだ。
東北は宮城大会6試合で、2度のコールド試合以外は最高でも4得点。点を欲しがるあまり、機動力偏重に陥っていたが、土壇場で思い切りの良さを取り戻した。攻撃の形が整ったところで、注目左腕・菊池雄を擁する花巻東との3回戦に挑む。
第91回全国高校野球:智弁和歌山8−5札幌第一 智弁和歌山、意地の逆転
◇第9日(18日・阪神甲子園球場)
▽第3試合2回戦(午後2時40分開始)
智弁和歌山(和歌山)
002000204=8
021200000=5
札幌第一(南北海道)
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智弁和歌山が逆転勝ち。1点を追う九回、喜多の二塁打で追いつき、西川の右翼線2点二塁打で勝ち越した。岡田は五回以降は1安打無失点で完投。札幌第一は三回に富田、四回は畑の適時打が出て、一時は3点をリードしたが、終盤に投手陣がつかまった。
◇智弁和歌山・高嶋仁監督
(勝ち越し打の)西川はやってくれると思った。岡田は序盤、体が軽くて球が浮いたようだ。修正できたのは彼の進歩。
◇札幌第一・菊池雄人監督
負けたという事実が本当に悔しい。公式戦で出るミスは受け止めないといけない。(敗因は)誰がどうというのはない。
◇岡田ミス「混乱させた」
和歌山大会から4試合連続で完封していた智弁和歌山・岡田が、自らのミスをきっかけに失点した。二回無死一塁、札幌第一・富田の投前バントを二塁へ送球したが高くそれ、犠打野選に。「一番経験がある僕のミスで、みんなを混乱させた」。守備の乱れが伝染し、この回2失点。その後も失策が相次ぎ、四回までに計5点を失った。しかし五回以降、打ち気をそらす投球でチームにリズムを呼び込んだ。「負けるとは思っていなかった。打って勝つ、本来の智弁和歌山らしくなってきたのでは……」
◇ノーバウンド補殺
札幌第一の中堅・矢田のバックホームはノーバウンドで捕手・松浦が投球のように捕球してタッチアウト。後続も倒れ、七回の智弁和歌山の反撃を2点にとどめた。遠投100メートルの強肩を生かしてダイレクト送球を練習してきた成果だ。ただ、7年前の初出場で敗れた相手にまたも苦杯。「相手の勝ちたい気持ちが上だった」とうつむいた。
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■この一瞬
◇監督を男にしたい 智弁和歌山、意地の逆転−−九回、選手に懸けた
ダッグアウト前に立ったまま、じっと戦況を見つめていた。九回1死満塁、智弁和歌山・西川の打球が右翼線に落ち、選手もスタンドも逆転に沸いた。喧騒(けんそう)の中でも、高嶋監督は姿勢を変えなかった。
3点を追う七回に犯した一つの采配(さいはい)ミスが、結果的に「吉」と出た。1死一、三塁の場面から2人続けて3年生を代打に送った。三宅が敵失を誘って反撃の口火を切り、左向が中前適時打で続いて1点差に迫った。だが、「本当は三宅の次に喜多を送るつもりだったが、忘れていた」と高嶋監督。仕方なく、その裏の守備から三塁に入った喜多も3年生。「(代打の)準備はしていた。監督にはよくあること」。九回、その喜多が同点の適時二塁打を左中間に運び、勝ち越しのホームも踏んだ。
序盤から、「負けパターンだった」と高嶋監督。先発・岡田の制球が甘く、守備も乱れて四回までに5失点を喫した。「監督の(通算勝利の)こともあるし、大事にいこうとし過ぎてしまった」と捕手の平野。目に見えない重圧が硬さを生んでいた。だからこそ、「(終盤は)3年生の意地に懸けようと思った」。その判断に狂いはなかった。
試合中、平野が「監督を男にしようと声を上げると、ベンチが熱くなった」と言う。「(記録は)僕がどうこうできることではない。選手たちに感謝しないとね」と高嶋監督。築いてきた栄光は、選手との信頼関係の上に成り立っている。
*** 以上、記事より ***
序盤から接戦続きで、ハラハラどきどきびっくりの連続でした。
一応接戦、大逆転の記事は拾えたはず……。あ、あと2日連続ノーゲームの試合とかも。
インフルの影響も微妙に影を落としていて、ちょっと心配です。
2009.08/07 [Fri]
09夏・甲子園展望
4強軸に熱戦 49代表戦力分析
第91回大会が8日から15日間、阪神甲子園球場で開かれる。全国の49代表校が深紅の優勝旗を目指して戦う。地方大会では今年も4千を超える参加校が熱戦を繰り広げた。取材にあたった4本社スポーツグループの記者が、代表校の戦力をさぐった。
■頂点有力 群抜く帝京・PL・日大三
A 今年はどこが強いのかな。
C 帝京が高いレベルに仕上がっている。東東京大会の決勝は全員の25安打で24得点。背番号も、打順も関係ない。
B エースの平原は選抜優勝投手の清峰・今村みたいな感じ。ここぞというときにギアチェンジができる。ほかにも投手が4人いて、みんな140キロ台の球威がある。前田監督も手応えを感じている。
D 選抜準優勝の花巻東はどうだろう。
C 最速152キロ左腕の菊池雄は高校生の中に1人、プロがいる感じ。計り知れない重圧の中で甲子園に戻ってきたのはさすがだ。
A ただ、菊池頼みの感は否めない。2番手以降の投手の育成は不十分。猿川ら攻撃陣の援護と、菊池のスタミナがカギになる。
B 総合力ではPL学園を推したい。大阪大会の最後は4連戦だったが、決勝は10―0で完勝した。チームで12本塁打。一発攻勢は帝京をしのぐ。
E 確かに、選抜で4番を打った勧野がメンバーから外れ、左腕の中野が故障していても勝った。投打に軸がいた選抜と違い、切れ目のない打線が、井上、難波の左右の二枚看板をもり立てるチームに変貌(へんぼう)している。
C 打線なら日大三も負けていない。西東京大会で2ケタ得点が5試合。チーム打率は4割8分8厘。日下、吉田の上位打線は全国でもトップクラスだ。
B カギは右腕関谷。制球力重視で臨むことが勝ち上がるには欠かせない。
A これが4強、かな。
D 興南にも注目したい。昨秋から九州・沖縄では最も安定した成績を残している。選抜で1試合19三振を奪った左腕島袋は、制球力に磨きがかかった。
B 酷暑に耐えるスタミナもついたようだ。1番の山元をはじめ、打線が奮起すれば簡単には負けない。
E 中京大中京も頂点を狙えるだろう。故障明けの右腕堂林が復調気配。選抜出場校でトップだったチーム打率もさらに上がり、選抜の8強からレベルアップした。
A 「4強プラス2」が大会を引っ張る構図かな。
■迫る8校 経験は明豊・智弁和歌山
C 夏の甲子園を勝ち抜くには連戦での調整法を考えたり、浜風などの気象条件を把握したり、経験がものを言う。その点、春夏連続出場の明豊は、この4季で3回目の甲子園。これまでに名前の挙がった6校に迫る力があると思う。
D 右腕今宮は140キロ後半の直球に変化球も多彩。打っても大分大会で打率5割、3本塁打と野球センス抜群だ。左腕の野口も成長した。今春の選抜大会で敗れた花巻東に雪辱を、とチームの士気も高い。
B 経験では智弁和歌山も匹敵する。5年連続出場。エース岡田は1年の夏から甲子園のマウンドを踏んでいる。例年のような打力はないけど、和歌山大会5試合で失策3と守り勝ってきた。
A 九州国際大付も若生監督が東北時代の85回大会(03年)にダルビッシュ(現日本ハム)を擁して準優勝。今春の九州大会優勝校でもあり、27年ぶりとはいえ侮れない。福岡大会7試合で12本塁打の長打力は脅威だ。
D 花巻東の菊池雄ばかり注目されているけど、力のある右腕投手もいるね。
C 常葉橘の庄司は最速147キロ。静岡大会では準々決勝から決勝まで3日連続で完投し、スタミナも心配ない。昨夏準優勝の常葉菊川と同じ学校法人で、再び「常葉旋風」が甲子園を席巻するかもしれない。
B 西条の秋山も最速150キロ。常時140キロ中盤をたたき出し、選抜から一回り成長した印象だ。長崎日大の大瀬良は186センチの長身から投げおろす。好調時、低めに決まる直球には威力がある。長崎大会の準々決勝では選抜優勝の清峰を1点に抑え、今村に投げ勝った。
E 常連校の戦いぶりにも注目したい。常総学院は木内監督が復帰して2回目の夏になる。
C 戦後初の茨城大会4連覇を達成した。選手を知り尽くしてこそ本領を発揮するのが「木内マジック」だが、復帰してまもなく2年になり、方針が次第にチームに浸透してきた。
B 天理も試合巧者だけど、部員の多くが新型インフルエンザに感染したのが気がかり。万全な体調で試合に臨んでほしい。
■実力注目 敦賀気比・酒田南の投手光る
A 今大会は好左腕が多いのが特徴と言われるが、菊池雄以外の注目株は誰かな。
C 敦賀気比の山田、酒田南の安井は、地方大会を1人で投げ抜いてきた。山田はここにきて球威が増してきた。しっかり内外角にも投げ分けられる。安井は球種も豊富で腕の振りが鋭い。緩急の使い方がうまく、山形大会は1点も取られていない。
B 打撃では、4割近いチーム打率を誇る龍谷大平安が侮れない。今回の代表校で最多の30回目の出場。伝統の犠打は健在で、攻撃にリズムがある。伝統校では東北も攻守にまとまっている。ダルビッシュを擁して準優勝した03年と比べるのは酷だけど、安定感がある。
C 定石通りに4番打者が走者をかえして勝ってきたのが、春の関東大会に出場した作新学院と、春の中国大会覇者の倉敷商かな。作新学院の松崎は栃木大会決勝で先制本塁打を放った。倉敷商の岡はエースも兼ねる。打率5割を超え、長打も期待できる。
A 激戦区を勝ち抜いて初出場する横浜隼人は積極的に足を絡める。泥臭いプレーが身上で、阪神タイガースそっくりのユニホームも甲子園で映えそう。華陵も初の夏だけど、昨春の選抜大会に21世紀枠で出場したメンバーが中心で、経験不足の心配はなさそうだ。
B 昨春の選抜準優勝の聖望学園も実力校だ。手堅い守備力が光る。ワンチャンスで得点し、逃げ切るのが勝ちパターンになっている。
D 守りと言えば、都城商は無失策で勝ち上がってきた。左右の投手がいるのは心強い。総合力があり、おもしろい存在だ。
C 春の東北大会4強の聖光学院は右腕横山が小気味のいい投球をする。ここ一番でのバントや走塁にもそつがないね。
A 3年連続出場の高知は5試合で41得点。過去2年は初戦敗退していて、島田監督は悲願の1勝に燃えているよ。
■名門・常連 名監督擁す長野日大・如水館
A 久しぶりに出てくる学校もあるね。
B 関西学院は「史上最長」の70年ぶり。兵庫大会では、選抜4強の報徳学園など強豪を次々に破った。地元の応援も力になりそうだ。
C 東農大二は15年ぶり。主戦の加藤が6試合を1人で投げ抜いた。打線はコツコツとつないでくる。明桜も秋田経法大付の校名だった96年以来。エース二木を中心に、まず秋田勢の連敗を11で止めたいところだ。
E 三重勢も過去10年、初戦を突破できていなくて、三重の打力に期待がかかる。三重大会3本塁打の4番宮武はプロ注目のスラッガーだよ。
B 札幌第一は、選手権大会2連覇の実績がある駒大苫小牧をコールドで下して出てきた。かつて松商学園を率いて甲子園経験豊富な中原監督が育てた長野日大は、チーム打率4割を超える打線が看板だ。
A 如水館の迫田監督も広島商を長く率いた有名監督。広島大会の準決勝と決勝を1点差でものにした粘りが持ち味だ。
E 県岐阜商は、今大会では龍谷大平安に次ぐ27回目の出場。やっぱり、伝統校が出てくると歴史を感じるね。岐阜大会の決勝ではエース山田が完封し、全打点をたたき出している。
D 熊本工は19回目になる。月田、池田の両左腕をバックがもり立てた。樟南も17回目。鹿児島大会6試合で28の犠打を成功させた「スモールベースボール」が持ち味だ。
A 6年連続出場の青森山田はどうかな。
C 今年は青森大会7試合で失策が三つ。堅守でまとまったチームだ。初出場の滋賀学園も創部10年の若いチームだけど、守備の安定度が高いよ。
E 日本文理は新潟大会6試合中5試合でコールド勝ち。豪快に打って勝つスタイルに注目だ。9年ぶりに登場する山梨学院大付は2年生が多く、のびのびと戦っているよ。
■好チーム 粘りの八千代東・南砺福野
A 今大会は初出場校が多いけど、それぞれ、どんなチームなの。
C 八千代東はノーシードから8試合を勝ち抜き、175校の頂点に立った。6試合を1点差でものにしていて、特に終盤に粘り強かった。南砺福野(なんとふくの)は6試合のうち5試合を逆転勝ち。部員28人が一丸となってつかんだ甲子園切符だ。
B 決勝を含めて2度のサヨナラ勝ちを収めた日本航空石川も勝負強さが光る。鳥取城北は昨夏の鳥取大会決勝で逆転負けした悔しさをバネに成長した。右腕中尾は38回を3四死球。ピンチでの制球力と球威に精神的な強さを感じる。立正大淞南は2度の降雨ノーゲームを経験しながら、集中力を切らさず勝ち上がった。全試合に先発登板し、打っても打率6割超の崎田が大黒柱だ。
A 寒川(さんがわ)は左腕斉(いつき)、右腕高橋涼の二枚看板に安定感がある。他校で春夏の甲子園を計7回経験している宮武監督の采配にも注目だ。徳島北は学校創立から13年目で初の甲子園。左腕阪本が5試合を1人で投げきり、打ってもチーム一の8打点を挙げる活躍をみせた。
D 伊万里農林は創部60年での初出場。大坪監督は、日本高校野球連盟が若手指導者育成のために昨年から開講している「甲子園塾」の受講生から初めて、甲子園出場を果たした。
C 旭川大は7回目の出場。左腕柿田が北北海道大会7試合、60回を1人で投げ、88三振を奪っているよ。
夏の高校野球:左腕に好素材…投打の注目選手を紹介
第91回全国高校野球選手権大会(日本高校野球連盟、朝日新聞社主催)は8日に開幕する。今春に球場内のリニューアル工事が完成した阪神甲子園球場で行われる、初めての夏舞台。大会を盛り上げそうな注目選手を紹介する。
◆投打で活躍
投打の両方で高いレベルを誇る選手が多い。今春のセンバツ出場者も多く、経験を生かした活躍も期待される。
今宮(明豊)は、打撃では巧みなバットコントロールで大分大会3本塁打。背番号は6で遊撃を守るが、投げても右腕からの150キロ近い速球を武器にする。「センバツでは内角球に苦労したが、左ひじの使い方を練習して克服した」と、まずは打撃で自信と意欲を見せる。
スケールの大きさでは秋山(西条)が随一。186センチ、92キロと大柄で、右腕からの最速150キロの速球は春より球威が増した。打撃は大振りを修正し、「センバツは初戦で(PL学園に)負けたので、今度こそ勝ちたい」と雪辱を期す。
堂林(中京大中京)は右腕からのスライダーと制球が武器。4月に左ひざを痛めて約2カ月戦列を離れ、球威は回復途上。故障の間の上半身強化で打球の威力を増した。「責任を果たす投球と、チームに勢いがつく打撃を」と、春の8強を上回る活躍を狙う。
岡(倉敷商)は、打撃では勝負強く、投げては右腕からの直球を主体に攻める。
◆投手
投手では左腕の好素材が多い。センバツ準優勝の菊池雄(花巻東)は、150キロを超える速球に加え、スライダーの使い方を工夫し安定感も増した。「体調を整えて自分の力を出すことに集中する」と冷静に臨む。
山田(敦賀気比)は変化球の切れや制球力があり、福井大会は4試合すべてで完投。「ストライク先行で打たせて取る」と持ち味を強調する。2年生の島袋(興南)は、春より球の回転が良くなった。安井(酒田南)は山形大会で全5試合を投げ抜き無失点。自身4度目の甲子園となる岡田(智弁和歌山)も和歌山大会で無失点だ。
右腕では、最速148キロの直球を主体にする平原(帝京)、低めの制球と変化球が持ち味の横山(聖光学院)らが良い。庄司(常葉橘)も中学時代から140キロ台を出した速球と、打たせて取る冷静さを併せ持つ。
◆打者
打者では、西浦(天理)が奈良大会で21打数17安打、8割1分の高打率を残した。新型インフルエンザの影響で今月2日まで約1週間チームの練習ができなかったが、「打撃が崩れないように家でもバットを振った」と、好調の維持に努めてきた。
国枝(九州国際大付)は5月に右手小指を骨折したが復調し、福岡大会では2本塁打。3番打者として「本塁打を狙わず、中堅へのライナーの打球を打ちたい」とチーム打撃を意識する。
2年生の吉川(PL学園)は1番打者ながら、大阪大会では決勝2本を含め計5本塁打。本多(長崎日大)は長崎大会準々決勝でセンバツ優勝投手の今村(清峰)を攻略したチームの4番を担う。
*** 以上、記事より ***
ゾーンごとの展望ってやらなくなっちゃったのかな。
とりあえず初日からハラハラドキドキの「展開が読めない」試合が続きます。
8強予想が相当微妙ですが、PL、明桜、青森山田、帝京、興南、中京大中京、日大三、智和……かなー。うーん。
第91回大会が8日から15日間、阪神甲子園球場で開かれる。全国の49代表校が深紅の優勝旗を目指して戦う。地方大会では今年も4千を超える参加校が熱戦を繰り広げた。取材にあたった4本社スポーツグループの記者が、代表校の戦力をさぐった。
■頂点有力 群抜く帝京・PL・日大三
A 今年はどこが強いのかな。
C 帝京が高いレベルに仕上がっている。東東京大会の決勝は全員の25安打で24得点。背番号も、打順も関係ない。
B エースの平原は選抜優勝投手の清峰・今村みたいな感じ。ここぞというときにギアチェンジができる。ほかにも投手が4人いて、みんな140キロ台の球威がある。前田監督も手応えを感じている。
D 選抜準優勝の花巻東はどうだろう。
C 最速152キロ左腕の菊池雄は高校生の中に1人、プロがいる感じ。計り知れない重圧の中で甲子園に戻ってきたのはさすがだ。
A ただ、菊池頼みの感は否めない。2番手以降の投手の育成は不十分。猿川ら攻撃陣の援護と、菊池のスタミナがカギになる。
B 総合力ではPL学園を推したい。大阪大会の最後は4連戦だったが、決勝は10―0で完勝した。チームで12本塁打。一発攻勢は帝京をしのぐ。
E 確かに、選抜で4番を打った勧野がメンバーから外れ、左腕の中野が故障していても勝った。投打に軸がいた選抜と違い、切れ目のない打線が、井上、難波の左右の二枚看板をもり立てるチームに変貌(へんぼう)している。
C 打線なら日大三も負けていない。西東京大会で2ケタ得点が5試合。チーム打率は4割8分8厘。日下、吉田の上位打線は全国でもトップクラスだ。
B カギは右腕関谷。制球力重視で臨むことが勝ち上がるには欠かせない。
A これが4強、かな。
D 興南にも注目したい。昨秋から九州・沖縄では最も安定した成績を残している。選抜で1試合19三振を奪った左腕島袋は、制球力に磨きがかかった。
B 酷暑に耐えるスタミナもついたようだ。1番の山元をはじめ、打線が奮起すれば簡単には負けない。
E 中京大中京も頂点を狙えるだろう。故障明けの右腕堂林が復調気配。選抜出場校でトップだったチーム打率もさらに上がり、選抜の8強からレベルアップした。
A 「4強プラス2」が大会を引っ張る構図かな。
■迫る8校 経験は明豊・智弁和歌山
C 夏の甲子園を勝ち抜くには連戦での調整法を考えたり、浜風などの気象条件を把握したり、経験がものを言う。その点、春夏連続出場の明豊は、この4季で3回目の甲子園。これまでに名前の挙がった6校に迫る力があると思う。
D 右腕今宮は140キロ後半の直球に変化球も多彩。打っても大分大会で打率5割、3本塁打と野球センス抜群だ。左腕の野口も成長した。今春の選抜大会で敗れた花巻東に雪辱を、とチームの士気も高い。
B 経験では智弁和歌山も匹敵する。5年連続出場。エース岡田は1年の夏から甲子園のマウンドを踏んでいる。例年のような打力はないけど、和歌山大会5試合で失策3と守り勝ってきた。
A 九州国際大付も若生監督が東北時代の85回大会(03年)にダルビッシュ(現日本ハム)を擁して準優勝。今春の九州大会優勝校でもあり、27年ぶりとはいえ侮れない。福岡大会7試合で12本塁打の長打力は脅威だ。
D 花巻東の菊池雄ばかり注目されているけど、力のある右腕投手もいるね。
C 常葉橘の庄司は最速147キロ。静岡大会では準々決勝から決勝まで3日連続で完投し、スタミナも心配ない。昨夏準優勝の常葉菊川と同じ学校法人で、再び「常葉旋風」が甲子園を席巻するかもしれない。
B 西条の秋山も最速150キロ。常時140キロ中盤をたたき出し、選抜から一回り成長した印象だ。長崎日大の大瀬良は186センチの長身から投げおろす。好調時、低めに決まる直球には威力がある。長崎大会の準々決勝では選抜優勝の清峰を1点に抑え、今村に投げ勝った。
E 常連校の戦いぶりにも注目したい。常総学院は木内監督が復帰して2回目の夏になる。
C 戦後初の茨城大会4連覇を達成した。選手を知り尽くしてこそ本領を発揮するのが「木内マジック」だが、復帰してまもなく2年になり、方針が次第にチームに浸透してきた。
B 天理も試合巧者だけど、部員の多くが新型インフルエンザに感染したのが気がかり。万全な体調で試合に臨んでほしい。
■実力注目 敦賀気比・酒田南の投手光る
A 今大会は好左腕が多いのが特徴と言われるが、菊池雄以外の注目株は誰かな。
C 敦賀気比の山田、酒田南の安井は、地方大会を1人で投げ抜いてきた。山田はここにきて球威が増してきた。しっかり内外角にも投げ分けられる。安井は球種も豊富で腕の振りが鋭い。緩急の使い方がうまく、山形大会は1点も取られていない。
B 打撃では、4割近いチーム打率を誇る龍谷大平安が侮れない。今回の代表校で最多の30回目の出場。伝統の犠打は健在で、攻撃にリズムがある。伝統校では東北も攻守にまとまっている。ダルビッシュを擁して準優勝した03年と比べるのは酷だけど、安定感がある。
C 定石通りに4番打者が走者をかえして勝ってきたのが、春の関東大会に出場した作新学院と、春の中国大会覇者の倉敷商かな。作新学院の松崎は栃木大会決勝で先制本塁打を放った。倉敷商の岡はエースも兼ねる。打率5割を超え、長打も期待できる。
A 激戦区を勝ち抜いて初出場する横浜隼人は積極的に足を絡める。泥臭いプレーが身上で、阪神タイガースそっくりのユニホームも甲子園で映えそう。華陵も初の夏だけど、昨春の選抜大会に21世紀枠で出場したメンバーが中心で、経験不足の心配はなさそうだ。
B 昨春の選抜準優勝の聖望学園も実力校だ。手堅い守備力が光る。ワンチャンスで得点し、逃げ切るのが勝ちパターンになっている。
D 守りと言えば、都城商は無失策で勝ち上がってきた。左右の投手がいるのは心強い。総合力があり、おもしろい存在だ。
C 春の東北大会4強の聖光学院は右腕横山が小気味のいい投球をする。ここ一番でのバントや走塁にもそつがないね。
A 3年連続出場の高知は5試合で41得点。過去2年は初戦敗退していて、島田監督は悲願の1勝に燃えているよ。
■名門・常連 名監督擁す長野日大・如水館
A 久しぶりに出てくる学校もあるね。
B 関西学院は「史上最長」の70年ぶり。兵庫大会では、選抜4強の報徳学園など強豪を次々に破った。地元の応援も力になりそうだ。
C 東農大二は15年ぶり。主戦の加藤が6試合を1人で投げ抜いた。打線はコツコツとつないでくる。明桜も秋田経法大付の校名だった96年以来。エース二木を中心に、まず秋田勢の連敗を11で止めたいところだ。
E 三重勢も過去10年、初戦を突破できていなくて、三重の打力に期待がかかる。三重大会3本塁打の4番宮武はプロ注目のスラッガーだよ。
B 札幌第一は、選手権大会2連覇の実績がある駒大苫小牧をコールドで下して出てきた。かつて松商学園を率いて甲子園経験豊富な中原監督が育てた長野日大は、チーム打率4割を超える打線が看板だ。
A 如水館の迫田監督も広島商を長く率いた有名監督。広島大会の準決勝と決勝を1点差でものにした粘りが持ち味だ。
E 県岐阜商は、今大会では龍谷大平安に次ぐ27回目の出場。やっぱり、伝統校が出てくると歴史を感じるね。岐阜大会の決勝ではエース山田が完封し、全打点をたたき出している。
D 熊本工は19回目になる。月田、池田の両左腕をバックがもり立てた。樟南も17回目。鹿児島大会6試合で28の犠打を成功させた「スモールベースボール」が持ち味だ。
A 6年連続出場の青森山田はどうかな。
C 今年は青森大会7試合で失策が三つ。堅守でまとまったチームだ。初出場の滋賀学園も創部10年の若いチームだけど、守備の安定度が高いよ。
E 日本文理は新潟大会6試合中5試合でコールド勝ち。豪快に打って勝つスタイルに注目だ。9年ぶりに登場する山梨学院大付は2年生が多く、のびのびと戦っているよ。
■好チーム 粘りの八千代東・南砺福野
A 今大会は初出場校が多いけど、それぞれ、どんなチームなの。
C 八千代東はノーシードから8試合を勝ち抜き、175校の頂点に立った。6試合を1点差でものにしていて、特に終盤に粘り強かった。南砺福野(なんとふくの)は6試合のうち5試合を逆転勝ち。部員28人が一丸となってつかんだ甲子園切符だ。
B 決勝を含めて2度のサヨナラ勝ちを収めた日本航空石川も勝負強さが光る。鳥取城北は昨夏の鳥取大会決勝で逆転負けした悔しさをバネに成長した。右腕中尾は38回を3四死球。ピンチでの制球力と球威に精神的な強さを感じる。立正大淞南は2度の降雨ノーゲームを経験しながら、集中力を切らさず勝ち上がった。全試合に先発登板し、打っても打率6割超の崎田が大黒柱だ。
A 寒川(さんがわ)は左腕斉(いつき)、右腕高橋涼の二枚看板に安定感がある。他校で春夏の甲子園を計7回経験している宮武監督の采配にも注目だ。徳島北は学校創立から13年目で初の甲子園。左腕阪本が5試合を1人で投げきり、打ってもチーム一の8打点を挙げる活躍をみせた。
D 伊万里農林は創部60年での初出場。大坪監督は、日本高校野球連盟が若手指導者育成のために昨年から開講している「甲子園塾」の受講生から初めて、甲子園出場を果たした。
C 旭川大は7回目の出場。左腕柿田が北北海道大会7試合、60回を1人で投げ、88三振を奪っているよ。
夏の高校野球:左腕に好素材…投打の注目選手を紹介
第91回全国高校野球選手権大会(日本高校野球連盟、朝日新聞社主催)は8日に開幕する。今春に球場内のリニューアル工事が完成した阪神甲子園球場で行われる、初めての夏舞台。大会を盛り上げそうな注目選手を紹介する。
◆投打で活躍
投打の両方で高いレベルを誇る選手が多い。今春のセンバツ出場者も多く、経験を生かした活躍も期待される。
今宮(明豊)は、打撃では巧みなバットコントロールで大分大会3本塁打。背番号は6で遊撃を守るが、投げても右腕からの150キロ近い速球を武器にする。「センバツでは内角球に苦労したが、左ひじの使い方を練習して克服した」と、まずは打撃で自信と意欲を見せる。
スケールの大きさでは秋山(西条)が随一。186センチ、92キロと大柄で、右腕からの最速150キロの速球は春より球威が増した。打撃は大振りを修正し、「センバツは初戦で(PL学園に)負けたので、今度こそ勝ちたい」と雪辱を期す。
堂林(中京大中京)は右腕からのスライダーと制球が武器。4月に左ひざを痛めて約2カ月戦列を離れ、球威は回復途上。故障の間の上半身強化で打球の威力を増した。「責任を果たす投球と、チームに勢いがつく打撃を」と、春の8強を上回る活躍を狙う。
岡(倉敷商)は、打撃では勝負強く、投げては右腕からの直球を主体に攻める。
◆投手
投手では左腕の好素材が多い。センバツ準優勝の菊池雄(花巻東)は、150キロを超える速球に加え、スライダーの使い方を工夫し安定感も増した。「体調を整えて自分の力を出すことに集中する」と冷静に臨む。
山田(敦賀気比)は変化球の切れや制球力があり、福井大会は4試合すべてで完投。「ストライク先行で打たせて取る」と持ち味を強調する。2年生の島袋(興南)は、春より球の回転が良くなった。安井(酒田南)は山形大会で全5試合を投げ抜き無失点。自身4度目の甲子園となる岡田(智弁和歌山)も和歌山大会で無失点だ。
右腕では、最速148キロの直球を主体にする平原(帝京)、低めの制球と変化球が持ち味の横山(聖光学院)らが良い。庄司(常葉橘)も中学時代から140キロ台を出した速球と、打たせて取る冷静さを併せ持つ。
◆打者
打者では、西浦(天理)が奈良大会で21打数17安打、8割1分の高打率を残した。新型インフルエンザの影響で今月2日まで約1週間チームの練習ができなかったが、「打撃が崩れないように家でもバットを振った」と、好調の維持に努めてきた。
国枝(九州国際大付)は5月に右手小指を骨折したが復調し、福岡大会では2本塁打。3番打者として「本塁打を狙わず、中堅へのライナーの打球を打ちたい」とチーム打撃を意識する。
2年生の吉川(PL学園)は1番打者ながら、大阪大会では決勝2本を含め計5本塁打。本多(長崎日大)は長崎大会準々決勝でセンバツ優勝投手の今村(清峰)を攻略したチームの4番を担う。
*** 以上、記事より ***
ゾーンごとの展望ってやらなくなっちゃったのかな。
とりあえず初日からハラハラドキドキの「展開が読めない」試合が続きます。
8強予想が相当微妙ですが、PL、明桜、青森山田、帝京、興南、中京大中京、日大三、智和……かなー。うーん。
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